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第22話 海辺の死闘

「本当にお世話になりました……」


 深々と頭を下げるエネカ。


 昨日の騒動から一日。

 エネカは怒り続けた後、気絶するように眠ってしまった。

 疲れと、緊張の途切れたのが重なったのだろう。

 

 それから半日全く起きず、マーガレットたちはこのまま放置するのも忍びないので、1日宿を取ることにした。

 

 路銀が足りないため、足りない分は持ち物を売ってなんとか補った。


「助けてもらって、一晩泊めてくれて……」


「いいのよ……仕方ない」


 そう言ったマーガレットの顔はあまり良くない。

 

 今回の宿屋代でついに彼女たちの軍資金が底をついた。

 

 これからどうしようかと正直気が気じゃない。


「エネカ、これからどうするの? なんなら一緒に行く?」


 ミルルからの提案にエネカは首を横に振る。


「これ以上迷惑になれない。エネカは1人で行く。この子もいるし……」


 そう言ってキャリーバッグを撫でる。

 

 それに答えるようにアビーも腕を出してエネカの手に触れる。


「……そっか。じゃあ元気でね! またどこかで会いましょう!」


「うん! 次あったらいっぱいお礼する!」


 エネカからのお礼を聞いて、3人は出発しようとする。


 しかし、マーガレットだけはその場で立ち止まる。


「マーガレット?」


「……ごめん。ちょっと先に行ってて」


 そう言うとマーガレットはエネカの元へ走り始めた。


「マーガレット。どうしたの?」


「ねえ、エネカ。

 復讐すれば前に進めるかしら……」


 それは、ずっとマーガレットの中に引っかかり続ける言葉。どれだけ目を逸らそうとも永遠に纏わりつく呪い。


 聞かずにはいられなかった。

 

 同じように怨念に身を焦がし、復讐を果たした彼女に。

 

「……わからない。でも……少なくとも、復讐した後何も感じなかった……。全部殺して……全部壊した……。なのにみんなの叫び声が耳から離れなかった……」


 そう話すエネカの表情はとても悲しく辛いものだった。


「エネカが生きていられたのは隣にいてくれる人がいたから……。だから……わからない……」


「そう……」


「……マーガレットさん……?」


「あっ! ごめんなさい! 変なこと聞いちゃった! ありがとねエネカ!」


 そう言って手を振りながら足早に走っていく。


 そんなマーガレットの背中にエネカは声をかける。


「マーガレットさんは大丈夫! 2人がいるから!」


 エネカのその言葉に一度立ち止まり、笑顔で手を振る。


 エネカもその様子に伝わったと思い両手を広げ振り返す。


(……そうだね……。

 ()()()()……()()()()()()()()()……)


 こうしてマーガレットはエネカと別れ、2人の元に追いついた。


「ごめん……遅くなった」


「マーガレット……大丈夫?」


「え? 何が? さぁ! 2人とも先を急ぎましょう! 旅はこれからなんだから!」


 マーガレットは何かを誤魔化すように、足早に進んでいく。


「あ! ちょっと待ってよー!」


 ミルルは急いでマーガレットの後を追う。楓は静かに見つめていた。






「この辺りの海域に魔物がでちまってなぁ。漁船が何隻も襲われて仕事になんねぇんだよ。

 討伐しに来たやつは何人もいたんだが……そいつらも全員食われちまった。全く困ってんだよ……」


 そんなぼやきを口にしているのは漁村に住むの年長の漁師。


 ここは「シキル海岸」。

 

 近くの港では漁業が発展していて、観光客が避暑地として訪れるほど発展している場所。

 

 しかし、現在その面影はない。

 港には漁船が一隻もおらず、かつては毎日のように港町で市場が開かれていたが今では閑散としている。


「なんとかしてくれねぇか? 勇者様」


 そんな漁師の頼みを聞くのは、腕を組み考え込むマーガレットだった。


 エネカと別れて1日後。

 

 魔王領に向かう街道をそれ、3人は海に立ち寄っていた。

 

「わかりました。無事討伐することができたら、その時は報酬をいただきます」


「ああ。あの化け物を倒してくれるってんならいくらでもお支払いいたしますよ」


 その言葉にマーガレットは頷くと、少し離れたところにいた2人の元に駆け寄る。


「というわけで、今すぐ泳いで倒してきできなさい!」


「無茶言わないでくれる!?」


 マーガレットに対し、ミルルは大声でツッコミを入れる。


「何人も討伐隊がやられた相手なんでしょ!? それを泳いで倒しに行くとか自殺行為なんですけど!? 勝手に決めないでくれる!?」


「仕方ないでしょ? 報酬がよかったのよ。

 嫌だっていうならいいのよ? その場合ここからしばらくご飯抜きだからね」


 ご飯抜きという言葉にはミルルも逆らえず、黙り込んでしまう。


 一方楓の方は準備運動をしてやる気十分だ。


「あんたは相変わらずなのね……」


「ええ! 海の怪物とは戦ったことないらね! どんな敵かしら……!」


 ニコニコしながら準備する楓に、マーガレットは制止する。


「待って楓。

 泳いで戦うのは流石に自殺行為」


 マーガレットのその言葉に楓は不満そうに口を尖らせる。

 

 本気で泳いで戦う気だったとは……。


「あと、今回は魔物討伐の他にもうひとつやって欲しいことがあるの」


 そう言ってマーガレットはポーチから何かを取り出す。

 

 それは真っ赤な光沢が特徴的な綺麗な結晶のようなかけら。


「これを取ってきて欲しい」


「これって……。もしかして「(べに)サンゴ」?」


 ミルルはじっくり観察し、この結晶がなんなのかを言い当てた。

 

「そう。流石ね。

 「紅サンゴ」、別名「海の篝火」。

 暗い岩礁帯の間にごくたまにあるサンゴね。そしてこれは私の鏡の素材でもある」


 鏡。

 マーガレットの持つ勇者に対抗できる唯一にして最大の魔道具。


「あーなるほど。あれどっかで見たことあるなーと思ったけど、まさか「紅サンゴ」だったとわねー。でもこれって相当貴重な素材じゃないの?」


「ええ。市場にはそう簡単に出回らない。だから私の鏡は大量生産できないのよ。本当は100枚くらい作りたいのに……。」


 さらっととんでもないことを言うマーガレット。

 その言葉に楓は首を傾げながら尋ねる。


「だったらもう少し手に入りやすい素材に変えたら?」


 楓の言葉にマーガレットは首を横に振る。


「それじゃ魔力に耐えられないの」


「……そうね。あれだけ高等な術式と高い魔力をあんな小さな媒体に流したら本来爆発四散する。

 

 なんとか術式が終了するまで耐え凌ぐには、それなりの素材を用意しなくちゃ。

 

 その点「紅サンゴ」は加工しやすい上に上手く使えばかなりの耐久力を得る。

 素材にするにはもってこいよね」


 普段から魔道具の製作を行なってるだけあってミルルの意見はとても的確だ。


「と言うわけで、魔物討伐と並行してこれも探してちょうだい」


「それもウチたちの仕事なのね……。まあいいわ。「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……まあ目下のところは魔物の討伐だけどね」


「でもどうするわけ? 魔物は沖に出るんでしょ? 船で沖まで出るの?」


「……いや、それじゃ喰われに言ってるようなもの。海の上で戦うのは避けたい……」


「じゃあどうするの?」


「まあ……作戦としては……」


 マーガレットは船着場を指さす。


 そこには魔力を流すことで稼働する水上バイクがある。


「あれを使うわ」


「水上バイク?」


「ええ。あれでここまで魔物を誘き寄せる。

 船着場の近くなら足場があるから多少戦いやすくなるし、この辺りは浅瀬だから魔物の体が隠れることもない」


「へーそう。……ところで、誰がその役やるわけ?」


「……私は荒事は専門外だからあなたたちのどっちかお願いね」


「そんなあからさまな餌枠誰が好き好んでやるかー!」


 ミルルが不満を爆発させる。


「だいたいその作戦破綻してるじゃない! 明らかに餌役のリスク高すぎでしょ!?」


「仕方ないでしょ? これしか考えられなかったんだから」


「だいたいこういう役は楓がやりなさいよ! 超耐久、超強力、最強無敵勇者様でしょ!?」


「うーん。褒めてくれるのはありがたいけど、流石の私も足場の悪い水上で戦うのは嫌だな。ミルルは器用そうだから向いてるんじゃない?」


「さっきノリノリで水の中入ろうとしてたじゃない! 絶対ウチは乗らないからね!」


「……仕方ない。公平にじゃんけんで決めましょう」

 

 不満は残りつつもこれでは埒があかないし、他にいい案も思いつかない。

 

 仕方なくじゃんけんで決めることとなった。


「「「最初はグー! じゃんけん……!」」」





「どうしてウチはこんなにじゃんけんが弱いのかしら……。」


 公平なじゃんけんの結果、ミルルの一発負けとなった。


「がんばれ〜ミルル〜」


「ミルルー! しっかり連れてきてねー! できるだけ強いやつ!」


「うっさい! 死んだらあんたたち末代まで呪ってやるからね!」


 半泣きになりながらミルルは水上バイクを発進させる。


 水上バイクの最高速度は80キロ。

 魔力量によるもののミルルなら簡単に出せる速度だ。


 とりあえず、港の近くぐるぐると旋回させながら様子を見る。


「ところで。討伐対象の魔物ってどんなやつなの?」


「それがよくわからないのよ。

 遭遇した人はみんな死んじゃったらしいし、遠巻きから目撃した人も気がついたら船が海の中に沈んでいったとしか……」


「ふーん。まあとにかく出てきたやつを叩くしかないか。あ、そういえばミルルが探してる素材って何なの?」


「あー。さっきミルルに聞いたんだけど……」


 港の淵で2人が会話している最中、ミルルは気が気ではなかった。


「あいつらー。ウチのことそっちのけで楽しそうに談笑してる……。何なのこの扱いのひどさ! これはもう成功報酬の5……いや、6割はいただいてや……ん?」


 ふと、2人がいる船着場の方に目をやる。

 

 何だか両手を振って何か言っている。

 

 しかし、水上バイクのローター音で全く聞こえない。ミルルはエンジンを緩めて耳を傾ける。


「ちょっとなに!? よく聞こえな……」


()()()()()()()()()! ()()()!」


 ミルルが楓の叫びを聞いた瞬間。


 ギャアアア!!!


 背後から凄まじい水飛沫と咆哮と共に巨大な頭が出現する。


「ニャアアアア!! なになになに!?」


 ミルルはなんとか突然の奇襲を横に回避。


 振り返るとそこには全長3メートルはある巨大な魚の魔物が泳いでいた。


 その姿を見てマーガレットは呟く。


「あれって……ケートス!」


 ケートス。

 海中に生息する魔物。

 

 普段は深海に生息するが、ある条件下で水上に浮上することもある魔物。

 

 その最大の特徴は……。


「なんだかよくわからないけど……。姿が見えるならウチの敵じゃないわ!」


 そう言ってミルルはバイクを旋回。


 左手でハンドルを操作し、右手に銃を構える。


「出力調整! レベル5に上昇!」


 ミルルは魔力弾を発射。

 

 弾丸は見事ケートスの腹部に命中する。

 

 そのままケートスはぐったりと水面に浮上し全く動かなくなる。


「へっ! ザマァないわね! なによこれで終わり? 随分と呆気なかったわね!」


 バイクを停止させて勝ち誇るミルル。


 それを見てマーガレットは急いで叫ぶ。


「止めないで! まだ終わってない! ケートスは……!」


 マーガレットの叫び声は途中でかき消された。


 ギャアアア!!!


 再び聞こえる無数の水飛沫と、雄叫びの音に。


「はぁ!? なによこの数!」


 そこには数十匹のケートスの姿が。


 ケートスの最大の特徴は()()()()()()()()()()()()()


「無理無理無理無理!!! 流石にこんな数聞いてない! 助けてー2人ともー!!!」


 全速力でバイクを飛ばして逃げるミルル。

 

 その後ろには大口を開けながら追いかけてくるケートスの群れ。


 ミルルの魔銃でもこの足場の悪さでは対処しきれない。


「やばい! 今すぐ助けないと! とりあえず私が援護するから楓は……」


 そう言うと楓はすでに構えを取っていた。


「大丈夫だ。俺がやる」


「いや……俺がやるって……。あなたの武術は近距離主体でしょ? あんな離れてちゃ攻撃が……」


「マーガレット。古竜拳法はあらゆる局面に対応できる武術。当然、()()()()()()()


 そう言って楓は構えを取る。

 

 左手を開いて前に突き出し、右腕を脇腹あたりで折り曲げ。

 

 手のひらは貫手の方を取る。


「古竜拳法 飛竜槍!」


 折り曲げた右腕を勢いよく前に突き出す。

 

 その衝撃は空間を突き抜けまっすぐ前方へ飛んでいく。

 その姿はまるで高速で飛行する翼竜のようだった。


「うわぁ!」


 突然飛んできた衝撃にミルルは横にハンドルを切り回避。

 

 後方でミルルに噛みつこうとしたケートスに命中。

 頭を吹き飛ばす。


「すっご……。」


 あまりの威力に感嘆の声を漏らすマーガレット。


「あ……ありがとう楓! 待ってて! もう少しで……!」


「ミルルー。()()()()()()()()()


 楓はそう言うと今度は両腕を折り曲げどちらも貫手の構えを取る。


「え……? ちょっと……?」


「飛竜槍 村雨!」


 高速の衝撃波を連射。

 

 飛竜を形どった衝撃の群れがケートスを食い尽くしていく。


 前方にいるミルルを巻き込んで。


「ニャアアアア!」


 前方から飛んでくる攻撃をミルルは巧みなハンドル操作なんとかかわす。

 

 避けたものは全て後方でケートスに命中していく。

 

 しかし、一撃一撃が必殺の攻撃。

 その回避にも限界が訪れる。


「もう……無理ー!」


 避けきるのにも限界がきたミルルはフックショットを射出し、バイクを捨てようとする。

 だが咄嗟だったため引っ掛かりがない空中に投げてしまった。


「ほいっと」


 それを、打ち終わった楓が狙っていたかのようにジャンプしてキャッチ。


 腕力のみで鎖を手繰り寄せる。


「そーらよっと!」


「うわー!」


 勢いよく引っ張られたミルルの体はバイクを離れ宙を舞い、マーガレットの腕の中に収まった。


 乗り捨てたバイクの方は飛竜槍が直撃しバラバラに散らばる。


 あと少し回避が遅れていたらミルルの体もああなっていただろう。

 

「ちょっっっとぉおおお!? なに考えてるわけ!? もうちょっとでうち死にかけてたんですけど!?」


「うるせぇな。助けてやったんだろ?」


「ほんっとその状態のあんた態度悪いわね!」

  

 不満を爆発させるミルルは抱えられながら楓の頭をガシガシと殴る。


「はいはい。喧嘩しない。よくやってくれたわね2人とも」


 口論する2人の元にマーガレットは駆け寄る。

 

「まあ、だが案外呆気なかったな」


「まぁ……そうね。死にかけたけど討伐自体に手こずってはないかも」


「それについては私も疑問。ケートスは凶暴な魔物だけど、目撃情報の襲撃内容とは異なる気が……」


 何だかあっけなく終わってしまった仕事に3人は釈然としなかった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。


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