某月某日 眠りにつくまでまだ何マイル
午前4時。上の小僧が仕掛けた目ざまし時計がみ、み、みみみみみと鳴る。
誰も起きない。行って仕掛けたヤツの頭をはたいてから時計を止める。そいつはまた眠る。
そのうちに、庭につないだ犬が吠えだしたので仕方なく黙らせに行く。
そのうちに、猫が外から帰ってきて入れてくれと鳴く。それに気づいて更に犬が吠えるので黙らせる。
お湯を沸かしているうちに、下の小僧が起きてきて黙ってゲームを始める。
音がうるさい、と言ってやると無音のままリモコンを操作している。
静寂の中、PCの排気音とゲーム機の動作音だけが不吉な風のようにかすかに響いている。
少し寝ようとまどろむが、急にメール。返信文を少し考えてから、結局すぐに送るのはやめる。
そのうちに案外早く、家族が続々と起きてくる。
家事も最低限一通り済んで、さて、少しだけ、と平らな場所に寝転ぶが、家人に呼び付けられる。
ちょっとだけ手伝って、と、部屋の入り口にて用事を頼まれ、あ、もう一つ、もう一つ、とだんだん部屋の奥へとおびき寄せられる。罠にかけられる鶏のごとく。
鶏は結局、用事をまとめて5つばかりさせられてからようやく解放される。
メールに返信しなければ、と気づき、そのためにはあと2人に問い合わせのメール。
いらいらと返事を待って、ようやく元の問い合わせに答える。しかしそれに付随してまた質問メール。
本来ならば答える義務はない、しかし、踏み込んだ泥沼は向う岸まで歩き切るというポリシーなのが災いして、最後までつき合う。
結局、5本の電話とメール。本人にも直接確認したりして、ようやく納得してもらいその件は終了。
お人よしの極致。豚がソーセージ屋の看板でにっこりとほほ笑んでいるイメージの自己分析に凹む。
急激に眠くなる。静かな部屋に横たわる、が、手近な洗濯ものを畳んでしまう。
なんとか洗濯ものを畳み終え、少しだけ、そう、30分だけ寝てやろう、と。
横になって目をつぶる。思いはだんだんと切れ端に変わり、脈絡のない断片がどろっと煮融けたように輪郭を失い、そして意識は境を感じさせぬまま暗闇に沈むかという、その刹那
最後にかけた洗濯機が、ぴーぴーぴーぴー、と終了の合図。
まさにそれは人生そのもの。