第39話 助太刀
「悪い……我慢できなかった……」
楓が敵の顔面に蹴りを入れていた。
攻撃を喰らったジルコアは大きく体勢を崩しながら吹っ飛ぶ。
「くっ……そが! なんだいったい……!」
ジルコアは蹴りを喰らった顔の左頬を抑えながら楓の方を睨みつける。
「テメェ……勇者だな? 蹴り一発で俺の顔面を破壊できるとか、ただの人間じゃねぇ!」
ジルコアは拳を地面に叩きつけながら激昂する。
その時、露わになった顔を見た楓は面食らう。
蹴りを喰らった頬が半分削れている。
しかし、血は一滴も出ていない。
その代わりにボロボロ岩のかけらが崩れ落ち、顔にヒビが入っている。
まるでひび割れ崩れた岩ような姿だ。
「なんだ……? その顔……」
その問いに対しジルコアは不気味な笑みを返しながらゆっくりと立ち上がる。
その間、崩れた顔面は岩の破片が集まり少しづつ元に戻ろうとしている。
「俺の名は「巨岩の勇者 ジルコア」! 名乗ってみろよテメェ!」
「……「暴乱の勇者 東雲楓」」
「暴乱? そうか、テメェが噂の勇者だな!」
その言葉と共に他の騎士も反応。楓を囲うように周囲に展開する。
「だったらここで仕留めるぜ。テメェの首を持ってきゃ、ソフィア様が喜ぶ!」
全員武器を構えて臨戦体勢に入る。
楓もそれを迎え撃つように構を取り直す。
「出力調整! レベル5に上昇!」
しかし、楓が動き出す前に取り巻きの騎士の1人が吹き飛ぶ。
吹き飛ばされた聖騎士は身につけていた鎧を大きくひしゃげさせ、意識を失っている。
「抜け駆けなんてずるいじゃない! 楓!」
「もう! 慎重にって言ったのに!」
ミルルとマーガレット。2人も楓に続くように物陰から飛び出してきた。
「あ!? マーガレット・シンフォニー! テメェら揃いも揃って!」
3人を目視したジルコアは全身に力を込める。
周囲の岩石が一斉にジルコアの周りに集まり、体を形成していく。
みるみるうちにその身体が巨大な岩石の鎧に覆われ、2メートルほどの体格だったのが、4メートル以上の巨体に変化していく。
「テメェら全員、ここで殺す!」
岩の巨人となったジルコア。
その巨大な拳を振り上げてからの突進してくる。
楓は後ろにいる2人を守るため、避けるのではなく打ち砕くことを選択する。
「古竜拳法 砕竜脚」
蹴り上げるような鋭い前蹴り。
ジルコアの拳に被弾し、腕を二の腕あたりまで打ち砕く。
これにはジルコア本人が驚愕の表情を浮かべる。
(マジかよ……! 俺の拳をこんな簡単に砕くとは……!
だが……問題ねぇ!)
砕かれ、バラバラになる岩石。その全てが空中で静止。
そして、楓めがけて飛んでくる。
楓は咄嗟のことで対応できず、全弾被弾する。
「どうだ! 俺のギフト"聳えるの岩壁"は! 岩石を自由に操り体に纏う! そして俺の体自体も岩石で形成され崩れればまた修復する!
俺を壊すことは出来ねぇぜ!」
勝ち誇った顔で宣言するジルコア。
こうして話している間も、砕いた巨大な腕はすでに再形成が進んでいる。
「これ以上抵抗するなよ! 大人しく俺に……」
「うるせぇ……」
楓は静かに睨みつけながら言い放つ。
怒りと憎悪が込められた気迫に満ちた目つき。
その目つきに、ジルコアは余裕の笑みが消え去り、恐怖の色を見せる。
その萎縮した一瞬、すでに楓は動作を終える。
膝を折り、腰を深く下ろしたつま先立ちをし、上半身は前方に少し倒す。
「爪竜刃 迅雷残光」
楓は前方に跳躍。
そのあまりの速さに目で捉えることはできず、気づいた時にはジルコアの背後に立ち、ジルコアの首が落ちていた。
「な……に……!」
状況が理解できないジルコアは重力に従い落下する視界と、力無く崩れ去る自分の体を呆然と眺めることしかできなかった。
首だけの状態になってもいてもジルコアの命はまだ尽きることはなかった。
(な……何が起きた……!? あの一瞬で切られたのか!?)
理解が追いつかないジルコアはなんとか失った体を修復しようとする。
そんな焦りを見せるジルコアを楓は無慈悲に見下ろす。
「……体の再生には、ある程度の時間がいるみたいだな?
その首だけの状態のお前を砕いたら……どうなるんだ?」
ゆっくりと、ジルコアの顔の真上に足を持ち上げ、そのまま勢いよく振り下ろした。
踏みつけた一体の地面が沈み込むほどの威力。
だが、楓は手応えを感じていなかった。
ゆっくりと、自分の足を持ち上げ地面を見る。
そこにジルコアの姿はなく、その代わり小さな穴が空いていた。
(……逃げたか……)
楓の踏みつけが被弾する一瞬。ジルコアは能力を利用して地面に潜り、そのまま逃走した。
「ひっ……! ジルコア様がやられた! て……撤退しろー!」
聖騎士たちは司令塔の勇者が敗北したと見るや否や持っていた武器も放置して蜘蛛の子を散らすように全員逃げていく。
楓はそれを追いかけようとするが……。
「待って楓」
マーガレットに制止される。
「深追いは良くない。ここは魔王領。下手にバラバラになって合流できなくなりたくない」
「……わかった……」
マーガレットの言葉と共に楓は落ち着きを取り戻し、鬼気迫る表情が解けていく。
「お……おねぇさんたち……だれ?」
先程まで痛ぶられていた少女が話しかける。
「……あー。ごめんね驚かせて。大丈夫。私たちは貴方たちの敵じゃないわ。
とりあえず、傷を見せてくれる?」
採掘場から数キロ離れた岩場。
逃げてきた聖騎士たちはここで集まり息を潜めていた。
そのうちの1人。「巨岩の勇者 ジルコア」。
すでに楓に砕かれた体は修復が終わり、元の人間の姿に戻っている。
そんな彼は、連絡用水晶で連絡を取ろうとしていた。
その表情には冷や汗が流れ、青ざめている。
「ご……ご報告……します……。採掘場にて、マーガレット一向が襲来……。採掘場を奪われました……いかがいたしましょう……ソフィア様……」
――……ふぅーん。奪われたんだ……
連絡を受け取ったのは「三芒星」の1人、ソフィア。
その表情は明らかに不機嫌だ。
「も……申し訳ございません! まさかマーガレット一向が襲撃に来るなんて……!」
――あー。別にさ、奪われること自体はまあいいんだけどさぁ。
よりによってシンフォニーちゃんに奪われるとはねぇ
その言葉ひとつひとつにジルコアは体を震わせ、押し黙る。
――まあいいや。とりあえず採掘場はそのままで。応援は送っといたから後はその子の指示に従って
「お……応援……?」




