第一旅 住道→金蔵寺の旅 3幕
大阪からやってきた、西へ向かう銀色の電車が尼崎駅の一番ホームに滑り込む。銘板に光る数字をつい確認してしまうのが、鉄研部員というものだ。
「あれ?222-1001!? 1000番台トプナン(トップナンバー)じゃないですか!」
「矢立も、いつのまにやらトプナンでテンション上がるようになったか。鉄分多くなったな」
「だって223系は、いつだったか、ヤマさんの特別講義を受けさせられたじゃないですか。うちの部員なら嫌でも覚えますって」
・
・
・
「伸司、223当てやろうよ。次の対向」
「よぉし、負けた方がジュースおごりな」
「おっけー、じゃあ2000にベット」
「当てにきやがったな。しかしここは1000が来るとみた」
突発で行われた、阪急とJR乗換え駅比較ツアーに部員達で出かけた帰り道、高槻駅の下りホームで、次の新快速を待ちながら、伸司とヒロがなにやら始めた。
「伸司先輩とヒロさん、何やってるんです?」
「次に対向から来る電車の、製造番台を当てる遊びだよ。ああやって遊びの中で、彼らは鉄道オタクとしての鍛錬を積んで、経験値を上げているわけだ」
きわめて真面目な口調で因幡部長。しかし目の端の笑いは隠せていない
「すごくいらん鍛錬じゃないですかね」
「いやいやいや、そんなことはないぜ」
重々しく仰々しくわざとらしく、山上が話を拾って続けた。
「瀬戸ちゃん、そもそも、関西在住の鉄道オタクたるもの、223系の見分けは真っ先に身に着けるべきリテラシーなんだ」
「りてらしー。」
「223系ってのは、要は新快速で走ってる電車だと思えばいい。あの形の車輛が223系電車だ」
「つまりこれから乗る電車ですよね。ふむ」
「あれがだいたい製造順・・製造番号で数種に分かれるんだ。車体の銘板を見ればもちろん一目瞭然だが、見分け方はちゃんとある」
「見分けて何かいいことあるの、って感じもしますが、それ言っちゃうと話が終わっちゃいそうなので、それは置いときます」
置いとくらしい。
「まずは0番台。これはおめめがまるくてつぶらだからすぐわかる。すごくかわいい」
「かわいい。」
「かわいい。ちいかわっぽい」
「ちいかわ。」
「これと2500番台ってのは、ブルーのグラデの帯を巻いてて(立てた人差し指をくるり)、だいたい関空快速だ。座席が三列の奴」
「あれ? 新快速じゃなくて関空快速?」
「次、1000番台。こっから新快速用で、ヘッドライトが2灯で角目になる。あと側面にスジがある」
「スジ。」
「スジというか波板というか、そういうやつだ」
ビードともいう。
「そして2000番台。側面のスジがなくなってつるつるになる」
「つるつる。」
「うむ。つるつる」
「なんかさっきから、そこはかとなくヤマさんにセクハラされてるような気がしますが、ヤマさんはそんな人じゃないと信じてます」
作者として誓うが、そういう人物像ではない。
「数としてはこの2000が一番多い。これは細かく1次から7次まであって、それぞれちょこっと違ってたりもするが、全部2000番台だ」
「そこは見分けなくていいんですか」
「大変だからな」
「大変だと諦めるんですね・・・」
「んで飛んで5000番台。こいつはわかりやすい。瀬戸大橋走ってる奴だ」
「あ、わかった。『全部同じじゃないですか!』 って言わなきゃいけないとこですね? ここ」
「「これだからしろうとはダメだ!もっとよく見ろ!」」
その場にいた部員全員が、嬉しそうにハモる。
「はいはいおっけーでーす」
手をちょいちょいと振って、軽くいなす瀬戸。
「でも関空快速も新快速も223系なんですね。アレなんとなく別の電車だと思ってた。言われたらそういえばお顔同じだ」
「あと、6000番台ってのもある。新快速じゃなく大抵快速で走ってるな」
「6000。何が違うんです?」
「顔のドアの下にオレンジの線がちょこっと引いてあって、そこはかとなくシャレオツな感じだ」
「やっぱり全部同じなんじゃないですか・・・」
といったところで、叫び声がひびく。
「うわ6000だぁああ」
「二人負けだぁぁ」
「先に快速が来るとはぁああ」
伸司とヒロが、ふたりして頭をかかえてしゃがみこんでいた。
「・・・そういうオチですか・・・ あ、もしかしてヤマさん」
「うむ。スジ鉄ヤマちゃんには、はじめからオチが見えてたぜ」




