某月某日 初鰹、というと思い出す細かいこと
ここ静岡は、鰹の水揚げでもそこそこ有名らしい。
ホトトギスの声が山々にこだまする今じぶん、初鰹もちらほらと見られるように。
今夜も魚屋で、あまり大きくないが半身分の切り身を買い求める。
味はそこそこ。脂はのっていないが、瑞々しさとちょっぴりの渋みが初夏の味わい。
こんな時に思い出す、カツオから連想するもろもろ。
今の商品、特にスーパーにあるものにはほとんど見られないが、以前はハラモ(内臓と接しているアバラの部分)に白いぽつぽつがついているものがけっこうあった。
一見ごはんつぶかと思われるのだが、これがよく見ると、柔らかく弾力性があり、わずかなクリーム色の、なんとなくウニョウニョした感じの……そう、これは、寄生虫なのです。
テンタクラリア、というれっきとした名前がある。
ちなみに、人体には影響はない、と。
以前、うちに出入りしていた魚屋さんが言うには、この虫がついているということは、カツオの鮮度がよいという証拠なので、魚屋の店頭ではわざとこの虫をハラモに配置したり、ということもあったらしい。
あまりにも新鮮な鰹を買うと、この虫が微妙に動くことがあるので、ちょっと寒気もすることが。
さすがに、スーパーでの商品にはこの虫が見られることはなくなったなあ。
綺麗好きな国民なので時代の流れとして、受け入れるべきなのかも知れないが。でもあっても許すけどね、オイラは。
魚屋さんの話が出たので、今度はこのオジサンの話を。
海辺の街から、市場で仕入れた魚を自転車の後部につけた大きな木箱に詰めて、氷を沢山上に載せてはるか20キロ近く山間部のわが村に、魚を売りにくるオジサンがかつておったのですわ。
大きな黒いがっしりとしたフレームの自転車は、いかにも行商という感じで、遠くからでもかなりの存在感をみせておりました。
その自転車が姿を現すと、不思議なことに飼い猫がどこかからふらりと家に戻ってきたり。
つまり、オジサンの積んである荷物が魅力的なのだと。
この行商の最大の特色。それは、魚をまるごと運んできて(内臓は抜いてあったかな)、それを呼び止められた家の玄関先、昔はたいがい取り付けになっていた屋外の水道脇でちゃっちゃとさばいて切り身や刺身にしつらえてくれたことでしょうか。
もちろん、出たアラもただ同然で置いていってくれる。
近くに寄ってきた猫には、スキ身の端切れをぽい、と投げてくれたり。
時代がくだるにつれ、庭でさばくパフォーマンスは影を潜め(保健法のせいなのだろうか?)、オジサンは丸ごとの魚ではなく、切り身ですでに白色トレイにラップで封をされた商品を運んでくるようになってしまった。
そしていつしか、オジサンも通ってこなくなりました。
聞く所によると、最後の頃には直腸がんでストマ(人工肛門)になっていたらしく、排便処理も大変だし体力も衰えてきたので、だんだんに行商の範囲を狭めて、ついに引退と相成ったらしい。
まだ元気な頃のオジサン、ストマになってもけっこう張切って行商していたのに。
河原に降りて、腹の蓄便袋の中身を空けて川の水でじゃぶじゃぶ洗っていたのを見た、という人もいたし。
よいことも色々あった時代だったのかも。もちろん、昔はよかったねーとは一概には言えない。
オイラはやっぱり、今げんざいが一番好きだ。例えクソッタレなことが多くても。
話が飛んじゃったね、ごめん。