見習いメイドと気さくな騎士様
ここはとある王城にある宿舎の一室。一人の見習いメイドがいた。
ピンクのロングの髪を一生懸命に三つ編みにしている。ゴムで結んだ後に上から緑色のリボンを巻き付ける。次に前髪を整えて姿鏡で格好を見直す。
黒を基調としたメイド服、白いエプロンのリボンがちゃんと傾いてないか確認する。
「変なところないかな…。ああ、今日も会えたら嬉しいな…」
思い浮かべるのは気さくでかっこいい想い人。
「アリシアー。支度は終わった?仕事に行くわよ」と先輩の声がドアの外から聞こえる。「!今行きます!」アリシアは返事をして急いで仕事へ向かう。
洗濯を終わらせて中庭の掃除に先輩と行く。長い廊下を歩いているときゃっきゃと女性の嬉しそうな話し声が聞こえた。
なんだろ、と声が聞こえる右に曲がったところを振り向くと、一人の騎士がメイド達に囲まれていた。
あ、と思わず声を漏らす。
「アリシア?何してるの?」
「…」
「?あー…」
アリシアは壁の後ろに隠れて盗み見する。そんな彼女の行動を不思議に思った先輩は彼女の視線の先を見て納得する。
あそこにいるのはアリシアの好きな人だ。
黒髪で少し襟足が長い髪型に優しい青い目。
イケメンで物腰が柔らかくて、メイドや侍女の中でも人気でよく話しかけられているところを見る。
「盗み見してないで話しかけてきたら?」
「え!?い、いや緊張しますし…私は眺めてるだけで平気っていうか…その…」
でも盗み見してる方が変だと思うけれど、なんて言わないでおいた先輩。
もにょもにょと顔を真っ赤にさせるアリシア。この子が普段は明るいが好きな人の前では引っ込み思案になってしまう。
「はぁあああ〜。今日もかっこいい…!」
「はいはい、そうね」
「!、あ」
騎士様と目が合った、とアリシアは固まる。そのまま騎士はにこりと微笑んでアリシアに向かって手招きするが、肝心の彼女は顔を真っ赤にして微動だにしない。
「行かないの?手招きされてるわよ」と先輩が促すと、
「〜っ!む、無理です…!」
「あ、逃げた」
ぴゅーっと廊下を走っていったアリシア。その後を先輩も追っていく。
その時、ぱさ、と髪に結んでいた緑のリボンが床に落ちた。
手招きしたのに、と騎士はきょとんとして目を瞬きさせる。その様子に不思議に思った側にいたメイドが声をかける。
「ノエル様?」
「あ、いいや。何でもないよ」
*
その日の夜、仕事を終えたアリシアは部屋に戻って半泣きになっていた。
「バカバカバカー!私のバカー!なんで逃げちゃったのー!」
折角手招きしてくれたのに!と昼間のことを後悔していた。
あんな態度を取っては嫌われてしまうかも。
と思うと涙も引っ込み、サーっと青ざめた。
「あ、明日謝らないと…で、でもまともに話したことないし…」
そう、まともに話したことはない。話しかけられてもアリシアが恥ずかしがってちゃんとした返事をしたことがない。
我ながら恥ずかしい。
「はあ…リボンまでどこか行っちゃったし…ついてない…」
三つ編みを解いて髪を梳かす。
湯汲みにでも行こう…と大浴場のある一階に行こうとドアに向かうと丁度外からノックされた。そろそろいつも一緒に大浴場にいく先輩が迎えにきたのだろうか。
「はい、」とアリシアが相手を確認する前にドアを開けるとそこにはノエルがいた。
「うぇ!?」思わずびっくりして上擦った声が出てしまう。彼は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんね、突然」
「い、いえ!き、騎士様、ど、どどうかされたのですか?」
「うん、落とし物届けに来たんだ」
「お、落とし物?」
何だろう、とアリシアは首を傾げる。
と、というか!憧れの騎士様が目の前に!!
もう心臓が口から出そうである。顔を真っ赤にさせるアリシアはなるべく自分に落ち着けと言い聞かせる。
ノエルが右手を差し出すとそこには緑色のリボンがあった。どうやら彼が拾っていたようだ。
「あ、ありがとうございます」とカチコチになりながら受けると、彼は「そんなに緊張しなくていいよ」と優しく言った。
「す、すみません…!男の人と話すと緊張しちゃって…」
それもそうなのだが、貴方と話すのはもっと緊張する。
でもそんなこと言っては、好きですと言っているようなものなので言えない。
すると、ぽんと頭を撫でられる。
ノエルは優しく微笑んで何も言わない。
!?!?とアリシアはもう蒸発するじゃないかというくらい湯気が出る。
「あ、あの…!」
「あ、ごめんね。つい。女の子に触っちゃだめだよね」
「い、いえ、う、嬉しい、です…」
「…」
顔を真っ赤にさせて頑張って素直な気持ちを伝えるアリシア。
撫でてくれた…!嬉しい…!と幸せいっぱいだった。
そんな一方でノエルは目の前にいる小動物をどう捕らえようか考えていた。
遠目から自分を眺めてくれて、話しかければすぐに顔真っ赤にして愛おしい。今までそんな彼女が面白くて特に何もせずいたけれどそろそろオチカヅキになりたい。
「部屋お邪魔していい?」
「え!?えと、その、」
「いや?」
「い、嫌じゃないです!ど、どうぞ!」
あー可愛い、とノエルは顔に出さずにこりと微笑んだ。
押せば簡単に折れてくれそうなところがまた良い。
6畳半の小さな部屋にある棚にウサギや犬などのぬいぐるみがぎっしりに飾られていて、机には編みかけのマフラーが置かれてあった。
女の子らしく可愛い部屋。想像通りの可愛い女の子。
「す、すみません、散らかってて」
「そんなことないよ。可愛い部屋だなって」
「か、かわ…!ソファとかないのでベッドに座りましょう…!」
「え、いいの?」
「?は、はい」
それ以外に座る場所ないし…とアリシアは思う。
ノエルは口元に手を持っていくと少し考えてから「うん、じゃあ遠慮なく」と座った。
アリシアは隣に座るとノエルは嬉しそうにニコニコした。?とアリシアは彼の意図が分からず、でも返事をするようにニコッと微笑んだ。でも緊張する。
こうやって少しずつ慣れてくれるといい。
慣れずに顔を真っ赤にさせる君も可愛いけど、やっぱり仲良くなりたい。
「いつも三つ編みにしてるけど髪解くと印象変わるね、大人っぽい」
「…!お、大人っぽいの好きですか…?」
「うん、三つ編みの時も解いてる時もいいなって思うよ」
「そ、そうですか」
あ、嬉しそう。
自分の言葉一つ一つにそうやって一喜一憂してくれるのが楽しくてたまらない。
するとアリシアはハッとして何かを思い出したようだった。
「き、騎士様!あの、昼間は逃げちゃってすみません…」
「ああ、気にしなくていいよ」
「でも…」
「何となく予想してたし、それに今はこうしてアリシアと話せてるのが楽しいから」
「よ、よかったです…?」
今度はよく分かってなさそう。
ノエルは少しアリシアに近づくとアリシアの腰まで長いピンクの髪に指を絡めて、撫でたりする。
突然の彼の行動にアリシアは緊張して目を回す。
「あ、あの、騎士様、」
「んー?」
「ち、近いです…!」
「そうかな?」
「そ、そうです…!」
なんでいきなりこんなことを…!とアリシアは耐えきれなくなってくる。
ノエルは相変わらずニコニコしている。
「でもそうだね、アリシアに逃げられちゃって残念だったなあ」
「うぇ!?ご、ごめんなさい…!」
「反省してる?」
「は、はい!もう逃げないです…!」
「そっか、じゃあ証明してもらおっかな」
「??え?」
どうやって?とアリシアは目が点になる。
するとノエルが自分の膝を指差した。その行動の意図が分からず彼女は首を傾げた。
にこ…とノエルは楽しそう。
「膝の上座って?」
「へ!?あ、あの、それは無理というか…」
「ふーん、さっきもう逃げないって言ったのに?」
「あの、それは」
彼女は目を泳がせてどうするか迷っているようだが、ノエルは譲る気はなかった。無言の圧力でニコニコしているとアリシアは折れてしまいふるふると顔を真っ赤にさせて息を飲んだ。
ノエルの膝の上に座るが、めちゃくちゃ姿勢よく背筋を伸ばす。
「ほら、寄りかかって」
「!は、はい…!」
「うん、いい子」
肩を掴まれてノエルに寄りかかるようにさせられる。
本当に!?これで証明になりますか!?とアリシアは恥ずかしさで胸がいっぱいだった。
ドキドキと高鳴る心臓が彼に聞こえないか不安になりながらも、好きな人に触れられて嬉しい、と幸せに浸ってしまう。
一方、アリシアの頭を撫でて心底楽しそうで幸せそうなノエル。
あの時、丁度よくリボンを落としくれてよかった。あれ自体ただ偶然だが、どっちにしろ落ちなくても次会った時に何かしらこじつけてこういうことをする予定だった。
俺のことが好きで好きで仕方ない子。
可愛くて楽しくて仕方ない。
「(少しずつ俺に慣れていってね)」




