某月某日 豆を挽いて思い出す炒りモノ
さる方より非常に上質な焙煎済みの珈琲豆を頂きましたの。
珈琲好きなのにミルすら持っていない、という哀しさ。でも丸のままの豆を好きなように挽きつぶしたいという欲求だけは抑えきれず。
珈琲通の友人宅にアンティークのミルがあるので、そこに来週持ち込もうと思っていたのだが、丸マメを目の前に、珈琲ジャンキーの血が騒ぎ出し、ついに小ぶりのすり鉢とスリコギを持ちだし、ゴリゴリと挽いてみましたよ。
ブチ、と豆を一つずつ抑えつけて割り、大きなかたまりから圧を加えて丁寧にていねいに。そしてあまり細かく潰さないように細心の注意をこめて。
やっていて、何だかとても懐かしい気持ちに。
そうそう、もうかなり以前にこんな作業をしたんだったなあ。
その時は、タンポポの根でした。
ある春の日、なぜか急にタンポポ珈琲なるものを飲みたくなって、オイラ、鍬をかついで近所の土手へと出かけたのです。
タンポポを見つけると根に向かって懸命に鍬をふるう。そして掘り起こす。
御存知の方も多いと思いますが、タンポポというのは細いゴボウのような根が一本、地中深くずっと伸びており、株の大きさにもよるかと思うのですが短くても30センチ、長い物では100センチには達しようかという。ジブン、根性がないので20センチも出てきたらもうぶっちぎって次、みたいにいくつかの株を渡り歩きました。
それをよく洗い、上から2センチくらいに切り刻み、よく乾燥させてからフライパンでゆっくりと炒る。
カラカラに炒りあがったら、ミル、またはミキサーなどで粉にする。
それを珈琲と同じ要領でいただくのですが。
まあ、こちとらかなりのセッカチヤロウ、乾燥と炒り工程にてずいぶんイライラと先を急いでしまったせいで十分には根が乾かず、しかもミルもなかったのでここでもすり鉢とスリコギのお世話に。
固い所が存分に残った根をようやく「なんとなく」な形にまで持っていってようやく、飲んでみましたが……
ほんのりカラメルを焦がしたような香り、そして甘み、しかしなぜか吐き気。
……何かが違う。濃さを変えるうちに、やや濃いめの方が美味い、と気づいたのですがそのうちに貴重な材料は底を尽いてしまったのでした。
そしてもうニ度と、あんな重労働は嫌だと根を掘りに行くこともなく今日に至りましたよ。
その時の味の思い出によってか、今でもタンポポ珈琲については「買ってまで飲むものでもなく、掘ってまで以下同文」みたいな扱いで。
もう少し最近には、もっとヘンなものを試しましたねえ。
決してマネはお勧めしませんけどね。
それはそう、バナナの皮。しかも煙草仕立てに。
昔これが合法的にトリップできる、と聞いて好奇心抑えきれず試してみたことが。
この時はまずバナナの皮の白い部分をスプーンではぎ取り、これをよく乾燥させ、または軽く炒り、細かくしてから煙草のように巻くんですね。
この時に、アホなオイラはまたすり鉢とスリコギを用意。ロクに乾かしもしなかった黒い皮をゴリゴリと挽いていたのですが、何となくべたついてしまい、靴の底についたら泣きたくなるような状態に。
慌てて薄い紙で巻いて、その頃勤めていた会社の同僚たちと一服。
感想は……「甘い」。そう、こちらもカラメルベースの甘さが口いっぱいに拡がり、それがえも知れぬどうしようもなさを演出して。
結局、トリップした者は一人もおらず、みな無事に次の業務に戻りました。
すり鉢とスリコギ、今後とも不思議物体すり潰しに活躍、するやらしないやら。
珈琲くらいで止めておきます、今のところは。




