第八旅 魅惑の多層建て分割列車
転科試験も過ぎて、二学期が本調子を迎えてしばらく経つと、大阪第一産業高校の校内は、浮足立った空気に包まれ始める。
文化祭だ。
一産高の文化祭は、工業科や土木科、鉄道科といった実学系の専門学科の展示がガチすぎなことで、近隣ではそれなりに有名だが、もちろん普通科の生徒たちにとっても、青春の一ページを彩る一大イベントであることに変わりはない。
そんな喧騒の中、校庭の隅に鎮座する鉄道研究会の部室‐引退したレールバス、LE-Car II形の車内でも、やはり文化祭に向けた相談が行われていた。
もっとも、その雰囲気は「熱気」というよりは、「迷走」に近い。
「やっぱ動画、『鉄研Tube』って名前で公開しようよ。それをプロジェクターでリピート上映するんだ」
パイプ椅子を逆向きに抱え、背もたれに顎を乗せたヒロが、いかにも名案といった顔で提案した。
「公開するのなら、本名はヤバイから、ハンドル名で呼び合う事にしましょうよ」
それに乗っかったのは、副部長だ。長い黒髪の裾を指先でくるりといじりながら、どこか楽しげに言う。
「ちょっと撮り直しとか要るなぁ。アフレコでなんとかなるところも結構あるかな」
伸司が、手元のメモ帳に走り書きをしながら、カメラと編集担当としての現実的な算段を呟く。
「列車愛称で呼び合うとか、どうかな? 鉄研っぽいでしょ?」
ヒロがさらに畳みかける。
「そうなると、瀬戸も、いなばも、特急の名前だから、瀬戸ちゃんと部長はそのままでいいな。副部長もイケルか。軌道検測車」
時刻表をパラパラとめくっていた山上が、顔を上げながら、そんな、賛同のような相槌のような提案のようなコメントをした。
「マヤ車(*8)か、まあ、鉄道ファンなら通じるけど、一般のお客さんには、普通の女の子の名前にしか聞こえないんじゃないか?」
伸司が首をかしげる。
「それに、そういうのOKとすると、滝川のタキも・・・」
「タキ型車両・・・タンク車だな」
「タンク車だねえ」
男子部員たちの視線が、自然と一点に集まる。
窓際でお茶を飲んでいた滝川みどり。彼女の豊かな、というよりは圧倒的な胸部のふくらみに、制服のブラウスが悲鳴を上げているのが見て取れる。
「・・・そっちはやめとこうか」
伸司が賢明な判断を下した。セクハラで部活動停止処分なんてことになったら目も当てられないし。
「僕は『カムイ』って呼ばれたいなぁ。かっこいいし、北海道だし、ゴールデンなかんじ」
ヒロがうっとりとした顔で天井を仰ぐ。
「そんなのかっこよすぎます、ダメです。ムイさんって略して呼ぶことにします!」
すかさず瀬戸が却下した。
「えー? ムイさんって、なんかむにゅっとした手触りしそうで嫌だなぁ」
他愛がなくて、あっちへこっちへと無軌道な会話が続く。秋の午後の日差しが、レールバスの窓から差し込み、埃がキラキラと舞っている。
しかし、文化祭、ただ動画を上映してるだけというのも、少し芸がない気もする。
「ときどき僕と瀬戸ちゃんで、上映に合わせて生コメンタリーやるとか、どうだ」
腕組みをして聞いていた部長の因幡太一が、思いついたように言った。
「コメンタリーですか? ラジオの公開収録みたいで面白そうですね」
瀬戸が目を輝かせる。
「だろ? 客寄せにもなるし、ハプニングも含めてライブ感が出る」
「じゃあ、長浜のとかで、一回試しにここでやってみます?」
相談がまとまりかけた、その時だった。
部室のステップを、ドタドタと登る足音がして、
「因幡ー。摩耶ちーん。いるー?」
乗降扉からヌッと顔を出したのは、黒縁メガネにベレー帽という、なんだかいかにもな出で立ちの男子生徒だった。映画研究会の部長だ。
「わ。」
摩耶が微妙に渋い顔をする。
「なんだ、また来たのか大瀧」
因幡も苦笑いでお出迎えだ。
「また来たのかじゃないよ。頼む因幡、摩耶ちんを貸してくれよ。今年も主演やってもらいたいんだ」
映研部長は、部室に上がりこみながら、拝み倒すようなポーズをとる。
これは、去年に続き二回目となる、映研による副部長の引き抜き工作だった。
「去年は映研、蒜山のひまわり畑と、摩耶ちんの麦わら帽子と白ワンピ、っていう絵面だけで、文化祭大賞かっさらっただろ?。米子校の連中と話つけて、大山まで摩耶ちんロケに連れてった甲斐があった。ってもんだったんだけど」
映研部長が熱弁を振るう。
「うちの学校、米子校なんてあるんだー」
恵留麻が素朴な疑問を口にした。
「あれ? 知らない? 米子にはJR西日本の一番大きい車両工場、後藤総合車両所ってのがあって、もう、このへんの電車なら、だいたいどんな奴でも修理できちまうようなすごいとこなんだが、」
山上が、横から解説を挟む。
「昔はそこに就職を目指す、って整備員志望の生徒が多かったらしい。だからうちの学校は米子に分校があるんだな」
「ま、それはともかく、」
映研部長が話を強引に戻す。
「大賞をとったわけだ。自分達でいうのもなんだが、あんな、ストーリーなんてあってないようなスカスカな話の映画で」
「まあ、確かにストーリー的にはあってないようなものだったけど・・・」
摩耶が呆れたように相槌を打つ。
「たまたま高原に訪れた青年が、療養中の美しい少女に出会うってだけの」
「『風立ちぬ』のヒゲだけ抜いたみたいな」
「そう、『風立ちぬ』のヒゲだけ抜いたみたいな」
誰かのツッコミに、映研部長が我が意を得たりと頷く。無くなるぞ、風立ちぬのヒゲ。
「だが今年はちがうぞ!そういうのはやめて、筋立てなんかもちゃんとした映画を撮るぞ!ってなっててな。実際勇んで撮ってはみたんだが・・・脚本も、内製じゃなく文芸部の部長に書いてもらってる」
「へえ、力入ってるな」
「とある高校が舞台の、くすっと笑えてちょっと切ないラブストーリーだ。で、実はいったん完成はしてんだよ。だけどラッシュ見た映研の主演女優がだな、『これじゃダメだ』って言いだした」
映研部長は、芝居がかった仕草で頭を抱えた。
「『正直、ヒロインが私の顔じゃ絵に説得力が無さすぎる。やっぱり摩耶ちん呼んで演ってもらおう』っつって聞かないんだ。んで、おたくの副部長また今年も借りに来たってわけ」
「ンなこと言い出すのはけーこちゃんか?まあ、あの子なら言いそうだけど・・・彼女も十分映える顔立ちしてると思うんだがなあ・・・」
「そういう説得はまあ、してみた。けどさあ。何言っても納得してくれないのよ」
「うーん。そういう話なら別に、摩耶じゃなくても、芝居が出来て画面映えする奴のがいいんだろ?演劇部の霧野咲姫とか借りれないのか?」
因幡が演劇部の主演女優の名を出してみるが、相手は首を横に振る。
「あっちはそれこそ、今まさに、文化祭公演に向けて絶賛稽古中だよ。とてもじゃないが他の芝居なんか入れてる余裕ないってさ」
「うーん、摩耶、どうだ?」
因幡が振り返る。摩耶は少し考え込むような仕草を見せたあと、クスっと微笑んだ。
「出てもいいかな。去年もやったしね」
「おお、それなら、一回うちの部室きて、試作バージョンを見てくれないかな。一応、内容のチェックしてみてほしい。温泉旅行にいって、主人公が女湯をのぞくコミカルなシーンとかもあったりして、お肌晒してもらったりすることになるから、そのへんも納得してもらわなきゃ」
「おいちょっとまてや」
因幡の声が低くなる。
「いやなに基本ラブコメストーリーだからさ。ほら、ちゃんと編集で謎の光かぶせたりしていろいろ隠すから大丈夫だ」
「わかったわ、わたし、芸術のためならぬぎまs」
「せん! 脱がないからな! 摩耶、ノリで変な事口走るんじゃありません!」
因幡が慌てて制止する。
「えー、ちょっとくらいいいじゃない、減るもんじゃ無し」
摩耶は不満げに唇を尖らせる。その表情は、どこか因幡の反応を楽しんでいるようだ。
「減ります! 脱がされるお前が言うセリフじゃないだろう!」
「キスシーンもありま」
「だめ!だめ!ぜったいだめ!摩耶のご両親になんて言ったらいいんだよ僕は!」
「ちっ!事務所ストップか・・・」
摩耶は肩をすくめた。
そんな漫才のようなやり取りのさなか、再び部室のステップがタンタンと軽快に鳴った。
「失礼しまーす」
現れたのは、ポニーテールを揺らした、眼差しの強い女の子だった。右肩から、高さが少し詰まったソフトスーツケースのような物をぶら下げている。
「こんにちは、お久しぶりですね太一先輩」
彼女の視線は、まっすぐに因幡へと向けられていた。
「友香ちゃん!? なんでこんなとこに」
因幡の後ろで、摩耶が素っ頓狂な声をあげた。相手が名乗るまでもなく名前を呼ぶのは、知り合いだろうか。
「摩耶先輩も・・・。摩耶先輩、太一先輩を貸してください。今日はそのお願いに来ました」
「へっ?」
部室に、さっきまでとは少し違う緊張感が走る。
「太一先輩! こんどの文化祭、吹部の選抜メンバーで、エクストラステージ演りたいんです。ヘルプに入ってくれませんか」
「友香ちゃん、それって!」
摩耶が悲鳴のような声をあげる。
「いやいや、僕が入って何するんだよ。僕が吹奏楽から離れて何年たつと思ってんだ」
因幡は困ったように頭をかいた。
「これっ、太一先輩の・・」
友香が肩から下げたソフトケースから、なにかをするりと引っ張り出した。
夕日を受けて金色に光る、ラッカー仕上げのストラッド180ML。
「もう一度、吹いてください先輩。お願いします」
差し出された楽器を見て、因幡の目がわずかに見開かれる。
「おいこれは。お前に譲った・・・」
「はい。あのとき、先輩に貰ったラッパです。私には・・・先輩みたいな音は鳴らせなくて。でもずっと手入れはしてます。ちゃんと、むかし先輩に教わった通り、ヤマハのSG4塗って、アルキャスのオイル差して。たまに吹いて息も入れてます。マッピもほら、太一先輩のオキニのマーシンのE5」
専門用語の連打に、部室の隅で瀬戸が小声で隣の山上に尋ねる。
「ヤマさん、この人何喋ってるのかわかります?」
「わかるかよ、鉄道用語じゃねえもん」
山上が呆れたように言う。
彼女は、ぐいっと楽器を因幡に押し付けると、下げたケースからもう一つ、銀色のトランペットを抜き出して自分で構えた。
ぺろりと唇を舐めると、小さく足でリズムをとる。
「ワン、トゥー、1・2・3・4♪」
彼女の構えたトランペットから、鋭い音が弾けた。
パッパラパーパラパーパパッ。
Lupin the III '80のイントロだ。軽快で、攻撃的で、それでいてどこか哀愁を帯びたフレーズ。
ワンフレーズの後、コーラスが入るタイミングで彼女がパチンと大きく右手の指を鳴らした。その指が、ビシリと因幡を指差す。
まるで挑発するように。
因幡の手が、無意識に動いていた。渡されたトランペットを唇に当てる。かつて何千回と繰り返した動作。体が、唇が、指がひとりでに動き出す。
次の瞬間、因幡のトランペットから音が飛び出し始めた。
力強く旋律が重なる。He is always Dynamite.
下降していく音階が、メインメロディのスタートを目指し、助走をつけて回り始める音楽の、まるでセルモーターのように響く。
流れるように突入した、聞きなれた主旋律の強いメロディーが紡がれていく。フィルインが跳ねる。ブレイクが踊る。フェイクとオブリガートが合いの手を入れる。
2本のトランペットの音色がうねる。ぶつかる。からんで重なる。
そこには、かつて、この二人が共有していた時間の濃密さが、音となって溢れていた。
狭いレールバスの車内が、一瞬にしてライブハウスのような熱気に包まれる。
「おーとこには〜♪」
ヒロがたまらず口ずさみ始めた。
「すごい、太一・・・友香ちゃんも・・・息ぴったり。・・・・今でも」
摩耶が、呆然としたようにつぶやく。その表情には、感嘆とともに、困惑と焦燥が浮かんでいた。自分と太一の間にはない、言葉不要のなにかを突き付けられた。・・・そう感じてしまった事を、隠しようもない。
やがて2本のトランペットそれぞれが、螺旋のようなアドリブを吹き散らして、曲が終わった。
残響が、部員たちの耳に残る。
「やっぱり先輩、今でもこんなに吹けるじゃないですか」
唇から楽器を放した友香が、上気した顔で言った。
「私たち、文化祭でTank!やりたいんです。けど、あのラスト前のハイトーン、ビタっと図太く当てられるラッパ吹きなんて、私太一先輩しか知らないの。お願い。客演してください」
「つい乗せられて吹いちゃったけど、いや、だから僕は・・・」
因幡が言い淀む。まだ唇に残る感触と、今の演奏の熱に、彼自身も戸惑っているようだ。
その時。
摩耶が唐突に、強い声で話を遮った。
「太一、わたし、映研の映画に出るね」
「え?」
因幡が振り返る。
「大瀧くん、試作の映画、見せてくれるんでしょ、映研の部室行きましょ」
摩耶は、因幡の返事も待たずに、映研部長――大瀧の袖を引いた。
「え、あ、うん。いいけど、いまから?」
「いまからよ。善は急げって言うじゃない」
外へ歩き出す摩耶は、一度も振り返ろうとはしなかった。ただ、その背中は頑ななまでに真っ直ぐで、そしてどこか逃げるようにも見えて、
カンカン、ドタドタと、ステップを摩耶と大瀧が降りていく音が、いつもより大きく響いた。
「あーあ、行っちゃった」
残された部室で、ヒロが間の抜けた声を出した。
「部長ってトランペット吹けるんですねー」
瀬戸のそんな、のんきで素朴な言葉に、大井がうなずきつつ返事をする。
「太一、中学の時は、吹奏楽部の部長やったて聞いたで。実際にこいつがトランペット吹いてるとこ見たのんは、俺も初めてや。ほんまやったんやな」
「もう、吹奏楽からは足を洗ったんだがなぁ」
因幡は、手の中のトランペットを、どこか寂しげに見つめていた。
「部長部長、あれ吹いてみてくださいよあれ。ほんわかぱっぱ、吉本新喜劇の」
ヒロが空気を読まずにリクエストする。
「ああ、Somebody Stole My Galか・・・『俺の女盗られた』ってやかましいわ!」
因幡のツッコミは、なにかキレが弱々しい気がする。
「太一先輩、お願いします」
乗降扉から摩耶が出ていく様子を、じっと見送っていた吹奏楽部の友香が、因幡に向き直り、改めて頭を下げる。
「摩耶先輩には、また私からもちゃんとお話します。ホントに、太一先輩にラッパ、吹いてもらいたい。それだけなんだって」
因幡は一つ大きくため息をつくと、観念したように天井を仰いだ。
「・・・わかったよ。文化祭までの間だけな。勘を取り戻すのには付き合ってくれよ」
「はいっ!」
友香の顔が輝く。
結局、因幡も吹奏楽部の練習に顔を出すことになり、そのまま友香に連れられて部室を出て行ってしまった。
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残されたのは、伸司、瀬戸、大井、山上、ヒロ、そしてみどりと恵留麻。
3年生二人、部長と副部長が消えてしまった部室は、急に広くなったように感じる。祭りの後のような、あるいは祭りの前の静けさのような、妙な空白感。
「・・・なんか、見事にこう、分割されちゃいましたかね」
ポツリと、瀬戸が言った。
「分割?」
伸司が聞き返す。
「ほらあれ、多層建て列車みたい」
「ああ、『まいづる』と『はしだて』みたいな」
伸司は苦笑いした。
山陰本線を走るそれら2つの特急列車は、京都駅から綾部駅までを連結して走り、そこで舞鶴方面と天橋立方面とに分かれていく。
「部長が『はしだて』で、副部長が『まいづる』ってとこか」
山上が、眼鏡の位置を直しながら言った。
「逆じゃない?『はしだて』が副部長だって。ほら天橋立、羽衣天女いるし」
「分割併合って萌え要素ですよね。私、連結器がガチャンって繋がる時の音、好きですよ。繋がった後も、なんだか無音の響きが静かに続いてる感じがして」
「お前はほんとに音が好きだなぁ・・・」
伸司が呆れる。
「部長というハイパワーな機関車と、副部長という華やかなグリーン車が、それぞれの行き先に向かって切り離されて、いっちまったわけだ」
山上がそんなことを言う。
「じゃあ、残された僕たちはなんだろうなぁ。いらなくなった付属編成かな?」
ヒロが自虐的に返した。
「いやいや、こっちが基本編成ですよ。鉄研が本線ですから。・・・多分?」
瀬戸が少し自信なさそうに否定する。
「何を頼んない事言うてんのや。おまえら」
大井が全員に、言い聞かせるように諭した。
「なんやいうて、そもそも、文化祭過ぎたら俺達三年は抜け気味になるもんやからな。おまえらも、もうこういうのに慣れていかなあかん。まあ、制度的には、うちの学校は、卒業式までは三年生も部活の引退はしない、ってことにはなっとるけど、機関車も、グリーン車も、もうおまえらがやる時期や」
「それもまあ確かに」
山上が、持参した競馬新聞を広げながら言った。秋競馬はそろそろ一番盛り上がる季節だ。
「部長と副部長がいない間に、俺達で好き勝手な企画やっちまうか。そういうのもアリだろ」
「それだ!」
ヒロが膝を打つ。
「よし、文化祭の展示、部長たちの許可なしで『大井誠・漢の鉄道写真展』と『山上正吾の一点買い!勝てる競馬必勝法』を追加でやろう」
「却下や。俺の写真はともかく、ヤマの競馬は教育的配慮でアウトやろ、学生に何を一点買わせるつもりや」
大井が即座に突っ込む。
伸司は、窓の外を眺めた。校庭の向こう、校舎の方角には、吹奏楽部の練習する音が微かに聞こえている。映研の部室がある棟はその向こうだ。
多層建て列車。
それぞれが別の目的地を持ちながら、途中までは一緒に走る。そして分岐点で別れ、それぞれのレールを進んでいく。
でも、分割された列車は、復路ではまた併合されて、一緒に戻ってくるものだ。
このレールバスの部室は、きっと部長たちにとっても始発駅であり、また戻ってくる場所のはずだ。
「先輩、なに難しい顔してるんですか」
瀬戸が、伸司の顔を覗き込む。
「いや、別に」
「寂しいですか? 摩耶先輩がいなくなって」
「なんでそういう話になるんだよ」
「だって、摩耶先輩、すっごく綺麗でしたもん。あのくノ一の時もすごかったけど、今日の少し嫉妬したみたいな顔も、なんかゾクってしました」
「お前なぁ・・・」
「でも、大丈夫ですよ先輩」
瀬戸は、にっと悪戯っぽく笑う。
「こっちには、私がいますから。私だって、ほらこう、潜在ポテンシャルは負けてないはずですからね!伸びしろあります!」
「なんのポテンシャルなんだよ・・・」
伸司は呆れながらも、少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「よし、じゃあ俺たちは俺たちで、動画の準備進めるか」
「そうですね! 部長たちが見てびっくりするくらいのを作っちゃいましょうよ」
「あ、そうだ先輩。動画のBGMなんですけど、『鉄道唱歌』のロックバージョンとかどうですか? フリーの音源、見つけたんですよ」
「却下」
「えー、かっこいいのにー」




