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第25話 鉄壁と猛毒の強襲 その1

 メドローデ地方。

 険しい山々が多いこの地方。各国に繋がる巨大な道があるため、多くの人々がかつては行き交っていた。

 

 しかし、現在はほとんど誰も通ろうとしない。


 何故か。

 怪物がいるからだ。

 

 その歌声が聞こえたら耳を塞ぎなさい。

 その歌声は人の言葉ではないのだから。

 その歌声はこの世のものではないのだから。

 その歌声は……。


 ()()()()()()()()()()()()



「そうでしょう? ()()






「ま……待ってよー2人ともー!」


 山道。マーガレットは弱音を吐きながら歩いていた。


「まったく情けないわね。このくらい余裕でしょ」


「あんたたちと一緒にしないでくれる!? 私は普通の一般人なのよ!」


「まあまあ。ここを越えればもう少しで魔王領だからさ。頑張ろうよ」


 そう、この街道は各国に通ずる主要な街道に加え、魔王領に繋がる最短ルート。

 

 このメドローデ地方を越えればいよいよ目的地だ。


「でも……ちょっと怖いわよね」


「はぁ……はぁ……なにが?」


「あ、いや、ウチも噂話を聞いただけなんだけど。この辺怪物が出るらしいんだよ」


「怪物ー? ……はぁ、はぁ。どうせ、怪物と呼ばれてる人間とか、魔物でしょ? そんなの見飽きてるじゃない。なんならうちにいるし……」


「んん?」


 見つめてくる2人に楓は首を傾げる。

 

「あーいやいや、本当に、ガチの怪物らしいんだよ」


 この辺りで囁かれてる噂話とは……。


 かつてこの辺りは往来の多い街道だった。


 しかし、天をつくほどの巨大な怪物が現れ、人も、動物も、果ては魔物すら次々と死んでいったと言う。


「それで……聞こえてくるんだってさ……。()()()……」


「歌声?」


「そう……。なんでも聞いたことのない歌が聞こえて来て。それが聞こえた時点でその怪物はもうすでに近くにいるらしいよ」


「へぇー。面白そうね……」


 楓は静かにほくそ笑む。


 その様子にマーガレットはため息をつく。

 

「またいつものが出たわね……。そんな危なそうなやつと絶対戦はないからね!」


「わかってるわよー」


 絶対納得していない。


 怪物の噂話、魔王領に入った後のこと、険しい山道、そして楓の戦闘狂気質。

 

 考えることが多すぎてマーガレットは頭を抱えながら歩みを進める。


 ()()()()()()()()()()()()()()()……。




「見つけた……」


 双眼鏡越しに3人の様子を見て、呟くのはサンクティアからここまで追って来た聖騎士、アーサー。

 傍にはヴェレーノと、ウォーカーもいる。


「遂に追いついた。マーガレット・シンフォニー」


「まったく。このおっさんの足が遅いからよぉ! ほんっと足手まとい」


「今日も辛辣だねぇ、ヴェレーノちゃん」


「ちゃん付けすんな。キモいんだよ」


 静かに3人を監視するアーサーと違い、2人は後ろで言い争いをしている。


 そんな様子をため息をつきながら諌める。


「おい。いい加減しろ。敵は目の前だ、気を引き締めろ」


「私はいつだって引き締めてまーす。先輩」


「俺も引き締めてまーす」


「はぁ。やれやれ」


 先が思いやられると、額に手を当てて顔を伏せる。


「まあいい。作戦を伝える。

 奴らはしばらくすると左右を壁に囲まれた谷を通る。そこでヴェレーノがまず奇襲を仕掛ける」


「はーい! 超ワクワクするー! そのまま殺しちゃってもいいでしょ?」


 ヴェレーノは手のひらから針を突出させ、残忍な笑みを浮かべる。


「それに越したことはないが、油断はするな。相手も勇者、決して侮れない」


「はぁーい」


「一撃目で相手が体勢を崩したら、私がすかさず畳み掛け敵の勇者を抑える。

 そうしたらヴェレーノと、ウォーカーで残りを……」


「痛たたたた!!!」


 突然、ウォーカーが大声を上げて叫び始めた。


「……どうした? ウォーカー」


「いやー申し訳ない、どうやら前回の戦いの傷が開いてしまったようで……。おーいたいいたい」


 明らかに演技。わざとらしい態度だ。


「……ねぇ先輩。やっぱりこいつ殺しません?」


「まあまあ待てって、もちろん援護はする。

 "黒狂犬(ブラックドッグ)"を何体か2人につける。これだけでも充分援護にはなる。

 

 いやー前線で戦えなくて本当に申し訳ない! 

 だがしかし! 俺は俺のできることをやるさ!」


「……はぁ。まあいい。元から2人でやる予定だったからな」


 そう言って再び、アーサーは3人が歩く方角に視線を向ける。


「さあ行くぞ。反逆者を粛清する」




「はぁ。はぁ。ちょっと待って……。もう無理……」


「もう、またなのぉ」


 山一つ登りきり、3人は下り坂の道を進んでいた。


 現在は中腹、足場の悪い谷底を歩いていた。


 ここまで休みなしで歩き続け、マーガレットの体力は限界を迎えている。


「ほら頑張って。地図によると、この谷を抜けると、開けた場所に出るらしいから。そこまで行ったら少し歩きやすくなるよ」


 なんとかマーガレットを励ます楓。


 マーガレットもそれに応えようとするが、汗がダラダラと垂れ、目が虚だ。


「うーん。じゃあ一旦ここで休みましょう。ここで潰れたら元も子もないし」


「ありがとー」


「しょうがないわねー。あ! そういえばウチ特製の体力回復のポーションがあってねぇ」


 そう言ってミルルがバックから取り出したのはさまざまな色に変色するおどろおどろしいポーション。


「さあさあグイッと一杯! 疲れなんて吹っ飛ぶわよ!」


「絶対嫌! 意識まで吹き飛びそう!」


 マーガレットは全力で飲むのを拒否。


 ミルルはめげずにぐいぐいと押し付けてくる。


「まあ、先を急いでいる訳でもないしゆっくり……」


 突然、楓の言葉が止まる。


 不思議に思った2人は楓の方を見る。


 頭上。

 左の崖の上部を見つめ硬直している。


「楓……? どうし……」


「ミルル。マーガレット。()()()()()()……」


 いつになく真剣な表情にマーガレットは困惑しながら尋ねる。


「い……いったい何が……」


「構えろ! 来るぞ!」


 楓の叫び声と共に、それは飛び出して来た。


「みーつけたぁ!」


 谷の上から飛び降りて来たのは露出度の高い鎧を着こなし、両腕から突出した巨大な針が特徴的な桃色の髪の女性。


 周辺に見覚えのある球体が飛んでいる。


「あ……あれって……!」


「行け! "黒狂犬(ブラックドッグ)"!」


 その命令と共に全部で8体の球体がマーガレットたちに突進する。


 楓は完璧に見切りすべて迎撃、マーガレットとミルルは横に飛び退き回避する。


「あっ!」


 しかし、その際マーガレットがつまずき転倒。


 ヴェレーノはその隙を見逃さなかった。


「しぃねぇえええ!!!」


 マーガレット目掛けて一直線に落下してくる。


 もはや避けきれない。

 だが、


「古竜拳法! 爪竜刃!」


 楓は追いついた。


 マーガレットに当たる寸前、攻撃を弾き返す。


「チッ!」


 攻撃を弾かれたヴェレーノは舌打ちをしながら地面に着地する。


「何者だ。盗賊……じゃねよな?」


 楓の問いかけに対し、ヴェレーノは不気味な笑みで答える。


「ええ、私はヴェレーノ。

 「猛毒の勇者 ヴェレーノ」! 

 聖騎士所属の勇者よ」


「聖騎士……。なるほどサンクティアの追手か」


「ヴェレーノ……」


 マーガレットは彼女の顔を見るなり青い顔をする。


「ハァーイ。マーガレット! 久しぶりねぇ」


 ヴェレーノは針を出した手のひらでマーガレットに手を振る。


 その様子にマーガレットはヴェレーノに問いかける。

 

「知り合いか……?」


「知り合いってほどじゃないけど。()()()()()()、シンフォニー家は有名だからね私らの間じゃ」


 裏切り者、()()? 

 

 楓はその言葉に怪訝な顔をするが、ヴェレーノは気にせず話を続ける。


「でも残念だわー。裏切り者とはいえ、名門シンフォニー家の唯一の生き残りを正義の名の下に処刑しなきゃいけないなんて」


 そう言うとヴェレーノは目元を抑え、わざとらしい泣き真似をする。


 だがそんなヴェレーノを楓は鼻で笑う。


「正義? はっ! 笑わせんなよ? 正義なんてもんが似合うツラかよ。

 人を殺したくて殺したくてたまらない……。そんな顔してるぜ?」


 その言葉にヴェレーノはニタァっと、残忍な笑みを浮かべて笑い返す。


 相手は自分と同種、醜い快楽殺人鬼。

 

 楓は構を取り直し、眼前の敵のみに焦点を合わせる。


 だが後方で見ていたマーガレットは別の心配をしていた。


「楓待って! その女がいるってことは……!」


 ズドン!


 突然何かが崖の上から落ちて来た。

 

 落下地点に上がる砂煙の中には、白銀に美しいく輝き、雄々しい巨大な鎧を身にまとった騎士が立っている。


 彼の周囲にも同じように"黒狂犬(ブラックドッグ)"が飛んでいる。


「ふん!」


 着地して早々、男は前方に飛びショルダータックルを仕掛ける。


 狙いは一点。

 楓だ。


 なんとか防御したもののまともに喰らった楓は後方の岩壁に吹っ飛ばされる。


「楓!」


「やっと追いついたぞ……マーガレット・シンフォニー」


 鉄壁の守護者と、血を好む快楽殺人鬼。

 

 ついに2人の勇者がマーガレットたちの前に現れる。




 「アーサー……ヴェレーノ……」


 マーガレットは体を強張らせる。


 ミルルも狼狽えながらも、魔銃を握り構える。


 「な……何なの? こいつら二人ともサンクティアの聖騎士な訳?」


 「そう。しかもその中でも相当の手練れ」


 アーサーは聖騎士の中でも一個小隊を率いる隊長。そしてその副官がヴェレーノ。


 どちらも聖騎士屈指の実力者だ。


 「さっさと降伏しろ。すでにお前らの勇者は倒された」


「えー。つまんないから降伏しなくていいわよー。意地汚く足掻いて、惨めに命乞いしてねー♡」

 

 「()()……()()()()()()?」


 次の瞬間、アーサーの体に凄まじい衝撃が走る。


「古竜拳法! 角竜突!」


 楓からの不意打ちの突進。

 アーサーの体は後方の壁に吹き飛び、瓦礫の下敷きになる。


 アーサーを吹き飛ばした楓は首をバキバキと鳴らし、準備運動をしている。


「あー。今のはなかなかだったぜ? 鎧やろう」


「……まあ、あの程度でくたばるやつではないか」


 アーサーも、崩れた岩を持ち上げ瓦礫の中から出て再び楓に向き直る。


 向き直る際、自分の鎧の胸の辺りを拳で叩き気合を入れる。


「ヴェレーノ。2人を拘束しろ。くれぐれもマーガレットは殺すなよ。一緒にいる同行者はどうでもいい」


「りょうかーい」


 楓、マーガレットとミルル。

 現状3人の間に2人が挟まる構図となっている。

 

 これでは楓は2人を助けることはできない。

 

 加えてこの地形。

 側面を壁で囲まれているため簡単には回り込めない。


 地の利は完全にあちらにある。


 (どうする……どうする!)


 マーガレットはぐるぐると思考しながら瓦解策を考える。

 

 そんなマーガレットを待つわけもなく、ヴェレーノはジリジリと距離を詰めてくる。


 そこに、


「ミルル! マーガレットを連れて逃げろ!」


 楓の声が谷中に響き渡る。


「ここは地形が悪い! 戦うにしても場所を変えろ! ミルル! お前に任せる!」


「っ! 了解!」


 動けずにいたミルルも楓の声に呼応し自分のできることをやる。


「はっ! 逃すわけないでしょ!? 全員ここで殺してやるわ!」


 ヴェレーノが一気に距離を詰める。


 だがその前にミルルは素早くマーガレットを抱き寄せ、詰めてくるヴェレーノに向かって投げつける。


 ミルル特製の閃光玉だ。

 

「マーガレット! 目を閉じて!」


 次の瞬間。

 眩い光が谷中に充満する。


 マーガレット、楓は目を塞いで回避。


 直撃したヴェレーノは、網膜が焼けるような衝撃が走る。


「うわぁあああ!! なんなのよこれ!」


 目を抑えながらのたうち回る。


 その隙にミルルはマーガレットを抱えて、フックショットを崖の上に射出。

 谷から脱出する。


「楓!」


「1人は俺がやる! マーガレット、頼んだ!」


 頼んだ。

 

 その言葉をマーガレットは噛み締める。


「……うん!」


 2人は崖の上、林の中に消えていった。

 

 その様子をアーサーは目で追う。


 アーサーの鎧には咄嗟の目眩しを遮断する特性もあるため、閃光玉の効果は無かった。


「やられたな。ヴェレーノ、行けるか?」


「当たり前……! あいつら殺してやる!」


 その発言と共に、血走った目で立ち上がるヴェレーノの腰から何かが生え始める。


 それは昆虫のような透明な羽。

 それを高速で羽ばたかせヴェレーノの体は宙に浮く。


「行くわよ! "黒狂犬(ブラックドッグ)"共!」


 ヴェレーノは再び周囲に"黒狂犬(ブラックドッグ)"を侍らせ、逃げたマーガレットたちを追って高速で飛行する。


「さて……ではお前の相手は私だな」


 追いかけるヴェレーノを確認した後、アーサーは楓に視線を向ける。


「その球体。あのくたびれたおっさんのギフトだろ? 来てんのか?」


「安心しろ。ウォーカーはここには来ていない。お前の相手は私1人だ」


 そう言ってアーサーは構えを取る。


 顔の前で拳二つを握り、その姿はまるでボクサーのファイティングポーズのよう。


 それに応えて楓も構えを取る。

 

 いつも通り、腕を下に広げ、指先を少し曲げて手のひらを開く、そして腰を深く沈み込む構えだ。


「……良い闘気だ。どうやら純粋な戦士のようだな」


「お前もな。嬉しいぜ、久々に戦士と戦えるなんて……」


「ならば、全力で相手をしよう」


 そう言うとアーサーは腰のポーチから通信用の水晶を取り出す。

 


「ウォーカー聞いているか?」


 ――はいはい。アーサー殿なんですかい?


「私の周りの"黒狂犬(ブラックドッグ)"を全員ヴェレーノの援護に回せ」


――……よろしいので?


「ああ。やってくれ」


 その会話と共に周囲にいた "黒狂犬(ブラックドッグ)"はアーサーから離れ、ヴェレーノの後を追っていった。


「……良いのかい? 自分から戦力を削いで。俺としちゃあ気にしいねぇが」


「真剣勝負に不純物はいらない。ただ己の御体のみ。それだけあれば十分だ」


「いいねぇ。気に入ったぜ」


 2人の視線がかち合う。


 そしてお互い同時に息を吸い込み、名乗りをあげる。


「「鉄壁の勇者 アーサー・ミュール」!」

「「暴乱の勇者 東雲楓」!」

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