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某月某日 鎌と槌と山盛りと

古い話でごめんなさい。

急に思い出したので。

そして、お茶うけには向かないキタナイ話でほんとごめんなさい。

 大昔、1990年の夏にソビエト連邦数か所を旅したというワカモノがいたと思いねえ。一応、語学研修とは名ばかりのツアータイプ旅行でしたが。


 当時のソ連については参考文献も色々あるだろうから特に解説はしない。

 あえて誤解を恐れずに言えば、その巨大な共産主義国家という果実は、すでに熟し過ぎて樹からもげそうになっていた、という感じか。


 それでも、まだまだ自由に旅をするには何かと不便も多く、国内には田舎じみた旧体制の枠組みがいくらでも残っておったのだが。

 人びとの服装しかり、街に充満するディーゼルと機械油の匂いしかり、ポスターしかり、旅行客のふざけた振る舞いにかみつく市民(まあ、その割に道に迷った時などは親切に教えてくれる人も多い。朴訥系というのか)、体制批判的なマスコットや行為について無言で制止をかける警官……。


 そんな中でまず一番驚いたのは、シモの話で恐縮ですが、お手洗い、つまり、トイレですわな。


 ホテルですら、トイレットペーパーは少し厚手の油取り紙? みたいなしっかりした薄茶色。何なら相手の電話番号までメモできるすぐれもの。

 それでも一応水洗だったな。


 しかし首都モスクワを離れて一路、田舎町をバスで進んだ時のこと。


 まず、旅行者が普通立入りできないとされているとある町でトイレ休憩と相成った。

 鉄道駅の3つ並んだブースに、現地人と同じように行列して用を足す。

 ようやく自分の番が来て中に入ると……

 まず便座は枠がない。それは案外よくあることなのであまり気にしない。

 気にするのは、目も開けられない程の匂いですわ。そして、便器のまん中、すでに境界ラインを大幅に超えてこんもりと積み上げられている過去からの集積物。

 黒と茶色と白とのコントラストが目に痛い。

 オイラ、少し考えた末に、その細い便器の縁、少しだけ白く見える場所に土足のまま乗って、中腰のまま用を足しましただよ。

 あとで他のブースに入った人にも聞いたが、どこも同じ様子だったと。


 次に寄った街では、どこか街の片隅にある店のトイレ。

 ここも観光客は一切入ってこない場所だったらしいが、一応個人が管理していたらしく、中は段和式のようなつくりでそれなりに綺麗に掃除されていた。

 しかし、灯りはつかず、水もわずかしか流れない。

 真っ暗な中、手探りで全て用を足したのでした。


 次の休憩地は針葉樹林の中、まっすぐ続く大きな車道脇。

 車の待避所の脇に、自然と踏み固められた道が林の方に続いていて、四角い木造の建物がほど近い所にみえる。

 建物、というか、ただの四角い箱になっているだけで、すでにわずかに傾いており、ブルーグレイのペンキもなんとなく剥げかかっている。

 車側からみて壁しかなかったので反対側に回ってみると、その幅4メートル、奥行き2メートル、壁の高さ3メートル弱くらいの箱にはドアはなく、ただ約4メートル幅の建物両サイドに、人一人が通れるくらいの隙間が出来ていたのです。向かって左の壁には『Ж』(女)右には『М』(男)と、一応看板らしきものが。

 壁伝いに入る前からすでに、ものすごい匂い。そして、2メートルほど入ってすぐ右に折れる通路、そして折り込むようにすぐまた右に折れる通路、そこはただの土を踏み固めたのみ、そう、立体迷路をただ渦巻き状にしただけのような作りなんですね。

 そして、最後のどんづまり、1メートル四方にも満たない空間はもちろん、生の大地のまま。そして、積み重なるうn(自主規制)。

 さすがにまん中ではできない、と思った連中の仕業だろう、通路の途中にも何箇所か旅路の果てが落ちており、よくよく見ると近くの林の中も、あちらこちらに薄茶色や白の「拭いた痕」がひらひらとそよ風になびいておりました。


 今は昔の話ではあるが、あれを思い出すたびに、良くも悪くも彼らもまた、同じニンゲンだなあ、としみじみ感じ入ったものですわ。


 トイレが正直だった時代なのかもね。少し懐かしい?

 いやいや、もうウォ○ュレットは手放せないぞ。

 


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