episode0ある小さな物語
優しさは、ときに人を救わない。
守るために突き放す——そんな歪んだ選択も、この世界にはある。
少年は、すべてを失った。
そして、たった一人残った大切な存在すら、自分の手で切り捨てた。
それは覚悟か、それとも逃げか。
「忘れろ」
その一言に込められた、本当の願いは誰にも届かない。
これは、英雄になる前に“何かを捨てた”少年の物語。
——魔族を皆殺しにしてやる。
少年は長年住んだ村を襲う魔族を見て、むやみに地面を叩きつけた。
茂みに身を潜め、魔族に見つからぬよう息をひそめる。
魔法軍が到着する前に、少年の村は崩壊してしまった。
農村に武力はなく、村人たちはただゆっくりと農業に勤しみ、平和に暮らしていたのだ。
少年——エリックは、妹と母と共に暮らしていた。
ずっと平和に生きられると思っていた。
だが、それは自分の描いた幻想にすぎなかった。
現実は残酷だった。
「これで全員か?まったく、取るに足らぬ人間ばかりだな。」
魔族が血を滴らせ、にやりと笑う。
エリックが茂みから覗くと、炎をまとい彼を探す魔族の姿があった。
(……見つかってもいい、ぶち殺してやる。)
エリックは覚悟を決めていた。
自分の命に意味はないとさえ思っていた。
「なんだ?茂みの方から魔力が漏れているぞ。出てこい!」
「ああ、出てやるよ。後悔するな。」
「それはこちらのセリフだ!」
(見た目は十代のザコ……魔力も大したことはない。俺の勝ちだ。)
——帰る光
魔族は迷いなく魔法を放った。
エリックはただの虫けらにしか見えていない。
——一般公用魔法
音ひとつ立てず、魔族の腹は簡単に陥没した。
(母から、自分に魔法の才能があるとずっと聞かされていた。)
昨日まで、いや、今まで魔法が大好きなただのバカだった。
魔法を使えば火を起こしたり、日常の小さな困りごとを解決できたのだ。
始めて魔法で魔族を殺した——。この何とも言えない虚無感にエリックは溺れていた。
(妹とはもう同じ場所にはいられない。)
——ザッザッ
エリックは静かに自宅に戻る。
戻る途中には焼け落ちてしまった家の残骸が焚火のように燃えている。
エリックの家は緩やかな丘を少し上がってすぐにつく。
いつもなら、夕日が沈むと綺麗で息をのむほどだが今は、荒廃してしまって綺麗とは真逆の立ち位置にいる。
道中に魔族が何体かいたがすべてエリックが返り討ちにしながら進む。
(どいつもこいつも油断しすぎだ。まぁこれが魔族由縁と言えるが……。)
丘を上がりきると少女の鳴き声が聞こえる。
(ピピの泣き声だ。生きていたのか。)
エリックは妹を置いてきてしまったことを恥じつつも安堵する。
「ピピ……。」
「お兄ちゃん゛!」
ピピは涙で顔をぐしょぐしょにしながらエリックの胸に抱き着く。
「よく頑張ったな。悪い魔族は僕が殺したからね。」
精一杯エリックは明るい声でピピを安心させる。
エリックは優しくピピの頭をなでる。
「ピピ、お前はここで残れ。」
「えっ?」
ピピは困惑した顔をエリックに見せる。その顔がエリックは辛かった。
「もうじき魔法軍が来るだろう。きっと保護してくれる。」
「何を言ってるの?お兄ちゃんはこれからピピとずっと一緒に暮らすんだよ?」
「すまない。決めたことだ。」
エリックはピピに背を向ける。
「僕はすべてを捨てて強くなる。ピピは僕のことなんか忘れて自由に生きろ。」
エリックは後ろを振り返らず歩き出す。
「ま゛ってよ。ねぇ。」
きっとピピは兄が急にいなくなる寂しさ、不安で押しつぶされそうになっているのだろう。
——僕だって同じだ。
(本当なら後ろを振り替えってピピをギュっと抱きしめたい。)
エリックは意に反して涙がこぼれる。
「お゛にいちゃん、おいでくの?」
ピピの泣き声が大きくなる、そのたびにエリックの胸を締め付ける。
「忘れろって言ってんだろ。」
「俺はもう——お前の兄じゃない。」
エリックの口からは思っていることとは逆の言葉があふれ出る。
拒絶することでしか前に進むことが出来ないからだ。
「もういい゛!もうお兄ちゃん゛なんて知らない!」
そうだ。それでいいんだ。これで迷う必要がなくなる。
——ウ゛ァァァァ
ピピが後ろで膝をついて大粒の涙を流す。
涙は周りの地面を濡らし服までも濡らす。
エリックは振り返らない、いや振り返れないのだ。
(魔族をすべて滅ぼしたら必ず会いに行く。それまで待っててくれないか。)
エリックは一筋の涙を拳に握り丘を下り村を出る。
(ひとまず、まずは、近くの小さな村を目指そう。魔族を皆殺しにするためには魔法が足りない。)
エリックが現在使える魔法は魔族を一瞬で倒した一般公用魔法だけだ。
エリックは魔力は高いが固有魔法を持っていない。いくつかの魔導書も買う必要がありそうだ。
「魔族をすべて殺して英雄になるのは僕だ。」
エリックは強く拳を握った。
——数日後
「魔力の合成下手か?トースト焦がすなよ!」
「すみません。」
(こんな魔法で魔族を滅ぼせるのか?)
エリックは新しくパンを魔法で焼きながら思った。
——くだらないものに価値が俺はあると思うんだ。
——おい!実用的な魔法を早く教えろ!
「次回」
「実用的な魔法」
※少しテイスト変えてみました、この話ではこのスタイルです。




