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某月某日 こんな夢をみた

 こんな夢をみた(と、一応型どおり入ってみる)。



 近所の学校の体育館にいる。もう夕刻で外はすっかりうす暗い。

 急に、その近くに住んでいる同級生の母親から電話。

 ぜひ来てくれ、うちの息子に数学を教えてやってくれ、と。

 息子と言っても私と同級生、しかも彼は名のある美大を卒業して今では関東を中心にアーティストとして活躍していたのでは? とそこまで思い至る間も無く矢継ぎ早にお願いされ、とりあえず話だけ聞くことに。

 別の友人が学校に乗ってきたという三輪自転車を借りて、彼の家まで。


 幼稚園から中学までは同じ学校だったが、特に一緒に遊んだという記憶はない。

 明るく社交的な秀才、しかも絵がとびきり上手い、というイメージはずっと中学卒業時まで消えなかった。


 暗がりのなか、ようやく彼の家の前まで。母屋の一階と離れの二階に灯りがついている。

 母屋は何だか白っぽい光に満たされ、離れの光はオレンジ色に滲んでいる。

 玄関脇の闇に沈んだものかげから、飼い犬が飛び出してきて私に向かって吠えている。



 母親があわてて、奥から出てきた。

「あら、ずいぶん早く来て下さって……ありがとうね、でもまだ◎◎に話してないの」

 私が家庭教師をする件を、まだその同級生に伝えてなかったのだと。

 父親も出てきて、戸惑った笑いを浮かべている。

「へえ、君が」教えられるのか? その目は暗にそう語っていた。

 何となくいづらいものがあり、いえすみません、私も連絡せずに来てしまって……

 借りた自転車も返さねばならないし、気があせって

「じゃあ、とりあえず今日は帰ります」とその場を辞そうとする。母親は

「ちょっと待ってて、一応、◎◎に伝えてくるから」そうあわてて離れに向かい、階段を上がっていこうとした。

 それをふり切るように、失礼しました、と自転車にまたがり、また学校方面へと戻る。

 背中に、噛みつかんばかりに吠える犬の声を聞きながら。


 いつの間にか日はとっぷりと暮れ、川に沿った中央線もない車道には、なぜか大きな水たまりがあちこちに出来て月明かりに鈍くひかっている。

 水際に、生きているのか死んでいるのか分からない黒くて小さな蛇が、無造作に束ねられたコードのように丸まっている。

 三輪自転車が妙にこぎにくく、ハンドルは思ってもみないほうに舵をきっていく。





 ふっと目が覚めてからよくよく思い返し、同級生の家庭教師、あり得ねえ! と冷静に判断。

 しかしどうして彼が夢に? つき合っていたわけでもないし。


 そしてようやく思い至る。夢の中でも会ってはいけない理由を。


 年の暮れも迫った頃、彼が亡くなったという連絡を受けた。

 その時、白い光の満ちた母屋に私も入っていって手を合わせたのだ、遺影に向かって。


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