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第15話 不可視の魔の手

 マーガレットはあたりを見渡す。

 

 敵はどこなのか。

 これから何が起こるのか。必死に察知しようと首を振る。

 恐怖で身体が震え、膝が笑いそうになる。


 しかし、唇をギュッと噛み締め、恐怖を押し殺す。


 頭の中にあるのは楓の冷静であれと言う言葉。

 そして、自分が成さねばならぬ事。


 (こんなとこで死ぬわけにはいかない!)


 決意を固め、次に自分が何をするべきかを必死に考える。


 その時。

 ()()()()()()()()()()


「キャアアア!」


 突然の事に悲鳴をあげる。

 

 足元を見ると、

 そこには()()()()()()


 しかし確かに何かの手のひらに掴まれている感覚はある。

 

 それも人間の手の大きさではない。


 掴まれている感覚は足首から太ももの辺りまで感じる。


 自分は一体何に掴まれているのか。

 

 状況を判断する前に、マーガレットの体は宙に浮いた。

 

 足を掴まれ、そのまま持ち上げられたのだ。

 

 側から見ればマーガレットが突然逆さまに空を飛んでいるように見えるだろう。


 なんとか抜け出そうと、マーガレットは掴まれていない左足で掴んでいる腕を蹴った。

 

 しかしびくともしない。


 そうこうしていると今度は左足も掴まれ完全に拘束される。

 

 両足を掴まれたマーガレットは手のひらに魔力を込める。


火球炸裂(ファイアブラスト)!」


 ある程度あたりをつけて、マーガレットは火球を飛ばす。

 

 火球は空中の何かに直撃。


 ギャアアアー!!!


 甲高い悲鳴が辺りに響き渡る。

 

 それと同時にマーガレットの足から腕が離され、マーガレットはそのまま背中きら地面に落ちる。


 体の中へ響く衝撃に苦悶するが、悠長に痛がっている暇はない。

 

 体を起こし、後退りする。


 さっきまで何もなかった空間からそれは少しずつ姿を表す。


 細長い腕、耳は大きく先が尖り、大きく見開いた瞳は黄色く光っている。まるで地獄の使者のような恐ろしい化け物。


「ブ、ブラード……!」


 ブラード。

 擬態能力を持ち相手の背後から音もなく忍び寄り狩りをする魔物。


 その擬態能力の精度は魔物の中でも指折り。

 殺されてなおその姿見ることはできないという噂から「不可視の魔の手」と呼ばれている。


 首を左右に動かしながらギョロッとした巨大な目でマーガレットを見つめる。


 (おそらく、魔物の死体を運んだのも、二人を連れ去ったのもこいつ……。なんとかして二人を見つけないと……)


 マーガレットは再び手のひら魔力を込める。

 

 マーガレットは戦闘は不慣れだ。

 

 奥の手の"天与剥奪(シュトラール)"もただの魔物には効果が無い。

 

 しかし、そんなことは言っていられない。


 二人がいない今自分の身は自分で守らねば。


 (とにかくこいつを追い払う。こいつ1匹なら私一人でも退けるくらい……!)


 魔術を使って脅かし、怯んだ隙にこの場から離れる。

 

 マーガレットの頭の中ではそのような作戦を立てていた。

 その程度なら自分にもできる。


 そう、


 ()()1()()()()()()()()


 ギャ、ギャ、ギャ!


 ブラードが甲高い奇声を上げる。

 

 さっきとは少し違った鳴き声。


 マーガレットは疑問に思いつつも魔術を放つべく手のひらを前にかざす。


 だが、次の瞬間その動きは止まる。


 その鳴き声と共に、別のブラードが何もない空間から現れた。


 そしてまた1匹、また1匹、また1匹……。


 気がつけば目の前には十数匹のブラードが出現した。

 

 先程の鳴き声は近くに潜伏していた仲間を呼ぶ合図だった。


 たった1匹でも倒せない相手が複数匹。

 

 もはやどうすることもできない。


「……! いやぁ……!」


 マーガレットは踵を返し逃げ出した。

 

 戦ったところで勝ち目はない。

 

 なんとかこの場所から逃走しなくては。


 暗く足場の悪い樹海の中、マーガレットは何度も転びそうになりながら必死に走る。

 

「はぁ……。はぁ……。ミルル……! 楓……!」


 目に涙を浮かべ必死に走る。


 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 あんな化け物に捕まるわけにはいかない。


 だが無慈悲な樹海はそれを許さない。


「あっ!」


 マーガレットが木の根に足を取られ転倒。


 体中に痛みが走るが、なんとかこの場を逃げ切らなくてはならない。

 

 体を起こしなんとか逃げようとする。


 だが、ブラードの腕はすでにマーガレットのすぐ後ろまで迫っていた。

 

 目をギョロギョロと動かし、口から涎を垂らす。

 

 その姿を見たマーガレットは足がすくみ立ち上がれなくなってしまう。


「いやぁ……。いやぁ……!」


 尻もちをつきながら必死に後退りする。

 

 ブラードはそれを見て笑いながらゆっくりと手を伸ばす。


「……けて……」


 死を目の前に顔を下げ、涙を流しながらマーガレットは口にする。


 いつだって振り回されて、行動が全く読めず頭を抱える。

 それでも彼女の強さと、それを支える揺るがない闘志。

 それだけは心の底から信頼している彼女の名を。


「助けてよ!! 楓ー!」


()()()()!」


 瞬間、手を伸ばそうとした1匹のブラード、その頭が突然地面に滑り落ち、頭が繋がっていだ首は鋭利な刃物で切られたかのように綺麗な断面図になる。


 マーガレットが再び顔を上げる。

 

 マーガレットと、ブラードの間に立つ堂々とした姿がそこにはあった。


「遅くなったな。マーガレット」





「楓……!」


「悪い。ちょっと油断した。まさか見えない腕に捕まるとわなぁ」


 突然の敵にブラードたちも混乱する。

 

 しかし、一体倒されようとも数の上では有利、そして彼らには透明化という明確な強みが存在する。


 ブラードが一斉に姿を消す。

 これでは次の攻撃がどこから来るかわからない。


 だが楓は狼狽えず、あえて目を閉じる。


 (見えないというのなら視覚に頼る必要はない……。そのほかの全ての感覚でやつを捉える……)


 目を閉じながら楓は構えを取る。

 

 今まで見たことない構え、両腕は上半身を守るように顔の前で構え、右足を挙げ一本足で立つ。

 

 防御を腕で、攻撃を足で、攻守を両立させたバランスの取れた構え。

 

 こう言った構え自体は他の格闘技にもみられる構えと似ていた。

 

 しかしその姿を見た周囲の者たちには自分たちが見慣れている人の構えには見えなかった。


 彼らが見たイメージ、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 マーガレットはその迫力に圧倒されていた。


 それは他ブラードたちも同様だった。

 自分たちが見ているものを理解できず、その場で立ち尽くす。


 だが一匹のブラードは、その姿を見てなおブラードがひるむことはなかった。


 どれほど隙のない構えであろうと攻撃が見えなければすべて無意味。


 そう考えていた1匹が背後に回り、こちらに一瞥もしない楓を見て静かにほくそ笑む。


「古竜拳法……」


 ブラードは楓の首を掴もうとその細長い腕を伸ばす。

 

 その姿は完全に空間に溶け、後ろから見ていたマーガレットですら気づくことができない。


 あと数センチ。

 それで決着がつく。

 

 「()()()!」


 だが、楓はそれを許さなかった。


 楓は体を180度回転。

 

 見えない腕を後ろ回し蹴りで正確に捉えた。


 突然の攻撃と、想像を絶すら痛みにブラードは姿を表してその場にのたうち回る。

 被弾した腕は肘の辺りから逆方向に曲がり、手首はぐちゃぐちゃにつぶれている。

 まるで巨大なハンマーで殴られたような痛々しい傷口。


 楓は間髪入れず、姿を表したブラードの頭上に飛び上がる。

 

 右足を頭上に大きく上げ、倒れたブラードの頭部めがけて踵落としを繰り出す。


 落下する重力に従い繰り出す一撃は、直撃を受けたブラードの頭部は潰れたスイカのように無惨に飛び散る。


 仲間の無惨な姿を見てブラードたちは透明化すことも忘れ呆気にとられる。

 

 その姿を見て飛び散った肉片を全身に浴びながら楓は残忍に笑う。


「さぁ……。全員死ぬ気でかかってこい!」


 楓はブラードたちに突っ込む。

 

 その足運びはとてもしなやかで、バレエやフィギュアスケートなど、足の動きを強調する競技のようにくるくると回転。

 

 そこから生まれる遠心力はそのまま攻撃力に繋がり、被弾した箇所が無惨に爆散する。

 

 回転を利用した回し蹴り、素早くステップ踏み相手の懐に飛び込み繰り出す前蹴り、その全てが必殺の一撃となる。


 軽やかな動きで鉄球のような重い蹴り技。

 それこそが「砕竜脚」の真骨頂だ。


 懐に入られたものから次々と死んでいく。

 

 ブラードたちは、すでに自分たちが狩る側から狩られる側に回ったことを悟る。

 

 まだ生き残っているものは一縷の望みをかけて姿を消すこともせず、一斉に踵を返し逃げ出す。


()()()()()()()!」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「なんとか間に合ったようねぇ!」


 竜が飛んできた方向からは腕を組み自信満々な表情で仁王立ちするミルルの姿があった。


「ミルル! 生きてたのね!」


 歓喜の声を漏らすマーガレットに対し、ミルルは親指を立てて笑顔で返す。


「ええ! もうダメかと思ったけど……。運良く沼を見つけてそこにスライムの瓶を投げ込んだってわけ!」


 確かに。

 使役しているスライムは以前見た時よりかなり濁っている。

 

 それに……。


「おい。匂いがキツすぎるぞ」


「しょうがないじゃない! ウチだって我慢したんだから!」


 ミルルが地団駄を踏みながら怒る。

 

 彼女としても不衛生は沼をスライムとして使役するのは不服だったのであろう。


「とはいえ、形成逆転ってところかしら?」


 前方には手に負えないほどの力を持つ人間。

 後方には自分たちより遥かに大きい水の竜。

 

 ブラードたちは絶望的な状況に立たされる。




「はぁ……。まじか」


 マーガレットたちが交戦している最中。その様子を監視するものはため息をつく。


「思ってたよりやるなぁ。魔物たちじゃ相手にならないか。……()()()()()()()()()




「よし! これで全部ね!」


 戦いは数分で決着がついた。

 

 あまり一面にブラードの死体が散乱し、楓は全身血塗れ、スライムの体は所々赤い血液が混ざっている。


「二人とも……。ありがとう……。助けてくれて」


 マーガレットが恥ずかしそうに二人にお礼を言う。

 

 言われた二人は顔を見合わせる。

 

 そして、楓がマーガレットの頭を撫でる。


「別に大したことじゃないわ。仲間でしょ? 私たち」


「そうそ。マーガレットには助けてもらった借りがあるからね。これでおあいこでしょ?」


「うん……」


 マーガレットは目を伏せ、その言葉を素直に受け取る。

 彼女の中に熱いものが込み上げてくる。


「さて、さっさと先を……。待って、なんの音?」


 周囲の木々がざわつき始める。

 

 枝が、葉が、根が、幹が、一斉にミシミシと音を鳴らし、そして一斉に動き始める。


「え!? ちょっと、なになになに!?」


 次の瞬間、周囲の木々が一斉に迫ってくる。


「っ! くそ!」


 楓が勢いよく迫ってくる木々を蹴り倒す。

 その一撃で数本へし折れる。

 

 しかし、続け様に木々が迫って来るためこじ開けることはできない。


「だめ! 抜け出せない!」


 マーガレットたちは木々にどんどんと押し出されていく。


「「「うわぁ!」」」


 あっという間にその場を追われ、気が付くと開けた場所に頬りだされた。



 そこは鬱蒼とした暗い樹海で唯一日の光が差し込む空間。

 優しい陽光が差し込み、地面には緑の草木が生い茂る。


 その中心に彼はいた。


 石の祭壇にひっそりと佇むなんの装飾もない石の玉座。


 ゆえに、彼の輝きが際立っていた。

 肩まで伸びる純白の髪に、美しく光る鹿角を持つ人物。


「やあ。はじめましてだね。」


 頬杖をつき、眠そうな目つきで三人を見つめる。


白鹿(はくろく)の勇者、ハクモクレンノミコトだよ。」

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