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第34話 なんでよ!

 ベット上、顔を覆い1人悶絶するものがいる。


 彼女の名はマーガレット・シンフォニー。

「サンクティア王国」に反旗を翻し、その追手である聖騎士との戦闘に生き残ったもの。


 そして、共に生き残った仲間たちの前で一生ネタにされるほどの醜態を晒したもの。


「だー! やらかした! やらかしたー!!!」


 ここ数日の記憶。彼女は全て覚えている。


 ミルルからもらったポーションで体がだるくなったことも。そのせいで脳みそが著しく低下していき、まるで幼児のような言動しか取れなかったことも。

 

 そして、相棒の楓にこれでもかというほど甘えてしまったことも。


 彼女は全部覚えている。


「いやぁーーー!!! 恥ずい恥ずい恥ずい!!!」


 両手で顔を覆い隠し、足をバタつかせる。

 耳の先まで顔を真っ赤に染めて。


 指の隙間からちらっと横に視線を送る。


 そこには椅子に座り、ベットに上半身を預けた状態で気持ちよさそうに寝息を立てる楓の姿があった。


 マーガレットが1人でいるのは嫌だと駄々をこねるものだからずっとそばにいてくれた。


 その様子は優しい母親のような、世話好きの姉のような。安心できる姿だった。


 感謝の気持ちと申し訳なさと、羞恥心がせめぎ合ってマーガレットの心は今ぐちゃぐちゃだ。


「……はぁ。ほんっと迷惑かけたわね……」


 なんとか絞り出した独白。

 混乱した心の中で浮かんだ言葉を素直に口にする。


 するとそれに応えるように、


「……つ……椿()……」


 楓は何かを呟く。

 

 (椿? 誰かの名前?)


 マーガレットはなんとかかすかに動く唇を見つめながら楓の言葉を聞こうとする。

 

 そこへ、


「たっだいまー! マーガレットちゃーん! お菓子買ってきた……よ……」


 勢いよく、満面の笑みでミルルが扉を開けて入ってくる。

 そして、ベットの上で上半身を起こした状態のマーガレットと目が合う。


 その呆れたものを見るような目を見て、ミルルはマーガレットが二重の意味で目を覚ましたことを察した。


「ま……マーガレット……さん……起きたのかな……?」


「ええ。おかげさまで」


 幼児化マーガレットをこれでもかと可愛がっていたミルル。

 流石に気まずすぎて手に持っているお菓子を背中に隠し、視線を静かに逸らす。


「ん……ん?」


 ミルルの声に楓も目を覚ます。


「……マーガレット?」


「ええ。おはよう」


「っ! マーガレット! 治ったのね!」


 楓はそのままマーガレットに抱きつく。

 あまりに突然のことに混乱するが。


「……心配かけた。後……いろいろ迷惑かました……」


「ううん……! 治って嬉しい……」


「う……ウチも! マーガレットが治って嬉しいよ!」


「あなたは幼い私の方がちょっといいかなぁーって思ってたんじゃない?」


「うぐっ! だ……だって……あんまりに可愛くて……ごにょごにょ」


「ふふ。嘘よ。あなたもありがとう。ミルル」


「マーガレットぉ……!」


 ミルルもマーガレットに抱きつき、3人はベットの上でひとしきり抱き合った。


「さて! 私も元に戻ったし、2人も傷はある程度回復したでしょ。さっさと出発するわよ!」


 マーガレットは抱きつく2人をヌルッとすり抜け、ベットの上に立ち宣言する。


「ええ、もう? やっとマーガレットが戻ったんだからもう少しゆっくりしても……」


「だめよ。さっさとここを発たないと。彼らが追ってくるわ」


「彼らって……聖騎士?」


「アーサーが私たちを探しに来ないってことは、きっと一度撤退したんでしょうね。

 おそらく、()()()()のために」


「円卓会議?」


「聖騎士の隊長職以上の騎士が集まって話し合う会議のことよ。アーサーを退けた今、奴らは私たちを本気で追跡してくるわ。それこそ、アーサー以上の大物たちがね……」





 

 「サンクティア王国」の中心地。

白薔薇城ホワイトローズキャッスル」。

 雪のように輝く白鷺城。

 

 かつてサンクティア王家が栄華な暮らしを送っていた美しき巨城も、今は聖騎士団本部として活用され軍事力の心臓部の役割を担っている。


 そしてその核となる部屋。


 各地に散った聖騎士隊長が集い、今後の「サンクティア王国」の行く末を議論する神聖な空間。

 

「円卓の間」


 その間に続く厳かで重い静寂が充満する扉。


 そんな扉の前に、


 

 

 「な! ん! で! よーーー!!!」



 


 仰向けに寝っ転がりながら、手足をジタバタさせて駄々をこねる者がいた。




 「猛毒の勇者 ヴェレーノ」。つい先日マーガレット一向を強襲し、死闘を繰り広げた。


 そんな彼女が神聖な円卓の間の前で子供のように駄々だを捏ねている。


 門番の聖騎士はオロオロとその場で手をこまねき、付き添いの2人に助けを求める視線を送る。


「鉄壁の勇者 アーサー・ミュール」、「黒牙の勇者 ウォーカー・ブラウン」。


 どちらもヴェレーノ同様、楓と死闘を繰り広げた猛者たち。

 

 そんな2人が、流石に直視できないと言わんばかりに目を逸らす。


「なんで私が入れないわけ!? 私だって勇者なんだけど!?」


 ヴェレーノは声を荒げながら門番である騎士2人に抗議する。

 どうやらわざわざ「白薔薇城ホワイトローズキャッスル」まで出向いて、目的の「円卓の間」の前まで来て門前払いされてしまったらしい。


「で……ですからヴェレーノ様、円卓会議は聖騎士の中でも隊長以上の役職に就いているお方しか参加できない決まりなんです。ヴェレーノ様は勇者ではありますが隊長ではないので……」


 聖騎士には厳格な階級が存在する。

 

 役職のない、一般の兵士、異世界から召喚された勇者と続き、その中からより優れたものの中から5つの部隊をそれぞれまとめる隊長の役職が存在する。

 

 そして、その上に隊長の中でもより強力な力を持つ「三芒星」がおり、副聖騎士団長、そして聖騎士団長が君臨する。


 聖騎士団の行く末を話し合う「円卓会議」は、基本的に隊長以上のものたちで行われる。


「んなの聞いてないわよ! ていうか、だったらこのおっさんも入れないじゃないの!?」


 そう言ってヴェレーノはウォーカーを指さす。

 それに対してウォーカーは指を振る動作をして返す。


「チッチッチ。残念だけどねヴェレーノちゃん。俺は役職的にはアーサー殿と同じ、隊長職なのさ」


「なん……だと……」


 驚愕するヴェレーノ。


 見た目からでは分かりにくいがウォーカーはアーサーと同じ階級にいる勇者だ。

 

 とはいえ、アーサーが主要な5部隊のうち、「第3部隊」をまとめる隊長なのに対し、ウォーカーは5つの部隊とは別の特殊な部隊、「隠密部隊(カプノス)」の隊長を務めている。

 

 一般的に前線に立って戦わず、スパイや暗殺を生業とする部隊だ。


「と、いうわけで。俺はちゃんと会議に参加する権利がありまーす」


「ふざけんなー! 私も入れろー!」


 不満が収まらないヴェレーノ。

 

 このままでは埒が開かないと門番の2人はウォーカーとアーサーに助けを求める視線を送る。


「いやいや、そんな目で見ても俺にゃとめられねぇよ? アーサー殿なんとかしてくださいよー」


「はぁ……まったくしょうがない」


 そう言ってアーサーはヴェレーノに近づく。


「おい……カタリナ……」


「うぐっ! も……もうその手には引っかかりませんからね! わざわざこんなところまで来たのに……」


 ヴェレーノの不満は途中で遮られた。


 なぜなら、


 ()()()()()()()()()()()()()()


「ひゃっ!」


 ヴェレーノは顔を真っ赤にしておかしな声を上げる。


 門番の2人もその様子にドギマギし、ウォーカーは面白そうになってきたと、笑みを浮かべながら観戦する。


 アーサーは自分の兜を解除しているため、その息遣いが直接ヴェレーノの肌に触れる。

 

 アーサーの瞳に、ヴェレーノの顔がまじまじと見えるほどの至近距離。


「……すこし……じっとしてろ……」


 アーサーの声が体内まで響く。

 ヴェレーノの心の限界値は、振り切れようとしていた。


「せ……先輩……! そんな……こんなところで……! せめて2人っきりのときに……!」


 耐えられなくなったヴェレーノが目を瞑りながら呟くと……。


 ()()()


 突然、金属の金具の音が耳に入る。


「……うん?」


 ヴェレーノが目を開け、手首の方に視線を向ける。

 

 そこにはアーサーがヴェレーノの手首に手錠をかけ、そのまま通路の手すりに繋ぎ止める姿があった。


「これでよし。

 わがままを言わず、ここで大人しくしてろ。

 終わったら夕食を奢ってやるから」


 そう言ってアーサーはすたすたと円卓の間に進んでいった。


 怒涛の展開についていけず周りで見てた人々が唖然とする中、

 プルプルと震えるものが1人。


「せ……先輩の! バカァーーーー!!!!」




 ヴェレーノの叫び声を無視して2人は扉を潜り、円卓の間へと向かう。


「いやー、やっぱヴェレーノちゃんの扱いについてはアーサー殿が適任だな」


「……別に、ただわがままな部下を注意しただけだ」


「部下、ねぇ……。

 ところで、前から気になってたんだが、()()()()って何?」


「ん? ああ、あれはヴェレーノの本名だ。ヴェレーノという名前は生前から愛用していた通り名らしくてな。本名は「カタリナ・ヴィラ」と言う。聞いてなかったか?」


「いやぁ、聞いてないねぇ。

 ……それきっと、アーサー殿にしか言ったんじゃない?」


「そんなことはないと思うが……。まあいい、さっさと行くぞ。早くしなくては遅れてしまう」


 そう言ってアーサーはスタスタと歩いていく。


 そんな様子にウォーカーは少し呆れたように笑い、肩をすくめる。


「……やれやれ。ヴェレーノちゃんも苦労するねぇ」


 


 余談だが、後日どさくさに紛れて「カタリナちゃーん」と、ウォーカーが呼んだところ、

 

 高速で毒針を数千本刺され生死の境を彷徨ったとか。

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