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第37話 会議の後

「あー! クソ腹が立つ!」


白薔薇城ホワイトローズキャッスル」の廊下。ドシドシと地団駄を踏みながら、メイデは歩いていた。


「何もかも腹が立つ! あの反抗的なアーサーも! ソフィア様に生意気な態度を取り続けるカコも! いつまでもソフィア様に高圧的な聖騎士団長も! そして……何より……!」


 メイデは歩みを止め、体をワナワナと震わせる。


「何より……何よりも……! バル・フラルゴ……!」


 怒声を上げながら柱に思いっきり拳を叩きつける。


 柱は砕け、メイデの拳からは血が滲んでいる。


 しかし、メイデはまったく意に返さず恨み言を吐き続ける。


「な・に・が1番隊隊長よ! ソフィア様の側近みたいな顔で隣に立ちやがって! 本来その席は私であるべきでしょう!? あんな男がソフィア様に相応しいなんてあり得ない!」


 怒りが収まらず、辺り一体の柱や壁を手当たり次第に殴り続けるメイデ。


「はぁ……はぁ……。あの男……絶対殺してやる……!」


()()()()()?」


 そんな暴れ回るメイデに声をかけるものが現れる。


 振り返るとそこに立っていたのは、


 

「ソ……ソフィア様!」



 

 彼女が愛してやまないソフィアだった。


「なになに? メイデちゃん、そんなに暴れ回って誰に怒ってるのぉ?」


「こ……これは……そ、そう! シンフォニー! ソフィア様の身を危険に晒そうとするマーガレット・シンフォニーへの恨みが募ってつい、粗相を!」


 メイデは必死に取り繕う。

 認めたくはないが、バルはソフィア様の側近。

 その彼へ恨み言を口にしたなどとても言えなかった。


「あら、そうなの。ふふ、上司思いの部下を持てて私は幸せね」


 そう言って微笑みかけてくるソフィアにメイデはついついにやけてしまう。


「い……いえ! 騎士として当然の心構えかと!」


「そんな、仕事熱心で、上司想いなメイデちゃんにお願いがあるんだけど……」




 



「……」


 円卓会議終了後、ウォーカーはアーサーと別れ、1人「白薔薇城ホワイトローズキャッスル」の使われていない部屋にいる。


「こんなところに呼び出して、いったいなんのようかな? バル殿?」


 その部屋にはすでに1人の男が座っていた。


「爆撃の勇者 バル・フラルゴ」。

 1番隊の隊長にして、ソフィアの側近。

 彼女の意思を最も体現している男。

 

「……よう。「黒牙の勇者」。

 なんやかんやであんたと2人で話すのは初めてだよな」


 バルはたわいない会話をしながら、縞模様の包み紙に包まれた、手のひらほどの大きさのキャンディーを弄んでいる。


 見た目こそファンシーだが、ウォーカーは知っている。


 それがこの部屋全てを吹き飛ばせる爆弾であることを。


 (すでに、この部屋の複数箇所に仕込まれてるようだな……。俺はまんまと誘い込まれたと……)


 チラチラの目だけ動かし、爆弾が設置されている箇所を特定する。


 そんな様子を見てバルは静かにほくそ笑む。


「そんな警戒しなくとも、爆破なんかしないよ。今日は話し合いの場を設けたかっただけなんだ。

 そもそも、あんたこの程度じゃ死なねぇだろ?」


「ふん。評価してくれてるのはありがたいがね、警戒は緩めることはできない。

 あんたらソフィア派閥の過激さは知っている」


 逆らうものは説得する前に殺す。

 それが彼女たちのやり方。


 今ウォーカーは大口を開けている猛獣の前に立たされているような状況。

 一手判断をミスすれば一瞬で舌で絡み取られて食い殺される。


「いやなに、あんたをここに呼んだのは、そのソフィア派閥に加わらねぇかってって話だよ」


「……」


 正直、予想はしていた。


 今彼女たちは、自分たちの派閥を広げることに力を尽くしている。


 隊長職を自分の息のかかったもので固め、反対する勢力と積極的に接触し勧誘、もしくは潰す。


 そして今その順番がウォーカー自身に回ってきた。


「どうかな? あんたは優秀な勇者だし、こちらについてくれれば心強い。それが俺たちの考えだ」


 (俺たち、ねぇ……)


 どれだけの大きさになっているかも、真の目的は未だ不明だ。

 が、おそらく想定される目的は……。


「……聖騎士団長の席」


「ん?」


「あんたらの目的だよ。そんなにあの人に支配されるのが気に食わないか?」


「三芒星」はこの聖騎士の中で最強の勢力だ。


 こいつらが本気になれば1人で国一つ壊滅できる。


 その中でもソフィアは人身掌握と、交渉力に長けた勇者。


 状況が違えば彼女がこの国のトップは彼女になっていたかもしれない。


 が、そうできないのはその上にもっと巨大な化け物がいるからだ。


 聖騎士団長、「正義の勇者 プロテア・クラウディアス」

 

 圧倒的な力とカリスマ性で1人から国取りを初めて成し遂げだ魔人。


 あの女の前ではソフィアすら太刀打ちできない。


「……なんとか数で優位にたち、あの人を越える。そう言う算段なんだろ?」


「……まあ、それも目的のひとつではあるがな……」


 含みのある言い方が気になるが、その障害の一つにプロテアがいるのは間違いない。


「だったら……それは無謀だねぇ。あの人は俺たちが考えてる以上の化け物だ。

 そんな人を、勝算も無く敵に回すなんて、賢いやり方じゃない。そんな無謀な計画に乗るなんて……」


()()()()()()()()()()


 突然背後から声をかけられたと同時に、後頭部に硬い感触を感じる。


 ウォーカーは背筋に鳥肌が立つ。


 それは現代に生きるものなら誰でも感じる恐怖。


 拳銃を向けられる恐怖だ。


「ソ……ソフィア殿……?」


「こんにちは? ウォーカーちゃん」


 背後で拳銃を突きつけられるまで完全に気が付かなかった。


 ここは魔術も、魔物も、勇者もあるファンタジーな世界。

 あらゆる幻想が体現する世界だ。


 しかし、絶対的な真実、「()()()()()()()()()()()()()()()()」。


 その事実だけは覆らない。


 ウォーカーはなす術なく両手を上げる。


「ソフィア。メイデとの話し合いは終わったの?」


「ええ。思ってたより早く終わったからねー。こっちに来たの。

 で、ウォーカーちゃん。勝算はあるかって話よね?

 もちろんある。

 そもそも私は勝てない勝負はしないからね」

 

 この女がここまで言うのだから相当な自信があるのだろう。


 だが、ここで首を縦に振った後のリスクをウォーカーは危惧している。


 すると……。


「あれー? この期に及んでまだ迷うんですかぁ?」


 今度は対面のバルの背後の闇から声がする。


 甘ったるい子供の声。



 ウォーカーはバルの背後に視線を送り驚愕する。


 そこから顔を出したのは三芒星のひとり。


 愛らしい容姿からは想像もできない狂気と凶暴性を秘めた少年。

 

 「精斧の勇者 カコ・マレフィス」


 さらに彼だけではない。


 深海のように暗い色をしたコートを頭から被り、顔にガスマスクをつけた不気味な男。


 「大海の勇者 海原水影」もそこに立っていた。


「僕たち3人、頭を下げて頼んでるんですよぉ? 断る要素、ありますぅ?」

 

「三芒星」全員の登場。


 つまりこれは「三芒星」全員が結託した計画。


 どれほど大それたことなのか。


「で? どうするんですかぁ? ウォーカーおじさんの答えがききたいなぁ!」


 カコは上目遣いで尋ねる。その手には怪しい輝きを放つ、2本の斧が握られていた。


 海原もまた、ガスマスクとフードの隙間から鋭い目つきで睨みつけている。


「三芒星」3人からの説得、という名の脅迫。


 ウォーカーは思わず苦笑いをこぼす。


「はは……。その申し出、喜んで受けよう……」


 この状況で首を縦に振らないバカはいない。




 


「おい、まだ怒っているのか? そろそろ機嫌を直せ」


「うるさいうるさい! 先輩みたいな脳まで鋼でできてる鎧人間に、乙女のに繊細な心なんてわからないんですよ!」


 聖都にあるありふれた定食屋。


 そんな場所でアーサーとヴェレーノは言い争うをしていた。


「あっ! おっさん! 遅いじゃないのよ!」


 遅れてやってきたウォーカーに対してヴェレーノはいつも通り、辛辣に声をかける。


 それを、ウォーカーはできるだけいつも通りに返そうとする。


「はは……相変わらず手厳しいねぇ。 ちょっと野暮用で遅れちゃってね」


 そう言ってウォーカーは席に着く。


「……ウォーカー、何かあったか?」


「……」


 アーサーはこういう時鋭い。


 周りの機微で相手の様子を察する。


 リーダーにとって必要な要素のひとつだ。

 

「いんや。なにもー。傷心気味のヴェレーノちゃんを相手にするのがちょっと憂鬱だっただけですよぉ」


「はぁ!? 誰が傷心よ!」


 たわいない話をするこの時間。


 楽しさを感じる一方、ウォーカーは心に痛みを感じる。


 

 アーサーは聖騎士団長に忠誠を誓ってる。


 ソフィア側に着くってことはつまり彼を裏切ることだ。


 ソフィアもそれを見越してウォーカーに声をかけたのだろう。


「……」


 なんとか笑顔を取り繕う食事は、いつものような美味しい味はしなかった。

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