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Devil Dance  作者: 瀧野せせらぎ
宴の幕開け
2/13

01

 同じ頃。人間界のとある高校で、少年は机に突っ伏して居眠りをしていた。

 ――バシッ!

「いてっ!」

 頭を誰かに叩かれて悲鳴をあげ、少年は目を覚ました。頭をさすりながら顔を上げ、少年は自分の頭

を叩いた人物を確認する。

「……やっぱり柊かよ」

 と少年が言うと、

 ――ゴンッ!

「ってぇ!」

 頭をゲンコツで殴られた。

「わざわざ起こしてやったのに、その態度は何だ? 恭介」

 と少年をゲンコツで殴った少女は聞く。

「……暴力で起こされて、嬉しいヤツなんていねーよ」

 文句を言ってすぐに飛んできたゲンコツを手で受け止め、少年は言う。

「だいたい、俺が寝たのは授業が終わってからだ」

 少年は金色の瞳で少女を見た。

「それに、俺は門下生じゃない。わざわざ、起こさないでくれ」

「…門下生でなくても、幼なじみだ」

 と少女に睨みつけられ、少年は少女の手から自分の手を放した。

「…分かったよ。それじゃ、俺は帰って寝る」

 と少年は言って立ち上がり、教室を出て行ってしまった。少女は、その後ろ姿を見送ってから呟く。

「殴るのは、まずかったかな…」

 少女の顔には、先ほどの凛々しさは無くなっていた。声も沈んでいる。年齢相応の少女のような反応だ。が、すぐにハッと我に返ってて言う。

「…いや、あれでいいのだ! 授業が終わって、すぐ居眠りなどたるんでいる!」

 少女は首をブンブンと横に振った。それに合わせて少女のポニーテールが揺れる。

「……よしっ」

 少女は凛々しさを取り戻し、生徒たちが呆然と見守る中で教室を出ていった。


(ったく、殴る以外の方法で起こしてくれよ…)

 と少年は思いながら、まだ痛む頭をさする。

「最近、夜に眠れてねーんだよな……」

 なぜか眠ると、夢を見て目が覚める。どんな夢を見たのか覚えていない。これが一ヶ月半も続いて少年は精神的に疲労し、睡眠を欲しているのだ。

「そういえば、カウンセリングなんてのがあったな…。今度、行ってみるか」

 と少年は言ってアクビをした。少年の名前は天野恭介、人間の高校生だ。恭介は帰り道を歩きつつ、空を見上げて目を細めて言う。

「……いい天気だな。でも、確か金曜日には雨が降るんだよな」

 溜め息をつくと、ケータイの着信音が聞こえてきた。恭介はケータイをブレザーのポケットから取り出し、電話に出る。

「はい、もしもし」

『恭介、元気にしてるか?』

「ああ、父さんか。うん、元気にしてるよ。っていうか、そっちは深夜だろ。寝てなくていいのか?」

 恭介の両親は海外に赴任しており、帰ってくるのは年に一度か二度ぐらい。なので、たまに両親から

電話があるのだ。

『ははは、実は母さんが声を聞きたいと言ってな』

『ねえ、私にも変わってよー』

 電話の向こう側から母親の声が聞こえ、恭介は溜め息をついてから言う。

「ったく、二人して親バカだな…。大丈夫、俺は元気にしてるよ」

『そうか。安心した』

「っていうか、仕事が忙しいんだろ? ちゃんと寝とけよ」

 と恭介は無愛想に言い、電話を切った。ケータイを見ながら、深い溜め息をつく。

(本当に親バカめ…)

 恭介はケータイをしまうと近くの公園に入り、向こうにあるマンションへと歩いていく。その途中、視界の端に金色が目に入ったので、恭介は歩きながらそっちを見た。金髪の少女がベンチに座り込み、気持ちよさそうに眠っている。

(外国人か……。それにしても、変な感じがするな)

 と恭介は思いながら立ち止まり、金髪の少女を見る。そして、溜め息をついて少女の方へ近づいて行った。

「起きろ。おい」

 と恭介は言いながら、少女の体を軽く揺すった。すると、少女がうなり声をあげる。

「ん、うーん?」

 パチリと少女は目を開け、目の前にある恭介の顔を見た。次の瞬間、瞠目して少女の顔は真っ赤に染まった。

「きゃっ!?」

 少女に悲鳴を上げられ、恭介は顔をしかめた。

「な、何!? わ、私に何するつもり!? この、無礼者!」

 少女が騒ぎだしたので、恭介は溜め息をついてデコピンをした。

「痛っ!」

「落ち着け」

 と恭介が言うと、少女は額を押さえながら恭介を上目遣いに涙目で睨み付ける。

「痛いのだけれど…」

「………」

 少女の文句に恭介は考える。

(……俺も、柊と変わらないか?)

「まあ、いいわ。それより、私に何をするつもりだったの?」

 と少女が上から目線で聞いてきたので、恭介はぶっきらぼうに答える。

「こんな場所で寝たら風邪を引くから、起こしてやっただけだ」

 少女は首を傾げ、質問する。

「それだけ? 他に理由は無いの?」

「それだけだ。…じゃ、俺は行くから」

 と恭介は言って、マンションの方へと歩きだした。それを少女は見送りながら思う。

(…人間の男性って、あんなのが多いのかしら?)

 少女の名前はユーナ・アウス。悪魔だ。彼女は人間界に来て四日目になる。

「…さてと、探さないとね」

 ユーナは言ってから立ち上がり、なんとなくマンションの方を見ながら言う。

「…私、綺麗じゃないのかしら?」

 ユーナは貴族の生まれ、幼い頃から美しさを求められ、美しさを得てきた。だから、恭介が無反応だったことが気になるのだ。貴族として。そして、何よりも一人の少女として。

(…きっと価値観が違うんだわ)

 とユーナは自分を納得させ、マンションを見るのをやめて歩き始めた。気が急いているのか早足だ。それもそのはず、まだユーナは〈宴〉に参加する条件を満たしていないからだ。

(〈宴〉が始まるまで、残り二日。……急がないと)

 少女は早足から駆け足になり、首にかけている銀色のペンダントを揺らしながら走っていく。

 これが恭介とユーナの出会いだった。二人の運命が絡み合い、動き出す。悪魔の〈宴〉と、その始まりの真実へと向かって。


 悪魔の舞踏会。通称〈宴〉。それは、過去に冥界が大戦を二度経験した悪魔たちが、いつ起こるかわからない戦争に備えるために作り出された模擬戦闘による戦闘訓練。それを千年の一度の行事にしたものだ。その〈宴〉は、なぜか人間界で行われる。


「くっ……、ぅわっ!」

 恭介はベッドから上半身を起こし、ぜー、ぜーと息を荒くしていた。彼の額には大粒の汗が浮かんでいる。

「……何なんだよ。今の」

 呟いた後、ベッドに横になっても眠れない。それは、見た夢の内容を覚えていたからだ。暗闇の中を歩いていたら、足下から紅蓮の炎が吹きあがったのだ。それに驚き、恭介は目を覚ましてしまった。

(…炎か。……でも、何で炎なんだ?)

 恭介は夢の内容に疑問を持ち、考え込む。そして、すぐに結論を出した。

(…週末、カウンセリングを受けに行くか)

 恭介はベッドに寝転がり、眠れずに天井を見る。夢を見て目が覚めると、再び眠ることができないのだ。夢は決まって夜に見る。なので、昼間に居眠りしないと身体が保たない。

「……そういや、昼間に見た外国人。あの後、どうなったんだ?」

 恭介は呟いて右腕で目を覆った。昼間に見た少女の姿が脳裏に浮かび上がる。

(…って、俺は何を言ってんだよ。そんなこと、どうでもいいだろう)

 心の中で自分の行ったこと否定し、寝返りを打って目をそっと閉じた。眠れないのなら、せめて身体を休めるために。


 ――金曜日。朝から雨が降っている。恭介は鬱陶しそうに窓の外を見ながら溜め息をついた。

「……雨、まだ降ってるな」

 窓の外をボーッと見ていると、

――ガツン!

「いって!」

 後頭部に鈍い衝撃が走り、机に突っ伏す。

「こら、恭介。なんだ、その覇気の無さは」

 声の主は、昨日と同一人物である。後頭部をさすりながら頭を上げ、恭介は柊に文句を言う。

「……そんな理由で、人の頭を叩くなよ」

 すると、ゲンコツが飛んできたので、恭介はそれを片手で受け止める。

「お前の覇気が無いのが悪いのだ」

「…お前な。……あー、もういい」

 文句を言うのをやめ、恭介はエナメルバッグを持って立ち上がった。そして、足早に去って行こうとする。

「ま、待て!」

 が、柊に呼び止められて立ち止まった。

「何だよ」

 と恭介が怠そうに首だけで振り向いて聞くと、柊は頬をほんのり赤く染めて言う。 

「そ、その、今日は一緒に帰らないか?」

「は?」

 言葉の真意を掴めずに恭介が聞き返すと、柊の頬が赤みを増した。

「だ、だから、その、たまには、だな……一緒に帰らないか?と言っているのだ」

 つまり、たまには一緒に帰りたい。ということらしい。

「べ、別に、嫌ならいいのだが……」

 モジモジとしながら言う柊の様子を見て、恭介は噴き出してしまった。あまりにも、柊らしくないのだ。

「な、何がおかしい!」

「いや、別に」

 と恭介は答えながら笑うのをやめると、柊が持っていた竹刀を抜いて打ってきた。

「おわっ!」

 悲鳴を上げながら当たる寸前で躱し、柊の方に向き直って文句を言う。

「何するんだよ!」

「無礼者! 人が真剣な話をしているというのに!」

 怒声と共に竹刀で打つ。さっきよりも速い。恭介は反射的に左腕を盾にし、柊の竹刀を受け止めた。そして、右手で竹刀の先端を握る。

「ったく、…お前な腹が立ったからって、暴力に訴えるのはやめろよ」

 と恭介が呆れ気味に言うと、

「ふん」

 そっぽを向いてしまった。どうやら拗ねているようだ。その様子を見て恭介は溜め息をつきながら思う。

(……ガキかよ)

 今のやりとりで疲労を感じ、恭介は竹刀から手を放した。

「…まあ、今のは俺が悪かったよ。笑って悪かったな」

 恭介が謝ると、少し機嫌を直したのか柊は目だけで恭介を見た。

「…本当に、悪いと思っているか?」

 柊の質問に恭介は黙って頷く。

「なら、……その、謝罪は行動で示せ」

「…行動?」

 と恭介が聞き返すと、柊は再びモジモジし始めた。

「あー、二人共。言っとくけど、ここは教室よ?」

「きゃっ!」

 第三者の声に柊が年相応の悲鳴を上げ、恭介は声をかけてきた人物の方を見た。

「まったく、見せつけてくれるわね」

 声をかけて来たのは、メガネをかけた女子生徒だった。

「言っとくけど、校内での不純異性交遊は禁止よ?」

 女子生徒の言葉を聞いて柊は顔を真っ赤にし、いきなりダッと走って教室を出て行ってしまった。恭介とその周囲の生徒は、それを呆然と見送る。

「まったく、天野君。不純異性交遊は」

「禁止だろ? 笹川」

 溜め息をつきながら言う女子生徒の言葉の続きを、恭介は言って肩をすくめた。

「俺と柊は、ただの幼馴染みだよ。そんな関係じゃない」

「ふーん? でも凪原さんは、そう思ってないかもしれないわよ?」

 と笹川は棘のある質問をしてきたので、恭介は肩をすくめて答える。

「それは無い。アイツとは長い付き合いだし、俺のことを弟扱いしてるだけだ」

 だが、笹川は視線をさらに視線を鋭くして質問する。

「じゃあ、あの凪原さんの反応は、どう説明するつもりなの?」

 そして、その直後に周囲の生徒からの視線が、いっせいに恭介に突き刺さった。

「……知らない。アイツに聞いてくれ」

 いくら柊とは長い付き合いでも、恭介が全部を知ってるわけじゃない。というよりも、今は柊のことより周囲の視線が気になる。はっきり言って落ち着かない。

「…まあ、いいわ。…でも、次は学級委員として厳重注意するから」

「分かった。それじゃ、俺は行くから」

 返事をした後、恭介は周囲の視線から逃げるように教室を出て行った。

(……疲れた。…それにしても、やっぱり厳しいな笹川は)

 教室を出た後、そう思いながら溜め息をつき、恭介は廊下を歩いて行った。そして、一つの教室の前で立ち止まる。ドアには〈カウンセリングルーム〉と書いてある。

「…ここで間違い無いな」

 と恭介は呟き、ドアをノックした。

「はい。入って」

 中から声がし、恭介はドアを開けて教室に入った。

 ――十分後、恭介がカウンセリングルームから出て来た。

「……過去のトラウマか」

 それがカウンセリングを受け、カウンセラーから聞いた結果だった。

(…過去の炎に関係するトラウマ、……思い出せないな)

 過去の記憶を辿りながら、校舎を出て雨の降る中を傘をさして歩いて行く。そして、あることを思い出して立ち止まってしまう。

(…まさかな。だとしたら、思い出せないのも当然か)

 勝手に一人で納得し、恭介は再び歩き出す。いつも通り公園を横切ろうとし、入口で立ち止まった。

「…アイツは」

 公園の真ん中に立ち、空を見上げている少女がいたからだ。一昨日の金髪の少女だ。少女は傘をささず、雨に降られるまま濡れている。その姿に恭介は思わず魅入ってしまう。

「……って、魅入ってる場合じゃないな」

 我に返った恭介は少女に早足で近づいて行く。そして、濡れないように少女を傘の下に入れた。

「風邪、ひくぞ」

 と恭介が言うと、ゆっくり少女は恭介の方を向いた。

「…あなたは、一昨日の」

「ん? ああ、ベンチで居眠りしてた……」

 と恭介が言うと、少女は上を見た。そこには当然だが恭介の傘がある。再び恭介を見る。

「何のつもり?」

 その質問をする声は、まるで拒絶するかのような響きがあった。

「雨で濡れるだろ? まあ、もう濡れてるけどな」

 そう言ってから恭介は少女を見た。すでに少女はびしょ濡れで、このまま放って置くと風邪をひいてしまうだろう。

「…とりあえず聞くけど、家は近いのか?」

 少女は黙ったまま俯き、恭介の質問に答えない。

「送って行くから答えてくれ」

「…どうして、そんなことをするの?」

 少女は恭介の質問には答えず、質問をしてきた。

「だって、傘もささず立っている女の子に話しかけるなんて変よ。それに、私に話しかけてきた男は全員、下賤な輩だったわ。あなたもそうじゃないの?」

「………」

 少女の説明に恭介は沈黙し、少女の態度に納得してしまう。言葉遣いは高飛車だが、恭介の目から見ても少女は美少女だ。

「ねえ、どうなの?」

 少女に再び聞かれ、恭介は少し考えてから答える。

「別に理由は無い。ただのお節介だ」

 少女の視線が鋭くなる。どうやら恭介の言葉が信用できないらしい。だが、他の理由を思いつかないので、恭介は心の中で溜め息をつく。

(どうすれば信用するんだよ……)

 普段は無愛想で分かりづらいが、基本的に恭介はお人好しだ。だから一昨日と今日、少女に声をかけてしまったのだ。それに、一度やりかけたことを途中で放り出すのは彼の性分ではない。だから少女を家まで送ろうとしているのだが、少女は疑っている。

「…それじゃあ、傘を貸すから一人で帰るか? 俺、家近いし」

 と恭介は少女に言ってみた。少女は恭介のことを疑っているから、無理に家まで送ろうとする方法は使えない。かと言って、少女は放って置けない。それらの条件から恭介が思いついたのは、傘を貸すという方法だった。

「ほら、使えよ」

 と言いながら恭介は持っている傘を差しだした。すると少女の視線が和らぎ、少女はクスッと笑った。

「…おかしな人ね」

「は?」

 恭介が聞き返すと、少女は微笑を浮かべながら言う。

「自分で言うのもなんだけど、私は綺麗でしょ? こんな綺麗な女の子に声をかけといて、傘を貸すだけなんて普通じゃないわ」

 恭介は少女の言っている意味を理解した。

「変人扱いされるのは心外だ。それより、これ使えよ」

 言いながら再び傘を差しだす。すると、少女は困った顔をして言う。

「…家は近くには無いわ。帰れないし、まだ帰れない」

 少女の声が重く感じられ、それが気になった恭介は少女に聞いた。

「家出か?」

 恭介の質問に少女は首を横に振った。どうやら違うらしい。恭介は溜め息をついて言う。

「…話だけでも聞く。とりあえず、俺の家に来るか?」

 少女はコクッと頷いて、恭介に連れられてマンションへ向かって歩き出す。

 そういうわけで家に少女を連れ込み、恭介は制服から着替えてソファーに座っている。ちなみに、少女は身体が濡れて冷えていたので、恭介の勧めでシャワーを浴びている最中だ。

 ――ピリリッ

 ケータイの着信音が聞こえてきたので、恭介は立ち上がって自室に向かった。勉強机の上に置いてあるケータイを手に取って電話に出る。

『…もしもし、私だ』

「柊か…。お前が電話をかけてくるなんて珍しいな」

 柊は昔から何か悩みを抱えると、電話をかけてくるのだ。それを知っているので、恭介は柊に聞いた。

「何かあったのか?」

 すると、柊は気まずそうな声で言う。

『…放課後の件なのだが、……その、取り乱してすまなかった』

「えっと、何の話だ?」

 と悩みではなく謝罪だったので、恭介は聞いてしまった。

『…今日の放課後のことだ。取り乱して、話の途中で帰ってしまったので、こうして謝罪のために電話をかけているのだ』

 言われて思い出し、恭介は苦笑して言う。

「ああ、あれか。……ところで、何であんなに慌てたんだ? おかげでクラスの連中に変な勘違いされたぞ。一応、否定はしといたけどな」

 質問すると柊は黙り込んでしまった。それを不思議に思い、恭介は名前を呼ぶ。

「柊?」

『……たわけ者が』

 と怒ったような声で言われ、恭介はギョッとした。

『今日のことは、もう忘れろ。いいな?』

「あ、ああ、分かった」

 恭介の返事を聞くと柊は電話を切った。

(…柊のやつ、何を怒ってるんだ?)

 と疑問に持ちながら恭介も電話を切り、ケータイを勉強机の上に置いた。そして、リビングに戻る。

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