某月某日 藤棚のもとUFOを待つ
ある意味、グロい? いえ、これが日常でしょう。
藤の花が咲き始めた。藤棚の多い地域なのか、やたら目立つ。
そんな時に思い出す、ちょうど今じぶんに見聞きしたできごと。
駅前の美容院を利用していた少し前のこと。
いつものようにシャンプーカットに訪れたオイラ、椅子に座って次の作業を待っていた時、
カランカラン、とドアベルが鳴って、年配の女性が入ってきた。
「あ、いらっしゃいませー」
私の担当者Oさんの表情からみて、お得意さんの一人のよう。しかし、なぜかその笑顔は微妙。
女性はまっすぐオイラの隣に空いていた椅子に座る。無言のまま。
「すみません、ちょっと待ってくださいね」口の中で小さくオイラに向かってつぶやき、彼は件の女性にこう話しかける。
「Sさん、お久しぶりですー」
女性は答えた。なぜか、片手を上に向けて拡げ、もう片手をグーにしてその平手にリズミカルに打ちつけながら、その叩くペースに合わせて話し始める。一本調子な声。
「オヒサシ、ブリデス」
なんかメチャクチャまずい所に行き合わせてしまった感のオイラ。Oさんはそんなしゃべりに慣れているらしく、ごく普通に応対。しかし、ちょっと口調はぞんざいになってきた。
以下、二人の会話。
「で、今日は?」
「せみろんぐデ、オネガイシマス」(ずっとここからは、グーでリズムをとりながら)
「えっ? 何?」
「せみろんぐ デオネガイシマス」
「セミロングは無理。だってもうすでに短いじゃん」
「デハ、スコシミジカク」
「はい了解。先にこちらのお客さんからなんで、少し待ってねー」
「ハイ」
「……ところでさ、まだユーフォー追っかけてるの?」
「ハイ」
「どっかでみた?」
「ハイ」
「ゆーほーだよ!?」
「ミマシタ」
「どこで」
「●●コウエンデ」(※注 かなりローカル的に有名な公園名)
「うっそ。いつ?」
「センシュウ、キンヨウビ」
「今度、いつ見に行くの?」
「コンヤモ、ミニイキマス」
「え? うそでしょ? 何時頃?」
「ゴゴ、8ジコロ」
「早っ!」
「……9ジコロ」
「公園のどこで?」
「フジダナノ、シタデス」
「藤がジャマで、ユーフォー見れないよねえ」
「ミエマス」
もうオイラは刺激的な会話にクラクラしっ放し。と、そこへお店のオーナーが奥から出てきた。
「あ、Sさんじゃないですかー、お久しぶりですー」
すると、どうしたことであろう、隣の女性がいきなり
「あ、御無沙汰してますー」
フツーの口ぶり、普通のイントネーション、普通よくある表情にてオーナーに頭を下げた。
……いまだにあの美容院でのシーンが、心に焼きつきまくりやがって。
藤の花が満開な、あちこちの藤棚を見かけるたびに、その上の空にUFOを探してしまうオイラでした。
もちろん、グー手をもう片手の平に打ちつけながら。