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カウンセラーに転職した最強S級魔法士、今日も学院でお悩み相談中  作者: ゆる弥


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4.闇への怒り

「申し訳ありません! 本当に、無属性者だったのですがっ!」


 先程まで偉そうにしていたオールバックで眼鏡をかけた男性。今は水晶へ頭を下げている。


『危なくブルーリンク家から有望な跡取りを奪うことになるところだったぞ! まったく! 確かな情報を寄越せ!』


「はっ! 申し訳ありません!」


 頭を何度も下げた。

 先程とは打って変わって、別人のようだ。


『これだから、ブラウニン家は。いつも詰めが甘い!』


「そんなことは……」


『口答えするな! しっかりアグマ様の為に仕事をしろ!』


 一方的に会話は終わり、水晶には何も映らなくなった。眼鏡の内に怒りを宿らせながら虚空を睨む。


 身体を震わせながら唸り、床へかかとを叩きつけて全身の怒りをぶつけた。


「ぐぬぬぬぬ……くっそぉ。レオンめぇぇぇ」


 完全なとばっちりだが、知らない間に恨まれているレオン。あそこまでのことをすれば、それも当然かもしれないが。


 その眼鏡男性の後方にはその一部始終を見ていた人影が去る。先ほどいたところにはピンク色の髪の毛が残されていた。


◇◆◇


──コンコンッ


 学院長が「まぁゆっくりしていきなさい」というから学院長室でゆっくりしていたのだが、来客が来たみたいだ。何も言わずに「入ってよいぞ」と言ったところをみると、学院長の手の者のようだ。


 扉を開けて入ってきたのは小柄で肩まであるピンクの髪の女性。大きな胸を揺らして歩いてくる姿は視線のやり場に困る。咄嗟に視線をそらす。


「学院長、ご報告に上がったのですが。なぜ、この方がいるんでしょう? カウンセラーの方ですよね?」


「ホッホッホッ。こ奴はよいのじゃ。一緒に報告を聞こう」


 この女性ひとはたしか、一年の学年主任の先生だったはずだ。名前はたしか、モモナ・ファイラ。ファイラ家は代々冒険者が兵士になっている血気盛んな家系だったと思ったが。


「学院長がそう言うのなら、信用していいんですね?」


 にこやかな笑みを浮かべながら頷く学院長。

 それをみるとこちらへ細い目で視線を向け、警戒しながら口を開いた。


「オホンッ。先ほど、学院長室から出てきたクリン先生は、廊下の影の方へ向かうと、誰かと通信水晶でやりとりしているようでした」


「フム。誰かはわかるかい?」


「クリン先生を、ブラウニン家はこれだから、みたいなことを言っていました。後は、アグマ様の為に仕事しろと怒鳴りつけられているようでしたが……」


 アグマ?

 俺は聞いたことがない名前だなぁ。

 どこのどいつだろうなぁ。


 俺が知らないということは、宮廷魔法士でも届かないところに黒幕がいるってことだ。

 ……あぁぁ。面倒なことになりそうだ。


「レオン、知っておるか?」


「いえ。俺は存じませんねぇ。そんな名前の奴は」


「ワシも聞いたことがない。もしや、隣国の者かのぉ?」


 二人の会話を不思議そうに聞いているモモナ。まぁ、なんで俺に聞くのかが疑問なんだろう。それは、何も知らなければそうなる。


「あの、失礼ですが、あなたは何者なんです? 学院長と親しいようですし、その容姿でも何も言われないというのはちょっと不思議なんですが?」


 ボサボサの髪に伸び放題の髭。ヨレヨレの服とローブを着てカウンセラーなんてやってたらそう言われても仕方ないわな。


「俺は、ただのカウンセラーですよ。()()()()()のね」


「むう……」


 モモナは正体を明かさない俺に口を尖らせて不機嫌全開の顔をしている。その顔は可愛らしいけど、その顔も俺は一瞬しか見ることができない。


 どうも女は苦手だ。後、クリンみたいな高飛車な奴。


「ホッホッホッ。まぁ、そうしておいてやりなさい」


 学院長の一言で諦めてくれたみたいで、頭を下げると部屋を出て行った。


「ふぅぅ。それで? 何かわかったかのぉ?」


 モモナにはあえて何も考えを明かさなかったのは、逆スパイも警戒しているのかもしれない。裏切り者ってのは、そこら中にいるからな。


「ブラウニン家を貶すということは……」


「……高魔派か」


「そうですねぇ。だとすると厄介ですね。あぁ。面倒な……」


 魔法士の中には大きな派閥が存在するのだ。それはそれは面倒な関係にある。


「ワシら、適魔派は国の闇にまでは入れていないからのぉ」


「ですねぇ。俺は排除を告げられた時。それ以上の闇に入ることを拒否してしまいましたからね」


「それは、ワシもじゃ……」


 俺はその後の宮廷の情報は一切ない。学院長みたいに密偵を潜り込ませているわけじゃないからな。宮廷でやっていくには、味方がいくらいても足りないからな。


「学院長は、今の宮廷の情報はどこまで把握しているんです?」


「大体は把握しておるよ」


「今って、マリンが宮廷魔法士ですよね?」


 辞任する際に、俺が後任を立てなければならず。

 強くなることに一生懸命だった後輩の女の子を指名したのだ。

 水、雷、地の三属性持ちで天才と言われていた。


 女嫌いの俺にずっと付いて歩き、あらゆることを吸収していた後輩。あの子なら何かを変えてくれるんじゃないかと思って任せたんだ。


「それがのぉ……今は、グレン・クーレイナという戦闘狂がなっておる……」


 思慮が追い付かなかった。俺の推薦したマリンではない?

 もしかして、同じように排除を言い渡されて職を辞したのか?


 目を伏せてため息をついている。

 こんなアルニールさんを見たのはあれ以来だ。

 もしかして……?


 一番変えたくない最悪の答えに辿り着く。


「……まさか」


「マリンは、表立っての公表としてはSランク魔獣の討伐で殉職したことに《《なっている》》」


 なるほどぉ。俺の大切な愛弟子は……。


 部屋の温度が数度下がる。

 抑えきれない感情が出てしまう。

 部屋の壁に亀裂が入った。


「堅牢」


 アルニールさんが咄嗟に壁の内側に分厚い鉄壁を出現させたみたいだ。頭ではわかっている。権力争いだから、そんなこともあるということを。


 その権力争いの中に入れてしまったのは俺だ。責任は俺にある。


 歯を食いしばり、気持ちを落ち着けようと拳を握る。


「レオンの責任ではない。残酷なようだが、マリンが弱かった。それだけじゃ」


 もっと鍛えていれば。

 もっと凶悪な魔法を開発していれば。

 誰にも負けないような魔法士に育てられたら。


 後悔の念が頭の中を支配する。


「泣くほど、マリンを思っていたのだな」


 頬を撫でると濡れている。

 泣いている?

 現役時代、冷静を貫いていた俺が?


「はははっ。泣いていたら、マリンに笑われてしまいますね」


『師匠! なぁに泣いてんっすかぁ? らしくないっすよ?』


 笑顔で話しながら、スカイブルーの髪を揺らしながらこちらを振り返るマリンの姿が脳裏に浮かぶ。あの笑顔をもう見ることはできないのか。


「おそらく、やったのはグレン・クーレイナじゃ。事故死に見せかけたようじゃ。助太刀したが、喰われたと言っておる」


「っ! マリンはそんな──」


「──わかっておる。あの子は、S級魔獣ごときにやられるタマではないわ」


 アルニールさんも顔を歪めて虚空を睨みつけている。


「本当に腐っておる。グレンは高魔派じゃ」


「マリンは、生魔派ですね……」


 三魔派閥と呼ばれる中で、生魔派は派閥力が一番弱い。生活の為になるように魔法を考えるという優しい派閥だったのに。


「許せねぇ……」


「ワシも腸が煮えておるのじゃ。レオンには伝わっておると思っておった。すまん」


 頭を下げるアルニールさん。

 俺は適度に魔法を敬う。魔法が全てではない。魔法も使うし、身体も使う。という派閥に所属していた。この派閥は体術や剣術も体得する。


 その一部をマリンには教えていた。派閥は違えど、初めての弟子だった。教えられることはすべて教えた。だから、魔獣ごときに喰われるなどあり得ない。そこまでの高みにいたのだあの子は。


「俺は、あの日以来すべての繋がりを切りました。自分のせいです。アルニールさんは悪くありません」


「高魔派が動いたと思うのじゃ」


 あの派閥は王の側近へと食い込んでいて、裏社会にも顔が効くという。そんな奴らにこの国を食われてたまるか。


「面倒ですが……全力を尽くします」


「ホッホッホッ。伝説の魔法士、レオン・グレンブルの本気か。久しぶりに見るのぉ。お主にしか照らせぬ闇があるじゃろうて」


「できる限り尽力します……」


 愛弟子の訃報を聞いたからには、動くしかない。

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