第二旅 新入生歓迎、関西本線・忍者探しの旅
まだほんの少し肌寒い春の朝、放出駅の駅前、
駅前のコンビニの前、ロータリーのベンチ、駅舎の階段の前。制服の上に薄手のパーカーやカーディガンを羽織ったりした鉄道研究会の部員たちが、思い思い三々五々、集まり始めていた。
「咲~くや菜種の放出も~♪」
全てが見渡せる階段上の踊り場から、あちこちの部員たちに手を振って集合を促しつつ、鼻歌を歌って降りていく副部長の赤石川摩耶は、そのままL字に作られている階段の間の小広場へ入っていった。部員たちと集合を約束しているのはこの場所。予定時刻にはもうあと5分といったところだ。
「あ、おーい、瀬戸ちゃん、こっちこっち!」
道路の向かいに向かって手を振る。
「おはようございます! みんなもう来てるんだ。遅刻しちゃいました?」
ちょうど青になった横断歩道を、リュックの肩紐を直しながら、瀬戸が息を弾ませて小走りで駆け寄ってきた。
「ううん。まだ全員そろってないよ。太一がさっきから『遅刻厳禁!』ってLINEで連投してるけど、本人が一番ギリギリなんじゃない?」
「ま、部長はギリギリで来るのが様式美やからな」
「あれ、ヒロは?」
「ヒロならさっきコンビニ寄るって言ってたよ。ほら、あそこ」
伸司が指さす先、駅前のローソンから、大貫浩人がパンの袋を片手に小走りでやってくる。
「おはよー! ごめん、お昼ごはん買ってた!」
「おはようヒロ。今日も元気だな」
「だって今年最初の部員旅行だもん、テンション上げていかなきゃ!」
駅の西の路地からテンポよく掛け寄ってくる足音とともに、因幡が現れた。
「おはよう諸君、全員いるかな?」
「春乃先生がまだ来てないわ」
言ってる矢先、コンコースから、階段をトタタと春乃先生が降りてくる。
軽やかなブルゾンと動きやすそうなカーゴパンツに身を包んで、いつものスカート姿の教師の印象とは一味違うアクティブな装い。ヒロの目の色が変わった気がする。
「ごめんなさい、ぎりぎりになっちゃった」
朗らかな声が通る。
「先生最初、待ち合わせ場所勘違いしてて、一回徳庵にいっちゃったの」
小首をかしげ、頭にこぶしを当て、ちょっと舌を出して、絵に描いたようなてへぺろをしてみせる春乃先生。
そんな先生に頷き、それからまた、揃った部員全員を見渡して、因幡部長は声を張った。
「揃ったね。じゃあ、本年度、大阪第一産業高校 鉄道研究会。 出発するよ、
Boys! All Aboard!」
その少し気取った英語の号令に、新入部員の瀬戸と恵留麻はきょとんとした顔をした。そんな二人に、隣にいたヒロが、「あの号令はまあ、うちの部の伝統みたいなもんだから」と、苦笑しながらそっと耳打ちした。
・
放出駅の階段を全員で登る。コンコースの切符売り場前にやってくると、運賃表を見上げながら、因幡部長は後ろの山上に尋ねた。
「伊賀上野までいくらだっけ、ヤマ、運賃」
出番が来たとばかりに、山上の眼鏡がキラリと光る。
「よしきた! 伊賀上野駅までの運賃!一体いくらになるんでしょうか、徹底調査してきましたので、早速まとめていきたいと思います!」
「おいなんだそれ、徹底調査するようなことか?」
「まず、伊賀上野駅さんは、現在ご結婚はされていないようです」
「駅は結婚せんやろ」
「では、お付き合いの噂はあるのかどうか!」
「駅と誰が付き合うんだよ、お前か?」
ヒロのツッコミは、後ろで聞いていた滝川みどりの、ツボにはいってしまったらしい。滝川がペットボトルのお茶を吹き出す音が、盛大に響く。
「現在、伊賀上野駅さんと、お付き合いの噂のある方は居ないようでしたが、学生時代に、お相手の噂が、掲示板に上がっていた記録がありました!」
「だから誰やねん駅のお相手」
「お相手のお名前など、調べていずれ詳しくお伝えできればと思います!」
「後で調べるんだ」
「いかがでしたか?」
「だから運賃いくらなんだよ!」
「ぜんぜんわからない・・俺たちは雰囲気で鉄オタをやっている・・・」
「「「おまえスジ鉄やめろ」」」




