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某月某日 民話? 佐久市の果樹園にて

 少し前の話ですが(マタカヨ)、ウラワカキ乙女が年上の従姉妹に誘われてと言うか、そそのかされて長野県は佐久市にある知人宅に出かけていったのです。

 と、思いねえ。


 昔から農家をされていたとのことで、家は昔ながらの立派な屋敷、敷地も広く田畑もあちこちに散らばり、米から野菜から各種果物まで長野で作られそうなありとあらゆるものを栽培しておりました。

 誘ってくれた従姉妹夫婦とその母親とは、毎年秋になるとそのお宅を訪ねていって、山懐に囲まれた果樹園にて、リンゴに洋ナシにブドウにプルーンなど、採れるだけ採ってその場でも御馳走になって山ほど土産を貰って帰る、というのが恒例行事だったらしい。若いムスメも従姉妹から「フルーツ食べ放題だから」と連れて行かれたのでありました。

 そのお宅の、年のいった夫婦は私たちの来訪を非常によろこんでくれ、まずは果物を採りに行こう、と山間の果樹園に連れていってくれたのです。

 果樹園と言っても、観光果樹園ではなく、農道のつきあたりになった場所になだらかな畑が広がり、ここに栗、あそこには林檎が一群、みたいなどことなく物語の国にありそうな乱雑な色とりどりさをみせておりましてね。

 おじさんはこれも喰え、あれも喰え、と色んな果物を採っては切ってくれ、我々は今が旬の風味を思う存分堪能しておりました。

 果樹園のまん中には、大きなプルーンの木。そこにはまだプルーンが鈴なり。しかし、一昨年はほとんど収穫が無かったのだそうだ。理由は

「クマが出てさあ」オジサンいわく「クマがね、山から下りてきて(と、後ろのでっかい黒々とした山を指さす)、あの木に登ったのよ。ちょうど真ん中あたり、それでさ、周りの枝をこうまん中にたわめて巣みたいにしちまってさ、なってたプルーンを片っ端から採って喰っちまったのよ」

 できるだけ近くにまで寄って、大きな音で脅したり車をふかしてみたり、クマを追い払おうとしたらしいが、クマの方だってせっかくの果実、逃げることなく結局、一昼夜居すわった末にほぼ全てを喰い尽してしまってから悠々と山に戻っていったのだと。

「まあ、ウチは売り物にはしてないからそれほど困りはしないんだけどさ」

 とあっさり言ってから、

「でもさ、去年もロクに実がならなくてさ」

 とまた笑っている。

「おんなじように枝が折れててさ、プルーンも減ってる、全部じゃないんだけどね」

 またクマが出た! とおびえつつ近づいてみたら

「アンタ、クマの足跡とかはなかったんだけどさ……」オジサンは根元を指さす。

「そこにビニル袋があって、石が乗ってるから何だ~? って思ってみたら、なんとさあ、1000円入ってたのよー」


 帰り際に従姉妹がムスメに小声で訊ねた。

「あのうちの息子、どう思った?」

 農業は継いでおらず、近くで写真館を経営している息子というのが、たまたま両親と共に果樹園について来て、色々と手伝ってくれていたのですが。

 つまりは見合いのようなものだったらしい。


 ムスメは、財布から1000円出して小さなプラ袋に入れ、その親切なご一家にバレないようにそっと木の根元に置いて、コソコソと帰っていったそうな。

 というのは嘘ですごめんなさい。


 ただ、これだけは言えた。

 それから二度と、ムスメがその果樹園を訪れることはなかったそうな。


 ちょきん、ぱちん、すとん。


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