第33話 悪逆の十将 その2
「で? 今日はなんで私たちが呼ばれたのかしら?」
「……今日話すのは二つ。まずひとつ初音の件だ」
初音。
その名前を聞いた瞬間から7人全員神妙な面持ちとなる。
「……あの子がどうしたんですの? もうあの子の対処についてはみんな知ってますわよ?」
「1人ではなく、複数人で接敵しろ。殺さず撃退させろ。決して自分たちの領土に入れるな。
これが最も効率的だ」
「ああ、だが最近初音の行動範囲が広がっている。前回まで西地区の森林を住処にしていたが、真澄の情報によれば北東にあるメドローデ地方の山林に出現したらしい」
「あら? 私の領地の近くねぇ。
植物たちの手入れをしておかなくっちゃ」
「た……太陽さん? 流石にもう限界なんじゃないですか?」
朽野はよそよそしく口を開く。
「初音さんの力はどんどん強大になっている。これ以上放置したら……」
「わかってる。だからひとりで戦うなと言っているんだ。俺たちが複数人いれば初音を退けることは充分可能だ」
「……いや、でもそれじゃあ……」
言い淀む朽野に対し、景晴は机を叩く。
「ごちゃごちゃうるせぇぞ朽野!
初音なんかほっといても対して変わりゃしねぇんだよ!
なんなら俺ひとりだって余裕で抑え込んでやるよ!」
「わ……わかりました……」
「……まあ落ち着け。この議題はとりあえずここまでだ。
二つ目は、マーガレット・シンフォニー。およびその一味についてだ」
「それに着きましてはわたくしが証人を連れて来ましたわ」
そう言ってセチアは指を鳴らす。
それと同時に部屋の扉が開き、誰かが入室する。
それは気弱そうな眼鏡をかけている男性。
来ている服もヨレヨレであまりこの場に相応しい人物とは思えない。
「あ? 誰だそいつ?」
「彼はわたくしの従者です。
服装が乱れているのは許してくださいまし。
ついこの間まで近くの町で養生させてましたの。
ゼラ? もう変装は解いていいですわよ」
「……はい、お嬢様」
そういうと男は眼鏡を外し前髪をかきあげる。
その表情におどおどした様子は微塵もない。
冷たく、鋭い目つきだ。
「改めまして。
セチア様の専属従者。ゼラです。
以後お見知り置きを」
ゼラは深々とお辞儀をする。その立ち位置振る舞いには気品を感じさせ、先ほどのヨレヨレの服を着た気弱な男性と同一人物とは思えない。
「彼はエリクシル捕獲の一件で、依頼した組織に侵入して、リーダーのマチと言う男の近くに控えていましたの。
でも運悪くマーガレットたちと遭遇し計画は頓挫。
それで怪我を負ってしばらく休ませてましたの」
「……ようするに、まともにお使いもこなせない役立たずってことだろ?」
「……今、わたくしの従者を愚弄しましたの?」
冷たい視線で睨みつけるセチア。
それを景晴は嘲りを含めた視線で返す。
太陽はため息をつき、2人を宥める。
「やめろ2人とも。その件は今はどうでもいい。大事なのはゼラはマーガレットを間近で見たと言うことだ。
ゼラ、お前が見たことを包み隠さず話せ」
「はい。私も全員とまともに戦ったわけではありませんが、ミルルの戦法は道具を使い、人間離れした身体能力を使った戦い方、マーガレットは……」
「そんなことはわかっている」
昴が言葉を遮る。
「マーガレット・シンフォニー。元「サンクティア王国」所属の召喚士。「淡雪の衣」を纏う資格を持つほど、高位の力を持つにも関わらず「サンクティア王国」を離反し逃亡中。切り札は鏡を扱った相手のギフトを奪い取る魔術、"天与剥奪"。
東雲楓。シンフォニーによって召喚された江戸時代出身の勇者。徒手での戦いが主体で、恐竜の動きを再現した拳法、「古竜拳法」を扱う。戦いの際言動と性格が急変する特徴を持つ。
ミルル・シャーロット。勇者と貴族の間に生まれた娘。勇者の父が魔物に殺された後、母も心労が祟りすぐに他界。残された彼女は1人、スラム街で盗賊として生活していた。武器は自作の魔道具と、勇者譲りの身体能力。
すでにこれだけの情報を仕入れている。
表面上の情報などもはや必要ない。
僕が欲しいのはあの3人が、強いのか弱いのか、敵なのか味方なのか、ただそれだけ効率的に話せ」
昴のその言葉にゼラはしばらく沈黙する。
「……わかりました。私の主観で良いのでしたら。
まず、3人が敵になるか味方となるかと言う話ですが、おそらく味方になることは無いでしょう。
彼女たちは誰かの下に着くと言う選択を嫌うと思います。
3人で戦い、巨大な敵に立ち向かう。
そう言った点では、十将の皆様の支配体制に最も相容れない生き方です。
そして、強さと言う点ですが……」
ゼラは一呼吸置いてから話を続ける。
「……おそらく、彼女たちはあなたがたの脅威足り得る勢力といえます」
「……何故そう思う?」
「あの東雲楓と言う勇者。彼女の放つ雰囲気はあなたたち十将のそれとよく酷似しております」
「おい、それは俺らがぽっとでの勇者と同格って言いたいのか?」
ギロっと、景晴はゼラを見つめる。
他の十将も同様な視線をゼラに向ける。
しかし、ゼラは特に怯まず話を進める。
「いえ、今はまだあなた方と比べ物にならない力の差があります。
しかし、これから先、彼女が成長した場合。あなた方と比肩しうる実力を持つでしょう。
そして、それを従えているマーガレットも同様……」
ゼラの言葉に、各々黙り込み、思考し始める。
「……こいつの言うこと信用していいのか?」
「ゼラの人を見る目は確かですわ。その彼がわたくしたちに匹敵しうると言っているのです。充分警戒すべきかと」
「あっそ……。
なら、とっととぶっ殺そうぜ。そもそも大して強くもねぇくせにデケェ顔してんのが気にくわねぇ。居場所は割れてんだろ? だったら出向いて……」
「いや、この件は放置する」
話の流れを断つように、太陽が言い放つ。
「……出たよ。太陽のことなかれスタイル。
いつだってお前は悠長だよなぁ」
「黙れ景晴。現状敵対してないのだ。ならば無理して戦う必要はない」
「それを悠長だって言ってんだよ! 気に入らねぇやつはぶっ殺す! それだけで充分だろ!?」
「ええー。私は太陽にさんせーい」
間の抜けた声で瑪瑙は話に割って入る。
「もしその子が、私たちの敵になり得るんなら、もっと成長してから味わいたいわー」
瑪瑙のこの言葉を皮切りに、各々好き勝手に発言し始める。
「わたくしは早く戦いたいですわ! ゼラがこれだけ言うんですもの、きっと素晴らしい値の魂になりますわ!」
「ん〜私はパスかなぁ。今はそう言う気分じゃないしぃ」
「……僕としては不安の芽は早めに詰んでおきたい。それが最も効率的だ」
「ぼ……ぼくは、太陽さんの意見に賛成です……」
バラバラな意見が飛び交う中、それを終わらせるように太陽は机を叩き立ち上がる。
「もうやめろ。この決定は覆さない。
マーガレット・シンフォニー一行には、こちらから手を出すことはない。反論があるなら言ってみろ」
「……反論しか言ってねぇだろうがよ。バカが」
「……おい、景晴。お前いい加減にしろよ……」
「は? なんだよ、むかついたか? だったら力で屈服させてみろよ。てめにゃそれができんだろ!?
いざとなったら俺たち全員相手だって、殺せるもんなぁ! お前の絶対的なギフトならよぉ!」
その言葉に太陽は無言のまま景晴を睨みつける。
「……話は終わりだ。俺は奥の部屋で休む。全員出て行け」
「あー太陽! 話し合い終わったんならこの後私と……」
「帰れ」
太陽はそのまま奥の部屋に行き、勢いよく扉を閉めた。
「はぁ。つれない人」
「チッ。クソが……」
「あーあさっさと帰りましょう」
「時間の無駄でしたわね。ゼラ、帰りますわよ」
「はい。お嬢様」
「……」
「お……お疲れ様でした……」
こうして「悪辣の十将」の会議は終了する。
何も話はまとまらず、何もなし得ないただ時間が過ぎる顔合わせ。
彼らの会議はいつもこうだ。
だが、決して欠かすことはない。
どれだけ無駄だと思っても、彼らに会うのか不快でも、みなこの会議のために集まる。
なぜそうするのか……その真意は彼らにすらわかっていない。
「あーあ。今日も相手にしてくれなかったなぁ。太陽。
やっぱり……あの子の方が……」
そう言ってぼやきながら城を後にする瑪瑙。
そこに声をかけるものが1人。
「あら? あなた……。何? 私に何かよう?」




