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Devil Dance  作者: 瀧野せせらぎ
宴の幕開け
7/13

06

 ――十分後、本鈴が鳴って担任が教室に入ってきた。

「今日から、このクラスに新しい仲間が入ることになった。入ってきなさい」

 担任の言葉の後、ドアを開けて一人の女子生徒―ユーナ―が入ってきた。男子はもちろん、女子たちも見とれてしまう。

「自己紹介をしなさい」

 担任に指示されたユーナは教室を見回し、恭介を見つけて笑顔になった。恭介の方は机に肘をついたまま、落ち着いた表情でユーナを見ている。

「私の名前は、天野優菜です。皆さん、よろしくお願いします」

 ユーナの自己紹介を聞いた恭介は、驚いたのか目を丸くしている。一方、ユーナの方は顔にニコニコと微笑を浮かべていた。

「あー、そうだな。席は、従兄の天野の隣に座ってくれ」

 そう担任が言った瞬間、生徒たちの視線が一斉に恭介に集まった。それに気がついた恭介は、元の表情に戻って状況を整理し始める。

(なんで、従妹なんだよ……。そういえば、朝飯の時に言ってたな…「学校に行けば分かる」って。こういうことか……)

「よろしくね。恭介君」

 軽く頭痛がし始め、額を抑えたくなっていた恭介に、隣の席から声がかけられた。隣の席を見ると、ユーナが微笑を浮かべて座っている。どうやら、恭介が思考の中に入っている間に移動したらしい。

「…ああ、こっちこそ」

 ユーナに返事をした後、恭介は溜め息をつきながら思った。

(前途多難だな……)


 ――昼休み。恭介が食堂に行こうと立ち上がると、ユーナが近づいてきた。そして、それで恭介は約束を思い出す。

「学校の案内、昼飯の後でいいか?」

「ええ、構わないわ」

 ユーナの了承を得た恭介は、ユーナを連れて食堂に向かうことにする。と、目の前に一人の女子生徒が現れた。

「……柊。どうした?」

 恭介が聞いてみると、柊はユーナの方を見ながら言う。

「私とお前は幼馴染だ」

「…そうだな」

 意図がわからない言葉に、恭介はとりあえず相槌を打った。

「もちろん、お前の家族構成は知っている。だが、こんな従妹がいるとは聞いてないぞ?」

 それを聞いて、恭介は柊の意図に気がついた。そして、ユーナの方を目だけで見る。

(コイツが本物の従妹なのかどうかを疑ってるのか……。正直に答えるのは…、コイツの立場上まずいよな)

 どうやって話題を逸らそうか恭介が悩んでいると、ユーナがクスッと笑った。

「…なぜ笑う」

 柊が鋭い視線でユーナを睨み付けた。しかし、それに動じることなくユーナは笑っている。

「…ごめんなさい。悪気は無いの。ただ、」

「ただ?」

 本当に申し訳なさそうに言うユーナに、柊が聞き返した。

「昨日、恭介君が話してくれた通り、本当に仲がいいな。と思ったの」

 そうユーナが言った瞬間、柊の顔に赤みが差した。柊は顔を背けながらユーナに言う。

「べ、別に仲がいいわけではない。ただ、幼馴染みというだけだ」

 そして、咳払いをして再び恭介の方を柊は見る。

「それよりも、この従妹について私は何も知らない。どうして黙っていたのだ?」

 その言葉を聞いた瞬間、恭介の緊張が解ける。どうやら、ユーナが本当に恭介の従妹だと信じているらしい。

(…けど、これはこれで困ったな。……本当は、従妹じゃなくて赤の他人だからな)

 どう答えようか恭介が考えていると、再びユーナが二人の間に割って入る。

「それは、私が説明するわ」

 柊の視線が恭介からユーナに移動する。

「実は私、帰国子女なの。私のお父さん、恭介君にとっては叔父さんの子供で、私の家は親戚と連絡を取り合っていなかったの。だから、恭介君が私のことを知ったのは、五日前のこと。だから、柊さんが知らなかったのは無理も無いわ。私だって、初めて従兄がいるって知ったんだもの」

 次々とデマカセを言うユーナを横目で見ながら、つい恭介は呆れてしまう。

(…次から次へと、これだけのデマカセをよく言えるな……。これも、悪魔だからなのか?)

 ユーナのデマカセを聞いた柊は、問いかけるような目で恭介の方を見てくる。そして、それに対して恭介は頷いた。それで納得したようで、ふと柊の表情が和らいだ。

「…そうか。それなら、いいのだ。……恭介。その、朝のことは許せ」

 柊は気まずそうに恭介に謝った。

「謝ってくれたら、それでいい。…柊、これから食堂に行くんだけど、お前も来るか?」

 苦笑混じりに恭介が聞くと、柊は頷いた。

「う、うむ。ちょうど私も学食に行くつもりだったのだ」

 柊も恭介たちと学食に行くことになった。学食に行く途中、何人かの生徒とすれ違う。

「あの女子、見かけない顔だな……」

「転校生じゃないか…?」

「あの隣を歩いてるヤツの従妹らしいぜ…」

「本当か? 全然、似てねーな……」

 すれ違った生徒たち全員が、ヒソヒソと小声で話してくるのが聞こえてきた。

(目立ってるな…。まあ、無理もないか)

 そう思いながら恭介が歩いていると、いきなり背筋にゾワッと悪寒が走った。思わず後を振り向いてみると、

「美人の幼馴染みと従妹だと…!」

「両手に花じゃないか…!」

「なんて羨ましい…!」

 一部の男子生徒が、恭介を親の仇を見るような目で見て、悔しがっていた。

(……見なかったことにしよう)

 そう思って恭介は前を向いた。学食に着くと、恭介はユーナを券売機の所へ連れて行き、説明する。

「ここで食べたい物の食券を買って、あそこに持っていくんだ。しばらく待てば、トレーに乗ったのが出てくる」

 恭介は券売機に金を入れ、実際にやってみせた。ちなみに、恭介が選んだのは日替わり定食だ。ユーナは頷き、券売機の前に立つ。

「色々あるわね…。何がおすすめなの?」

 そう聞かれ、恭介は少し考える。いつも恭介が食べているのは、日替わり定食だ。恭介が日替わり定食を選ぶ理由は、日替わり定食を選べば毎日別の物を食べることができるからだ。

(けど、日替わり定食は箸を使うからな……)

 そう、恭介が悩んでいる理由はそれだ。ユーナは箸を使えないので、ほとんどのメニューを食べることができない。

「…パスタにしたらどうだ?」

 と悩んでいる恭介に柊が言ってきた。

「お前の従妹は、帰国子女なのだろ? だったら、慣れているフォークが使える方がいい」

 柊の意見を聞き、恭介は券売機のボタンを見た。目についたメニューを言う。

「そうだな…。じゃあ、このボンゴレスパゲッティだな」

 そう言いながら、恭介は財布を取り出して金を機械に入れた。

「…なぜ、お前が食券を買うのだ?」

 柊に聞かれて、恭介は券売機のボタンを押しながら答える。

「コイツの金は俺が管理を任されてるんだよ。今日の朝、たまたま昼飯代を渡すのを忘れてたんだ」

 柊は納得し、隣の券売機で自分の食券を買う。そして恭介たちがカウンターに行くと、おばちゃんが言った。

「両手に花じゃないかい。坊や、モテモテだね」

 恭介は黙って食券をおばちゃんに渡した。おばちゃんは笑いながら、ご飯や味噌汁などをよそい、トレーに乗せてカウンターの上に置いた。

「はい、お待ちどうさま」

 ユーナのトレーを彼女に渡し、自分のトレーを持って空いているテーブルを探す。すると、見覚えのある人物が手招きしているのが見えた。

「後藤…」

「天野! ここ以外のテーブルは空いてねーぞ」

 ニヤニヤと笑っている後藤を見て、恭介は溜め息をついてテーブルへと歩いて行った。そして、後藤の真正面に座る。その両隣に柊とユーナが座った。

「…それで後藤、何を企んでるんだ?」

「んなの、決まってるだろ?」

 後藤は肩をすくめながらメモを取り出した。

「当然、取材だよ。色々と聞かせてもらうぜ」

 朝のことを思い出したの柊の顔が少し赤くなり、何も知らないユーナは訝しげな表情をする。

「…さっさと済ませてくれ。この後、従妹を案内しないといけないんだ」

 心の中でウンザリしながら言い、日替わり定食を食べ始める。両隣の二人も自分の分を食べ始めた。

「じゃあ、そうさせてもらう。…まず、一つ目の質問だ」

 取材を始めた後藤の声音と表情が、少しだけ真剣味を帯びた。恭介と柊は平然と食事を続け、ユーナは驚いてフォークを動かす手を止めた。

「そこの嬢ちゃん、驚いてるみたいだな」

 口調も少し大人びる。本格的に豹変した。恭介は目だけでユーナの方を見てみる。

(まあ、驚くのも無理ないよな…。コイツの豹変ぶりを見たら)

 ちなみに恭介と柊が驚かない理由、それは二人とも後藤から取材を受けたことがあるのだ。そして、後藤の取材風景を何度も見ているからである。

「俺は取材をする時、微妙に人格が変わるんだよ。まあ、気にせずに取材に答えてくれ」

 そう言ってペンの先端を恭介に向ける。

「じゃあ、改めて一つ目の質問だ。そこに座っている嬢ちゃん、天野優菜とは従妹なんだよな?」

「ああ、そうだ」

 質問に対し、恭介はぶっきらぼうに答えた。それを気にせず後藤は取材を続ける。

「それで、そこの従妹とはどういう関係なんだ?」

「最近、いることを知ったばかりの従兄妹同士だ」

 あくまで淡々と答え、恭介は食事を続ける。

「なるほどな…。じゃあ、次は嬢ちゃんに質問だ」

 質問の矛先が、ようやく食事を再開したユーナに向く。ユーナは再び手を止めた。まだ雰囲気に慣れてないのか、ソワソワしている。

「直球で聞くけど、そこにいる仏頂面のこと、どう思ってるんだ?」

「……おい」

 思わず恭介は睨み付けたが、後藤はそれを無視してやりすごした。少し考えるそぶりをしてから、ユーナは質問に答える。

「えっと、いい人だと思うわ。最近まで知らなかった私に親切にしてくれるし。料理も作ってくれるし」

「なるほど、いい人ね…」

 後藤はユーナから聞いた答えをメモに書き込み、次の質問をする。

「ところで、〈料理を作ってくれる〉って言ってたけど、それは天野の家に食べに行ってるってことか?」

「違うわ。恭介君の家に居候させてもらってるの」

「なるほど、つまり同棲してるわけか」

 二人の会話を聞いた瞬間、

 ――ガツン! ゴン! バシャッ!

 柊が恭介の後頭部を叩き、不意打ちだったため恭介はテーブルの上のトレーに突っ込み、頭に味噌汁をかぶった。柊が恭介に怒鳴りつける。

「この不埒者! 男女七歳にして席を同じうせず! 非常識にもほどがあるぞ!」

 恭介は座り直してハンカチを取り出し、髪の毛を拭きながら言い返す。

「……仕方がないだろ…。コイツは日本に慣れてないんだし、どうせなら年の近いヤツが側にいた方がいい。って叔父さんが頼んできたんだよ。押し切られて断れなかったんだ。それに、同棲じゃなくて同居だ」

 そう言うと、納得のいかない顔をしながら柊は黙り込んだ。それを確認した恭介は溜め息をつきながら思う。

(〈男女七歳にして席を同じうせず〉って、いつの常識だよ……)

 とりあえず、柊が誤解した原因の方を睨みつける。後藤はニヤついていた。が、すぐに取材モードに戻る。

「じゃあ、一緒に登校していたのは、同居しているかなんだな?」

「そうだ」

 後藤は一度頷き、視線を柊に移動させた。

「それじゃ、次は凪原。お前は、一緒に登校していた二人を見て、登校デートと勘違いして嫉妬した、天野を竹刀で叩こうと――」

 ――ガタンッ

 後藤の質問を遮るようにして、柊が勢いよく立ち上がった。周囲の生徒たちが驚き、視線が集まる。

「ち、違う! そんなんじゃない!確かに勘違いはしたけど、嫉妬なんてしてない!」

 柊は怒鳴った後、肩で息をしながら後藤を睨みつける。

「……落ち着けよ柊。ほら、座れ」

 と恭介は言って、立っていた柊をイスに座らせた。周囲に視線を走らせると、他の生徒たちが昼食を再開する。

「…取材は終わりにした方が、良さそうだな。情報も充分に集まったし」

 そう言って、後藤がメモを閉じてペンと一緒にポケットに直した。すると、一転して人懐っこい笑顔を浮かべて言う。

「悪かったよ、凪原。何か奢るから、それでチャラにしてくれ」

 柊は何も言わず、黙々と昼食を再開した。その様子を見ながら、長年の経験で恭介は判断する。

(コイツ、本気で怒ってるな…)

 柊が口を利かなくなると、なかなか機嫌を直さないことを知っている恭介は、何もせずに箸を動かす。

「おい天野、フォロー頼む」

「無理だ。あきらめろ」

 恭介は即答し、後藤の頼みを切り捨てた。

「……わかった。じゃあ、俺は行くよ」

 後藤は肩をすくめて立ち上がり、手を振って去って行った。それを見送りながら、恭介は日替わり定食を食べ終える。

「…なあ柊、そんなに怒るなよ」

 お人好しの恭介は仕方なしに説得を試みるが、柊は黙々と食事を続ける。この対応は予想していたので、恭介はあきらめずに続けた。

「後藤が取材の時、無神経になるのはいつものことだろ?」

 まだ柊は何も喋らない。構わず恭介は続ける。

「あいつにも悪気は無いんだ」

「……そんなことは、言われなくてもわかっている」

 ようやく返事があった。少し機嫌を直したらしい。ここで忘れずに恭介は、もうひと押ししておく。

「じゃあ、後で後藤に話しかけてやれよ」

 柊は鮭の塩焼きの最後の一口を食べ、頷いた。それで一安心した恭介は、ユーナの方を見る。ユーナの皿には、まだ少しスパゲッティが残っていた。

(まだ時間がかかりそうだな…。後藤の取材で時間が潰れて、案内してる時間が無い)

 そう考えた恭介はユーナに質問する。

「優菜。もう時間が無いから、案内するのは放課後でいいか?」

 ユーナはフォークを動かす手を止め、学食の時計を見た。

「そうね。恭介君に任せるわ」

 そう言って食事を再開した。恭介が再び左を見ると、そこにはまだ柊が座っている。それで恭介は思い出した。

(……そういえばコイツ、友達いないんだよな)

 前にも説明した通り柊の家は、道場をやっている。厳格に育てられたせいか、なかなか友達ができないのだ。ついでに言うなら人付き合いが悪い。

(コイツも、いい加減に友達を作らないとな……。よし)

「なあ、柊」

 と恭介は柊に声をかけてみた。

「何だ?」

 やはり、予想通りの堅苦しい返事が返ってきた。それを指摘すると、どうなるのかわかっている恭介はスルーし、思いついたことを提案してみる。

「放課後、空いてるか?」

「空いてない。道場で稽古だ」

 即答された。これも、いつものことだ。

「なら、空けてくれ。優菜を案内するのに、俺だけじゃ不安だ」

 そう言うと、柊は少し考えてから答える。

「わかった。家に連絡してくる」

 そう言って柊はポケットからケータイを取り出し、学食から出て行った。

「どうして、彼女を誘ったの?」

 優菜―ユーナ―が、質問してきた。フォークにスパゲッティを巻きつけている。

「……さっき、アイツに言った通りだ」

 そう嘘をついて恭介は肘枕をする。その様子を見たユーナは、巻きつけたスパゲッティを口に運んだ。そして、ようやく食べ終える。

「ごちそうさま」

 ユーナは黙ったまま、恭介と一緒に柊を待つ。

「…お前、先に教室に戻っていいぞ」

「私も柊さんを待つわ。だって、従兄の幼馴染みだもの」

 それだけの会話を交わし、待っていると柊が戻ってきた。なぜか柊は少し嬉しそうだ。

「今日は稽古を休みにしてもらった。お前の従妹も、女子が一緒にいた方が気が楽だと思ってな」

 そう言いながら、テーブルの上に置いてある自分のトレーを持つ。

「二人共、教室に戻るぞ。次の授業に遅れたら、教師の説教で放課後が潰れるからな」

 そう言って、柊は歩いて行った。

「……アイツ、急に機嫌が良くなったな」

 恭介が呟くのを聞き、ユーナは溜め息をつきながら思った。

(……これだけ鈍感だと、彼女は大変ね。…それにしても、「君」とか「さん」を付けて名前を呼ぶのは、難しいわね)

 恭介とユーナは立ち上がり、自分のトレーを持って歩いて行った。


 ――放課後。終礼が終わって、すぐに恭介はユーナを連れて廊下に出た。少し遅れて柊も出て来る。

「それでは行くか。まずは、学食からだな」

 そう言って、柊が先に歩き出した。

「おい柊、学食は昼休みに行ったぞ」

 と恭介が言うと、柊は立ち止まる。

「そ、そうだったな」

 どうやら忘れていたらしい。

(……私としたことが、少し浮かれすぎだ)

 と柊は心の中で自分を叱咤激励しながら、案内する場所を考え始めた。

「優菜。お前は、どこを見ておきたいんだ?」

 柊が考えている間に、恭介はユーナに聞く。

「…そうね。購買や保健室は見ておきたいわ。あと、図書室ね」

「じゃあ、順番に周るか…。柊、行くぞ」

 声をかけられ、柊はハッと我に返った。

「う、うむ。それで、どこを周るのだ?」

「購買と保健室、図書室だ。お前、俺たちの話を聞いてなかったのか?」

 と恭介が聞くと、柊は顔を背けて答える。

「話は聞いていた。ただ、少しボーッとしていただけだ」

 遠まわしに聞いていなかったことを、柊は認めている。しかし、その事を追及すると案内する前に、保健室へ行くはめになるので、それに関して恭介は何も言わなかった。

「じゃあ、まずは同じ階にある図書室だな」

 そう言って恭介が歩き出すと、柊がその隣に並んで歩き始めた。そして、その後をクスッと笑ってユーナも歩き始める。

 図書室に行った後、保健室と購買に案内した。購買から廊下に出て、恭介はユーナの方を見て聞く。

「他に見ておきたい場所はあるか?」

「見ておきたい場所は、一通り見たし、もういいわ」

 その答えを聞いた恭介は、柊とユーナを交互に見ながら、心の中で溜め息をつきながら思う。

(……この二人、ほとんど会話してないんだよな)

 恭介は少し考え、柊とユーナに言う。

「それじゃ、後は頼んだぞ柊。優菜を適当に案内してやってくれ」

「は? お前はどうするのだ? 恭介」

 柊に聞かれたので、恭介は答える。

「今日は、少し凝った料理をするから、それの買い出しに行く。それじゃ、優菜。柊に案内してもらえ。どうせだし、女同士の方がいいだろ」

 と恭介は言うだけ言って、走って行ってしまった。残された柊とユーナの二人は、黙って恭介の去って行った方を見る。そして目を合わせ、人付き合いの悪い柊は、居心地が悪そうに顔を背けた。

 一方のユーナも、貴族相手の対応は慣れているが、庶民の対応には慣れてないので俯く。気まずい空気が二人の間に流れ始めた。

「…柊さん。案内してもらってもいいかしら?」

 沈黙を先に破ったのは、ユーナだった。柊は背けていた顔を、ユーナの方に向ける。

「できれば、昔の恭介君の放しも、聞きたいのだけれど。いいかしら? 私、最近まで恭介君のこと、全く知らなかったから」

 少し戸惑い気味に言われ、柊は――

「う、うむ。では、歩きながら放そう」

 そう言って柊は歩きだした。そして、その隣をユーナが歩き始める。


 一方、恭介の方は校門を出た所で、校舎のほう振り返った。

「……柊のヤツ。これをきっかけに、友達を作れるようになるといいな。アイツの方も俺以外の人間と話せた方がいいだろ」

 そんなこと呟き、恭介はスーパーへ行く道を歩き始めた。

「〈少し凝った料理〉って言ったけど、何にするのか決めてないんだよな……」

 そう言いながら恭介は、頭の中に作ったことのある料理を思い浮かべ、夕食のメニューを考え始める。

 ちなみに、この日の夕食のメニューは、イタリア風簡単フルコースになった。

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