某月某日 因縁は信じるも信じないも 01
これもできれば聞いた話ということで。
少し長くなりますので、分割して。
ある冬の休日。
近頃創作活動に夢中なオクサンがひとり、その日も書き物に没頭しておりました。
しかしそんな中、小学5年の娘が
「どこかに遊びに行こうよー」と。
「前から約束してたじゃん? 休みの日にどっか、連れて行ってあげるってさー」
言ったっけ? と首をひねりつつも、オクサンは仕方なく子ども連れて出かけることに。
中学1年になる次男が少し運動不足ということもあり、また、めずらしく中学2年の長男も「運動なら一緒に行く」と言うので急きょ、揃って近所の少し高い山に登ってみることに決定。
近所の少し高い山、標高は500メートルちょっと。小学校低学年でも登れる格好のハイキングコース。頂上までのコースは大きく3つ、出発点が西、東、南側からで大きく分れている。
南側からはオクサンも幼い頃から何度か上ったことがあったのだが、今回は、途中に奇岩がゴロゴロしていて見どころも多いがやや中級者向けの東からのコースを選択。
実は東コースは初めてだったのだが、一本道で間違えようがないと聞いていたし、頂上付近は別コースから繋がる林道もあり、車で何度も訪れた場所ということもあり、上まで行ってしまえば迷うこともないし、登り降りだけならばそれほど苦労はしないだろう、無理ならば途中で引き返せばいいしね、
と支度も簡単に登山口まで車で出かけて行く。
車を降り、いざ登山。知的な障がいもあり、体力にもあまり自信のない次男をかばうように4人はいざ頂上目指す。が、それがすでに午後の二時。
奇岩で有名なそのコース。いきなり出会ったのが
『この石の元で修行僧が行き倒れ……』みたいな。何だかおまつりしているのでそこに4人で
「無事行ってこられますように」
と手をあわせ、先に進む。
まずゆるやかな耕作地を抜け、最初は1時間ほど、大きな岩がそこここにゴロゴロしたがれ場を上っていく。そこですでに次男は及び腰。しかし妙に張り切った長男はどんどんと1人で上に行ってしまう。姿も見えなくなってしまい、オクサンは焦りつつも次男を叱咤激励しつつ、上を目指す。娘は淡々とついて来る。
がれ場も過ぎたところで次男がいよいよダウン、しかし長男はすでに声も届かない上まで行ってしまったもよう。
そして、さすがに冬の日の暮れるのは早く、すでに影は濃く、山の空気はひんやりと冷たくなってきていた。
娘に、次男と一緒にその場に止まっているように指示して、オクサンはとりあえず長男を引きずり降ろすべく更に先に向かう。
大声で下に残る娘たちに呼びかけながら、オクサンは更に上へ、竹の林、そして薄暗い杉林をずっとのぼり、ようやく頂上に続く尾根伝いの道に。
木々の間から遠くの山々が入り日に染まっているのがみえる。
尾根の先、最終目的地の頂上広場付近で長男をようやく捕まえた時には、冬の日が西の山の端にかかり辺りには黄色い物憂げな光が満ちていた。
長男は長男で「今日は運動に来たのに、弟も妹もダラダラして」と1人怒っている。
そんな勝手な小僧にオクサンついに切れ「山で勝手な行動とるオマエが悪い、日が沈んだら大変なことになるんだ、さっさと降りてこいや」とやや感情的に叱りながら、引きずるように共に下山。
が、その時にはすでに尾根にかかる道に娘と次男がたどり着いていた。
オクサンの声が届かなくなり、不安になった娘は嫌がる次兄をなだめすかしながらどうやらそこまで無理やり登ってきたらしい。
4人は無事に尾根で合流。
もう少しがんばってみんなで上まで登ってしまえば、そこに簡素ながら山小屋もあるし車道もある。いざとなればそこに子どもだけ残し、オクサンひとりで車のある場所まで下山し、ぐるりと山を回り道して別の道から車で迎えに行けば、それでも2時間以内には無事に子どもらを回収できる。
ただそうすると、誰もいない山の中、しかも真っ暗な山小屋で2時間は子どもらだけで過ごさねばならない。
オクサンは束の間逡巡。子どもらはそれほど幼くないとは言え、さすがに人けのない深い山の中でたとえ数時間でも過ごすことはできないだろう。ならば、今登ってきた道を皆でまた下っていくか? 車も残してあるので、それしか方法はないだろう。しかし初めてのコース、しかも、途中一時間ばかりは崖っぷちも含めた恐ろしいガレ場の道を通り抜けて。そして、灯りすら持っていないのに。
その時、ちょうど日が沈んだ。
少し続きます。




