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Devil Dance  作者: 瀧野せせらぎ
宴の幕開け
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 鮮やかな深紅に染まる空、漆黒の大地。ここは冥界。悪魔の住む場所だ。

 その冥界にある大きな城から赤ん坊が泣いている声が聞こえてくる。その側には黒い装束を来た二人の悪魔が立っていた。

「では、始めるとしようか……」

「そうだな。魔王に気がつかれる前に済ませてしまおう」

 二人の悪魔は赤ん坊を抱き上げ、部屋の中心に移動した。赤ん坊を置いて部屋の中心から離れる。

 二人の悪魔が、それぞれ違う色の光を体に纏った。そして、地を這うような低い声で呪文を唱え始めた。赤ん坊を中心に光が円を描き、その中に人間のものではない文字が描かれていく。どうやら魔法陣のようだ。

「狭間に繋がる穴を穿て」

「この者を追放せよ。穴の先へ」

 二人の悪魔が呪文を唱え終わると、魔法陣が一際強い光を放ち、部屋を染め上げる。光が収まった後、部屋の中心から赤ん坊の姿は無くなっていた。

「これで、魔王の後継者はいなくなった……」

「魔王は権力と後継者を失い、その地位を他の悪魔に譲ることになるだろう」

「捜そうとも、見つかることは無い。赤ん坊は狭間にいる」

 黒い装束を着た二人の悪魔は、足下に魔法陣を描いた。描かれた魔法陣が光を放ち、二人の悪魔は消えていく。二人が消えた後に何人もの悪魔が部屋に入ってきた。

「トゥール様が、いらっしゃらない!」

「攫われたのか!? いや、しかし…」

「とにかく探せ!」

 悪魔たちはザワザワと騒ぎ、部屋を出て行った。その様子からして、消えた赤ん坊が重要人物だということが分かる。

 城の外では爆発が起こり、悪魔同士が戦闘を行っていた。これは模擬戦闘ではなく、お互いに殺しあう戦争だ。

「報告します! トゥール様が、お部屋にいらっしゃいません!」

 執務室で報告を受けた赤ん坊の父親、魔王は一瞬だけ驚きの表情を浮かべ、すぐに元の表情に戻る。

「……そうか。私の後継者を消し、我が血族が二度と魔王の座につけないようにしたのか。どこの誰かは知らないが、やってくれたな」

 魔王は深呼吸をし、窓の外を見た。外では激しい戦闘が行われ、何度も爆発が起きている。

「……トゥールのことはいい。皆を逃がせ」

「しかし…!」

 悪魔が魔王の命令に異議を唱えようとし、それを魔王は大声で遮る。

「魔王としての命令だ! 私はここに残り、反乱者どもを引きつける。行け!」

 魔王の命令を受け、悪魔は部屋を出て行った。入れ違いに、別の悪魔が入ってくる。

「敵はかなりのやり手みたいだな」

「ああ、魔王の座を奪うだけでなく、後継者を消すなど……。どうやら、敵は徹底的に我が血筋を、無に葬ろうとしているらしい」

 魔王は唇を噛みしめ、入ってきた悪魔と話をした。

「……最後まで供にさせてもらう」

 と魔王に悪魔は言った。

「死ぬのは私だけで十分だ。お前は皆と一緒に逃げろ」

「親友を放っておけるわけないだろう?」

 と悪魔は言いながら不敵に笑い、魔王に近づいていく。

「…相変わらずだな」

「まあな」

 魔王に悪魔は肩をすくめて答えた。

「勝手にしろ」

 と魔王が言った次の瞬間、悪魔の後にあるドアが吹き飛ばされた。

「来たか…!」

 悪魔は右手を突きだし、魔力を練る。魔力は球体になり、部屋に入ってきた悪魔たちを吹き飛ばした。

「…失せろ」

 魔王の金色の瞳が輝き、紅蓮の炎が部屋に入ってきた悪魔たちを焼き払った。

「さすが、魔王様。敵を一瞬で消し炭になるとは」

「茶化すな。……来るぞ」

 魔王の声に反応し、悪魔は右手に魔力を練った。悪魔の周囲に、複数の魔法陣が描かれる。

「消滅せよ」

 と誰かの声が響き、悪魔が描いた魔法陣が消滅してしまう。

「これは消滅の力!? まさか…!」

 と魔王が言った次の瞬間、四方の壁が消滅した。

「そのまさかだ。……べリア・ルシファー」

 窓のあった壁の方を見ると、飛竜に乗った悪魔がいた。

「魔王の地位から下りてもらうぞ」

 飛竜に乗った悪魔は右手を突きだし、魔力を練って魔法陣を描いた。その魔法陣は光を放つ。

「…セド! なぜ、お前が…!」

 光を浴びた悪魔は、言葉の途中で消滅してしまった。そして、魔王も消滅する。魔王ルシファー家の時代は終わった。悪魔は飛竜に乗ったまま飛んでいく。この戦争は反乱者の勝利に終わったが、魔王の座についたのはセドという名前の悪魔ではなかった。この反乱から七千三百万年後、再び反乱が起こり、当時の魔王家は前魔王家のように完全に消えてしまった。


――一億五千万年が経ったある日、城のバルコニーで真紅の空を見ている少女がいた。憂いを含んだ顔に、黒いドレスが似合っている。少女は今日何度目かの溜め息をつき、涙で瞳を潤ませていた。

「……私は魔王の娘。それなのに…」

 と少女が呟くと、後ろからドアがノックされる音が聞こえた。少女は深呼吸をして言う。

「誰かしら?」

「私でございます」

 声を聞いた少女は涙が溢れ出ないように目を閉じ、声の主に言う。

「入って」

 と少女が言うと、声の主がドアを開けて入ってきた。少女は声の主に言う。

「何かしら? 一人にしてほしいのだけれど」

「魔王様がお呼びです」

 声の主が言ったのを聞き、少女は息を飲み込んだ。

「……お父様が?」

「はい」

 少女にとって魔王とは父であり、絶対に逆らえない相手なのだ。つまり、憧れと恐怖の対象。

「分かった。すぐに行くわ」

 少女の言葉を聞き、声の主は部屋を出て行った。それを音だけで確認し、少女は溜め息をつきながら思う。

(私はユーナ。ユーナ・アウス。現魔王の娘。それなのに、落ちこぼれてしまった。お父様に、あわせる顔が無い……)

 少女は溢れた涙を拭ってバルコニーから部屋の中に入り、横切って部屋を出た。そして、ある場所に向かって長い廊下を歩く。何度か曲がり、廊下の突き当たりにあるドアの前で立ち止まった。少女はドアの前で一度だけ深呼吸し、心を落ち着けてドアをノックする。

「入れ」

 中から声が聞こえたので少女は震える手でドアを押し開けて、部屋の中に入った。部屋の奥には執務机があり、そこに座っている男が少女の父であり、現魔王のガリア・アウスだ。

「なかなか報告に来ないので、呼び出させてもらった」

「申し訳ありません」

 厳かな声を聞き、少女は謝罪した。

「……試験の結果は、もう学院から聞いている」

 少女の肩が、ビクッと震える。

「最下位だったそうだな」

 少女は俯き、唇を噛んで話の続きを聞く。

「何というありさまだ。お前は、私に恥をかかせたのだ。なのに、謝罪をしに来ないとは」

「申し訳ありません…」

 父親から責められ、少女の声は小さくなった。父親は俯いている少女を見て、無言で責める。父親の無言の責めは、刃のように鋭く、少女の心をズタズタに引き裂いていった。

「今さら謝罪などいらん」

 少女の心に父親の言葉が深く突き刺さった。しばらく沈黙があり、父親が再び口を開く。

「……本来ならば、養子を迎え入れるべきなのだが、お前にチャンスをやろう」

 父親の言葉を聞き、少女は顔を上げて聞き返す。その顔には驚きが浮かんでいた。

「……チャンス、ですか?」

 父親は頷いて少女に告げる。

「今年は一万年に一度の〈宴〉がある。その〈宴〉にて、実力を見せよ」

 少女は黙り込み、しばらく考え込む。

(…〈宴〉。いつ起こるか分からない戦争に備え、行われる模擬戦闘による戦闘訓練の行事)

 少女の瞳から悲しみが消え、僅かな希望の光が宿った。その瞳で少女は父親の顔を見て答える。

「……分かりました。ご期待にそえるよう、励まさせていただきます」

 礼をして部屋を出、少女は自分の部屋に向かった。

(…最後のチャンス、絶対に――)

 少女は決意を胸に廊下を歩いていく。


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