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Devil Dance  作者: 瀧野せせらぎ
宴の幕開け
12/13

11

「…へえ、ナーシャが押されてるなんて。信じられないな」

 二人の少女が戦闘している様子を見ながら、啓一は呟いた。

「まあ、彼女のことだから絶対に負けない。相手は落ちこぼれだから」

 そう言いながら啓一は、地面に転がっている恭介を見た。恭介は背後からの一撃で倒れ、動かなくなってしまっている。

「君のブレスレットを壊すよ。それがナーシャから頼まれたことだから」

 胡散臭い笑みを崩さずに言い、恭介に近づいて行く。

「まあ、悔やむ事は無いよ。君はよく頑張った。ただ単純に力の使い方が悪かっただけだ」

 地面に横たわっている恭介の横で立ち止まり、啓一は恭介のブレスレットの上に足をのせた。そして、彼の身体を魔力が覆う。

 啓一は胡散臭い笑顔を消し、足を少し上げて恭介の着けているブレスレットを、勢いよく下した。

 ――ダンッ

 しかし、その足が恭介のブレスレットを踏みつけることは無かった。

「へえ、動けたんだ」

 啓一は少し顔を上げ、面白くなさそうに言った。その視線の先には、膝をついている恭介がいる。ブレスレットを踏まれる寸前で魔力を身体から放出し、肉体強化の魔法で上がった瞬発力を使って避けたのだ。

「……まあな」

 焦りや疲労の見えない涼しげな表情で、答えて恭介は顔を上げて啓一を見る。しかし、その内心では安堵の溜め息をついていた。

(今のは、危なかったな……)

 恭介は立ち上がって手首を見下ろし、念のため壊れていないかを確認した。

「じゃあ、続けようか。と言っても、すぐに僕が君のブレスレットを壊すことになるよ」

 啓一が言い終えると同時に、彼の身体から魔力が噴き上がった。そして、視界から啓一の姿が消えて目の前に現れる。

「これはフェイント。次が本命だよ」

 そう言って、啓一は再び消えた。恭介は何も考えず前へ一歩踏み込んでジャンプする。すごいスピードで、恭介の後を何かが通り抜けた。

「予告したのは、失敗だったかな。まさか、魔力を使わずに避けられるなんて、考えもしなかったよ」

 そう言いながら、啓一は上げていた足を下ろした。どうやら、恭介の後を通り抜けたのは、彼の回し蹴りだったらしい。

「一度、後からやられたんだ。また後から来るなら、今みたいに避けることができる」

 説明しながら恭介は啓一と同じように魔力を纏った。

「今ので決まってれば、良かったんだけどね。これは時間がかかりそうだ」

 恭介の様子を見ながら、啓一はやれやれと肩をすくめた。

 恭介は片足を引き、習っていた古流武術の構えを取る。啓一の方は片手をポケットに突っ込んだ。次の瞬間、二人の姿が消えた。

(脛を狙った下段蹴り)

 肉体強化で上がった動体視力で、恭介は啓一の攻撃を見切って避ける。それを追いかけるようにして、次の蹴りが恭介に襲いかかった。その蹴りを今度は避けるのではなく、恭介は片手で受け止めて掴んだ。

「へえ、すごいな。それは何年ぐらいやってるんだい?」

 片足を掴まれているのにも関わらず、動揺せずに啓一は恭介に聞いてきた。

「……今はやってない」

 啓一の質問に答え、恭介は彼の足を掴んだ手を振り上げ、啓一を背負うようにして投げた。

「うわっ…!」

 啓一は投げられ、背中を地面に打ちつけた。肉体強化の影響で、啓一を中心に紙面に大きな亀裂が走る。

「…さすがに、痛いな」

 そんな呟きを漏らしながら、啓一は手をついて起き上がった。

 普通の人間なら動けなくなるはずの衝撃だったが、啓一は魔法で肉体強化をしていたので、それほど衝撃を受けなかったらしい。

「同じ条件で戦ったら、僕より君の方が強い。これじゃ、僕に勝ち目は無いかな」

 言葉自体は弱音に聞こえるが、表情や声は弱音を吐く人間のものでは無かった。ゆっくりと立ち上がった啓一は、何の予備動作も無く恭介に突進する。

 至近距離からの突進を避けることができず、恭介は後方へと吹っ飛んだ。地面へ背中から落下して打ちつける。

「うっ…!」

 うめき声を上げ、恭介は咳き込んだ。

「こんな風に奇襲でもかけない限りは、ね」

 そう言いながら、地面に倒れている恭介に啓一は近づいて行った。彼が近づくにつれ、彼の右手に魔力が集中していく。

「さっきみたいに避けられると、時間がかかるから、動けないようにさせてもらうよ」

 そして、恭介の横で立ち止まり、しゃがみこんで戦闘服の襟を掴んで起こした。そして、魔力を纏った拳を恭介の鳩尾に叩き込んだ。

「がっ…」

 それから、何度も恭介の鳩尾に拳を叩き込む。その度に、恭介の口からくぐもったうめき声が漏れた。

 ――バキッ、ボキッ

 恭介から鈍い音がし始めると、啓一は殴るのをやめて彼から手を放した。恭介は力無く崩れるように、黒い大地に倒れる。

「肉体強化の魔法を使っていたとしても、ここまでやれば動けないはずだよ」

 啓一は疲労を表情に少し浮かべながら、額に浮かんだ汗を拭った。そして、彼の着けているブレスレットを踏みつける。

「さてと、彼女の方はどうなったかな」

 そう言いながら啓一は視線を移動させ、空中にいる光を纏った二人の少女を見た。彼の視界でナーシャは宵闇色の鎖に捕らえられ、彼女に向かって剣を持ったユーナが斬りかかる。彼女の剣がナーシャに届く寸前で、ナーシャの纏う蒼い光が強く瞬いた。


 漆黒の大地へ落下していくナーシャを追いかけ、ユーナは急降下を始めた。そして、追いつきかけた瞬間、

 ――バサンッ

 ナーシャの翼が力強く空を掻き、落下速度が落ちて彼女の上下が反転した。

「……驚いたわ。まさか、貴女が〈琥珀の盾〉を破る魔法を使えるなんて」

「私の使った〈魔剣〉は、Aランクの魔法。優等生の貴女なら、私が他にも強力な魔法を使えることに気がつけたはずよ」

 そこで言葉を切り、ナーシャと同じ高度まで上昇した。剣を正面で構え直し、ナーシャを真っ直ぐ見つめてユーナは続きを言う。

「その事に貴女が気づけなかったのは、私が落ちこぼれだという先入観に囚われていたからよ」

 ユーナの身体から吹き上がる魔力が、空中に無数の円を描いた。その様子をを見ながら、ナーシャは悔しそうに唇を噛む。

(確かに、貴女の言うとおりだわ。…私は、貴女のことを見下して油断していた)

 そう思いながら、ナーシャはユーナを見て溜め息をついた。そして、心の内を彼女に悟られないように、いつもの調子を崩さずに言う。

「そうね。少し油断していたわ。でも、少し上位の魔法が使えるからと言って、貴女は私に勝てないわ」

 言い終えると同時にナーシャの眼光が鋭くなり、彼女の身体から放出される魔力の質量が増した。高密度になった蒼色の魔力が、月のように辺りを照らす。

「仕方ないわ。不本意だけど、本気を出してあげる」

 魔力に気圧されながら、ユーナは呟くように呪文を唱えた。

「汚れた魂は怨嗟の鎖となる。全ての宿命を暗闇に縛り、戒め呪う。〈封縛鎖〉」

 すると、空中に浮かんだ無数の円の中に模様や図形が一気に描かれ、その中心から宵闇色の鎖が飛び出し、ナーシャを捕獲する。鎖に捕らえられたナーシャに、剣を構えたユーナは翼を羽ばたかせ、猛スピードで接近した。そして、手に持った剣を振りかぶる。

「目覚めし閃く魂の怒りは、猛る者に絶望を与えて地に這いつくばらせる。〈閃光の茨〉」

 ユーナが剣を振りかぶったのと同時に、ナーシャは静かに凛とした声で呪文を唱えた。彼女を覆う魔力がバチバチと音を立て、周囲を蒼く染め上げる。

「――っ!?」

 驚愕と身体に走る痛みで、ユーナは声にならない悲鳴を上げた。そして、痛みのあまりに剣から手を取り落としてしまう。

 全身から力が抜け、気がついた時にはユーナの視界の上下が反転していた。ナーシャの魔法を受けたせいか、翼はおろか指一本も動かすことが出来ない。なすすべもなく、ユーナは漆黒の大地へ落下し始めた。

 視界に映っている景色が、上から下へ猛スピードで流れていくのを朦朧とした意識で知覚しながら、ユーナはボンヤリと思った。

(私…また、負けたの……?)

 翼を羽ばたくこともできないユーナは、このまま大地に頭から落下し、致命傷を負って失格してしまうだろう。それを理解した彼女は、ゆっくりと目を閉じて現実を受け入れた。

 その途端、ユーナの頭に自分が巻き込んだ少年の顔が浮かんだ。彼は他の人間とは違い、金色の瞳をしていた。彼がユーナを真っ直ぐ見て言う。

「お前が自分を信じれないなら、俺が信じてやる。だから、お前は変わりに俺を信じろ」

 その言葉は、ユーナの心を凍っていた心を溶かし、彼女に前を見る勇気を与えてくれた。だから、ユーナはここまでナーシャと戦えたのだ。

(もし、彼がいなかったら……、〈宴〉が始まった時点で負けてた)

 〈宴〉が始まってからも、ユーナが冷静でいられたのは少年のおかげだ。彼の言葉を思い出すことで、ナーシャと渡り合うことができた。

 会ってから一週間ぐらいの付き合いだったけど、少年の存在はユーナの中で大きくなっていた。少年はユーナを見て、すまなさそうな顔をして言う。

「悪い。結局、俺はお前に何もしてやれなかった」

 それを聞いたユーナは、首を横に振った。そして、今の自分が作れる精一杯の笑顔を少年に向ける。

(恭、介…。巻き込んで、ごめん、なさい。それと、ありがとう……)

 ユーナは少年に心の中で謝罪と礼を言った。その次の瞬間、彼女の背中を衝撃が襲う。

(えっ…?)

 予想よりも弱すぎる衝撃の強さに、ユーナは驚いて目を開けた。すると、さっきまで頭に浮かんでいた少年――恭介の顔が目の前にあった。

「……大丈夫か?」

 恭介は顔に僅かな疲労を浮かべながら、ユーナに聞いた。驚きのあまり、フリーズしていたユーナの頭が、ゆっくりと状況を分析し始める。

 ユーナは落下していた。そのまま漆黒の大地に落ちていれば、致命傷を負って失格になっていたはずだ。しかし、現実は致命傷を負わず失格していない。そして、なぜか至近距離に恭介の顔があった。

「………」

 状況を整理し終えたユーナの顔に、僅かな赤みが差した。

「とりあえず、降ろすぞ?」

 ユーナの様子を不思議に思いながら聞き、彼女が返事するのを待たずに彼女を地面に降ろした。彼女は自分の足で地面に立ったが、すぐにふらついて恭介にもたれかかる。

「…っと、大丈夫か?」

 慌ててユーナを支えた。そして、そのまま視線を遥か上にいるナーシャに移動させる。彼女は雷に変化した魔力を纏ったまま、空中に留まっていた。

(俺の攻撃は届かないだろうし、コイツも戦える状況じゃない)

 そう考えながら、恭介はユーナを引き寄せた。そして、身体から魔力を放出する。

「やっぱり、所詮は落ちこぼれだったわね」

 ナーシャの声が響いた。恭介の顔が険を帯び、放出している魔力の質量が一気に膨れ上がる。

「だって、そうでしょう? あれだけ、見栄を張っていたくせに、結局は人間の貴方に支えられている。はっきり言って、無様極まりないわ」

 そう言って、ナーシャは纏う魔力を右手に集中し始めた。バチバチと音を立て、彼女の手に集中した魔力が膨張していく。

(…やばいな。あれを一発でもくらったら、失格になる)

 恭介はユーナを庇うように抱き寄せた。

「消えなさい。〈雷槍〉」

 ナーシャの右手に集まった魔力が、恭介たちに向かって放たれた。先端が細く鋭くなった蒼い光が彼らを襲った。蒼い光が爆発し、衝撃と共に一気に膨れ上がる。

 光と爆風がおさまると、そこに恭介たちの姿は無かった。

「失格したわね」

 ナーシャは溜め息をつき、地面に向かって降下した。そして、降り立ってコウモリのような翼を折りたたむ。

「…啓一はどこかしら?」

 そう言って手に持った剣を消し、自分が契約したパートナーを探し始めた。そして、ある一点に目を留めて固まる。


 恭介は啓一から受けたダメージに、身体を動かせずにいた。ぼんやりとだが、視界に二人の少女の戦いが映っている。宵闇色の光が片方の少女を捕らえ、その少女に向かって宵闇色の光を纏う少女が、猛スピードで接近して行った。その瞬間、蒼い光が瞬く。

 あまりの眩しさに目を閉じ、再び開くと恭介の視界がクリアになった。彼の目に、力を失って落下するユーナの姿が映る。

「なっ…!?」

 恭介は驚いて起き上がろうとした。その背に鈍い衝撃が走る。

「ぐっ…!」

「悪いけど、君にはじっとしといてもらうよ」

 啓一の冷たく鋭利な声が耳に入った。彼は恭介の背中に片足を乗せたまま、落下していくユーナを見て言う。

「あのまま落ちると致命傷を負う。そうすれば、確実に彼女は失格だ」

 それを聞いた恭介は目を見開き、再び起き上がろうした。しかし、啓一に背中を踏まれているので動けない。

「無駄だよ。今から君も失格になるんだ」

 啓一は魔力を纏った。ブレスレットの魔法が発動し、彼の肉体が強化される。そして、恭介を踏んでいる足の力が強くなった。肉体強化をしていない恭介の身体に、啓一の足がめり込んでいく。

「うっ……」

 痛みで恭介は身体に力を入れることができない。

「少しだけ忘れてたけど、君のブレスレットを壊すよ」

 そう言いながら啓一は、恭介を踏みにじった。

「うあぁぁっ…!」

 痛みのあまり、恭介は唸り声を上げた。そして、完全に力を失った腕や脚が漆黒の大地に投げ出される。

 それを見た啓一は恭介の背中から足を離し、ブレスレットの上へと移動させる。

(く、そっ…。失格に、なっちまう……)

 恭介は朦朧とする意識の中で、自分がユーナに言った言葉を思い出す。

(「お前が自分を信じれないなら、俺が信じてやる。だから、お前は代わりに俺を信じろ」)

 そして、後悔し始めた。

(自分から巻き込まれて…、偉そうに言っといて…、俺は何もできてない)

 ユーナを励まそうとして、恭介が咄嗟に言った言葉。その全てが、恭介に無力を感じさせた。彼の頭にユーナの姿が浮かぶ。

(……悪い。結局、俺はお前に何もしてやれなかった)

 頭に浮かんだユーナに謝った。すると、彼女は首を横に振り、泣きそうな笑顔を顔に浮かべる。

「恭介。巻き込んで、ごめんなさい。それと、ありがとう」

 それを見て、恭介は自分の胸が何かに締め付けられるのを感じた。彼を苛んでいた自分の無力感に対する悔しさや怒り。それよりも、強い願望が恭介の中に生まれる。

(絶対に勝つ。勝って、コイツの笑顔を見たい)

 恭介がそう思った瞬間、ユーナの姿が恭介の頭の中から消え、目の前に紅い光の球が出現した。これは、強大な魔力の塊だ。先日、恭介はこれに触れて炎に呑み込まれた。

 しかし、なぜか恭介は目の前の紅い光を、危険だとは思わなかった。そして、それが今の自分が欲しているものだと、何の根拠も無く理解する。

 恭介は紅い光の球に向かって、無造作に手を伸ばした。すると、紅い光が流れるように恭介の右手に集まり始める。

 一瞬だけ焼けつくような感覚がしたが、その感覚を受け入れると身体の内側から力が溢れ出すのを恭介は感じた。目を閉じて意識を内側から外側へと移す。

 目を開けると同時に、恭介は魔法で強化された瞬発力を使い、飛び起きて啓一から距離を取る。

「な、何だ。それは」

 啓一が目を見開き、上げていた足を下ろした。

 恭介は自分の身体を見下ろして驚いた。自分の纏っている魔力が、白ではなく紅に変わっていたからだ。

「……それが何なのか知らないけど、厄介なことになる前に君を片付ける」

 啓一の言葉を聞いて、恭介は彼の方を見た。すると、啓一の身体から魔力が激しく迸って姿が消える。

 啓一の動きを強化されているはずの恭介の目で、捕らえることはできなかった。

(後…、じゃない。前だ)

 しかし、なぜか啓一がどこから来るのか恭介はわかった。後へ身体を退き、前方に正拳突きを放つ。すると、ドンッと確かな感触があった。目の前に啓一の姿が現れ、右肩を抑えて恭介から距離を取る。そして、また消えた。

 さっきと同じように、恭介は啓一がどの方向から攻撃してくるのかわかった。 

(……右)

 恭介が右手を横に伸ばし、何かが彼の手に触れる。手に触れた何かを迷うことなく掴み、恭介は引っ張って正拳突きを叩き付けた。その拳に魔力が一瞬で集中し、啓一は思いっきり吹っ飛んだ。

「かはっ……」

 啓一が地面に倒れこむのを見た恭介は、恭介は視線を周囲に走らせて落下し続けているユーナを見つけた。

(間に合うか…?)

 恭介は地面を蹴った。世界がスローモーションへと変化する。目指すのはユーナの落下地点。彼女と地面までの距離は、もうほとんど無い。

 ――ドスッ

 恭介は、なんとかユーナを両腕で抱きとめた。腕に鈍く思い衝撃が走り、彼は僅かに顔をしかめる。

(なんとか、間に、合ったな…)

 そう思いながら、恭介は小さく溜め息をついた。すると、ユーナが目を開ける。

「……大丈夫か?」

 恭介は質問をしたが、ユーナは答えるなく固まっていた。そして、彼女の顔に赤みが差す。

「とりあえず、下ろすぞ?」

 そう言って返事を待たずに、横抱きにしていたユーナを下ろした。脚に力が入らないのか、ユーナはふらついて恭介にもたれかかってくる。

「…っと、大丈夫か?」

 慌ててユーナを支え、恭介は改めて彼女の身体を見た。所々に火傷や切り傷がある。

(……酷い傷だな)

 そう思いながら、遥か上空にいるナーシャを見た。雷に変化した魔力を纏ったまま、彼女は恭介たちを見下ろしている。

(俺の攻撃は届かないだろうし、コイツも戦える状況じゃない)

 そう考えながら、恭介は自分のほうにユーナを引き寄せた。そして、身体から白い魔力を放出する。

「やっぱり、所詮は落ちこぼれだったわね」

 その言葉を聞いた瞬間、恭介は無意識のうちに顔に険を帯びさせた。放出される魔力の質量が増える。

「だって、そうでしょう? あれだけ、見栄を張っていたくせに、結局は人間の貴方に支えられている。はっきり言って、無様極まりないわ」

 そう言って、彼女は恭介たちに片手を向けた。その手に魔力が集中し、バチバチと音を立てて膨張し

て行く。

(…やばいな。あれを一発でもくらったら、失格になる)

 そう思っているうちに、ナーシャの手の魔力を中心に魔法陣が描かれた。恭介はユーナを守るように抱き寄せる。

「消えなさい。〈雷槍〉」

 大質量の魔力が魔法陣から放たれた。その先端が細く鋭くなりながら、恭介たちに向かって行く。恭介は魔法によって強化された脚力で、その場から逃げようとした。しかし、雷の槍の先端が眼前まで迫っている。とても避けることはできない。

(くそっ…、避けきれない)

 恭介が諦めかけたその時、彼の身体が鼓動した。恭介の身体の奥が熱を帯び、纏う魔力が白から紅に変化する。急に溢れ出した強い力に恭介は驚く。しかし、ナーシャの攻撃が迫っていることを思い出し、咄嗟に地面を蹴った。

 ――ズンッ、バチバチ

 雷の槍が刺さった地点から亀裂と雷撃、衝撃が広がった。襲ってくるそれらから、ユーナを庇って恭介は耐える。雷撃と衝撃を魔力が盾になり、ほとんどを防いだ。

 しばらくして静寂がもたらされ、恭介とユーナは自分たちがいた場所を見た。

 地面は深くえぐられ、広範囲に深い亀裂が走っている。その光景を目の当たりにし、恭介は呆然としながら言う。

「何だよ。これ……」

 すると、恭介が着ている戦闘服が引っ張られた。恭介は我に返り、庇うように抱きしめていたユーナを見る。彼女は恭介の戦闘服を掴んで震えながら、ナーシャの放った魔法で変形した地形を見ていた。

「威力を見る限り、Sランクの魔法だわ。もし、あそこにいたら……」

 ユーナは最後まで言わず、そこで黙り込んでしまう。だが、彼女が何を言おうとしていたのか恭介は理解した。

(あそこにいたら、身体が粉々になってた……)

 ユーナの震えが伝わり、恭介の中に生まれた恐怖が消えて冷静にさせる。周囲を見回して敵の姿を探し、ゆっくりと大地に向かって降下するナーシャの姿を見つけた。彼女は漆黒の大地に降り立つと、背中のコウモリのような翼を消す。そして、何かを探すように周囲を見回し始めた。

 ナーシャは恭介たちの方を見た瞬間、動きを止めて凝視する。

「なぜ失格していないの…? それに、その魔力は……」

 ナーシャの質問に恭介は答えることができなかった。なぜ失格していないのかと聞かれれば、彼女の放った魔法を回避したからである。しかし、今の恭介が纏っている魔力について聞かれると、答えを窮してしまう。

「……〈契約者〉とはいえ、普通の人間が悪魔と同等の魔力を持つはずが無いわ。どんな小細工を使ったのかは知らないけど、次で消えてもらうわ」

 そう言いながらナーシャは片手を上げ、蒼い魔力を身体から放出した。すぐに魔力が雷へと変わり、魔法陣が完成する。

「怒り狂う閃く魂よ。渦巻く怒りを鋭き槍と化し、逆らいし者たちを貫け。〈雷槍〉」

 魔法陣の中心から雷の槍が放たれた。その先端に貫かれる寸前で、恭介は横へ跳んで避けた。

「……生意気ね。人間のくせに」

 悪態をつきながら、ナーシャは手を横へ動かした。それに従って、雷の槍も動く。恭介は雷の槍に追いかけられる形となった。魔力を脚に集中し、全力で雷の槍から逃げる。

「せいぜい逃げ惑いなさい。すぐに、この槍で貫いてあげるわ」

 雷の槍は放電しながら、恭介たちを追いかけている。少しでも逃げる速度を落とせば、感電してしまうだろう。

「…恭介。私のことはいいから、手を」

「黙って走れ」

 手を繋いでいるユーナ言葉を遮り、恭介は彼女の手を引いて全力で走った。

「そろそろ、鬼ごっこも飽きたわね。終わりにしましょう」

 ナーシャの声が聞こえた次の瞬間、雷の槍が激しく放電した。恭介は身体に雷を受け、脚をもつれさせるように倒れた。その横に手を繋いでいたユーナが倒れ込む。

 倒れた二人を見て、ナーシャは見ながら片手を深紅の空に向けた。

「貴女は落ちこぼれだけど、魔王様は偉大なお方だわ。魔王様に敬意を示すために、我が家に伝わる最高位の魔法で、貴女たちを葬るわ」

 ナーシャの身体から蒼い魔力が迸り、雷に変化して天を貫いた。

「狂いし怒りは天に暗雲と共に渦巻き、蒼き強大な刃を生みて地上を穿つ。一瞬の閃きは、地上にありし存在を消し飛ばす」

 深紅の空に暗雲が立ちこめ、蒼い雷が天を走って魔法陣を描く。

「〈天帝の蒼刃〉!」

 ナーシャが呪文を唱え終えると同時に、渦巻く暗雲に光が瞬いて世界を蒼く染めた。そして、空から恭介たちに向かって、巨大な蒼い刃が降ってくる。

(…ウソだろ)

 呆然と恭介は蒼い刃を見ていた。しかし、すぐに起きあがってユーナに覆い被さる。無意識なのか、彼の身体から魔力が激しく迸って二人を覆った。

 彼の行動と迸った魔力に驚き、ユーナは恭介の顔を見上げた。しかし、視界を光が襲って見ることができなくなる。

 ――ズザアァァンッ、バチバチ

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