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Devil Dance  作者: 瀧野せせらぎ
宴の幕開け
10/13

09

 ――一時間後、恭介が目を覚ました。

「う……」

「おはよう」

 とユーナが言ってきたので、「おはよう」と返した。そして、自分の置かれた現状を理解して硬直する。

 自分が寝転がっていて、目を開けてみるとユーナの顔が目の前にあった。さらに、後頭部には枕とは明らかに違う感触がある。

「……起きたのなら、どいてくれないかしら? 動けないわ」

 と少し頬を赤く染めたユーナに言われ、慌ててがばっと勢いよく起き上がった。

「わ、悪い!」

 ユーナに背中を向けた状態で謝り、恭介は周囲を見回した。まだ日は高く、気絶してからあまり時間が経っていないようだ。

「俺、どれくらい気絶してたんだ?」

「二時間ぐらいよ」

 すぐに返事が返ってきた。そして、ホッとする。ナーシャという悪魔が指定してきたのは明日の夕方で、それまでに足手まといにならないようになっておきたかったからだ。

 背後でユーナが立ち上がる気配がし、彼女は恭介に聞いてきた。

「レクチャーを再開したいのだけれど、いいかしら?」

 それに黙って頷き、恭介も立ち上がった。二人は向かい合うように立つ。恭介が魔力を手に集めるために集中しようとすると――、

「ちょっと待って」

 とユーナが止めた。右手を肩の高さにまで持ち上げた状態で、恭介はピタッと静止する。

「さっき魔力を集める時、どんな感じだったか教えてくれないかしら」

 そうユーナに言われ、恭介は右手を下し、思い出しながら説明する。

「さっき、目を閉じたら周りを光が流れてたんだ。それで、その光に手を向けたら光が手に集まって来た」

 それを聞いたユーナは少し考えるそぶりを見せ、恭介に質問してくる。

「……その光を集めた時、自分で意識してたの?」

 今度は恭介が考えるそぶりを見せ、ユーナの質問に答える。

「ああ。集めることだけ意識してた」

 その答えを聞いたユーナは、頷いて恭介に指示を出す。

「そう。それなら、次はある程度集まったら止めてみて」

「わかった。やってみる」

 ユーナに返事をし、恭介は右手を再び肩の高さまで上げた。そして、集中するために目を閉じる。さっきよりも簡単にイメージすることができた。暗闇の中に恭介は立ち、その周囲を光が不規則に流動している。

 右手をゆっくりと上げ、流動する光に向けて開いた。そして、念じる。

(来い)

 光が恭介の手に集まりだし、右手首が熱を帯び始めた。

(ここまでは同じだ。ここから言われた通りに…)

 そう思いながら恭介は右手を見た。そして、ある程度光が集まったのを確認し、右手を閉じて念じる。

(…止まれ)

 しかし、集める時とは違い、すぐに光が集束するのを止めることができなかった。

(止まれ!)

 もう一度念じてみたが、やはり光は集束し続けた。さらに、さっきとは違って身体全体が熱を帯び始める。そして、チリチリと焼けるような痛みが身体中に走り回り始めた。その痛みに耐えながら、恭介は目を閉じて必死に念じる。

(止まってくれ!)

 その願いが通じたのか、ようやく光は集束するのをやめ、元のように恭介の周囲を流動し始めた。

 恭介は肩で息をしながら、目を閉じて意識を内側から外側へと移した。目を開けてみると、目の前にはユーナが立っていた。彼女は恭介を、心配そうな顔で見ている。

「……大丈夫?」

 恭介は息を乱しながら、自分の右手を見てみた。魔力を纏っているが、さきほどよりも質量は小さい。

 無言のままの恭介を見て、ユーナはさらに心配そうな顔になる。顔を上げ、それを見た恭介は滅多に作らない笑顔で彼女に言った。

「ああ、大丈夫だ」

 すると、ホッと安堵した。そして、恭介を睨み付けてユーナは文句を言ってくる。

「…なかなか魔力の放出が止まらないから、すごく心配したのよ」

 その視線の鋭さに射抜かれ、恭介は普段の無表情を少しだけ引き攣らせた。そして、彼女に頭を下げて謝る。

「心配かけて悪かった」

 それを見たユーナは、クスリッと笑って恭介に近づいた。そして、優しく彼に言った。

「ほら、頭を上げなさい。心配させた罰として、魔力集束を慣れるまでやりなさい」

(それって、罰になるか?)

 と恭介が疑問に思っていると、ユーナが表情と口調を変えないまま付け足した。

「できるようになるまで、休憩は無しよ」

 どうやら、ユーナはスパルタ教師らしい。それを聞いた恭介は肩をすくめ、

「……了解」

 少しの間を置き、普段と変わらないトーンの声で短く返事をした。

「まずは、その魔力を消してみて」

 ユーナのいきなりの指示に、恭介は戸惑ってしまう。それもそのはずだ。魔力の放出しかやっていないのに、いきなり別のことをやれと言われれば、誰でも戸惑うだろう。

「大丈夫よ。あなたならできるわ」

 スパルタ教師のユーナ先生は、真剣な顔で無責任なことを言ってくきた。恭介は心の中で溜め息をつきつつ、目を閉じて集中する。

 一瞬で暗闇の意識世界(恭介が勝手に名称をつけた)が視界に広がる。身体を見てみると、現実と同じように魔力を纏っていた。言うまでもないが、ここは恭介のイメージした空間だ。つまり、現実のことが起こっても不思議ではない。

(どうすればいいのか聞いてないけど、やってみるしかないか…)

 恭介は深呼吸をし、魔力を集束した時と同じように念じてみる。

(消えろ)

 纏っていた魔力が、光の粒子となって少しずつ身体から離れて行く。どうやら、今回は簡単に成功したらしい。

 ホッと安堵しながら、その様子を恭介が視線で追ってみると、身体から離れて行った光の粒子は流動する光に呑み込まれていく。

(元の流れに戻って行くんだな)

 そんな事を考えながら、恭介は自分の身体に視線を移す。身体から離れて行く光の粒子は、集束させた時よりも遥かに少ない。集束させた時は、念じたと同時に一気に集まった。それに比べ、離れて行くのはかなり時間がかかるようだ。なので、待っていると非常にじれったく感じる。

(…待つしかないか)

 そう恭介は思いながら、試しに速くなるように念じてみた。しかし、光の粒子が離れていく速さは変わらない。

(やっぱりダメか…)

 そう思った途端、身体から離れていく光の粒子の数が増え始めた。その光景を目の当たりにして恭介は驚く。

 しばらくして、身体に纏っていた光の粒子が、全て流動する光に呑み込まれた。それを確認し、恭介は目を閉じた。意識が外側へと移る。目を開けた恭介は、まず自分の身体を見下ろした。纏っていた魔力は、意識世界と同じように完全に消えている。

「ほら、できたでしょ?」

 そう言ってきたユーナを見ながら、恭介は小さく溜め息をつきながら思う。

(言うほど簡単じゃないけどな…)

 しかし、口に出さずに頷き返して恭介は再び目を閉じた。慣れてきたのか、あまり集中していないのにも関わらず、意識世界に入る。恭介は右手を肩の高さまで上げ、流動する光に伸ばした。

 ユーナは彼が、自分の指示通りにやっているのを見ながら思う。

(……資料で見たよりも魔力に慣れるのが速いわ)

 恭介の身体から魔力が発せられては消える。すでに十回目だが、彼の魔力を放出するスピードが上がってきていた。さらに、その制御にも慣れてきている。

 しかし、それよりもユーナが驚くことがあった。最初に放出していた魔力と、放出する量が変わらないのだ。いや、すでに超えている。それにも関わらず、恭介は倒れず立ち続けていた。

(…魔力が増えた? そんなはず無いわ。人間の魔力が急に増えるなんてありえないもの)

 ユーナが自分の思考の中に入っていると、何十回目かの魔力の放出を終えた恭介が、目を開けると同時に地面にへたりこんだ。

「もう、無理……。限界だ」

 ユーナは思考を中断し、恭介の様子を見た。彼の顔には疲労困憊と書かれている。最初に気絶した時とは違うが、魔力の放出を繰り返したせいだ。

「少し休憩にしましょう」

 ユーナが言ったのを聞き、恭介は顔を上げて頷いた。

 ――休憩を始めて二時間が経ち、恭介は回復して立ち上がれるようになった。

「それで、次は何をするんだ?」

 恭介が正面に立っているユーナに聞くと、彼女は難しい顔をしながら答える。

「まずは、魔力の放出と消すのをやってみて」

「わかった」

 恭介は目を閉じた。それと同時に、魔力が彼の身体から迸る。質量は最初に放出した魔力を遙かに上回っており、それにユーナは驚きを隠せず愕然とした。恭介の身体から放出された魔力は、彼の身につけているブレスレットで増幅されている。しかし、それを差し引いたとしても、彼から放出されている魔力の質量は尋常ではない。

 放出された魔力が魔法陣を描き、恭介が魔力を身体全体に纏う。

「次は、消せばいいんだよな?」

「え、ええ」

 驚きのあまり、ユーナは質問に対する返答が遅れてしまった。恭介の身体に纏っていた魔力の質量が小さくなっていき、完全に消える。

「言われた通りにやってみたけど、どうだ?」

 この恭介の質問に対するユーナの答えは、謙遜も何も無いものになる。

「…魔力の放出も消すのも、よくできてるわ。予想以上よ」

 それを聞いた恭介は、「そうか」と一言だけ言って目を開けた。二人の視線が交差する。

 ――きゅるるるっ

 不意に間が抜けるような音がしたと同時に、ユーナが顔を赤らめた。

「……昼飯、食いに行くか?」

 恭介が聞くと彼女は頷いた。魔力の特訓に夢中になって、時間が経つのを忘れていたのだ。ちなみに、現在の時間は午後二時。

 ユーナが結界を解き、二人は自然公園から出てバス停に移動する。バスを待っていると時間を長く感じたので、気を紛らわすためにユーナに話しかけた。

「何か食べたい物あるか?」

「…パスタが食べたいわ」

 彼女の答えを聞いた恭介は、頭の中でどこの店に行くかを考える。

「ランチを食べ終えたら、マンションの近くにある公園でレクチャーの続きをやるわ」

 そうユーナが言ったのを聞いた恭介は、彼女を見る。彼女は真剣な顔で遠くを見つめていた。

「〈宴〉まで、あまり時間が無いから。今日のうちに、やれるだけのことをやるわよ。いいわね?」

 ユーナの提案に反対する理由は無かったので、恭介は彼女と同じ方向を見て答える。

「ああ」

 ――二人は昼食を食べ終えた後、同居しているマンションの近くにある公園まで戻ってきた。しかし、帰ってきたのではない。この公園で続きをやるのだ。

 ユーナが片手を上げて呪文を唱え、〈封絶結界〉が張られた。

「次にやるのは、魔力の集中よ。放出した魔力を一箇所に集めるの」

 ユーナは言いながら胸の前で両手を組み、身体から魔力を放出した。その魔力は、彼女が組んでいる両手に集まる。

「これが魔力の集中。最初に、私が魔法を使う前に球体を作ったでしょ? やることは、それと全く同じなの」

 説明しながら組んでいた両手を解いた。すると、彼女の両手の間に魔力の球体が形成される。

「あなたの場合だと、魔力の集中は魔力を放出する時のイメージに近いわ」

 魔力の球体を消したユーナは、手を下して恭介に言う。

「魔力の放出をして」

 恭介は頷いて目を閉じた。次の瞬間、魔力が彼の身体から迸り、ブレスレットが肉体強化の魔法を発動する。恭介が目を開けたのを確認し、彼に指示を出した。

「まずは、利き手に魔力を集めてみて」

 恭介は頷いて集中し始めた。彼を纏っていた魔力が右手へと集まっていく。

「その調子で、全部の魔力を集中させて」

 ユーナが指示を出し、彼女の指示通りに魔力を右手に集中させた。やがて、恭介の身体に纏っている全ての魔力が右手に集まり、質量を増した魔力が光を放って右手が見えなくなる。

「…初めてにしては上出来だわ」

 ユーナは感想を述べると同時に、恭介が目を開けた。

「この後は、どうするんだ?」

「左手、右足、左足の順に魔力を集中させて」

「なっ…!?」

 ユーナから一気に出た指示に恭介は驚き、目を見開いた。

「魔力の集中によるタイムラグが、短くなるまで休みは無しよ」

「…了解」

 雰囲気に圧倒され、恭介は頷いた。そして、目を閉じて魔力の集中を始める。

 ――三時間後。もう日は沈んで夜になった。公園の中心で恭介は、仰向けに倒れて肩で息をしている。それを横で見ていたユーナは、頷いて彼に言った。

「タイムラグは充分短くなったし、レクチャーを終わりにするわ」

 それを聞いた恭介はユーナのスパルタで、かなり疲労しているらしく返事すらできなかった。

 余談だが、この日の夕食は恭介が疲労困憊で作れなかったので、コンビニ弁当を買って食べることになった。


 深夜、ある高級住宅の屋根の上に少女が座っていた。彼女は星空を見上げて鼻歌を歌っている。

「ご機嫌だね」

 少女の鼻歌を遮るように、誰かが少女に話しかけた。少女は見て確認することもせず、声の主に言う。

「それはそうよ。だって、初戦の相手が彼女だもの」

「でも、油断は禁物じゃないかい?」

 声の主が聞くと、少女は鼻で笑って答える。

「油断? 誰に言っているのかしら? 彼女が相手でも、私は油断なんてしないわ。しっかりと策を練って、確実に叩きつぶすつもりよ」

 声の主が近づいてくる。そして、少女の後で立ち止まった。

「なるほど。じゃあ、僕の心配は余計なだけだね」

 声の主は苦笑を含んだ声で言い、それに対して少女は何も言わなかった。しかし、その表情には絶対的な確信がある。

「それより、明日の〈宴〉で自分がやることは理解してるわね?」

 少女は目を閉じ、自分の後に立つ少年に尋ねた。

「もちろん。…期待にそえるかどうかはわからないけど、できるだけの努力はするよ」

 少年は言いながらしゃがみこみ、彼女の身体を抱きしめた。それに答えるように少女は少年にもたれかかり、少年の耳元で囁く。

「お願いね」

 少年が彼女の首筋に顔を埋め、少女はくすぐったそうに息を吐いた。悪魔は契約を結ぶ時、人間の野望を叶えることがある。悪魔の少女は少年と契約し、その契約で少年の野望を叶えた結果が今の状況だ。二人は屋根の上で仲睦まじい恋人のように接する。

「ナーシャ。本当に君は最高だ」

「嬉しいわ。啓一」

 明日の夕方にある〈宴〉のことなど気に留める様子も無く、二人は笑い合ってキスした。キスをしながら少女――ナーシャは思う。

(どうせこの男とは〈宴〉が終わるまでの関係。今のうちに、いい思いをさせておかないと哀れだわ)

 そんなことは間違っても口に出さず、少女は少年とのキスを続けた。少年を満足させ、自分の思い通りに動かすために。

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