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第7話 何のために

(……ああ。いい匂い……。なんかすごい寝心地のいいし……。すごい落ち着くなぁ……)


 楓との戦闘の後、ミルルふかふかで柔らかい枕と、誰かに頭を撫でられる感覚で心地よさを感じていた。


(気持ちいいなぁ……。お母さんのこと思い出す……。あれ……。ウチ、何してたんだっけ……? 確か……酒場で美味しそうな獲物をみつけてぇ……)



「はっ!」


 その瞬間、ミルルは覚醒し、目を大きく見開く。


「あっ。起きた」


「おはよう。よく眠れた?」


 ミルルの目の前の光景。それは、焚き火の前に座るマーガレットと、()()()()()()()()()()()()()姿()()()()


「う、うにゃあああ!!!」


 ミルルは赤面し、奇声を上げながら飛び退く。

 

 まるでびっくりした猫のように。


「な、な、な、なん、なにが、なんで!?」


 寝起きということと、状況が飲み込めないことが重なりうまく舌が回っていない。


「よかった。外傷はなかったけど全然起きなかったから心配したよ」


 楓はほっと胸を撫で下ろす。

 

 その様子をマーガレットは不満そうに眺めている。時刻は夜の8:00。

 

 マルカナから逃走した3人は陽が落ちてしまったため、ここで野営をすることとなった。


「いやいやいや! なんで膝枕!? 一応私たちさっき殺し合いしたんですけど!?」


 ミルルは顔を真っ赤にしながらツッコミを入れる。この状況に対する疑問という意味もあるが、まさか倒された相手に膝枕され、あまつさえ気持ちよくなってしまっていたことへの照れ隠しもある。


「別にいいじゃない。子供は安心して眠ることが仕事なんだから」


「ウチ子供じゃないし! てか、そういう問題じゃないし! あんたもなんとか言いなさいよ!?」


 ミルルはマーガレットの方に話を振る。

 

 マーガレットは持ち物を盗まれた被害者。

 

 当然ミルルに対して思うところはある。

 

 だがマーガレットは諦めたように深いため息をつく。


「もう……慣れたわ。この人の言動については」


「諦めないで!? ウチの立場はどうなるのよー!?」


 誰もいない森の中。

 

 ミルルは自分の置かれている不満を力一杯叫ぶ。


「てかウチの荷物は!?」


「ああ、それならここにあるわよ」


 そう言ってマーガレットは後ろにあるミルルの大きなバックパックに手を伸ばす。

 

「っ! ちょっと! 勝手に触らないで!」


 ミルルは激昂し、マーガレットに飛び掛かる。


 だが、それよりも早く楓は背後に周りミルルを抱きしめる。


「ごめんね。流石に相方を傷つけることは見過ごせないの。」


「ち、ちょっと離しなさいよ! てか力強!」

 

 抱きしめられたミルルはなんとか抜け出そうとするが、あまりの強さに抜け出すことができない。


 そんな二人を傍にマーガレットはバックパックの中身を開け中のものを取り出す。

 

 中から出てくるのは様々な魔道具。

 なんとなく使い方がわかるものもあれば見た目だけでは何が出来るのかわからないものもある。

 そしてどれもこれも市販では売ってない魔道具だ。


「これ、全部あなたがつくったの?」


「……そうよ。そこにあるものは全部ウチが作ったもの」


 マーガレットは魔道具を食い入るように眺める。


「これ全部……。あなたすごいわね!」


 マーガレットは興奮気味にミルルを見つめる。


 キラキラとした眼差し。

 これは初めて楓に会った時と似た眼差しだ。


「このフックショット。初めて見た時はそれどころじゃなかったけど、よく見ると機構も素材も手が込んでる。重量は何キロまで耐えられるの?」


「え? えっと……。50キロまでならいけると思うけど……」


「50キロ!? フルプレートアーマーを装備した騎士が持ち上げられるわね……。あっ! この閃光玉! これってどんな原理で光ってるの?」


「……それは光源蝶の鱗粉を使ってるの。光源蝶は外敵を見つけると光出す性質があるからそれを利用して、地面に叩きつけた衝撃で光るの」


「へぇー。すごい発想ね! 私こういう魔道具大好きなの!」


「そ、そう言ってくれると嬉しいけど……」


 ミルルは赤面しながら恥ずかしそうに視線を落とす。

 

 彼女の猫耳のような癖っ毛がぴょこぴょこと動いている。


 その様子を見て楓はミルルから腕を離す。

 

 腕を離されたミルルは逃げられるという状況に気づかず、マーガレットの元に近づく。

 もっと自分の作った作品を紹介するために。


「う、ウチが作ったものの中での最高傑作はやっぱりこれかな」


 そう言ってベルトに着けてあったフラスコを取り出す。


「それ! さっきも見たけどすごかったわ! スライムの性質を応用してるの?」


「うん。スライムは知能がないから、魔力を流すだけで簡単に操ることができるの。それをうまく加工して、竜の姿に変身できるようにしたの」


 二人はさっきまで敵対していたとは思えないほど、会話に熱中する。


 そんなマーガレットの様子を見て、楓は驚いていた。


 (マーガレットのこんな顔初めて見るわね。……いや、出会って最初の頃もこんな感じだったか。元々この子はこういう性格なのかもね……)


 そんな感傷に浸る楓をよそに二人は楽しそうに談笑を続ける。

 

「あと、こっちの魔銃もウチの自信作で……。て、いやいや! そうじゃない! なんでウチら和んでんのよ! あんたたち私の敵でしょ!?」


 会話を中断し、勢いよく立ち上がる。

 

 再び強張った表情で二人を見つめる。


 それに引き換え、二人の表情に最早緊張感はない。

 

「別にいいんじゃない? 敵対関係って言うのはお互い因縁があって初めて成立する。でも、私は最初からあなたを殺すつもりは無いし……。マーガレット? あなたはどうなの?」


「……私ももういいわよ。盗まれたものは全部戻ってきたし……。それに、いいもの見せてもらったしね」


 マーガレットは彼女と言葉を交わし、彼女の人間性を理解しかけていた。

 

 人を騙し、盗みをするミルルだが、自分の好きなことを褒められればまるで子供のようにはにかみながら喜び、キラキラとした瞳で楽しそうに話す。


 そんな彼女に敵対心を抱くことはもう彼女たちには出来なかった。

 

「……ウチがまた何か盗むとは思わないわけ?」


「その時はその時。また私が取り返す。あなたも、さっきの戦いを見て逃げ切れると思う?」


 楓のその言葉を聞きミルルは肩をすくめる。

 

「……いや、無理ね。あなたからは逃げられないわ。わかった。もうあなたたちから金品は奪わない」


 そう言うとミルルはその場に座り込んだ。張り詰めていた警戒心を解いたようだ。


「じゃあ改めて、聞かせてもらっていい? あなたたち何をするつもりなの?」


 



 

 ミルル改めて二人を見つめる。


「手配書は見たわ。国家反逆罪。しかも相手はこの世界最強の軍事国家。あんな奴らを相手に何をしようとしているわけ?」


 ミルルの疑問はもっともだ。

 

 サンクティアに喧嘩を売ろうと考えるものは少ない。

 ましてやたった二人でなど皆無だ。

 

 正気を疑われても仕方ない。


 ミルルの質問に対し、最初に口を開いたのはマーガレットだった。


「私たちはサンクティア王国の聖騎士たち、引いては勇者が中心のこの世界を終わらせる。そのために旅をしてるの」


 マーガレットは話す。

 自分たちが何を成そうとしているのか包み隠さず。


 あまりの荒唐無稽な内容にミルルは面食らう。


「はぁ!? 正気なの!? それって、サンクティアどころかこの世界の勇者たち全員を敵に回すことになるわよ! それを、たった二人でやろうっての!?」


 ミルルは大声で怒鳴る。

 

 その怒声にマーガレットはなんの躊躇いもなく頷く。


 理解できないと今度は楓の方に視線を向ける。


「あ、あんたもそんなことができると思ってるわけ?」


「え? 私? さぁね。私の目的は強者と戦うこと。マーガレットの目的を手伝えばその願いが叶うっていうんなら私はどこまでもついてくわよ」


 そんな風に平気で答える楓にミルルは驚愕する。


「……馬鹿げてる。そんなことできるわけ……」


「馬鹿げてるのは百も承知。それでも譲れないものがある。その譲れないもののために私は最後まで足掻き続けたい。あなたにはないの? そういうもの。」


 マーガレットからの突然の質問に、目を見開く。

 

 その質問が予想外であり、また()()()()()()()()()()()()()


「う、ウチは……」


 その質問に対してミルルは言い淀み、しばらく沈黙が続く。


「はいはい。もうやめましょう。これ以上話しても私たちの意見はかわらないわ。さぁ。マーガレット、ご飯にしましょう!」


 楓が話を強引にぶった斬り、この話はここで終了した。


「あなたも一緒に食べましょう。マーガレットの料理美味しいのよ」


「い、いや……ウチは」


「遠慮せずに食べて。3人分ちゃんと作ってあるから」


 そう言ってマーガレットも器に装ったスープをミルルの前に差し出す。ミルルはそれを渋々受け取り、3人焚き火の日を囲む夕食が始まった。


(譲れないもの……か)


 その言葉を自分の中で反芻し続ける。

 

 自分の中に残り続ける、とっくの昔に諦めてしまったある思いに。



 


 東の空から登ってくる朝日に照らされ、マーガレットは起きる。

 

 横を見ると、そこにはすでにミルルの姿は無かった。


「ミルル、行っちゃったのね」


 すでに起きていた楓もそのことに気づき寂しそうに呟いた。


「……そうでしょうね。巻き込まれたくはないだろうし」


「はぁ。ミルルの髪、モコモコしてて撫で心地よかったんだけどなー。一緒に同行したら旅に癒しができたでしょうに……」


「悪かったわね。癒せるほど可愛げがなくって」


 マーガレットは不機嫌そうに返す。


 そんな様子のマーガレットの頭に楓は手を置く。


「大丈夫! マーガレットも十分可愛いから!」


「いやそういうことじゃないから! というか頭撫でないで!」


 マーガレットは赤面しながら楓の手を振りほどく。

 

「わかってるわよ。でも大丈夫。またきっとどこかで会えるわ」


 楓は優しい声色でそう答えた。

 

 寂しげな面持ちを見せるマーガレットを気にかけていたのだろう。


「楓……そうだね」


 マーガレットは顔をそらしながらそう答えた。


 「さて! 先を急ぎましょうか!」


 「……うん。今日中にキリカラ樹海にたどり着ければ……あっ」


 片付けを始めたマーガレットは突然声を上げる。


「どうしたの?」

「……これ……」


 それはフラスコが刺さったベルト。

 ミルルが腰に巻いていたものだ。


「あの子……忘れて行ったわね……」


「……早速、会う用事ができたみたいね」

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