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第二旅 新入生歓迎、関西本線・忍者探しの旅 終幕

「これにて、新入生歓迎・忍者探しの旅は無事終了。全員、お疲れ様でした」

「「お疲れ様でしたー!」」


鉄研部員たちの元気な声が、夕暮れの放出駅前に響いた。一日中電車に揺られていたにも関わらず、その顔には疲労の色より満足感が浮かんでいた。


「春乃先生、今日も一日、お付き合いありがとうございましたー」

「お疲れさま。じゃあ私は、ここで失礼するわね。因幡君、あんまりはしゃぎすぎないように。新入部員、しかも女の子二人なんだから」

「肝に銘じます」

 春乃先生は、どこか意味ありげな笑みを浮かべて、くるりと踵を返し、改札の向こうへと消えていった。

その背中を見送る鉄研一同。


「さて、と」

因幡部長が、パン、と一度手を叩いた。

「さて、みんな。これで今日はお開き・・・なわけ、ないよな?」

因幡が口元を吊り上げて、部員たちをぐるりと見渡す。上級生たちは「待ってました」とばかりにニヤニヤとし、対して新入部員二人はぽかんと目を丸くしていた。

「え? まだ何かあるんですか?」

恵留麻が、こてんと首をかしげる。

「決まってるだろ。打ち上げだ!」

「「「おおおおおお!」」」

因幡の宣言に、今度は上級生たちから歓声が上がる。

「打ち上げって・・・なにするんですか?」

瀬戸がおずおずと尋ねる。打ち上げと聞いて、瀬戸の頭に浮かぶのは、中学3年の文化祭の後に経験した、ファミレスのパーティールームで行った、クラスの、盛況おめでとうのお祝いくらい。

「どこか、みんなで夕ご飯、食べに行くとかですか?」

「なんか、お好み焼きたべたいなー」

瀬戸と恵留麻が、丁度漂ってきたお好み焼き屋のソースの香りにつられてそんなことを言うと、因幡は人差し指を立てて、ちっちっち、と左右に振った。

「甘いな、二人とも。うちの部の打ち上げといえば、一択だ」

そう言うと、因幡はくるりと背を向け、駅前の商店街に向かって歩き出した。

「さあ、着いてこい! 宴の始まりだ!」


有無を言わさぬ部長の背中に、ぞろぞろとついていく鉄研部員たち。

瀬戸と恵留麻は顔を見合わせ、首をかしげながらも、その後に続いた。

(打ち上げ、一択ってなんだろ?)

一日動き回って、お腹も減っている。瀬戸の頭の中は、まだ見ぬ宴とやらへの期待でいっぱいだった・・・が・・・


一行がたどり着いたのは、お好み焼き屋でもファミレスでもなく、商店街の雑居ビルの、いかにもなカラオケボックスだった。

巨大なト音記号の看板が、チカチカとネオンを点滅させている。

「「え、カラオケ!?」」

瀬戸と恵留麻の声が、きれいにハモった。

「おう、うちの打ち上げは、昔からカラオケって相場が決まっとるんや」

大井が、したり顔で頷く。

慣れた足取りで受付を済ませる因幡、ドリンクバーの場所を新入部員に教える摩耶。その手際の良さは、どう見ても今回が初めてではないことを物語っている。


通されたのは、高校生の部活動の打ち上げには少々不釣り合いな、だだっ広いパーティールームだった。大きなソファがコの字に配置され、中央にはガラスのテーブル。壁には巨大なモニターが鎮座している。

「うわ、広い!!?」

呆気にとられる新入部員二人を尻目に、上級生たちは、部屋に入るやいなや、手慣れた様子で行動を開始した。

山上と大井はデンモクを手に取り、猛烈な勢いで何かを検索し、予約を入れ始める。伸司とヒロは、カラオケマシンの前で、マイクのレベルチェックを入念に行っている。

滝川はテーブルの上に、ドリンクバーから持ってきたジュースを並べ、摩耶はさりげなく、自分の鞄から取り出したスナック菓子の袋を開けていた。持ち込みに甘い店らしい。


何が何だかわからないまま、瀬戸と恵留麻も促されてソファに座る。

部屋の照明がふっと落ち、壁のモニターに、富士山をバックに、白い矢のように突っ走る新幹線の映像が映し出される。

流れてきたのは、聞いたことのある、軽快なイントロ。


「──さて、トップバッターは、俺がいかせてもらうぜ!」

因幡部長が叫ぶ。その隣で、摩耶がマラカスをシャカシャカと振りながら、にこやかに微笑んでいた。


♪ たとえて言えば Long Train


モニターに映し出される歌詞。TOKIOの『Ambitious JAPAN!』だ。

新幹線のCMソング、東海道新幹線のチャイムとしても聞き慣れていたこの曲なら、瀬戸も知っている。

(なんだ、なんか、普通のカラオケなんだ・・・)

なんだか肩透かしを食った気もしながら、瀬戸はほっと胸をなでおろした、その瞬間だった。


因幡がサビを歌い始める直前、他の上級生達が、一斉に立ち上がったのだ。そして、

「「♪ I get a true love~」」

山上と大井が、完璧なタイミングであのリフを叫んだ。

「「♪ be ambitious~」」

ヒロと伸司のコーラスも続く。

「我が友よ! 冒険者よ!!!」

部員達を見回し、共に冒険を乗り越えてきた友に、まさに呼びかけるよう因幡が歌う。

部員達が、それに応えて拳を突き上げ、激しくコールを入れ始める。

その熱量、その一体感。

それは、もはや単なるカラオケの盛り上がりではない気がした。何かこう、宗教的な儀式に近い。


唖然としてその光景を見つめる瀬戸と恵留麻。

知っているはずの曲が、まったく知らない曲に聞こえる。

歌い終わった因幡が、満足げな顔でソファに戻ってくる。

「どうだ、一年生。これが鉄研のカラオケだ」

「は、はぁ・・・」

瀬戸は、気の抜けた返事をすることしかできない。


休む間もなく、モニターには次の曲が表示される。

『浪漫鉄道』。JR九州のキャンペーンソングらしい。

「次は俺や!」

大井がマイクをひったくり、朗々と歌い上げる。そのこぶしの効いた歌声に、またしても完璧なコーラスが入る。

続く山上は、JR北海道の社歌『北の大地』を、なぜか歌詞を南海高野線に替え歌して歌い、「謝って! JR北海道の人に謝って!」とツッコまれていた。

ヒロは『The Galaxy Express 999』を、アニメの映像をバックに熱唱し、滝川は『サヨナラの意味』を、はにかみながらも可愛らしい声で歌い上げた。


どの曲も、瀬戸にとっては、聞いたことがない・・ような、ある・・ような、微妙な曲ばかり。

そして、何よりも異常なのは、上級生たちの異様なまでの盛り上がり方だ。

彼らは、このなんだか微っ妙~~~な選曲の、すべての歌詞、合いの手、コーラスまで完璧に把握している。この日のために、何年も練習を積んできたかのようだ。


瀬戸は、ただただ呆然と、目の前で繰り広げられる光景を眺めていた。

(・・・なんなの、これ)

最初は、ただ圧倒されていた。

次に、少しだけ面白いような気もした。

そして、今は。


(いや、おかしい)


どうにも、なんかおかしい。

これは、普通の部活動の打ち上げとやらではない。

これは、鉄道研究会という、特殊な集団による、特殊な儀式なのだ。

鉄道という共通言語だけで構成された、閉鎖的で、しかし、恐ろしく熱量の高い空間。


ふと、隣に座る恵留麻を見ると、彼女も同じように、ポカンとした顔でモニターを見つめていた。その手には、半分だけかじられたポテトチップスが、まるで時が止まったかのように握られている。


モニター前では、今まさに因幡部長が『鉄道唱歌』を入れようとして(東海道篇)、部員全員から「それだけはやめてくれ!」「66番は長い!」「苦行だろ!」と全力で止められている。


その光景を見て、瀬戸の中で、ぷつり、と何かが切れた。

呆然としていた意識が、急速に覚醒していく。


なんだこれは。

なんなんだ、これは。


私の知っているカラオケじゃない。

私の知らない歌ばかりが、異常な熱量で歌われ、それに完璧なコールが返される謎の空間。


「あのっ!」

瀬戸は、気づけば声を張り上げていた。

一斉にこちらを向く、上級生たちのきょとんとした顔。

BGMだけが、虚しく部屋に響いている。


「このカラオケ・・・もしかして、鉄道の歌しか歌っちゃダメとか、そういう縛り、だったりします・・?」


瀬戸の震える声の問いかけに、摩耶は、心底不思議そうな顔で、こう答えたのだった。


「え? うん。 そうだけど?」


  (・ω・) はよ言えや。


よしわかった。とりあえず話はわかった。


瀬戸は意を決してデンモクを引き寄せた。

お、これは。彼女にもこの場の趣旨が染みてきて、やるべきことをやろうとしているのか、と謎のbe ambitious感が上級生たちの間に走り、彼らはじっと新入部員の動きを見守る。


お母さんがよく聞いてる、お父さんのCDの、あの曲が、そう、鉄道な感じの歌だったはず・・・あれなら、私にもしっかり歌える。


入力は受け付けられ、予約曲のタイトルがモニターに映しだされる。


 次曲>赤いスイートピー(松田聖子)


「瀬戸ちゃん ダメだよ!」

ヒロが悲痛に叫ぶ。

「鉄道オタクに醜い争いの炎を投じる、呪いの歌を歌うなんてっ!」

「きのこたけのこ戦争よりもみにくい、そして終わらない争いが始まるで・・・」

「ふっふっふ。さあ、どこ線かな、春色の汽車・・・」

「ああっ、開戦してもうた!」

「江ノ電とかじゃないの?」

「汽車って言ってるだろう汽車って、この話の時、電車は論外だ。話が終わっちまうからな」

「なっ、なんで・・・」

「小湊、絶対小湊鉄道だってば国鉄色の肌色のキハ」

強めに主張をはじめるヒロ。

「小湊なわけないだろ、海につれてかなきゃなんないんだぞ、逆向きじゃねえか。

 それともなんだ、松田聖子、上総中野に住んでたとでもゆーのかよ」

冷静に、ぜんぜん冷静でもなく反論をわめく山上。

「住んでたかもしんないだろ!上総中野の人に謝れ!」

「小湊なら、いすみのほうが、イメージ近いんとちがうか?」

「それですよ!僕が言いたいのはいすみもコミの話で」

「そういうの卑怯じゃねえかな」


本当になんかの戦争が始まった。


「わ、わたしは、海に行く汽車って、紀勢線の、イメージ、だけど」

「紀勢線ってか、参宮線?のがそれっぽくねえか?」

「鳥羽行きかぁ。わからなくはないけど、松田聖子でしょ、関東だと思うんだよなぁ」

「え?松田聖子って、福岡の人じゃなかった?」

「あのあたりで春色の汽車か・・・甘木鉄道とか?」

「なんかイメージ合わないなぁ、だいたい、海にいかないじゃん」

「やっぱ関東じゃないの? 鹿島臨海鉄道とかどう?」

「水戸から大洗サンビーチに連れてかれるんやな、なるほど」

「鹿島臨海て!ヒロお前KRT6000のどこが春色なんだよ!あの赤ペンキ浮き錆ぼこぼこの!」

「新車の頃の歌なんだってば、錆はでてないって」

「まあ8000なら・・・いやあのトリコロール、春色とは言えんか?」

「赤・青・白じゃなくて、赤・青・黄色ならチューリップの色なんだけど」

「色は国鉄時代だから、みんな国鉄色のキハなんじゃないの?」

「おまえら、大事なことを忘れてるぞ」

因幡部長が冷静に、だがやはり別に冷静でもなく諭す。

「「「ほえ?」」」

「鹿島臨海鉄道・大洗鹿島線の開業は1985年、 

  赤いスイートピーの発売は1982年だ」

「「「あっ」」」

「そう、この歌が作られたとき、鹿島臨海鉄道はまだ無いんだよ!!!」

「「「 ΩΩΩ<な、なんだってー!? 」」」


なにがどう「なんだって」なのか。


そうしている間にも、曲は替わり、流れ始めた赤いスイートピーのカラオケは、前奏が過ぎ、A/Bパートをこえて1番サビに突入している。

マイクを握って歌おうとして、みんなの舌戦にさえぎられ、歌うに歌えない瀬戸のこめかみに、青筋が浮きはじめた。


ぐいっ、とかかげたマイクに叫ぶ瀬戸。

「おまえらああぁーーーーー(あーーあーーあーー(エコー))」


「やくたいもないこと、話してないでっ! わたしのっ! 歌を! きけええええええ!!!!!!」


「「「はいっ!」」」


 戦争は終結した。


♪「四月の雨に降ら~れ~て~」


「瀬戸ちゃん、おこるとこわいな」

ぼそぼそ。

「しっ、だまってきくよーに」


♪「あなたが~時計を~ちらっと見るたび~」


「中間採時~」「残1分~30秒~!」

壁の時計を指差し喚呼して、小声で鉄道ネタを飛ばす、山上と大井。

「ぷ。だめですよ。ちゃんと 聞いてなきゃ」ちょっとウケながら、二人を注意する滝川。


♪「泣きそうな気分になるっていってるでしょおおおーーー!」


歌いながら山上と大井をぎろりと睨み、マイクに怒鳴り散らす瀬戸

「「ごめん、ごめんって」」


「すごいよ瀬戸ちゃん、わたしが2年前入れたときは全然歌えなかったのに!」

やがて歌い終えた瀬戸に、すすすと寄っていく摩耶。

「副部長も昔歌おうとして、歌えなかったんですね・・赤いスイートピー・・・」

「そりゃだって、」

人差し指をぴんっと立てながら眉をあげる。

「鉄オタ女子用の、かわいい女の子アピールできる歌なんて、そうそう数ないもの」

「・・・そ、そうですかね」

「そりゃそうよ。『津軽海峡冬景色』とかいきなり歌いだす女の子、怖いじゃない。ぎょっとされるわよ」

誰がぎょっとすんの。部長?

「いやいやいや、そんな歌、選ばなくっても」

「だってほんと、あんま無いのよ、女の子用鉄道ソング、『出町柳から』 だと、ネタになっちゃうし」

そう言って、流れ始めた次の曲。レトロなイントロのストリングスと、印象的なギターに促されてマイクを握り、瀬戸に向かってウィンク一発決めると、摩耶は歌い始めた。


♪「こっいっびとっよー ぼくはー旅立つー 東へと 向かーうー列車で~」


「あずさだね」

「やくもやろ」

「ばっか、ブルトレだよ。寝台特急。さくらだろーなー」


「この歌もかあああーーい!」

瀬戸大爆発2。

「ちゃんと副部長の歌を聞くぅううう!」

机バンバン。

「「「は、ごめんなさい!」」」


「それはともかく瀬戸でしょ! ここは寝台特急瀬戸ちゃんの出番でしょ!」


「m9「「おまえもや!」」」


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