第27話 鉄壁と猛毒の強襲 その3
「くそ! どこ行ったあいつら……!」
ようやく煙が晴れ、ヴェレーノは2人の追跡を再び開始する。
完全に見失ったものの、"黒狂犬"の追跡があるため、場所を掴むことはできている。
"黒狂犬"の案内の元、たどり着いたのは……。
森を抜け、開けた平原。
先程の鬱蒼とした森とは違い、太陽の光が燦々と照り付ける場所。
その中心にミルルは立っていた。
「見つけたわよ」
「ああ。ウチも待ってたんだよ。
なかなか来ないから寝ちゃいそうだったけどねぇ。お・ば・さ・ん?」
その言葉にヴェレーノは一瞬顔を歪ませる。
が、今回は冷静な態度でやり過ごす。
「はっ。そんなあからさまな挑発に乗るわけないでしょ?」
「あーれー? 挑発だと思った? ウチは事実を言っただけなんだけどなぁ」
「マーガレットはどこへ行ったの?」
ミルルの言葉を無視しヴェレーノは問う。
先ほどからマーガレットの姿が見えない。
それをヴェレーノは警戒していた。
「まあ、大方その辺の茂みに隠れてるんでしょうけど?」
「さぁ? どうかしらねぇー。案外、楓の援護に回ったのかもよー。
あんた程度ウチ1人で……」
「鏡」
ヴェレーノが口にした言葉に、ミルルは虚をつかれ目を見開く。
その表情にヴェレーノはニタァっと笑う。
「あは! その表情! 図星みたいねぇ!」
「な……なんの話よ!」
「誤魔化したって無駄よ。
あんたらが鏡を使ってギフトを奪うってことはすでに知ってる。
大方、今隠れてるマーガレットが隙をついて私のギフトを奪おうって作戦なんでしょうけど……」
ヴェレーノは手のひらを前に突き出す。その合図と共に周囲に散っていた "黒狂犬"が一斉にヴェレーノの周囲に集まってくる。
「その前に。あなたを殺してあげる」
"黒狂犬"が一斉に突っ込んでくる。
「出力調整! レベル3に低下!」
ミルルは二丁拳銃を連射。飛んでくる "黒狂犬"を迎撃していく。
ミルルの魔銃はレベルが上がるほど威力が上がるが、その分連射速度が低下する。
ここは威力より連射速度を向上できるレベルを選択。
とはいえ的が小さく素早い "黒狂犬"をすべて迎撃するのは難しい。
撃ち漏らして突っ込んでくる個体は回避。まるで舞を踊るかのようなしなやかな動き。
ヴェレーノはその動きに素直に感心する。
(へぇ。あれ全部避けるんだ。ただの人間のくせに。あ、そっか。あいつ勇者の子供だったっけ)
"黒狂犬"を避け、撃ち落とし、避け、撃ち落とす。
このままでは先に "黒狂犬"が全滅する。
そう判断したヴェレーノは。
「"可憐な痛み"」
ヴェレーノは両腕を前に突き出す。
その手のひらには鋭利な針が突出し、先端から紫色の液体が滴っている。
そして次の瞬間、その毒液がミルル目掛けて高速で射出される。
「うわっ!」
ミルルは寸前で回避。
後方の地面に飛んだ毒液を見る。
地面に生えていた草は溶け、蒸気が上がっている。
(よ……溶解液……!)
「あら、残念。避けられちゃった。
まあでもいい判断ね。当たったら骨まで溶けちゃうから。私の猛毒」
「猛毒の勇者 ヴェレーノ」。
ギフト名は"可憐な痛み"。
猛毒を体内で生成し、先端の針から分泌する。
その種類も様々。
即効性のもの、
遅効性のもの、
挙句溶解性の毒まで。
針を直接体内に差し込み毒を注入することも、先端から射出することも可能。
「こいつらの猛攻を耐えながらやり過ごせるかしらねぇ!」
ヴェレーノは続け様に毒液を乱射。
当たれば即死な毒の弾丸をミルルはなんとか回避していく。
その間にも "黒狂犬"は絶え間なく襲ってくる。
「あは! どうしたのぉ? さっきまでの威勢は! 避けてるばかりじゃ私は倒せないわよ!」
余裕を見せ嘲笑うヴェレーノ。
そこに、ミルルはフックショットを射出する。
「おっと」
ヴェレーノはそれを難なく回避。
「ちっ! あとすこ……。いった!」
ヴェレーノに狙いを定めた一瞬。
一匹の "黒狂犬"がミルルの太ももに喰らい付いた。
その痛みにミルルは大きく体勢を崩す。
さらに続け様に、二の腕、肩、腹部。三箇所を噛みつかれる。
「うわぁああ!!」
「あははは!! 無様ねぇ! やっと倒れた!」
痛みに悶えるミルルに対しマーガレットは嘲る。
「大方。その鎖で私を拘束するつまりだったんでしょうけど……。
おあいにく様。その程度で私は捕まえられない」
痛みで動けないミルルに、ヴェレーノは悠々と近づく。
「さあ。とどめよ。楽には殺さない。遅効性の毒でじわじわと痛みを味合わせながら殺してやるわ」
そう言ってミルルに近づき、針を振り下ろそうとした。
その瞬間、
ジャキ……。
聞き覚えのある金属音と共に何かが腰のあたりに絡み付いた。
「ん?」
違和感を感じたヴェレーノは腰のあたりに視線を落とす。
そこには、
先端に返しが着いた鎖が巻き付いていた。
「捉えました。「猛毒の勇者」!」
それは今まで後方で息を潜め、フックショットを射出したマーガレットだった。
時間は少し前に遡る。
「陽動作戦?」
「そう。ヴェレーノは実力もあり、頭も切れる勇者。でも直情的で感情が先行することがある。
自分が有利と確信すれば必ず油断する。そこを狙う」
「……なるほど……。具体的には?」
「まず、平原に彼女を誘い込む。
平原には私1人で、ミルルは後方の森で待機。
彼女の攻撃をやり過ごし、タイミングを見計らって私がやられる。そして完全に油断しきったところで、ミルルがフックショットを射出。ヴェレーノを完全に捉えることができれば後は私が彼女のギフトを奪う」
作戦内容を聞いてミルルは考え込む。
「……何か気になるところある?」
「いや、流石マーガレット。いい作戦だと思う。
でも、その陽動役はウチがやる」
「え!? いやいや、だめよ! この作戦で重要なのはヴェレーノを拘束すること。
そのためにはフックショットが扱えるあなたは後方にいないと!」
そう言ったマーガレットにミルルはあるものを投げる。
それはミルルの付けているフックショットの魔道具だった。
「え。これ……」
「それはウチが使ってるやつの予備。それ渡すからマーガレットは隠れてて」
「いや……でも……。この作戦は陽動役の危険が高い作戦。
だから……あなたを危険に晒すわけには……」
「何言ってんのよ。ウチの方があんたより頑丈だし、足も早い。適役はうちでしょ。
ただし、絶対に外さないでね」
「はぁ!? なんで後ろから!?」
混乱しているヴェレーノに対しマーガレットはあくまで冷静。
素早く鎖を巻き取り、ヴェレーノの元まで一気に飛びつく。
(くそ! だけど、腰に巻きついてるだけ、腕は動くし、体も動く!
飛んできたあいつに針を刺してやれば終わり!)
ヴェレーノは振り向きマーガレットと向かい合う。鎖を巻き取りながら近づくマーガレットはポケットに手を突っ込み何かを取り出そうとする。
(来る! ここだ!)
ヴェレーノは腕を大きく振り上げる。
鏡を使って隙ができたところを狙うために。
だが、その目測は甘かった。
マーガレットが握っているのは鏡ではなかった。
それよりもっと球体状で、小型のもの。
ヴェレーノは知っている。ついさっきそれに煮湯を飲まされた。
そう、それはミルル特製の閃光玉だ。
「しまっ!」
気づいた時にはもう遅い。
マーガレットはフックショットの鎖を腕の機構から分離させ、ヴェレーノの目前に閃光玉を投げつける。
その衝撃で眩い光があたり一体を包み込む。
「ぎゃあああ!!!」
またしても目眩しを喰らったヴェレーノは堪らず落下。
目を覆いながら必死に針を振り回すが当たるわけもなく、何もいない場所に向かって振り下ろされる。
完全に視覚を失っている。
だが、この状況も長くは続かない。
ヴェレーノの視力が回復する前に決着をつけなくてはならない。
「今よ! ミルル!」
マーガレットの指示でミルルはフックショットを射出。
今度は腕ごと絡め取りヴェレーノを完全に捉える。
「きゃあ!」
再び巻き付いた鎖に身動きが取れないヴェレーノはそのまま地面に倒れ込む。
腕も使えず、立ち上がることもできない。
あげく羽を出して飛ぶことも不可能。
完全にヴェレーノを捉えた。
「やった! ってミルル!」
マーガレットが喜んだのも束の間。
ボロボロのミルルを見てマーガレットは駆け寄る。
「へへへ。やったね……。マーガレット……」
「もう! 無茶しすぎ! 一歩間違ってたら死んでたじゃない!」
「……楓無しでもやるんでしょ? だったらこのくらいしなきゃね……」
「もう。ミルル……」
ミルルは力無く手を上げ、手のひらをマーガレットの方に向ける。
マーガレットはそれに答えるようにこちらも手のひらを重ねる。
勝利を確信した2人のハイタッチは子気味良い音と共に平原に響き渡った。




