第30話 戦いの後
「ふぅ……なんとか逃げ切れたな……」
メドローデ地方から離れた山林。
「悪口の勇者」の襲撃から逃げてきたアーサー、ヴェレーノ、ウォーカーの3人が休息を取っていた。
「いやー。まさかあんなところにまで奴が来るとはねぇ。もう少しでやられちまうところだったよ」
「ああ、最近奴の行動範囲が広がってるという話は聞いていたが……」
遮音具を外し、一息つくウォーカーとアーサー。
それにに対し、ヴェレーノはわなわなと体を震わせてる。
「あんの……クソガキ共……! 今すぐ戻るわよ! ぶっ殺す!」
「待てヴェレーノ。奴らの追跡は続けるが一度体制を立て直し……」
――あー、もしもーし。聞こえますかー?
ヴェレーノを落ち着かせようと止めに入ろうとした時、アーサーが所持する通信用の水晶から声がする。
誰から通信が入ったのだ。
アーサーがそれを手に取ると……。
――あ! 繋がった! ハァーイ! アーサーちゃん! 元気してるー?
水晶に映し出されたのはわざとらしく甲高い声で話し、手を振る女性。
三芒星の1人、「撃鉄の勇者 ソフィア・トリニ」だ。
「ソフィア……。何の用だ?」
――いやー、仕事中ごめんね? 実は聖騎士隊長全員で緊急会議を開くことになったのー。
だからー、あなた及びヴェレーノ、ウォーカーもふ今すぐ戻ってきてねー
「な! いや待て! 私たちはシンフォニーの追跡中で!」
――あー、それについてもそこで話し合うから一旦保留。とにかく戻ってきてねー
「いや……しかし……!」
――アーサーちゃんさ……
突然、ソフィアの声色が変わる。
――すでにシンフォニーが離反して1ヶ月経ってる。
これ以上呑気に追っかけっこやってるほど、こっちは暇じゃないの。
わかるかな?
「……」
――というわけで、さっさと戻ってきてねぇー。もし戻らなかったら……。
その頭、兜ごと撃ち抜くらねぇ
そう言って通信が一方的に切られる。
3人の間に重い沈黙が流れる。
最初に口を開いたのは、ウォーカーだった。
「はぁ……。仕方ないねぇ。あの女を怒らせると怖ぇし、今回は諦めるしかないねぇ」
その言葉に対し、アーサーは冷静な口調で答える。
「……ああ……そうだな……」
ソフィアは上官。上の命令は絶対。
生前から騎士であるアーサーはそれを理解していた。
だからこそ、溢れ出しそうな感情を握りしめている水晶にヒビが入る程度に抑えた。
だが、彼女は我慢ができなかった。
「……いやだ……」
ヴェレーノが小さく呟く。
「……ヴェレーノ」
「絶対に嫌! ここで尻尾巻いて逃げろっての!? 冗談じゃない! あいつらに散々コケにされた報いを受けさせるんだから!」
ヴェレーノはひとり、元来た道を戻ろうとする。
ウォーカーはそれをなんとか止めようとする。
「落ち着きなってヴェレーノちゃん。気持ちはわかるが……今行くのは賢いやり方じゃ……」
「うるさい! 逃げたきゃ逃げればいいでしょ!? 私は1人でもあいつらを追う!」
そう言ってウォーカーの静止を振り切り腰から羽を広げ飛び立とうとする。
「おい……ヴェレーノ……」
「止めても無駄ですよ先輩。私は……。」
「カタリナ」
「っ!」
その呼びかけにヴェレーノは反応する。
(カタリナ……?)
聞き慣れないその名前にウォーカーは怪訝な顔をする。
「冷静になれ。今軽率に動けば勝てる闘いも勝てない」
「先輩……でも……」
「今は辛抱するんだ。
それに私たちは逃げる訳ではない。一度戻り、もう一度奴らと再戦する。奴らに勝つために」
その言葉にヴェレーノは、何か言いたげに口をパクパクさせる。
しかし、その言葉を必死に押さえつけるように、唇を噛み締め黙り込む。
そして、
「……わかりましたよ……」
それだけ言って渋々羽をしまい、2人を置いてサンクティアがある方角にスタスタと歩いていく。
「……なんとか……納得してくれたみたいだな」
「いやー。一時はどうなることかと……」
「……あいつの気持ちもわかる。私も奴とは再戦を誓ったというのに……」
そう言ってアーサーは3人と別れた方角に視線を向ける。
その瞳には悲しみと悔しさが滲んでいた。
「ところで、さっき俺が止めちゃった戦いだけど、あの女大技出そうとしてたよね? ぶっちゃけあれどうだったんだ?」
ウォーカーはおもむろに先ほどから気になっていたことを口にする。
それは重い空気から転換するための意図もあった。
「ああ、あの技か。……どんな技かまではわからなかったが、もし食らっていたら……、
負けていたのは私だったかもな」
「え?」
怪物も、聖騎士も去っり、静まり返った平原の真ん中。
一箇所に集まり、眠るようにして気絶していた、マーガレット、楓、ミルル。
そんな3人に1人の影が近付く。
「……驚いた……。まだ生きてるなんて……」
青みがかった色合いの髪を肩あたりに短く切り揃えている女性。
戦国時代の武士を想わせるような胸当てと具足。
そして、右手には1メートルはあろうという巨大な太刀。
女性はおもむろに近づき首筋に指を当てる。
「……動脈もしっかりしてる……。こっちの人は手足がボロボロだけど、勇者だから多分助かるわね」
そう言って女性は、懐から通信用の水晶を取り出す。
「……太陽? 聞こえてる? 初音がまた暴れ出してる。もしかしたらまたそっちに行くかも。みんなを集めたほうがいい。
…………ごめん、今回も私は行かない。
初音を止めることは私にはできない……。
一応、友達として忠告するだけ……。
……うん。ごめんね……。
じゃあ、そういうことだから……」
そう言って女性は通信を切る。
そして改めて倒れている3人を見つめる。
「……きっとこの先あなたたちは会うことになるでしょうね。
みんなに」
彼女の名は月代真澄
またの名を「瞋恚の勇者」。
世界を震撼させる、「悪辣の十将」の1人にして、同じく名を連ねる「悪口の勇者」、
本名 鈴振初音、
その最愛の人。




