幕間 執務室にて
「聖騎士団」の本拠地「白薔薇城」。
そこには隊長職に就くものが執務を行うための部屋が設けられている。
その第3部隊隊長が使用する一室。
その部屋に勇者が3人いた。
第3部隊隊長を務める「鉄壁の勇者 アーサー・ミュール」、その副隊長「猛毒の勇者 ヴェレーノ」。
そして……
「ねぇ。いつまであんたそうしてるわけ? エニブラ」
ヴェレーノが話しかけるのはドアの前に立つ女性。あおい外套を見に纏い、フードを被っている。
口元はスカーフで隠し、顔がよく見えない。
「濃霧の勇者 エニブラ」。
ウォーカーが指揮する「隠密部隊」に所属する勇者の1人だ。
「私はウォーカー様からお二方の護衛を任されていますので……。ウォーカー様が戻られるまでお側にいます」
「あのねぇ……。そこにずっと立たれてると不気味でしゃあないのよ。だいたい、そのウォーカーはどこ行ったのよ」
「ウォーカー様は重要任務を遂行中で、現在は連絡が取れません」
「ちっ……あいつ……私たちを差し置いて……」
ヴェレーノは中心に置かれているソファに寝転がりながら不満を漏らす。
そんなヴェレーノを、アーサーは呆れた目つきで見つめる。
机の上に積み上がった書類の山の隙間から。
「おい……ヴェレーノ。君も少しは手伝ってくれないか?」
「ええー? 先輩知ってるでしょお? 私がデスクワーク苦手なの。
だから私の仕事は、先輩にもしものことがあった時の護衛でーす」
「……いえ、その役目でしてら私が……」
「あんたはちょっと黙ってなさい」
適当なことを……。とアーサーは呆れる。
ここは聖騎士団の本拠地。こんなところで戦闘など起こるはずがない。
それはエニブラにそんな指示を出したウォーカーにも言えることだ。
(ウォーカーがそんな意味のないことに人員を割くだろうか……。
最近の奴はどこか様子がおかしい。何か俺たちに隠しているような……)
部下への不満、同僚の不審など色々思うところはあるものの、今は目の前の書類に集中することとした。
「はぁ……。こちらは次回の遠征の人員配置にかかりきりだと言うのに……」
「遠征……。ああ、あの「悪辣の十将」と戦うって話の?」
今回の円卓会議で上がった議題は二つ。
ひとつはマーガレットたちの今後について。
聖騎士たちの追跡を掻い潜り、アーサーすら退けた。
これ以上の失態は聖騎士の威信に賭けて何としても避けなくてはならない。
そしてもうひとつ、「悪逆の十将」との本格的な戦闘だ。
今奴らはこの世界で「サンクティア王国」に次いで最も広い領土を持つ勢力だ。
そしてその領土を支配する「悪逆の十将」は皆「三芒星」に匹敵する実力者ばかり。
中でも、リーダーである蔦野太陽は、世界屈指のギフトを持つ勇者。
現状の「サンクティア」にとって、これ以上の脅威はない。
今まで運良く大きな戦いは起きず、お互いに睨み合いを続けていた。
しかし、その均衡も崩れようとしていた。
「悪口の勇者 鈴振初音」はどんどん行動範囲を広げ、そのほかの十将たちも好き勝手な行動が目立つようになってきた。
最早放置することはできない。直ちに討伐隊を編成することを求められていた。
これらの議題はどちらも早急に、確実に対処しなくてはいけない。
担当となる人物もその場で即断された。
マーガレット確保を任されたのは、
「撃鉄の勇者 ソフィア・トリニ」
「名槍の勇者 薄氷」。
「三芒星」と副団長の動員。
聖騎士団としての本気が伺える。
一方、これまでマーガレット追跡を行っていたアーサーは、きたる十将との戦争に備えた軍備の強化を任され、マーガレット確保の任から外されてしまった。
「……ムカつくわ。何で私たちがあいつらの追跡の任を解かれるわけ?」
ヴェレーノの言い分はアーサーの中にも燻っていた。
あの日楓と交わした再戦の約束。
今回差し向けられる者のことを考えれば、それは叶いそうに無い。
それでもなお、アーサーは不満を漏らすことはなかった。
「……仕方ない。取り逃したことは大きいし、兵の練度で言えば3番隊の私たちが任されるのは必然だ」
アーサーは生粋の軍人。上の命令には逆らわず、私情を挟まず任務を遂行する。
胸の中にある拭いきれない歯痒さから目を逸らし、書類の山と相対していた。




