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某月某日 声という誘惑

 少し前のことで恐縮だが。


 休日の早朝、吐き気を催して目覚めトイレに直行。

 いったん吐いて落ちついたものの、10分後には次の吐き気が。

 その後も10分間隔で吐き続け、単に空えずきだけとなった状態で1時間経過。

 あまりにもこれはおかしい、と家人に病院に連れて行ってもらう。休日なので救急外来ね。


 激しい吐き気に襲われながらようやく病院についてからも、ずっと救急待合室の中で膿盆抱えて斜め横倒しになったまま、呼ばれる順番を待っていたと思いねえ。

 腹部触診のあと、エコーを撮ってみましょう、少し処置用ベッドで待っていて下さいね、と医者に言われたのでこれは何でしょうか? と聞くと

「イレウス……?」

 はてな。そんなこじゃれたものは食ったこともないしそんな素敵な知りあいもいないし、と首をかしげていると、「腸がどこかで塞がっているかも」と。エコー検査ではっきりしたら即、入院と宣言される。


 ここで肝心なのは実はイレウスでも何でもなく(間をもたすなよ)、検査&入院待ちで朦朧としたまま処置室のベッドに横たわっていた(もち、膿盆必携)時の話。


 ベッドが5つか6つ並んでいて、間仕切りは白いカーテンのみ、そこにオイラみたいなゲロヤロウから朦朧人間やらがずらりと寝かされている。


 少しうとうとした頃(何故か寝てからは吐き気が止まっていた)、ふと、隣のベッドから何人かの声が。

 状況からして、意識のないおじいさんと、それを囲む子どもたち、という図式のもよう。そしてそのオジイサンはすでに力尽きかけているらしい。子どものうち、長男らしい男性の声だけ響く。


「……からさ、オヤジももう本望だと思うんだよね、今からウチ帰ってさ、その後連絡は……」


 聞いていて、その声にいつしか魅了されている自分。何と言うんだろう、全然美声というわけではない、しかし、妙に懐かしい、どこかで聞いた声、そしてイントネーションと速度と口調。


 この声を知っている。


 がばっ、と跳ね起きて更に耳を澄ませる。

 声はまだ続いている。


「ミサコはどっちでもいいけどさ、車出す人決めなくちゃ、それでさ……」


 誰? あなたは誰? 白いカーテンをめくって顔をみたい誘惑に。そっと手をかけ、そして。


 看護師が呼びにきた。「お待たせしました、検査行きますねー」チクショー!


 車いすで検査に運ばれて行きながらオイラは後ろを振り返ったが、カーテンに閉ざされた空間は、外からは何も伺い知ることはできなかった。


 ……こんなところに住んでいたのか?

 それとも、単に声だけがそっくりだったのだろうか。


 その声は、『パペットマペット』のうしくん、かえるくんだった、確かに。

 カーテンの向うにいたのは、一体どっちだったのだろう、

 

 それとも……


 


 あ、結局入院せずに済みました。なぜか急に吐き気が止まった。触診で腸が動き出したらしい。

 お騒がせなヤツだなあ。



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