表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カウンセラーに転職した最強S級魔法士、今日も学院でお悩み相談中  作者: ゆる弥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

8.ほっとけない後輩

 カレンに生活魔法を考えろという宿題をもらってしまったから、思いつく中で一番魔法を生活に活用していそうな人物に接触しようとしていた。


 日が落ちそうなオレンジ色の光が街を色付ける時間に学院を出た俺は、ある場所へ向かっていた。その場は、薄暗い路地裏の奥にある小さな店。


 向かう道中には飲んで寝ている人や、抱き合っている男女が目に入った。そんな道の先にあるのは夜になったら何にも明かりがないんじゃないかというくらい暗い空間の中、ひっそりとした明かりに照らされた扉が静かに佇んでいた。


「ここも久しぶりだなぁ」


 仄かな光が照らすドアノブを握り、引いた瞬間、むっと酒の匂いが鼻に纏わりつく。ここはいつもそうだ。飲んだくれが集まるところ。


「ありゃりゃ? ずいぶん、珍しい顔じゃないのぉ。久しぶりねぇ!」


 ここのママは女のような容姿をしようとしている男だ。コアな人しか来ないが。その分静かに飲める場所だ。


「久しぶり、ママ。今日はライル来てないか?」


「レオンさん、来てくれなくて寂しかったわぁ。ライルたんならあそこにいるわよ?」


「悪かった。最近、忙しくてな」


 ママのウインクを受けながらライルの居る方へと歩を進める。こちらへ視線を向けたライルは、怪訝な顔をして灰色のローブを目深に被った。


 別に因縁のある相手とかではないはずなのだが、なぜ顔を隠すのだろうか。久しぶりに会った友へ向ける視線ではあるまい。


「なんだ? 久しぶりに会ったのに……」


 手を広げて大げさに驚いてみせる。すると顔を凝視して、ため息をついた。


「なんだ。レオンさんかぁぁぁ」


 テーブルに突っ伏して気が抜けたようにそう口にする。何か追われていたりするのか?


 少し顔を上げて目を細めた。


「最近、高魔派の奴らのいびりが凄いんすよ。まぁた誰かがいびりに来たのかと思ってよぉくみたらレオンさんじゃないっすかぁ。助けてくださいよぉ」


 相変わらずライルは心がガラスのようだ。前からそうだった。それを包み込むようにマリンはライルのことを大切な後輩として育てていた。


 最近マリンのことを聞いてショックを受けたが、身近で見ていたライルはどれほど傷ついたんだろうか。本当にマリンは消されたんだろうか。


「宮廷魔法士が高魔派だからか?」


「そうなんすよ。奴ら、ずっと粋がってるんですよ! 生魔派風情がとか言われるんすよぉ」


 マリンが宮廷魔法士の時はそんなことなかった。生魔派が日の目を見ていた。それが、最近では下に見られ歯がゆい思いをしている。


 それが目的だったのか?

 こうやって生魔派を追いやることが?


「今はグレンってのが宮廷魔法士やってるんだろう?」


「そうっすよ! アイツは嫌な奴っすよ! 力をひけらかせて下の者みんなに圧をかけてるんす!」


 たしかにそういう奴が宮廷魔法士だった時はあった。しかし、一度適魔派が宮廷魔法士を勝ち取った時、指名制にして落ち着いた。


 でも、ルールの抜け穴を通されたということだろう。指名制は、その宮廷魔法士が指名をせずに死亡、もしくは行方不明になった場合。その場合は、王の指名で決めるとされている。


 要するに、もしかしたら王が画策した可能性もある。


「ライル、マリンが生きている可能性はないか?」


 ライルは、少し考えて首を振った。

 

「グレンはプライドが高いっす。マリンさんの生きている状態、つまり自分より強い人がいる状態では宮廷魔法士はやらないっすよ」


「ってことは、やっぱりグレンがマリンをやったのか?」


 目を伏し目がちにして歯を食いしばるライル。震えてテーブルを拳で叩く。


「僕がレオンさんくらい強ければ!」


「すまない。何もせずのうのうと生きていた自分が許せねぇよ」


 その時だった。扉の開く音が響き、二人の男が入って来た。カウンターのママとやりとりをすると周りを見渡してこちらへやってきた。


 フードを深くかぶり、暗がりへと身を潜めた。


 二人の男は黒いローブと盾と剣のバッチを付けている。官僚だということだろう。ライルはローブフードを脱いでしまっていた。


「おやおやぁ。これは、生魔派のライルさんではないですかぁ」


「それの何がいけないんすか?」


「いやぁ、べつにぃ。ただ、魔物程度に負けるようじゃあ、宮廷魔法士は務まりませんよぉ?」


 その物言いに歯を食いしばるライル。

 つられて歯を食いしばっていることに気が付いた。

 こめかみが引きつるのを感じる。


「マリンさんは、魔物に負ける様な人じゃないっす!」


「……はっはっはっ! では、どうしていないのですかぁ?」

「魔物に負けたからでしょう? それ以外に理由があるんですかぁ?」


 二人とも馬鹿にしたように唾を吐きながら口にする。いらないことを吐き出す汚い口を塞ぎたい衝動にかられる。


「そ、それは……誰かに、ころ……されたかもしれないっす」


「はぁぁぁ? 魔物に殺されたんだろぉう?」

「誰が殺すんだよぉ。……まぁ、弱いのが悪いんだけどなぁ」


 拳に力が入る。ここまでは我慢してきたが、なかなか我慢するのは難しい。最近感情が高まると魔力が漏れる。魔法を使うことが少ないから、魔力が溜まり過ぎているのかもしれない。


 ヒヤリと空気が変わった。一斉に客が無口になり、こちらへ視線を集中させる。


「おい。誰が弱いだと?」


 思いのほか、低い声が出た。俺は、相当怒っているらしい。


「っ! おまえなんだ⁉ マリンとかいう奴が弱いのがいけないんだろう!」

「そうだ! 王に逆らうからいけないんだ!」


 自分の体を巡る血が上って来るのを感じた。


「王っつったか?」


「いやいや。なんでもない」


「おい?」


 もう一度凄んだが、答えてはくれない。口をつぐんだ。


「おまえ、なんだ? 俺達は官僚だぞ?」


「官僚ごときで、偉そうにすんな」


「なにぃ? オレを怒らせたな? これでもくらうがいい。この店のことなんてしるか」


 手に炎をまとわせて魔法を放とうとしている。

 ママの店で何をしようとしているんだ?

 こいつは、場をわきまえていない。


 密かに指先へ黒い球を出して指で弾く。

 黒い球は炎へと吸い込まれ。

 炎に触れた瞬間、渦を巻いた火は一点に吸収されて無に帰った。


「ん? なんだ?」


 指にもう一つの黒い球を出現させる。

 続けて放った黒い球は、魔法を放とうとした男の鳩尾辺り『魔のう』へ吸い込まれていく。


「うっ! くっ!」


 急に片膝をついた男。

 

「えっ? どうした?」


 もう一人の官僚が、膝をついた男の肩を抱える。うろたえている様子だ。俺の黒い魔力は、この暗い店では見えなかっただろうな。

 

「……魔力が無くなってる」


「はぁ?」


 抱えていた男は何を言っているかわからない様子で顔を歪めていた。


「おまえかぁぁ! 何をした⁉」


 こちらを睨みつけて喚いてくる男。こいつは、本当にどこまでもうるさい奴だ。今は、気が立っている。

 

 雷の魔力を練る。手の中に集まる光はバチバチと音を立てて弾け、周囲の空気を焦がす臭いが立ち込めた。その手を、喚いている男へと向け解き放つ。


 バヂィッという音と共に官僚は倒れた。


「おい! どうした!」


「お前もこうなりたいか?」


「なんなんだよ。あんた。生魔派に用心棒がいるとは!」


 変な勘違いをした一人の無事な官僚は、倒れていた男を肩に担ぎ、重そうに運んでいった。


「あんなのに絡まれてんのか。大変だなぁ?」


「もう。他人事なんっすからぁ! 僕を助けてほしいっすよぉ!」


「だったら、俺に生活魔法を教えてくれ。そしたら、マリンに教えていたようにライルにも魔法を教える。それでいいか?」


 目を丸くして固まっている。驚くのも無理はない。俺は、弟子をとらないと明言していた。マリンはそれを無理やりに切り開いた弟子だったのだ。しかも、女。これは、周りの奴らは衝撃的だっただろう。


「いくらでも教えるっす! その代わり、僕を強くしてほしいっす!」


「あぁ。そしたらよぉ。仕事終わったら、アレクサンドル王立魔法学院に来いよ? 頼んだぞ?」


「了解っす!」


 これで、労せずカレンに生活魔法を教えられる。

 面倒なことが一つ片付いてよかったな。

 ただ、魔法をライルにも教えないといけないか……それはちょっと面倒だけど、仕方ないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ