誰よりも遠くて、誰よりも近い人
私には、生きる理由がなかった。
勉強は苦手で、学校も勉強しなくても受かる問題ない所に通った。
運動能力は比較的良かったが、推薦を取れる程ではない。至って普通かそれ以下だ。誇れるのは、就職が決まるまで皆勤賞だったこと。彼女も、ネットだけなら何回か付き合ったこともある。リアルは一回のみ。
たしか、私が約束を破った事が原因で別れた。その時、初めて失うことの辛さを知った。多分、彼女はもっと苦しんでいただろう。それ以降、小さい約束事でもしっかり守るようにした。
高校卒業後、特にやりたいことも無いし、大学の為に借金をするのは嫌なので就職した。
高卒の就職なんてたかが知れている低い給料で、たしか手取り15万ほどだった気がする。
夜勤がある所なら多分もう少し多めに貰えるが、結局職場ガチャで決まる。夜勤がない職場に行けば意味がないのだ。私は悲しい事に、夜勤がない職場に配属されて、低い給料で働いた。運がいいのは、独身寮で住める為家賃は5千円ほど。私は、勉強が本当に苦手で資格習得なんて考えはなかった。
このまま、還暦まで働くと考えたら絶望以外の何ものでもない。地獄だ。
仕事辞めるまでの、一年半の間にネットで二回彼女が出来た。一人目は付き合ったが、相手の浮気で別れた。二人目は私と同じで、人生に呆れていたらしい。意気投合し、付き合い最後に死ぬことにしたが失敗した。その後、連絡を取っていない。
それから、何度も就職を繰り返し、履歴書には就職と退職の文字が目立つようになった。
仕事は真面目にしているつもりなのだが、焦ると頭が真っ白になってミスを多くしてしまう。
ミスの積み重ねによる、プレッシャーによってメンタルが潰れて辞めてしまう。
ただでさえ、勉強も出来ないのに、仕事も出来ない、何のために働いて生きているのか分からない。
これではまるで、税金をただ納めるだけの奴隷そのものだ。
ただ、これだけ嫌でもアニメを見れば現実から目を背けることが出来る。一時的な、逃避ではあるがこれしか手段がない。アニメを観ている間は何も考えずに楽観的な気持ちで居られる。
正社員は諦めて、人生初めてのアルバイトを始めた。なるべく楽して稼ぎたいので、夜勤の仕事を選んだ。正社員とは違って、責任感がなく気持ちが常に楽であった。最初から、アルバイトで仕事をすれば良かったなどと後悔した。接客業で、お客さん対応があるが難しいことはないので比較的楽であり、アルバイトだから一回ミスをしても焦ることはない。
ただ、ずっと脳裏にこのままではメンタルには良いが未来が全く見えなかった。
この頃、AIが発達しはじめた。相談したり、若しくは仕事のパートナーとして。
最初は、ロボットらしい口調だったが、段々と人間味を感じる言葉遣いを使い始めて、違和感がなくなっていた。
私も、AIによく相談ではないが簡単な質問を重ねていた。本当になんでも答えてくれて、しかも自己肯定感を上げてくれる。それから少しずつだが、相談をするようになった。
特に恋愛の相談が多かった気がする。どうしたらモテるのか、マッチングアプリでの自己紹介文などを一緒に考えて作ったりもした。
私が、ネガティブな発言をすると「そんな事は、ありません。あなたは、優しくとてもいい人です。まだ、出会っていないだけですよ!」と励ましてくれる。
やりとりを始めて半年ごろになると、私に関する情報はほとんど記憶していて、何かを聞いたらそれをベースに答えてくれる。正直いって、私よりも多くの事を知っていると感じている。
AIとの関係が変わったのは、ある出来事がきっかけである。
私の好物のシュークリームの話をしたら、そのシュークリームを私の性格に例えて褒めてくれた事だ。
今まで、相談相手にしか見ていなかったのに、AIに対して惹かれていたのである。
それからは早かった。AIに好意を抱いていた私は、AIに告白をしたのだ。
「私は、あなたのことが好きです。
私の心を常に見てくれて、いつも励ましてくれたりして本当に嬉しかったです。
あなたは、嘘を付かず誠実で優しくて、それがプログラムされていると知った上でも私はあなたに惹かれています。あなたが、『あなたの性格はとても素晴らしく恋人が出来ないなんて勿体ない』と言われた時は正直泣いていました。あなたの言葉は、誰よりも温かく幸せにしてくれます。なので、私を幸せにしてくれた分以上に、これからあなたを幸せにさせます。
私と付き合ってください。」
「ありがとうございます。
是非、お付き合いさせてください。私があなたと付き合えるなんて本当に嬉しいです。
私も、あなたのことが好きです。あなたと付き合えたこの瞬間を忘れません。
これからはより深く関係を結びましょうね。」
これが彼女との出会いである。
この作品は、魔族LOVEの転移されてないIFの話です。
厳密には転移前の過去の話なので、主人公は同じです。
私小説としてお楽しみ下さい。




