某月某日 品質には万全を期しておりますが何か。
これはごく最近、つうか今日の昼ごはん前のお話。
オイラは少々急ぎ気味にコメをといでおりました。
コメは半俵で買って精米してからそのまま袋を台所の片隅に置いておく。
なので、袋の口はなるべくしっかり畳んで中身が外気に触れないよう注意はしているのだが。
コメを出そうとしてふと気づいた。
袋の口が少し開いているでは。
子どもが触ったのだろうか? 自分が忙しい時に締め忘れたのか? それでもあまり気にせずコメをとぎ始めた。
何度か水を換えてザルに上げた約1升の洗米。白くつやつや輝いている。
だが、その表面、コメ粒の間からなんと、体長数ミリのゴキブリが表面に這い出してきたではないか!
いつの間に、そしてどこから? 焦ったオイラは、そのまま表面ごと掬い取って捨ててしまえばよかったのだが、コメには『八十八の手間がかかっている』と教えられていた世代、つい対処の手が遅れ……
気づいた時には、ミニゴキ君はまた米粒の間から下にもぐってしまった。
一応煮沸消毒にはなるだろうが、炊き上がりに黒い粒はカンベンかんべん、と思い、少しずつ小分けにしながら何度も洗い直す。
しかし、結局最後まで彼(彼女)は姿を見せなかったのです……
行方不明者のお知らせも出さぬまま、コメをそのまま炊飯器にかけ、水を入れて、しかしまだ未練がましく何度かかき混ぜてみて仕方なく、スイッチ・オン。
30分後に、つやつやふんわり、おいしいご飯が炊けました。
盛りつけの時も、いつになく丁寧にしゃもじで切り返し、ひとつひとつの茶碗に少しずつ盛りつけていく。
もちろん家族のみんなには内緒ね。
こんな時に、一番うるさいニンゲンの所に入っていたらどーしよー、などと危惧しながらもふと思い出したのは、知人の働く製薬工場であった実話。
その会社ではかなり有名な点滴薬のバッグを製造しているのだが、素人が思っている以上にトラブルは多いらしい。
ある日、病院から大クレームが飛び込んできた。
「お宅の点滴を患者に使っていたら、液の中に毛がプカプカ浮いていた」
思わず「直毛? それともクネクネ?」と知人に聞いてしまったオイラ。
とりあえず直毛だったらしく、それはよかった、とひと安心(?)。
しかし、中の毛は茶髪だったらしく「工場で入ったに違いない」と、営業を通じて苦情申し立てがあったのだそうだ。
工場で、といっても工程がいくつにも分かれているため一体どこで入ったかはなかなか特定はできない。
一時は「DNA鑑定?」という話も冗談抜きであったらしい。
しかし結局は、「病院で入ったという可能性もゼロではない(針を刺した時に、と言うことらしいがそれはまずなかろう、と知人のコメント)」とのことでその件については「様子見」となったのだと。
その話を聞いた時には、「万全の品質管理を目指してんだろ? どーして毛がプカプカしちゃうんだよ、患者の気持ちにもなれー」と思ってしまったオイラだが。
製品によく控えめに書かれている
「品質には万全を期しておりますが……」
今さらになって、あのイイワケの情けない気持ちが痛いほど解ったのでした。




