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第46話 業火

 「精々生き残れ? 脆弱」


 景晴は楓に突撃、凄まじい強打を浴びせる。

 重く、早い拳の連撃。


 何とか攻撃を捌こうとする。

 しかし、威力も速度も楓では対応できない。受ければ衝撃は全身に響き渡り、躱わせば余波のみで体が吹き飛びそうになる。そしてその威力は一撃放つごとにどんどんと上がっていく。


「おらどうした! その程度かよ! 「暴乱の勇者」!」


 相手の挑発に楓は唇を噛み締めながら、後方に飛び退く。

 一度距離を取る事で反撃の動作を取る。


「角竜突!」


 地面が抉れるほどの脚力で踏み込み、景晴に向かって突っ込む。

 だが楓の起死回生の一撃は正面から、難なく受け止められてしまう。


「……軟弱」


 腰のあたりを掴まれ受け止められた楓はそのまま、空中に投げ飛ばされる。

 楓は諦めずに空中で体制を立て直し、眼下の景晴を睨みつける。


「重竜……脚!」


 上からの落下による攻撃。

 渾身の脚力を込めて、体重以上の重量を相手に叩き込む。

 しかしそれも片手で受け止められる。


「……貧弱」


 弾き返された楓は、地面に着地。

 その着地に合わせて景晴が拳を顔面に叩き込む。


「脆弱!」


 振り抜いた拳は楓の体を遥か後方まで吹き飛ばす。


 叩き込まれた拳に意識が混濁する中、楓は理解する。

 重さも、力も、速度も、景晴はすでに楓を超えていると言うことに。


 楓はなす術なく、後方の瓦礫の中に叩き込まれる。


「あーあ。脆弱だなぁ。

 これが俺たちと並ぶ勇者だ? 笑わせんなよ」


 相手は自分の遥か彼方にいる。

 これが国ひとつ破壊できると言われる……、この世界の頂点に存在する勇者の力。


 だがそれでも……。


 楓の闘志は消えてなかった。

 いや、消すわけにはいかなかった。



「……おいおい……まだやんのかよ」


「あたり……前だろ……! 死ぬまで……やってやる!」


 楓は瓦礫の中からよろよろと立ち上がる。

 顔を殴られた衝撃で鼻血が止まらず、焦点も定まっていない。


 それでも眼前の敵を睨みつけ構えを取る。

 それに対し景晴は呆れたようにため息をつき、再び拳を握る。



 その時、


 2人は同時に動きを止め、両者とは別の一点を見つめる。


 そこにあまりに巨大な力を感じたから。



「な……何だ……?」


「おいおい……まさかここまで出てくるのかよ……」


 それは悠々と、こちらに向かって歩いていた。

 自分の身の丈以上の巨剣を担ぎ、山羊のような暗く大きな角を頭に生やした鎧の戦士。

 

「……ここだな……」


 魔王がここに参戦する。




 



「はっはは……。こいつと戦うつもりはなかったんだがなぁ……」


 景晴は楓を無視し、やってきた魔王に視線を向ける。


「まぁだが……試しに味見してみるのも悪くねぇかもなぁ!」


 景晴は魔王に突撃。楓との攻防で大きく肥大した右腕を魔王に振り下ろそうとする。


 そこに……。


五つの厄災(デストルクティオ)  灰燼炎天(トリアス)


 その言葉と共に景晴の体が突然業火に包まれる。


「ぎゃああああっっ!!!」


 景晴は絶叫しながらその場でのたうち回る。

 何度も何度も転がり周り必死に体の炎を消そうとする。

 しかし、その炎は消えることがない。むしろどんどん火力が上がっていく。


 炎越しに見える景晴の体はどんどん溶け、骨格まで露出していく。


 しかし、


「ま……まだだ……まだ……」


 景晴は燃え盛る肉体のまま立ち上がる。


「まだだぁあああっ!」


 周囲の大気を震わせるほどの雄叫びを上げた瞬間、体の炎が一瞬で消え去った。

 肉体の再生力のみで消えない炎を消し去った。

 筋肉は先程のよりも肥大化し、火傷どころかかすり傷一つなかった。


 景晴はそのまま、魔王に向かって拳を振るう。

 楓、魔王からの攻撃を受けた景晴の肉体は急激な成長を遂げ、ただの拳でもその衝撃で大地が揺れるほどの威力を持っていた。


 魔王はその一撃を顔色ひとつ変えずそれを迎え撃つ。

 左腕は剣を担いでいるため右手のみで景晴の攻撃を捌き切る。これほどまで威力が上がってなお、魔王にとっては片手で捌き切れるほどだった。


 だが景晴も諦めることはない。

 続け様に放たれる攻撃はさらに速度が上昇していき、魔王の捌きを少しづつ凌いでいく。


 そしてついに、右拳が一撃、魔王の顔面にクリンヒットする。


「どうした! この程度かぁ? 魔王!」


 頬を撃ち抜かれた魔王は大きく体をよろけさせる。

 衝撃で乱れた黒髪、その隙間から景晴を見つめる。


 叫ぶことも、表情変えることもしないがその視線から凄まじい怒りを感じる。


 そしてそれと同時に魔王は担いでいた剣を下ろし、両手で握る。


「お? やっとやる気にな……」


灰燼炎天(トリアス)


 魔王の剣が先程の炎を纏う。

 そして、一瞬で景晴の懐に入る。


 その様を見た景晴は一言呟く。


「……あ、こりゃだめだ……」


 景晴のその一言、それが彼の最後の言葉になる。




 


「急いで! ミルル!」


 魔王から見逃されたマーガレットとミルルは、なんとか楓と合流すべく、魔王の後を追っていた。


「ま……待ってよマーガレット……まだ疲労が取れてない……」


「肩は治したでしょ? 痛みはないはずよ?」


「そうだけどウチ一回死にかけたんだからね?」


 外れた肩はマーガレットの魔術で治し、その他の肉体の損傷もすでに治っている。とはいえ精神的なダメージは回復魔術では治せない。本来ならもう少し休ませるべきなのだが、マーガレットにはその時間が惜しかった。


「休ませてあげたいけど時間がない……。一刻も早く楓のところに行かないと……」


 魔王が楓の元に向かった。その事実がマーガレットには気がかりだった。


 そして、その気掛かりは現実となってマーガレットの目に飛び込んでくる。


 突然、凄まじい轟音があたりをこだまする。


 バリバリと、何かが避けるような重低音。

 それと同時に発生する地響きで2人はまともに立っていられなかった。


「こ……今度はなんなの……!?」


 なんとか倒れ込まないように両手をついて、四つん這いの状態で顔を上げる。

 

 その原因はすぐにわかった。


 二人の目の前に広がる光景。


 それは天を突くほどの巨大な炎の斬撃。

 地面を裂きながら直進していく姿はまるで空間を隔てる炎の壁に見えた。

 炎は進み続け、後方に見えた山に向かって直進を続ける。


 炎は歩みを止めず、そのまま山に直撃。

 山岳を粉々に砕け散らせ、ようやく霧散した。


 あまりに現実離れした光景に二人はその場に立ちすくむしかなかった。


 漏れ出した言葉はたった一言。


「楓……」

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