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某月某日 ばんぶーじゃんごー、覚悟はいいか

 うちの近辺にはいくつも山が連なっておりまして。

 それも大体がなだらかな「作り山」と呼ばれる類のものが多く、たいがいがお茶やみかんの畑、タケヤブ、植林の杉に覆われている。合間あいまには里山らしく、雑木林があったり。

 その中でも、特に目立つのはなぜかタケヤブ。竹林というものでしょうか。今の季節、やや黄味がかったふわふわの孟宗竹の群れが薫風にざわめく姿は、のどかな自然の景色にふさわしいかと。

 何て呑気なことを言っているうちはまだアナタは単なるお人よしさん(と、自分に突っ込む)。


 実はこのタケというやつ、御存知の方は既にうなずいておられるだろうが、木ではない。

 イネ科の被子植物なのです。なのに林を作ってしまうという恐るべきイキモノ。

 しかも、放っておくといくらでも増殖してゆく。

 横にあったミカン畑が気づいたら竹やぶに、ということもざら。


 この近辺では、タケノコの出荷が昔から盛んであったが、近年、作り山を維持できる人間(農家)が激減したことも影響して竹林の管理ができずにそのまま放置している、というケースが後をたたない。

 タケノコ大好き! という人は多いし「言ってくれればいくらでも掘りに行くのに」とおっしゃる方々も後を絶たないのだが、それでも春に生えてくる竹がどれだけ多いか、また、成長速度がどれだけ半端ではないか、実際のところを詳しくはご存知ない方がかなりの割合では、と。


 実は我が家も、他所から委託されて管理を任されていた竹林があった。

 父が管理していた頃は毎年、山ほどタケノコを掘ってはそれを知り合いや友人に配り歩いたり、友人たちに掘りに来てもらったり、とそこはまさにタケノコパラダイス、宝の山であったのだが、管理者が高齢化して山に入れなくなった途端、そこはまさに阿鼻叫喚の地に。ソイツらは竹本来の凶暴さをむき出しにしてまたたく間に斜面を侵食していったのでした。


 気づくと、斜面はすでにその根に喰い荒らされ、枯れた竹が新しい幹の間に倒れて絡まり合い、足を踏み入れる隙間さえない、恐るべきカオスの地となっているのである。


 並みの除草剤でも効かないらしく、この「荒れた竹林開墾事業」というのは自治体の助成金にまで絡む特別な企画となっている。


 今日も車を走らせながら、脇のタケヤブに目をやる。

 何だか、タケヤブの中から軽やかな音がしてきたように気がして、少しスピードを落とす。

 風にそよぐ一本いっぽんが、まるで盲目のイキモノが立ち上がっておいでおいでをしているような錯覚に陥って、ふと、つまらない連想まで。

 平らな場所に、例えばシタイを捨てて逃げたとしてもそこがタケヤブ近くだと大変。急に何だかそんな光景が目に浮かぶ。

 衣服は裂け、肉体は腐り、皮も雨で流れてやがて残るは白骨のみ。そこに生えてきたタケノコは3日かそこらで数メートルにまで成長。柔らかい先端にひっかけられたそのシラホネはぐんぐんと天を目指し、やがてそこらの枝に絡まったまま、風に揺られてからんからんと鳴り響き……


 緑の煙る薄闇の奥から急いで目をそむけ、慌てて家まで帰ってきたのでした。

 怖いのは自然の猛威か、ニンゲンの妄想か。モウソウチクはあまり、好みではないとしみじみ思う今日この頃でしたわ。

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