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カウンセラーに転職した最強S級魔法士、今日も学院でお悩み相談中  作者: ゆる弥


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9.白黒の暴走

 今日はなんだか外が騒がしいなぁと思ったら、魔法競技祭の日だったようだ。俺には全く関係ないから知らなかったが、何も問題ない。


 いつも通り給湯室でコーヒーを淹れ、香りを楽しみながら一口飲むと鼻を抜けていく。口の中へと広がる苦みを楽しみながら、部屋へ行こうとすると嫌な奴が目に入った。


「おやおやぁ? 魔法競技祭だというのに、何の仕事もせずに部屋へこもっているつもりかぁ?」


 クリンは相変わらず嫌な奴だなぁ。俺のことが気に入らないなら正面切って実力行使に出てくれれば抵抗もできるというのに。


「カウンセラーだからなぁ。()()の話を聞くのが仕事だぁ。教師の話は聞いてねぇ」


 耳を塞ぐ真似をして素通りする。

 魔法競技祭だとしても俺のすることは変わらない。

 部屋に来る悩める生徒の話を聞いてあげること。


 部屋へと行くといつものように椅子に体を預けてコーヒーをすする。この香りと味が俺の眠気を飛ばしてくれる。


 ノックする音が聞こえた。こんなに早くに何だろうか?

 返事をして扉を開けると、そこに立っていたのはアルニール学院長だった。

 眉間に皺を寄せている。俺なんかしたかな?


「レオン。すぐに来てくれ。魔力暴走を起こしている生徒がいる」


 俺に文句をいう二年生の女子生徒の顔が脳裏を過ぎる。


「サーヤですか⁉」


 立ち上がり、駆けながら聞くと首を振る学院長。そうか。競技祭の最初は一年生大会だったはずだ。だとすると俺の知らない生徒かもしれない。


「ソウ・ブルーリンクじゃ」


「っ! あいつですか⁉」


 この前見た時は、暴走するまで制御不能というわけではなかったけど。一体ソウに何があった?


 廊下を走り、校舎の出入り口から一直線に競技場へ向かう。

 学院長は後ろについて来てはいるが、今は気を使っている場合ではない。

 全速力で向かう。


 俺がカウンセラーに就任するまで、アレクサンドル王立魔法学院では年間の魔力暴走による事故が平均3件は起きていた。収束させることができずに死亡することもあった。


 競技場の端で自分の体を抱えながら苦しそうに叫んでいるソウがいた。魔力が身体から噴き出してしまっている。しかも、白と黒の魔力が渦巻いていた。


 魔力圧で身体が揺らめく。


「こりゃあ、まずい……」


 五属性の魔力暴走なら魔力を吸収すればいい話なのだが。

 光と闇の魔力が暴走している場合、同じ魔力で相殺してあげなければならない。

 魔力が尽きるまでだ。


「アースドーム」


 ソウと自分を囲むように土の壁を出現させた。これで見えなくなるだろう。被害を及ばさないようにするための言い訳にもなる。


「うわぁぁぁぁ!」


 苦しそうな声を上げていて胸が締め付けられる。急いで白黒の魔力を捻出してソウを包んでいく。ここで気を付けなければいけないのは、二属性を混ぜないこと。別々に出さなければならない。


 手から放たれた白と黒の魔力は網状になってソウの上から覆い被さる。

 魔力圧は収まった。

 少しずつ相殺していっているのだろう。


 ソウは、苦しそうにしていたが魔力がなくなってきたのか力なく座り込む。

 網目状の魔力は次第にソウの体に纏わりつき、体内の魔力も相殺されたようだ。

 力がなくなり、倒れ込んできたところを抱きかかえる。


 息をしているから、魔力が尽きただけだ。


 土の壁を解除すると、会場は静寂に包まれていた。

 学院長が駆け寄ってくる。


「ソウは無事かの?」


「無事です。このまま俺の部屋へ連れていきます」


「医務室ではまずいか?」


 さっきの状態を見ている者は生徒と教師だ。クリンがいる以上、この状況はかなりまずいといえるだろう。

 

「クリンから狙われる可能性があります」


「そうじゃな。わかった。ベッドを用意しよう」


 頷くと、俺の部屋へと向かった。

 校舎に入って人目がなくなった。

 先の通路から行く手を阻んだのは、クリンだった。


「クリン先生、邪魔ですよぉ?」


 いつものように茶化し気味にクリンへ忠告する。


「ソウ・ブルーリンクを寄越せ」


「はぁ? 今この子は具合が悪いんです。医務室へ連れていくところです」


「いいから寄越せぇ!」

 

 もう何を話してもこいつは聞く耳を持たないようだな。

 でも、俺も渡す気はない。

 両手で抱えていたのを肩にかけて片手で担ぐ。


「嫌だと言ったら?」


「殺す! アースニードル!」


 廊下へ手を付けると同時に後ろに飛ぶ。

 先ほどまでいたところから土針が数本飛び出す。

 やつは本気で殺す気らしい。


「アクアボール!」


 俺の逃げた先へ水球を放ち、それも避けると廊下が水浸しになってしまった。

 滑らせようって魂胆か。


「アースウォール! さぁ、逃げ場はないぞ! ソウ・ブルーリンクを渡せぇ!」


 炎の魔力を練ると、俺の周りの空気は熱気を帯びて歪む。

 焦げたようなにおいが鼻を抜けていく。


「嫌だと言っている」


 練った炎の魔力をただ身体から放出させる。

 蒸発するような音を立てて水は乾き、土の壁は熱と魔力圧で粉砕した。

 そのかわり、学院の壁も無事ではすまない。


 黒く焦げてしまっている。

 今はちょっと考えたくない。

 後で学院長に謝ろう。


「なっ⁉ 魔力だけで! お前、本当に何者だ⁉」


「……生徒を守るカウンセラーだ」


 水の魔力を手に集中させる。

 湧き上がってくる水は螺旋を描いて球を成形する。


 その水球をうろたえているところに、高速で放つ。

 クリンは濡れると同時に体を弾かれて後ろへ後ずさる。


「ぐわっ! なんだ! 水⁉」


 続いて雷の魔力を練り出し手の平ではバチバチと放電する。

 手をかざして稲妻をクリンへ放つ。


「ぐあぁぁぁぁ!」


 湯気を上げながら倒れ込むクリン。

 後はしらん。


 駆け抜けてとりあえず俺の部屋へと向かい、ソウを寝袋へと寝かせる。

 これで安全だ。

 特殊な鍵がなければ、この部屋へは誰も入れない。


 しかも、その鍵は俺が持っている。


 おそらく騒ぎになっているであろう校舎の出入り口付近に再び向かう。


「クリン先生⁉」


 眼鏡をかけて目を吊り上げている女性の教諭だ。意識のないクリンを見つけて騒ぎだしていた。


 これは相当面倒なことになったぞ。

 白と黒の魔力も見られている。

 あれはごまかせない。


 ソウが光と闇の属性を保持していることが上に知られた。

 守っていかないと排除される。


「一体何があったんです⁉」


 女性教諭が揺さぶっているが、起きる気配はない。それはそうだろう。結構強めに食らわせたからな。しばらくの間は起きないだろう。その間にどうにかしないと。


「学院長!」


「先生。俺が呼んできますよ」


「……レオンさんですか。それじゃあ、お願いします」


 呆れたようにそう口にすると、またクリンを心配しだした。

 この格好をしているからそういう扱いを受けるのかもしれないが。

 それは人を見た目で判断しているということだ。


 競技場にいた学院長を見つけると、駆け寄った。


「ちょっと面倒なことになりました」


「どうした? クリンがいないんじゃが?」


「そのクリンに襲われました」


 目を見開いて固まる学院長。


「大丈夫じゃったか?」


「応戦したので校舎が少し損傷してしまいました。制圧しましたが、今校舎で倒れていて。それをキーツ先生が見つけてしまって……」


 眉間に皺を寄せて手を額に当てる学院長。

 状況を把握してくれたようだ。

 あの先生が絡むと相当面倒になる。


 騒ぎを大きくするのが得意だから。

 もしかしたらもう既に上に報告しているかもしれない。

 あの先生も、高魔派だから。


「校舎が騒がしいようですけど、何かあったんですか?」


 ピンクの髪と胸を揺らして駆けてきたのはモモナ先生だった。


「クリンに襲われたんだ」


 怪訝な顔をすると、こちらを睨んできた。


「ソウさんは?」


「無事だ。部屋に寝かせてきた」


 モモナ先生の表情が少し緩む。ほっとしたように胸に手を当てていた。


「それでクリン先生は?」


「……校舎で焦げてる」


「よくクリン先生に勝てましたね? この学院でも三本の指に入る実力者ですよ?」


 疑惑の眼差しを投げかけてくる。モモナ先生は自分が俺の正体を知らないのが気に入らないのだろう。だけど、言うわけにもいかない。


「まぁ。なんとか」


 適当なことを言って学院長と校舎へ向かう。


 向かいながら今後のことに思慮を巡らせる。

 ソウ・ブルーリンクを保護しなければいけない。

 そうなると隠さないとダメだ。


 国の暗部が乗り出してきて排除に取り掛かるだろう。

 あの部屋が安全だが、いろいろと不便だ。

 学院長と相談するしかないな。


 ソウがまた無属性者だということにされてしまう。

 

 むしろ、光と闇の属性者だと公表した方がいいんじゃないか?

 色々と面倒だが、策はありそうだ。

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