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Devil Dance  作者: 瀧野せせらぎ
宴の幕開け
3/13

02

 少女―ユーナ―はシャワーを浴びながら考え事をしていた。

(……彼なら、相応しいかもしれない。……でも、まだ条件が満たされてない)

 ユーナの脳裏に浮かんでいたのは、この家の主である少年だ。金色の瞳を持ち、ユーナを見て今まで見たことのない反応を見せなかった少年。

「……とにかく、まずは契約を結ばないと」

 契約、それは〈宴〉に参加するために人間と結ぶもの。シャワーを止め、少女はドアを開けてバスルームから出た。そして、重要な事に気がつく。

「あっ……、どうしよう」


 恭介はソファーに座り、少女がシャワーから上がってくるのを待っていた。

 ――コンコン

 ドアがノックされ、少しだけ開いた。

「……シャワーを貸してくれてありがとう。礼を言わせてもらうわ」

 と少女の声が聞こえた。

「どういたしまして。……どうしたんだ? 入って来いよ」

 少女がリビングに入って来ないことに疑問を持ち、恭介は聞いた。

「…着替えが無いの」

 少女の答えを聞き、恭介は驚いて固まる。着替えが無いということは、つまり――、

 恭介の頭の中に、彼女の生まれたままの姿が浮かんできた。

「…だから、服を貸してくれないかしら」

 少女の声が恥ずかしそうに聞こえるのは、気のせいでは無いだろう。

「わ、分かった! とりあえず、風呂場に戻ってろ!」

 指示に従って、彼女がバスルームに戻ったのを音だけで確認すると、恭介は慌てて自分の部屋に向かった。押入れを開けて適当に服を引っ張り出し、バスルームの前に置いた。そして、リビングに戻る。

「…ったく、何で、着替えが、無いんだよ」

 と言いながらイスに座り、恭介は溜め息をついた。

 ――コンコン

 少ししてからドアがノックされ、ドアが開く。

「……服を貸してくれてありがとう。礼を言うわ」

 と言いながらリビングに入ってきた少女は、サイズの合わないブカブカの上下を着ている。恭介がバ

スルームの前に置いた服だ。

 その姿を見た瞬間、恭介は素早く顔を横にそらした。

 わかっているとは思うが、彼女は美少女のカテゴリに分類される。その美少女がサイズの合わない恭介の服を着ているわけだ。

 恭介は見た瞬間、変な気分になってしまったのは不可抗力だと言えよう。

「…どういたしまして」

「………」

「………」

 二人の間に気まずい沈黙が生まれた。

「……とりあえず、そこに座ってくれ」

 と恭介が言うと、少女は頷いて恭介の正面にあるイスに座る。

「……それじゃあ、まずは名前を教えてくれ」

「ユーナ。ユーナ・アウスよ」

 少女―ユーナ―は恭介に、自分の名前を教えた。

「ユーナ・アウスか…。じゃあ、アウス」

「ユーナでいいわ。……ところで、あなたの名前は? 私だけが名乗るなんてフェアじゃないわ」

 ユーナに聞かれたので、恭介は自分の名前を言う。

「俺の名前は天野恭介だ」

「…じゃあ、恭介って呼んでもいいかしら?」

 恭介は名前の呼び方にこだわりは無かったので、少女の質問に頷いた。

「…お互い名前も分かったし、話を聞かせてもらえるか?」

 と恭介が言うと、ユーナは真剣な表情になって頷いた。

「私が、この街に来たのは五日前よ。それから人探しをしていたの」

「人探し?」

 恭介が聞き返すと、ユーナは頷いて話を続ける。

「……今日が最終日で、その人が見つからず途方に暮れていたら、あなたに声をかけられたのよ。助かったわ」

 ユーナに笑顔で礼を言われて恭介は少し照れくさくなり、ごまかすように恭介はユーナに質問をした。

「それで、その人を見つけたら帰れるのか?」

 ユーナは首を横に振った。

「…それだけじゃ、帰れないの。やるべきことをやらないと」

 ユーナは俯いた。その様子を見て、そのやるべきことが、どれだけ困難なのか恭介は察した。

「……その〈やるべきこと〉って何なんだ? 俺に手伝えるなら手伝うぞ」

 恭介の言葉を聞き、ユーナは顔を上げた。その顔には驚きの表情を浮かべている。

「……今から話すこと、信じてくれる?」

 ユーナは不安そうに聞いてきた。その質問に恭介は迷うことなく答えた。

「ああ、信じるよ。それで話してくれるならな」 

 恭介の答えを聞いたユーナの表情は、少し安心したように柔らかくなった。が、再び聞いてくる。

「…本当に約束できるの? 誓える?」

 本当に信じてもらえるか不安なんだろう。その不安を消しさるために、恭介はユーナに言った。

「誓う。だから話してくれ」

 その答えはユーナの心から不安を消し去り、安心を与えた。そして、彼女は憂いを帯びた表情で話し始めた。

「私は、本当は人間ではないの。私は〈悪魔〉」

 ユーナの話を約束どおり疑うことなく恭介は聞く。そして、同時に納得していた。ユーナから感じる妙な違和感、それは彼女が人間ではなかったせいだ。

「〈人間界〉に来たのは、さっき言った〈やるべきこと〉をするため」

 そこでユーナは話を止め、正面から恭介を見て聞く。

「今の話、信じてくれるかしら?」

 その質問に恭介は頷く。

「信じるって言っただろ。続けてくれ」

 ユーナは頷いて続きを話し始めた。

「冥界では過去に二度の戦争があったわ。そして、その戦争を経験した悪魔たちが作ったのが〈宴〉という行事よ。〈宴〉は〈漆黒の夜会〉の通称で、模擬戦闘による戦闘訓練。その〈宴〉に参加するには、人間との契約が必要とされるの」

 ユーナは再び言葉を切り、恭介の方を見た。そして、憂いと決意を帯びた表情で彼に問う。

「あなたは手伝ってくれる、って言ったわよね?だったら私と契約して」

 常識から言って、ユーナの話を信じる人間はいないだろう。だが、恭介は話を信じると約束した。そして、彼の中にある何かが、彼にそれが真実だと教えている。

「……契約っていうのは、どういうものなんだ?」

 恭介の疑問に、ユーナは首にかけている銀色のペンダントを外して見せて言う。

「このペンダントを握って、そうすれば契約ができるわ」

 恭介は少し躊躇ってから、ペンダントを握った。

「私の後に、同じ呪文を唱えて」

 ペンダントトップの翠色の宝玉が光を放ち、床に魔法陣が描かれる。

「今、契約の時。我、漆黒の翼を背負う者」

「今、契約の時。我、漆黒の翼を背負う者」

 恭介はユーナの呪文を復唱した。

「闇に染まりし世界に生ける者なり」

「闇に染まりし世界に生ける者なり」

「紅き血のもと、汝と契約を結ぶ」

「紅き血のもと、汝と契約を結ぶ」

 二人が呪文を唱えるにつれ、床に描かれた魔法陣が複雑になっていく。

「魔王の名のもと、契約を成すことを誓う」

「魔王の名のもと、契約を成すことを誓う」

 ペンダントを握る二人の手から、血が勢いよく噴き出した。だが、不思議と痛みは感じない。

「契約」

「契約」

 呪文を唱え終わると出血は止まり、魔法陣は光の球となってペンダントに吸い込まれた。それを確認したユーナは、安心したような表情で恭介に言う。

「これで契約できたわ。恭介、協力してくれてありがとう」

 それを聞いた恭介は、目の前で起こったことに驚いていた。信じるとは言ったものの、目の前で起こった現象に驚いてしまったのだ。

「…今のは?」

「契約魔法よ。言ったでしょ? 私は悪魔だって。悪魔は魔法を使うのよ。もしかして信じてなかったのかしら?」

 ユーナが責めるような視線を向けて来たので、恭介は首を横に振った。

「そう、それならいいのだけど」

 ユーナはそっけなく言い、ペンダントを自分の首にかけなおした。

「今の契約は、〈宴〉が終わるまで続くわ。長い付き合いになるから、よろしくね」

 ユーナが言うのを聞き、恭介はふと気になったことを質問した。

「お前、家に帰れないだろ。寝泊まりはどこでするんだ?」

 すると、ユーナは困ったように微笑んだ。

「そうよ。ホテルに泊まろうにも、手持ちがあまり無いのよね」

「手持ちが無い? だったら、こっちに着てから六日間どうしてたんだ?」

「野宿よ。汚れは魔法で清めていたの」

 今の少女とのやりとりで、恭介は嫌な予感がした。そんな恭介の予感は当たり、ユーナは遠慮がちに言う。

「だから、その、できれば泊めてくれないかしら? 無理にとは言わないわ」

 恭介は溜め息をつき、頭を抱えてユーナに聞く。

「どのくらい泊まるんだ?」

「たぶん、〈宴〉が終わるまでね」

 それを聞いて恭介は、さらに質問する。

「その〈宴〉が終わるのはいつだ?」

 ユーナは黙り込んでしまった。そのまま一分、二分と静かに時間が流れていく。さすがに気まずくなり、恭介はイスから立ち上がった。そして、キッチンへ行って二人分の麦茶をコップに注ぐ。

「別に泊まるなら、泊まるでいいんだ。けど、期間を知っておきたい」

 ユーナは黙り込んでしまった。どちらにしろ恭介は泊めるつもりでいるので、答えを聞かなくてもいい。しかし、ユーナが黙り込んでしまったので、気まずい空気になってしまった。

「…何か飲むか?」

 と恭介が聞くと、ユーナはコクッと頷いた。キッチンへ行き、麦茶をコップ二つに注いで再びリビングに戻る。

「ほい、麦茶」

 コップを受け取ったユーナは、一口だけ飲んで溜め息をついた。その様子を見かねた恭介は言う。

「無理に答えようとしなくいい。どうせ、もう契約を結んだんだろ?」

 ユーナの目が恭介を見た。

「乗りかかった船だ。最後まで付き合うよ」

「……そう。ありがとう」

 そっけなく返事をしてまた一口、ユーナは麦茶を飲んだ。

 その後、二人は特に話すこともなく、恭介は部屋で勉強をし、ユーナはリビングのソファーに座っていた。

「と、終わった」

 宿題が済み、恭介は片づけながら時計を見る。時計の針は十八時を指していた。

「こんな時間か。……晩飯、作らないとな。あいつの分も」

 言いながら部屋を出てリビングに行くと、ユーナがソファに座ったまま眠っていた。その顔を見た恭介は思う。

(美人は、寝顔も綺麗なんだな)

 しばらくユーナの顔を見つめた後、恭介はキッチンに行き、冷蔵庫の中を確認する。そして、食材を取り出して料理を始めた。

 ――トントントン

 包丁が一定のリズムで音を出し、食材を切っていく。両親が海外赴任しているので、恭介の料理の腕はなかなかだ。

「…何をしているの?」

 と声がしたので、恭介はソファの方を見てみる。すると、座ったまま眠っていたはずのユーナが目を覚ましていた。

「夕食の準備だ。もう少しでできる」

「……人間って、本当に自分で料理を作るのね」

 とユーナが言ったので、恭介は思わす手を止めた。

「悪魔は自分で料理しないのか?」

 質問するとユーナは頷き、質問に答える。

「悪魔の世界は貴族社会なの。だから、専属のシェフが料理を作ってくれるわ」

 その答えを聞いて恭介は納得し、皿を出して料理を盛りつけた。それをリビングのテーブルまで運ぶ。

「できたぞ。口に合うか分からないけど食ってくれ」

 恭介が作った料理を見て、ユーナは瞬きをした。それから恭介の方を見る。

「…一つだけ、聞いてもいいかしら?」

「どうした?」

 とユーナの正面に座りながら聞くと、ユーナはテーブルに置かれた料理を見ながら質問する。

「この料理は、どうやって食べるの? フォークやナイフは無いみたいだけど」

 少しの間ができる。そして、恭介は理解した。

(……箸を使ったことが無いのか)

 恭介はソファから立ち上がり、キッチンからフォークを取って戻ってきた。ユーナの皿の横に置いている箸とフォークを取り換える。それを見てユーナは、信じられなというように言った。

「……もしかして、その二本の棒がフォークの代わりだったの?」

 恭介は答えずに、箸を使って料理を食べ始めた。その様子を見たユーナは黙り込み、フォークを使って料理を食べ始める。しばらくしてからユーナは顔を上げ、思い出したように恭介に聞いた。

「…思い出したわ。人間には二本の棒、〈箸〉を使って食事をすることがあるって、本に書いてあったわ。もしかして、それが〈箸〉なの?」

 口の中にある料理が無くなってから、恭介は黙って頷いた。

「この辺りでは、よく使われるの?」

 質問に頷き、恭介は食事を再開した。ユーナは、しばらく恭介の右手に視線を注いでいた。

「……難しそうね」

 恭介は黙ったまま食事を続けている。それを見て肩をすくめ、自分も食事を再開した。

 食事を終えた後、恭介は風呂に入った。

「…〈悪魔〉、〈宴〉、〈魔法〉……。どれも普通なら信じられないよな」

 そう呟いて恭介は考え込んだ。

(…俺は何で信じたんだ。……あの契約が終わった後なら分かる。けど)

 恭介は契約が終わる前に話を聞いただけで、納得していた。その理由が分からず、恭介は考え続ける。

(…とりあえず、この件は保留だな)

 と考えて風呂を上がることにした。

 風呂から上がってリビングに行くと、ユーナがソファで横になって寝ていた。その様子を見た恭介はソファに近づき、躊躇ってからユーナを抱き上げ、別の部屋に連れていく。

(俺の部屋で寝かせるわけにはいかないし、この部屋で寝てもらうか)

 と恭介は思いながらユーナをベッドに横たえた。ここは両親の部屋だ。

(……父さんたちは年に一度、帰って来るかうかだし、使ってもらっても問題は無いだろ)

 そう考えながら、恭介はユーナに肩まで掛け布団をかけた。そして、ユーナが自分の貸した服を着ていることを思い出す。

(…とりあえず明日、買い物に行くか)

 そう思いながらユーナの寝顔を見た。やはり顔立ちは整っており、しばらく恭介は見とれてしまう。

「…俺も寝るか」

 と恭介は言って部屋を出て行き、ドアを閉めた。

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