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18/31

第四旅 イタリアン焼きそばと、北琵琶湖の旅

「そういえば、文化祭の展示動画、いくつ撮ったんでしたっけ? 十分ですか? なんか次のネタいりますかね?」


夏休み前の部室。ヒロがそう因幡に向かって話を切り出した。


「最初に撮った片町線全線と、京田辺のまんぽのやつと、あとありがちに山崎駅の府境ネタ撮ったやつに、近鉄西大寺駅のポイント撮ったのだろ、だから、今4本か、部室の中と外にスクリーン張って別の動画展示するとして、繰り返し放映して飽きさせないようにってなると、一か所3本ずつ流す感じで、もうあとワンペア、2本くらい欲しいかな。なんならもっと一杯撮って、文化祭の展示だけで終わるんじゃなく、youtubeで公開もしてみないか、あれ」

「うーん。もしそっちに行くなら、今の方向じゃちょっとダメっていうか、単に鉄研の活動記録とか、鉄道が好きな人が見てくれる、ってだけの動画、じゃあない方、やんないといけないんじゃないすかね」

「たしかにな。今のままの感じのじゃ、どうもちょっと、って気はするな」

「今のを公開しても、多分、誰にも見られずに、地味に消えてくだけでしょうし。ただ、幸いうちには、もうちょっと人目ひけるような戦力があったりしますよね。だいたい部長、最初からそのつもりなんじゃ?」

 ヒロが、ちらりと長机の向こうに視線を送る。瀬戸と恵留麻が、二人してスマホを覗き込み、きゃいきゃいと声を上げている。


「ね、このガラスのイヤリング、超かわいくない!?」

「ほんとだ! なんか涼しそう、夏っぽい! これ、長浜の黒壁スクエアだって!」


 ヒロの疑問には応えないまま、聞こえてきた地名に、因幡部長は眉をあげ、瀬戸たちの方へ向き直った。

「長浜か。いいな」

「部長、行ったことあるんですか?」

 恵留麻がこっちを向いて尋ねると、因幡は穏やかに頷いた。

「うん、一度ね。古い駅舎が残ってるし、街並みも綺麗で、なかなかいい所だよ」

「旧長浜駅舎。 日本最古の現存駅舎ですよね。それに、たしかED70も保存されてるはず」

 山上が、時刻表から顔を上げて言った。

「へえ、鉄研的にも見どころがあるんですね」

 瀬戸の言葉に、副部長の摩耶がふふふん、と微笑む。

「女子旅的にもポイント高いわよ。ガラス細工のお店がいっぱいあって、体験工房なんかもあるし。それに、美味しいものもいっぱいあるし」

「美味しいもの!」

 実に素直な恵留麻の食いつき。

「のっぺいうどんとか、焼鯖そうめんとか。あと、ホワイト餃子とイタリアン焼きそばとか」

「イタリアンの・・・」

「焼きそば・・・??」

「「なんなんですか・・それ・・・」」


そんな会話を聞いていた因幡が、ぽんと手を打った。

「よし、決めた。次は長浜でロケしよう」


 こうして、大阪第一産業高校鉄道研究会は、夏の一日に、北へと向かうのだった。


 ・


 新快速のシートに揺られ、うだるような暑さの大阪を抜け出す。走る線路の名前が東海道本線から北陸本線に変わり、米原で後ろ八両を切り離して身軽になった列車の車内には、のんびりとした空気が流れている。

「なんか、すごく旅行って感じしますね!」

 瀬戸が、窓の外を流れる景色に目を輝かせた。田んぼの緑が目に鮮やかだ。

「大阪からの距離はそないに変わらんのに、米原から北になるとあんまり来んよなぁ」

 横の席に、リュックのカメラバックを放り出して大井がうなずく。

「米原すぎると、なんだか急に、遠いところにきたなぁって感じはするよね。まあ、たいてい米原で乗り換えて東にいっちゃうんだけど」


 やがて列車は、目的地の長浜駅に滑り込んだ。ホームに降り立つと、もわりとした熱気が一行を迎えた。琵琶湖が近いせいか、大阪よりも微妙に湿気が高い気もする。


「さて、と。まずは腹ごしらえだな」

 因幡の号令で、一行は商店街へと繰り出した。目指すは、摩耶おすすめの「のっぺいうどん」の店。とろみのついた出汁が、つるりとしたうどんに絡み、夏の疲れた体に優しく染みる。


「おいしーい! なんか、ほっとする味ですね」

 恵留麻が、満面の笑みでうどんをすする。


「腹も満たしたし、ロケを始めようか!」


 ・


「こんにちは、瀬戸ちゃんです!」

「こんにちは、いなばです。今日は、わが校(うち)のそばから離れまして、滋賀県は北琵琶湖、長浜に来ています」

 伸司が構えるカメラに向かって、瀬戸と因幡が、何やら話し始める。

「さあ、長浜と言えば!」

「鉄道研究会的には、日本最古の現存駅舎こと、旧長浜駅舎ですが」

「私たち女子部員としてはこちらです! じゃん!」

 瀬戸が、背後の街並みに向かってぱっと手を広げる。黒壁のレトロな店構えの店が続く、シックな街並み。

「黒壁スクエアーー! 黒壁ガラス館を中心としたガラス工芸品の街です。カットグラスを自分で作れるアトリエがあったりするんですよ! かわいい! 弾くといい音がするんですカットグラス!」

 音鉄らしいコメントを挟みつつ、瀬戸のテンションが上がる。

「あとで長浜鉄道スクエアにもちゃんと寄ろうな、瀬戸ちゃん。僕ら鉄研だからね鉄研。旧長浜駅舎の見学ができるし、デゴイチの運転台とか、ED70の運転台とか、座れたりするから」

 因幡が、呆れ顔で釘を刺してみせる。

「長浜には、『竪型万華鏡』なんていうのもあるんですよ。高さ8メートルの、まるで煙突みたいな、日本一大きな万華鏡! 覗くと、もうきらきらくるくると、夢の中に飛び込んだような気持ちになれます!」

「ねえ、聞いてる? 瀬戸ちゃん」

「あとは、名物黒壁ソフトと黒壁プリン!恵留麻が絶対食べるって言ってて!」

「ねえ、ほんとに聞いてる? 瀬戸ちゃん」

 因幡のツッコミが追いつかない。その時、二人の間に、何やら影が割って入った。

「おっと瀬戸ちゃん! 長浜はね、ガラス工芸だけじゃないんだ! ここまで来たら、なーんといってもまずは海洋堂フィギュアミュージアム!」

「こらおい、横から突然、さらにややこしいネタで話に飛び込んでくるんじゃない、ヒロ!」

 因幡が、思わず素でツッコミを入れた。


 ・


「OKテイクが黒壁27カット、海洋堂で11カット、鉄道スクエアたった5カットってどういうことよ!」


 数日後の部室。ノートパソコンを囲んで、撮影してきた動画のプレビューチェックをしていた摩耶が叫ぶ。

「いやー、こう、求められるままの絵を撮り続けていたら、こういう結果になってしまいまして」

 悪びれもせず、伸司が答えた。

「これ繋げたら、どう考えてもなんか比率がおかしいでしょ! 鉄研の動画として!」

「これはこれで」とヒロ。

「瀬戸ちゃん、かわいく撮れてるしな」山上。

「そこについては、まあ、任せてくれ」

 伸司が少しだけとくいげ。

「えへへ、瀬戸ちゃんかわいい!」

 瀬戸が、両頬に左右の人差し指の先をちょんとあてて、照れてみせる。

「先輩のカメラの前だと、なんというか我ながら、かわいく笑えてますね。瀬戸ちゃんスマイル100ポイント」

「なんだそのポイント。貯めるとなんかいいことあるのか?」

「なんでしょ。多分こう、お楽しみポイントサービスとかですかね」

「店前駐車で10分間のお買い物ができるスーパーみたいだな・・・」


「いやでも、この調子だと、ほんとに、文化祭、瀬戸ちゃんオンステージになっちゃうわよ、これ」

 摩耶の懸念はもっともだった。画面に映るのは、ガラス細工を選ぶ瀬戸、ソフトクリームを頬張る瀬戸、巨大万華鏡を見上げて感嘆の声を上げる瀬戸。

「なんだろ、鉄道系Youtuberの番組の真似ってより、なんかこう、あれだな。違う方向性があるな」

 山上が、腕を組んで唸る。

「どっちかっていうと、ほら、『おとな旅あるき旅』みたいな」

 ヒロが、的確な指摘をした。

「あ、それや! そういえば太一、なんとなし三田村邦彦に似とるし」

 大井の言葉に、部員たちがどっと笑う。

「そうそう、となると副部長はさ、ご不満なわけですよ」

 ヒロが、にやにやしながら摩耶を見る。

「なるほど、旦那が、黒壁スクエアで、後輩のかわいい女の子と、ちゃらちゃら、デートみたいに二人旅してるのを見せつけられるのは、どうにも気に入らない」

「ち、違うわよ!」

 摩耶が、必死になってあわてて否定する。

「部長、イケメンだからなあ。カッコイイ彼氏持っちゃうと、それはそれで気苦労が大変ですね副部長」

「違うっていってるでしょ! 別にそういうのはぜ・・・ちょっとしかないわよ!」

「ちょっとはあるんだ・・・」

 瀬戸が顔を横に向けてぽつりと呟く。

「あのですね、別にわたし、そんな、部長は確かにかっこいい人ですけど、そういう気は、もう、すんごいちょっとしかないですから」

「すんごいちょっとはあるんだ・・・」

 今度は摩耶が呟き返す。

「ほんと、ものすごいちょっとだけです。安心してください」

「それは、どう安心すればいいのよ瀬戸ちゃん!『後輩の女の子』って実は太一に3倍特攻だったりするんだからね!・・ってそうじゃない、そうじゃなくて、違うの、そういうのとは違うから! 私は、鉄研の動画として、これじゃあダメでしょって!」

 摩耶の悲鳴のようなツッコミが、部室に響き渡る。

「まあまあ、摩耶。こんどまた、二人で行こう、長浜。ペアのカットグラス、作ってこようよ」

 と因幡。

「お、旦那が、何やらなだめにかかりおったぞ」

「ほんとにちがうんだからね! ・・・えっと、じゃあ来週行こうね。太一・・・」

 摩耶の顔が、夕焼けのように赤く染まる。

「「「うわぁ・・・」」」

「・・・なんだろ、砂糖吐きそう。ってこういうのですかね・・・?」

「いいなー。わたしも長浜で、部長みたいなカッコいい人とデートしてみたいな」

恵留麻が、立てた人差し指を唇の下に添える。

「恵留麻ちゃんは、じゃあ摩耶と行った次の週ね?」

「太一!!!」「「部長!?」」

「おい太一・・・」

「おっと、部長の魔の手が! 恵留麻ちゃん、不倫はよろしくないからね。行くなら僕と行こうよ僕と」

「「「「「ヒロ(さん)!!?」」」」」


夏を迎えた部室は、かなり平和である。

・・・平和かな?


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