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某月某日 渚にて

 大昔、ウィンドサーフィンを習いに行った若い女子がいたと思っておくれ(出来心)。

 全4回コースの、最終日だったんだけど。


 沖からやっとのことで帰って来て、ボードから降りて小砂利の浜にようやく到着した時。

 くるぶしまでの深さのところで突如、右足の裏に違和感が。


 何かがくっついた感じ。


 おそるおそる足をあげてみると、どういう訳か右足の裏、土ふまずよりややつま先側のくぼみに、何か長いものがついて一緒に上がってきたのです。


 よくよく見ると、黒く錆びたアイスピック。それが足の裏に刺さっておりました。

 どれだけ食い込んでいるのか、見たくもないし、とにかく触りたくない感じ満載。見てしまうと何故か痛みも訪れたりして。

 ひとりひそかにパニックに陥り、その場に座り込むうら若きオトメ。


 たまたま近くにきた若い男性に、おそるおそる声をかける。何と積極的なネエチャンですね。


「あのう、ちょっと肩を貸してもらえますか?」


 いぶかしげな彼に、足の裏を持ち上げてみせる。


 わあああ、もちろん浜までお送りしましょう、だいじょうぶですか? とたちまちお姫様だっこ……多分、最初で最後の。


 あっという間に人だかり。そのうち、連絡をきいたインストラクター、一緒にウィンドやってた仲間たちがどっと勢揃い。そしてもちろん野次馬も。


「これ、千枚通しですよね」

「抜いたほうがよくねえ?」

「錆びてますよ」

「カエシがついてたら……」

「……抜けませんよね」

「とにかく病院に連絡して、連れて行こう」


 なぜかすぐ近くに白人男性まできて、何か語っている。自分の腿を指さして、熱く語っている。

 脇の通訳いわく

「ボクもオーストラリアでダイビング中、ファイバーグラスの棒が刺さってほらここ、貫通しました」

 うん、ありがとう。何のなぐさめにもならねえよ。


 周りの大騒ぎからなぜか、なんとなく隔絶されたようなオトメ(なぜかあまり痛みはない)。

 結局、インストラクターが車で病院まで送ってくれることに(ここでも休日当番医にて救急扱い)。


 病院でようやく、「えいやっ」と刺さってたものを抜く。

 今考えると可愛いもんだったが、約1.5センチの深さで刺さっていた錆サビのアイスピックが案外簡単に抜ける。


 消毒と簡単な抗生物質注射にて、帰ってこられました。


 しかし本当に哀しかったのは、数日後に地元に戻ってからの病院通い。

「破傷風の注射もしなかったのか!」と叱られ(そんなん知るか)、傷の穴に消毒用のガーゼをぐいぐい詰め込まれ、悶絶した数回の治療期間。


 今思えば、そんな可愛いキズでも大騒ぎしたなあ、あの渚、って。

 なんとなく、温かい思い出です。そんな呑気なゲンバで済んで、本当によかった。

 ……つうか、痛い思いしながらもチヤホヤされた、という所が一番嬉しかっただけかも。



 なんだ、単なるMってことぢゃん。

 


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