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第45話 降臨

「……ミルル……」


 マーガレットは集落の外に出て無事住民全員を外に逃すことができた。


 ミルルとの作戦で、全員を集落の外に逃したら爆弾を空に打ち上げる。

 それを撤退の合図とする。

 そうミルルと約束した。


 (すでにみんな集落の外に出た。爆弾も打ち上げた。

 あとはミルルと合流すれば……)


「マーガレット!」


 軽快な声が聞こえてくる。


 そちらに目を向けると先程まで勇者と攻防していたミルルの姿があった。


 マーガレットはその姿にひとまず胸を撫で下ろす。


「よかった……無事だったんだね」


「あったりまえよ! この程度じゃウチは死なないわ!

 それより、みんなは大丈夫?」


「ええ……。みんなは無事。ナギのおじいちゃんも、肉体の損傷はなかったから、回復魔術を掛けたら落ち着いた」


「そっか、よかった……。じゃあ、楓を拾ってウチたちも早く逃げよう!」


()()()()()()()()()()?」


 突如、2人とは違う男の声が地面の下から聞こえてくる。


 2人が視線を足下に落とすと、地面の岩が少しずつ集まり形を成している。

 岩は少しづつ積み上がり、大男の姿へと固まっていく。


「テメェらだけは……逃がさねぇよ!」


 ジルコアは岩石を操るギフトを持つ。

 手で直接触れることでそこから伝わる振動をキャッチし相手のおおまかな位置を探ることもできる。

 さらに地面と同化すれば高速で地面の中を移動することも可能。

 


「くっそ! しつこいなおっさん!」


 ミルルがジルコアに向かって閃光玉を投げつける。


「もう同じ手に引っかかるかよ!」


 ジルコアは素早く腕で目を覆い、閃光玉の目眩しを回避する。


 だがそれだけで十分だった。

 ジルコアが目を塞いだ瞬間、マーガレットはジルコアの背後に回る。


 そして、ちょうどミルルと対角に位置するところに立ち鏡を素早く取り出す。


「"数多を欲する咎人よ。今ここに空虚な契りを断ち、(まこと)の姿をその身に写せ!"」


 鏡はマーガレットの詠唱に応えるように光を帯び始める。


「はっ! クソが!」


 状況に気づいたジルコアは急いで背後に振り返り、マーガレットに攻撃を仕掛けようとする。


 しかし、それは対角にいるミルルがジルコアの両足を正確に撃ちバランスを崩すことで阻止。


 詠唱は終了、相手はバランスを崩し反撃できない。

 完全に準備は整った。


「"天与剥奪(シュトラール)"!」


 オズワルドの時と同様、ジルコアから光が漏れ出し鏡の中へ吸い込まれていく。


 自らの力が吸い取られていく感覚により、ジルコアは体勢を崩す。


 あと少し……もう少し……。


「ぐ……うがぁ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」


 倒れ込みそうな体を起こすジルコアは雄叫びを上げながら、近くの大岩を浮遊させ投げつけてきた。


 マーガレットは予想外の反撃に面食らうも、寸前で飛んできた岩を回避する。

 しかし、回避したことで鏡の中のジルコアの像が消失。

 術式が途中で中断し、取り込んだギフトがジルコアの体に戻ってしまう。


 (くっ……! 鏡に写し続けないといけないってのに……!)


 だが、諦めなかった。再び体勢を戻し鏡をジルコアに向けた。


 しかし、


 


 パリッ……



 


「……え?」

 

 鏡が、粉々に粉砕した。


 マーガレットの使う鏡は、「紅サンゴ」を使い高い強度を保持している。


 しかし、それでも術式発動中は大きな負荷がかかり、取り込んだギフトに耐えられず最後にはバラバラに粉砕する。


 突然の術式の中断、緊急回避による衝撃。

 これらが重なり、鏡はギフトを取り込む前に限界を迎えてしまった。

 

(ま……まずいまずいまずい! 早く換えの鏡を……!)

 

「……テメェ……やってくれたなぁ!」


 ジルコアははっきりしない意識を怒りで無理やり起こし、マーガレットに視線を向ける。


 怒りのままに放つ二発の岩。

 いつものマーガレットなら避けることは容易かった。


 しかし、予想外のアクシデントに気を取られ危機回避が遅れてしまった。


 (あ……だめ、避けきれない……)


 攻撃をまともに喰らうことを覚悟をして目を瞑るマーガレット。


 そこに……


「マーガレットーーー!!!!」



 甲高いミルルの声が響き渡ると同時に、マーガレットの体が押し除けられる。


 岩が当たる直前、対角から全速力走ってきたミルルが体当たりしたのだ。

 

 これでマーガレットは、岩に被弾することはなかった。

 その代わり、被弾するはずだった岩は庇ったミルルに命中する。


「うぁああああっ!!!!」


「ミルル!」

 

 痛みで絶叫を上げるミルルにマーガレットは駆け寄る。

 両肩に一発ずつ、その衝撃でミルルの肩の骨が外れている。

 これでは戦うどころかここから自力で逃げることも困難。


 自分のミスで仲間が大怪我を負った。その事実を前に呆然としてしまう。


 (どうしよう……どうしよう……!

 担いで逃げる……? 手当が先……? それともあいつを迎え撃つ……?)


 ぐるぐると混濁する思考の中、ミルルは肩が外れてうまく上がらない腕で、マーガレットのローブを掴む。


「に……逃げて……」


 すがりつくような掠れ、弱々しい声と表情。


 こんな状態になってなお、仲間の心配をしてくれる。

 その思いが混濁したマーガレット思考が晴らし、決意を固めさせた。

 

「……逃げる訳……ない!」


 マーガレットはジルコアとミルルの間に割って入る。


(勝算は無い……。ミルルからもらった爆弾はもう無いしこの状況じゃ鏡も使えない……。

 それでもやらなきゃ……絶対に逃げない!)


 ミルルは何とか状況を打開する策を模索しながらジルコアを睨みつける。


「はっ! いい度胸だ! ぐちゃぐちゃにしてやるよ!」


 残忍な表情を浮かべジルコアは周囲の巨岩を空中に浮かべている。

 足はすでに元に戻り、意識もはっきりしているようだ。


 勝ち誇ったジルコアにマーガレットは正面から迎え撃つ。


 



 その時……。




 

 突如マーガレットの目の前で凄まじい爆音と衝撃が響き渡る。


 マーガレットによるものでは無い。

 何かが空から凄まじい速度で落下してきた。



 衝撃でマーガレットの体が吹き飛ばされる。


 (な……何が……)


 耳鳴りと眩暈で朦朧とする意識を何とか保ち、座り込んだ状態であたりを見渡す。


 その目に最初に止まったのはミルルの姿。

 両肩が外れうまく受け身を取れずその場で気絶してる。


 早く助けないと……。


 そう思い立ちあがろうとした瞬間。


「……っ!」


 瞬間、凄まじい寒気に襲われる。


 全身の毛が逆立ち、冷や汗が止まらない。


 何かに見られてる。

 何かの射程に入っている。


 今自分は……、

 死にかけている。


 そんな恐ろしい予感とプレッシャーが体を襲う。


 その視線はちょうど何がが落下によって地面が陥没し、砂煙が上がっている場所からする。


 マーガレットは恐る恐るその方角を見つめる。


 そこに立っていたのは、黒い鎧を見に纏い、長い黒髪をたなびかせ、頭から山羊のような大きな角を生やした美しい女性。


 右腕は拳を握り地面につけ、左腕は自分の身長ほどの大きさの大剣を肩に担ぎ持ち上げている。



 美しい容姿に見合わない、荒々しく禍々しい出立ち。

 そして彼女から放たれる圧倒的覇気。


 マーガレットは初見ながら一目で分かった。

 彼女が魔王だと。


「……ふん。少し強い魔力を感じてきたが……。こいつではなかったか……」


 彼女の足元には、先ほどまでジルコアだった岩の破片が転がっている。


 真上から落下したことでジルコアはバラバラに粉砕された。


 彼の体は修復もされず、ピクリとも動かない。


 完全に砕かれ死滅したようだ。


「さて……次は……」


 と、ひとこと呟いたのち、魔王はこちらを見つめる。


 マーガレットは冷や汗が止まらなくなる。相手は勇者を一撃で殺す化け物。そんな化け物が今自分を標的にしようとしている。

 マーガレットの本能が恐怖を訴えている。


 しかしマーガレットは、


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 (立て……! 立て! 動いて私の体!

 私はこいつに会いにきた! 膝を屈してる場合じゃない!

 ……もう、恐怖で動けなくなるなんて認めない!)


 マーガレットは、この感覚をつい先日味わった。


悪口(あっく)の勇者」との遭遇。


 あの時も絶望的な戦力差に膝をついて動けなかった。


 それでも、

 彼女だけは、

 楓だけは立ち上がり眼前の敵を睨みつけていた。


 (楓が……私たちを必死に守った! なのに相棒である私がいつまでも何もしないなんてできない!

 例えここで死のうとも、絶対に膝をついたりしない!)


 歯を食いしばり、震える体を押さえ込みながら、マーガレットは魔王を見つめる。


 その様子に魔王は無言で見つめる。


「ふむ……。お前は後だな……」


 そう言ってマーガレットから視線を逸らし、集落の中へと歩いていった。


 魔王が去り、完全に相手の視界の外に自分が出たとわかると、


「し……死ぬかと思ったぁ……」


 マーガレットは張り詰めたプレッシャーが解け、膝から崩れ落ちる。

 そのまま倒れ込んで気絶しそうなるが、頭を左右に振り意識を保とうとする。

 


「安心してる場合じゃない……。あいつは私は後って言った。

 てことは、あの女が向かったのは……楓のところ。

 すぐに行かなきゃ! 楓が危ない!」


 楓はふらふらと立ち上がり、まずは気絶しているミルルの元に歩き出す。

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