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某月某日 キミは何が怖い?

 大昔、お化けの本が読みたくて、

『きみはなにがこわい?おばけとたましいの本』

  - 少年少女講談社文庫ふくろうの本 松田道雄 著

 というのを買ってもらったことがあった。


 内容について詳細は忘れてしまったが、完全に期待していたものとは違っておばけや幽霊についてはほとんど触れられていなかったという記憶がある。


 絶版になってしまっただろうか、書かれている内容も戦前から戦後の混乱した日本国内の社会情勢や倫理観、衛生観念に基づく死生観や心のあり方について子ども向きに語られていたという印象だった。


 なのに、今でもその本を読んだ時のうすら寒さ、恐ろしさが肌に残っている。

 当時の自分はかなりの怖がりで、お化けや幽霊などもそんじょそこらの子どもなみに怯え暮らしていた、と思う。

 もちろんお化け屋敷なんてもうムリムリ無理ーーーってね。

 だから実際に「幽霊やお化けというものはいない」と論破された本なのだから安心して読んでいいだろう、ということになりそうなんだけど、何故かそうはならなかったのだね。


 どうしてすでに無くなってしまった本のことをくどくどと思い出したかと言うと、つい先日我が家にやってきた職人さんと営業マンが原因なのですよ。


 我が家を毎日訪れてずっと黙々と仕事をしてきた若い職人さんがようやく作業を終え、帰り仕度をしていた時、現場担当の営業マンが挨拶に寄ってくれた。

 その中年男性はにこやかに「今までお世話になりました」とお辞儀をし、オイラたちは当たり障りのない世間話を交わしてさて、二人が帰るぞ、と言う時になって。

 急にその中年営業マン、ふっと顔をあげた。

「……ところで、この近所に有名な心霊スポットがあるって聞いたんですが」

 おおおっ、いきなり目配りが稲川センセイばりにっ!?

 聞いた事もない噂なので、「どこですかそれ」と逆に聞くと

「県道◎◎号沿いの××という場所で」と。確かにそれは地理的にも近い。

「確かにおっしゃるような場所がありますけど」しかしそこは竹林や雑木林やお茶やみかんの栽培地としてしかオイラは把握しておらず、確かに暗くて狭くてじめついた場所ではあるが、そのおっさんが言うような

「自殺者が相次ぎ、死体がかつて捨てられていて、今でも霊がよく出る」というような場所だとは、一度も思いつきもしなかったので。


 ……まあ、死体遺棄だけは残念ながら一度だけ事件として取り上げられたことが。

 それでも数十年前、しかも、その場所とは少し離れた反対側の山だったんだけどね。


 今からふたりでそこを通って帰ろうと思って……と目配せをしたおっさんと若い職人さん。


 道幅も狭いのでお気をつけて、と見送るオイラ。


 その後無事に家に帰りついたのかは知らん。まあ、とりあえずはその夜のニュースには登場しなかったな。


 しかし考えてみるに、例えば自殺者とその現場というだけでも、この狭い集落内に両手の指では数え切れないほどのスポットが点在している。

 田舎ゆえなのか、殺人こそないものの、その他の事件事故についてもちらほら。

 たまたま、田舎なので噂もすぐ聞こえてくるし。地図にピンを打つ作業もとんとんとはかどるだろうな。しかし、

 日本国内、何処をとってもだいたい同じような状況なのでは?


 そう思うと、前述の本のことがまざまざと思い出されてしまうのですわ。

 その中には何と書かれていたのか、今では一文たりとも覚えていないのだが、私の中では、誰かがこう語っているのが聞こえるのです。

「お化けやゆうれいというものは、存在しないのです」


 それから更にぞっとするのが、こんなごく当たり前の事実を聞いた時。

「最も恐ろしいのは、生きているニンゲンなのです」



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