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第26話 鉄壁と猛毒の強襲 その2

「まーてー!!」


 森の中、マーガレットとミルルは木々を掻い潜りながら敵の追撃から全力で逃げる。


「待てって言われて、待つわけないでしょ!」


 ミルルは後方に閃光玉を構え、投げつける。


「はっ! ワンパターンね! 同じ手を喰らうと思ってんの!?」


 ヴェレーノは大きく上昇。

 

 枝を掻い潜り、森の上空へと飛び出す。

 閃光玉の起爆による光は全て生い茂る葉に遮られヴェレーノに届くことはない。


 光が治った後、ヴェレーノは再び急降下、2人の追撃を再開する。

 その表情は勝ち誇った笑みを浮かべていた。


 対象的にミルルは忌々しそうに睨む。


「くっそ! すばしっこいわねあの虫女! マーガレットなんとか……。ってうわ!」


 突然、横から黒い球体が突っ込んでくる。

 

 それは彼の樹海にて遭遇した、永遠に付き纏い続ける黒い追跡者。"黒狂犬(ブラックドッグ)"。


「だぁーもう! 鬱陶し過ぎる! こんな足場の悪い森じゃあ避けるのもひと苦労だし!」


 苛立ちを感じながらなんとかこの状況の打開策を考える。


 敵はすでに閃光玉の恐ろしさを味わったため、2度目はそう簡単に引っかかってくれない。


 なんとか距離を離したいが、行手を阻むように飛んでくる"黒狂犬(ブラックドッグ)"が厄介。

 

 そしてさらに悪いのは、


「はぁ……はぁ……」

 

 マーガレットの状態だ。


 息が荒く顔色が悪い。

 足取りもおぼつかなく、今にも倒れそうだ。


 さっき山登りの疲労がまだ残っている状態でのこの逃走劇、流石に体力に限界が来ている。


「マ、マーガレット……」

 

「はぁ……。いいから……私のことは……気にしないで……」


 精一杯強がっているが状況は最悪。

 

 最早手段を選んでいられない。

 ミルルはバックの中に手を突っ込み中から何かを取り出す。


「マーガレット! これ飲んで!」


 マーガレットに小瓶を投げる。

 

 それはさっき飲ませようとした、疲労が吹き飛ぶというミルル特製のポーションだ。


「げ!? これって……!」

 

「いいからそれ飲んで! 効能は保証するから!」

 

「そらそら! いい加減観念しなさーい!」


 もうヴェレーノがすぐそこまで来ている。

 このまま疲労を残した状況では逃げ続ければ間違いなく追い付かれる。

 

 うだうだ言っている場合ではない。

 マーガレットは意を決して小瓶の中身を一気に飲み込む。


「うぐ……! ……ん?」


 ポーションを一滴残らず飲み込んだ瞬間、マーガレットは自分の体に視線を落とす。

 

 身体中から力が漲ってくる。

 さっきまでの身体の重さが綺麗さっぱり無くなる。

 気分も高揚し永遠に走っていられそうだ。


「すごい……。

 

 すごいすごいすごい!!!

 すっごい気もちぃいいい!!!」


 気分の上昇を抑えきれず、マーガレットはミルルを追い越して森の中を全速力で駆け抜けていく。

 

 その変わりようは後方から見ていたヴェレーノの思考を大きく混乱させる。


「な……なんなの? さっきまで虫の息だったくせに」


 その、一瞬動きが止まったヴェレーノをミルルは見逃さない。

 

 動きを止めたヴェレーノに向かって再び投げつける。

 

 ヴェレーノは一緒面食らったものの、すぐに我に返り、先ほどと同様上昇し回避する。

 

「だから同じ手が通じると……!」


 しかし、今回は違った。


 なんと、炸裂した手投弾から発せられたのは、光ではなく()()()()だった。


「な!」


 ヴェレーノは慌てて急下降する。

 しかし、その頃にはあたりに煙が充満していて周囲の様子が何も見えない。


「あーあ。やっちゃったねー。

 まったく、動きがワンパターンだと読みやすくて助かるよ」

 

「くっ……! 黙りなさい!」


 ヴェレーノは煙の中飛び回るものの、木々が邪魔で思うように飛ぶことができない。


 かと言って空へ飛び煙から抜けようとも、木々が邪魔で見つけることはできない。


 煙の外にいるミルルはこの気を逃さず、フックショットを使いヴェレーノとの距離を一気に離す。


 去り際に、煙の中にいるヴェレーノに向かって声をかける。

 

「じゃあね。お・ば・さ・ん」

 

「……はぁ?」


 渾身の煽り文句。


 ミルルは満足げに笑い、マーガレットの後を追う。


 (ざまぁみなさい!

 これでしばらくは追って来れない! 今のうちにマーガレットと合流して作戦を立てないと!)


 フックショットで加速したことにより、森の地形を気にすることなく進むことができる。


 かなり離されていたマーガレットにも簡単に追いつく。

 

「マーガレット! 調子はどう?」

 

「ミルル……。


 もう……さいっこう!

 

 あなたやっぱり天才!

 もう体が火照っちゃって……!

 なんかもうなんでもできそう……!」


 テンションが上がりすぎてマーガレットが若干おかしなことを言い始める。

 ポーションの効果で一時的にハイになっているんだ。

 

 だが、ミルルは重要なことを言っていなかった。

 

 このポーションは疲労を治しているのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アドレナリンの分泌を促進させ、疲労感を一時的に癒す。

 

 しかし、あくまで一時的。

 疲労した体を無理やり動かした反動は後日で帰ってくる。


 (……後で謝ろう……)


 この危機的状況と、本人のテンションの高さに、ミルルは硬く口をつぐんだ。




 

 煙の中、ヴェレーノは空中で静止していた。

 

 視界はゼロ、思うように飛ぶことはできない、さらに逃がした獲物は聞き捨てならない言葉を残して逃げた。


「……ないわよ……」

 

 ヴェレーノはわなわなと体を震わせ、奥歯をギリギリと噛み締める。

 

「ふ……ざけんじゃあないわよ! あんのクソガキども!!!!

 

  "黒狂犬(ブラックドッグ)"! 食いちぎって来い!」


 鬼の形相を浮かべるヴェレーノは周囲の"黒狂犬(ブラックドッグ)"を全て2人の追跡に回す。


 視界が開けなければ、ヴェレーノは2人を追いかけることはできない。

 

 しかし"黒狂犬(ブラックドッグ)"は嗅覚で獲物を追いかける。視界の有無は彼らには関係がない。


 しばらくすれば煙は晴れる。

 その間2人を見失わないように"黒狂犬(ブラックドッグ)"を先行させる。


 怒りが頂点に達しようともヴェレーノの戦術は堅実だった。


「絶対殺す!」


 


 

 後ろからヴェレーノの叫び声が聞こえる。

 ミルルの言葉が相当効いたのだろう。

 かなり怒ってる。

 

「……大分距離は離せたけど、状況は好転してないし……。それに……」


 ミルルが全てを言い終える前に、右側から再び"黒狂犬(ブラックドッグ)"が突進してくる。

 

 しかも先ほどより数が多い。

 

 転がるように、なんとかその追撃を回避する。


「あの"黒狂犬(ブラックドッグ)"! こいつらをなんとかしないと。ただでさえ厄介なイカれ勇者がいるってのに!」


 ミルルは悪態をつきながらなんとか走り続ける。

 

 それとは対照的にマーガレットは、


「大丈夫、策はあるわ!」


 さっきまでの満身創痍が嘘のように自信満々に宣言する。


「もう少しすると森を抜けて平原に出る。

 こんな狭い場所じゃ小回りのきく相手が有利。

 

 まずは開けた場所に出て決着をつける!」

 

「え!? すご! この辺の地図頭に入ってんの?」

 

「当然! 私はうちのパーティの頭脳担当よ! このくらいまっかせなさーい!」


 テンションが明後日の方向に行ってしまっているがそれでも作戦立案についてはいつも通りだ。


「身体能力で劣る私たちにとって、唯一の勝利条件はあいつをこの鏡に映すこと」


 マーガレットはポケットから鏡を取り出す。


 紅色の装飾が特徴的な美しい鏡。


 あらゆる勇者の最大の武器、「ギフト」を奪い取る鏡。


 マーガレット最大の切り札。


「でも敵は強い。オズワルドなんかとは訳がちがう。

 術式が成立するまでどころか、一瞬でも鏡に映せるかどうか……」


 ヴェレーノの最大の強みは猛毒に加えて、あの起動力。


 昆虫のような軽快で変則的な動き、人間の洞察力で追うことは難しい。


 ましてや詠唱を唱え終わるまで写すなど、不可能に近い。


「でもやってやるわ! いつも楓ばっかりに任せっきりだけど私だってやる時はやるんだから!」

 

「マーガレット……。よし! やってやりますか!」


 決意を固めた少女たちは敵の猛撃を掻い潜りながら平原を目指す。



 


 マーガレットとミルルが逃走劇を繰り広げている最中。


 楓とアーサーは長い睨み合いを続けていた。

 互いに隙のないプレッシャー。軽率には動けなかった。

 

「……古竜拳法 爪竜刃!」


 長い睨み合いを打ち破り、最初に動いたのは楓だった。

 

 素早い動きで一気に距離を詰め、相手の胸部目掛けて正確に斬撃を放つ。

 

 しかし、


「っ!」


 切れない。

 

 それどころか敵の装甲に傷一つつけることができない。

 楓の斬撃を完璧に受け切ったアーサーは悠々と拳を握り相手に打撃を放つ。

 

 楓はそれを飛び退いて回避。

 紙一重でかわし再度突撃、斬撃を浴びせる。

 頭、首、腕、足、腹。

 目にも止まらぬ速さで浴びせる斬撃を放つ。

 

 それをアーサーは防御することも、避けることもしない。


 アーサーの動きは至極単純。

 ただただ動かず全てを受け止め、隙を見つけて打撃を加える。

 たったそれだけのはずだ。

 

 攻撃を多く当てているのは間違いなく楓。

 

 だが、その鎧には傷一つつけることはできない。


 (かってえなぁ……。これだけ切って傷一つつかねぇなんて……)


 楓は斬撃を放った自分の指に視線を落とす。

 血が滲み、痙攣を起こしている。


「どれだけ攻撃を与えようとも無駄なことだ。

 私のギフト、"堅牢なる城壁(キャッスル)"は圧倒的な硬度を持つ鎧を生成する力。徒手で戦うお前とは最も相性が悪い」

 

 アーサーの鎧には攻撃が通らない。代わりに楓の体はみるみるうちに疲弊していく。この攻防を続ければ間違いなく負けるのは楓の方だ。

 

 だが、楓はこの状況に不適に笑う。


「……何がおかしい?」

 

「いいや。前にも似たような状況があったなと思ってな。


 こっちの攻撃が全く通らず、勝負にすらならない……」


 楓はある人物を思い出す。


 かつて戦った……、いや戦いにすらならなかった。

 攻撃を全て無効にするギフトを持つ勇者。

 

「白鹿の勇者 ハクレンノミコト」。

 

「あの時は、流石にどうしようもないと諦めた。


 だが、今回は()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 そう言って、構を取り直す。

 

 足をあげて、拳を前に構える。

 楓の扱う型の中で足技に特化した技。


「古竜拳法 砕竜脚!」


 左足を軸とした鋭い右の回し蹴り。

 

 狙うは顔面。

 先の斬撃に比べ遅いものの、重い一撃。

 アーサーは左腕で防御する。


「……先ほどより重い。だが、その程度では……」

 

「まだだ!」


 楓は繰り出した右足を振り抜き地面に着地。

 そのまま着地した右足を軸に左足で後ろ回し蹴りを繰り出す。


「くっ!」


 続け様の二連撃。

 加えて一撃目より威力の高い攻撃。

 

 決して動くことのなかったアーサーの体がついにふらつく。

 

 足に力を入れ踏ん張ることで吹き飛ばされることはなかったが、


 バキ!


 ()()()()()()()()()()()()()()()


「はっ! どうだ! 砕いてやったぜ!」

 

 あの無敵の力に比べれば今回はただ強固だけ、ただ鉄壁なだけ。

 それだけであれば突破口はある。


「……なるほど。ウォーカーを倒しただけはある」


 アーサーは鎧が砕かれた左腕をまじまじと眺める。

 

 このままアーサーの鎧を砕き続ければ勝てる……。

 そう確信しかけていた楓。

 

 しかしその考えは次の瞬間一瞬で霧散する。


 楓に砕かれた右腕の部位。その部分が突然あたたかい光に包まれる。

 

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な!?」


 楓は目を見開く。


 すでに腕の鎧は先ほどと変わらない状態に戻り、まるで壊された事実などなかったかように。

 

「私の"堅牢なる城壁(キャッスル)"は鎧を生成する能力。砕かれれば瞬時に修繕することもできる。決して、倒れることはない。」


 鎧は硬く、半端な力では傷一つつけることはできない。

 例え砕けたとしても鎧は瞬時に再生する。

 まさに鉄壁、まさに堅牢。


 楓は冷や汗を滲ませながら、先ほど攻撃を繰り出した自分の右足に目をやる。

 

 じんわりとした痛みが少しづつ、足の筋肉に広がり続ける感覚があった。


 果たして後何発攻撃を繰り出せるか。

 鎧より先に壊れるのは自分の肉体ではないのか。


 その考えを振り解くように歯を食いしばり、首を横に振る。

 

「……上等だ。何度だって砕いてやるよ!」


 どんなものでも砕く攻撃、あらゆる攻撃を防ぎ切る鎧。

 

 矛と盾、両者一歩も譲らない戦いは佳境に向かう。


 


 


「いやー。派手にやってるねぇ。まきこまれなくてよかったぁ」


 5人の戦闘をウォーカーは遠くから眺めている。

 持参していたラム酒を片手に。


「それにしても。このブラック労働、やってられないなーいなぁ」


 ラム酒の瓶をラッパ飲みしながら独り言を呟く。


「だいたい、俺傷全然治ってないし。普通あんな大怪我負ったら養生期間くれね?

 

 それなのに、アーサー殿はスパルタだし、ヴェレーノちゃんは一生俺に当たりきついし。

 

 はーあ。いっそこのまま国外逃亡しようかなぁ。

 ワンチャンどさくさに紛れて……」


 突然ウォーカーの独り言が止まる。

 その額には一筋の冷や汗が垂れる。

 

 両目を見開き一点を見つめる。

 マーガレットたちが乱戦を繰り広げている場所よりはるか先。


 そこにある巨大な影に。

 

 

「嘘だろ……。


 ……いや、そうか。ここはもうやつの縄張りか……。

 「悪口(あっく)の勇者」……」

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