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第14話 キリカラ樹海

「はぁ……はぁ……」


 暗い樹海の中、マーガレットは走る。

 

 周りには大樹が生い茂り、それらが地面に縦横無尽に根を生やしている。

 それゆえ足場が非常に悪い。

 加えて枝が空を覆っているため陽の光も届きにくい。そんな場所を何度も転びそうになりながら走る。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ギシャァアアア!!!


 この世のものとは思えない恐ろしい奇声。

 

 細長い腕、耳は大きく先が尖り、大きく見開いた瞳は黄色く光っている。


「はぁ……。ミルル……! 楓……!」


 マーガレットはたった一人でこの化け物から逃げ続ける。




 時は少し遡る。

 

 ミルルが旅との同行者となり、3人は「キリカラ樹海」に向けて旅を続けていた。


「でも、本当に通るの? あそこ、化け物の巣窟だって噂だよ?」


 ミルルは不安そうに尋ねる。


「キリカラ樹海」。

 サンクティアの領内の端にある広大な樹海。

 その面積はおよそ30平方キロメートル。

 入り組んだ地形に、強力な魔物。

 様々な障害があるサンクティア屈指の危険地帯。


「まあ、大丈夫よ。どんな奴が来ようとも私がぶっ倒すから!」


「あーそれはどうも……。でも変よね。なんでこのサンクティアにこんな大きな樹海がいつまでもあるのかしら?」


 サンクティアは領地の開拓を積極的に進めており、多くの森や山々が開墾されていた。

 

 当然、開墾した場所の中には「キリカラ樹海」のような強力な魔物の生息地も含まれていた。


 にもかかわらず、今なおこの樹海はこの場所に存在し続けている。

 

 それには魔物以外にとある理由が絡んでいる。


「この樹海にはね。()()()()()()()()()()。」




 今から6年前、サンクティアでとある勇者が召喚された。


 その勇者はあまりに強力なギフトを持っているため、彼を脅威と考えた王国側は彼の抹殺を企てたが悉く失敗。

 

 挙句「キリカラ荒野」と呼ばれる荒れ野に居座り、そこに広大な樹海を形成してしまった。

 

 樹海は王国の拡大にとって邪魔な存在であったため、伐採しようとするもどうやっても樹海を取り除くことはできず。


 結果、サンクティアは樹海を放置。

 

 以後そこは「キリカラ樹海」と呼ばれ、彼の勇者は樹海の奥に君臨し続けている。


 その勇者の名は、「白鹿の勇者 ハクモクレンノミコト」。


「ハ、ハクモクレンノミコト? 随分長い……。というか変な名前ね」


「ええ。この世界では珍しい名前の響きで……。て、楓? どうしたの?」


 楓はその名前を聞いて、口に手を当て体を振るわせていた。


「なるほど……。()()()()()()()()


 彼女の顔はニヤけそうな口角を必死に押さえていた。


 これから対峙する敵への期待に胸が高鳴っているのだ。


「まさか知ってるの?」


「いや、その名前自体を聞いたわけじゃない。でもね。私の故郷ではそう言う名前が使われるのは神様だけなの」


 楓の発言にミルルは眉をひそめる。


「えー。めちゃくちゃやばい相手じゃない。なんとか遭遇を避けたいわね……」


「ええ。なんとしてでも会いたいわね!」


 元神様相手でも通常運転の戦闘狂である楓に対し、二人は頭を抱えながらため息をつく。


「ところで。ハクモクレンノミコトはどんなギフトを持ってるの?」


「え? ああ……。ハクモクレンノミコトはね……」


「ニャアアアア!」


 二人が会話している最中、突然先を歩いていたミルルが絶叫した。

 

 驚いてそちらを見ると、そこには全長4メートルはあろうかという巨大な怪鳥がいた。


 怪鳥は大きく翼を広げ、3人の行手を塞ぐ。

 ぎょろっとした巨大な目が3人を順々に見つめる。


「ちょ! 魔物!? こんなでかいやつが!」


 ミルルは慌てて武装する。

 

 マーガレットもまた魔力を手のひらにため、戦闘体制に入る。


 一触即発、お互いに緊張感が走る状況の中、一人だけ他とは違う者がいた。


「よっ」


 後方にいた楓が大きつく踏み込み、怪鳥に向けて飛び蹴りをかます。


 右頬に直撃した怪鳥は、衝撃がそのまま脳に到達。 脳震盪を起こしそのまま力尽きた。


 あまりに一瞬のことに、二人は呆然と立ちすくんでしまう。


「この程度、技を使うまでもないわ」


 楓は飛びかかった時にかかった土埃を払いながら退屈そうに話す。


「さ、流石ー」


「でもよかった。()()()()()()を余裕で倒せて」


「ん? 外にいる?」


 3人は巨大な怪鳥の後ろに視線を向ける。

 

 平原に突如現れるどこまでも広く生い茂る巨大な樹木の壁。


 彼女たちはついに「キリカラ樹海」到着する。


「改めて見ると壮観ね」


「外にいる魔物は樹海での生存競争に負けて逃げてきた奴ら。樹海の中にはもっと恐ろしい魔物が生息しているの」


「げ!? あんなでかいやつより凶暴なのがあの中にいるわけ?」


 マーガレットの発言にミルルはあからさまに嫌そうな顔をする。


「ええ。でも行くしかないの」


「面白そうね!」


「ちょ、ちょっと二人とも待ってよおー!」


 それぞれの想いを胸に抱きながら、3人は樹海に足を踏み入れる。






 「キリカラ樹海」の中心。

 薄暗い樹海の中で唯一陽の光が差し込んでいる空間。


 彼はその中心の、石でできた祭壇の上に座っていた。


 陽の光によって照らされる長い髪は銀色に光り輝いている。

 

 しかしそれ以上に目を引くのは、頭に生えた二本のし鹿角。

 まるで降り積もる雪のように純白に輝いている。


「はぁー。また侵入者か。」


 彼は石造りの椅子に頬杖をつき、心底気だるそうにため息をつく。


 



 樹海の中は木々が生い茂り薄暗い。

 地表に露出した根のせいで足場も悪い。


 何度も躓きそうになる。


 それに景色も変わり映えがしない。


 精々特徴があるものといえば、

 木のうろの形が人のように見える不気味な樹木。

 人が一人横になれそうな巨大な石。

 不気味な花が生い茂る群生地。

 どれも和む景色ではない。


「あーもううんざり! おしゃれなカフェとかで一息つきたいー!」


「わがまま言わないの。こんな樹海にそんなものあるわけないじゃない」


 現状に不満を漏らすミルルに対してマーガレットは嗜める。


「でも確かに退屈ねぇー。なんかでっかい怪物とか出てくれないかしら〜」


「ちょ、ちょっと! そういうこと言うと……」


 突然、樹海の奥から足音がこちらに向かって走ってくる。

 

 かなり重量のある足音だ。


 周囲の木々をなぎ倒しながら三人の前に姿を現す。


 それは人間を悠々と見下ろす巨大な体躯を持つ猪だった。


「ニャアアアア!」


「ほらやっぱりー!」


「いいねぇ! こうでなくっちゃ!」


 猪は三人に向かって突っ込んでくる。

 

 それに対し二人はそれぞれの方向に回避。

 

 唯一楓だけは回避せず構えを取る。

 

「古竜拳法 角竜突!」


 楓は猪の一撃を正面から受け止める。

 

 圧倒的な体格さだが、楓は猪の巨体を軽々と投げ飛ばす。


 投げ飛ばされた猪は頭から地面に激突したためそのまま絶命した。


「よし! 私の勝ち!」


「ま、まさかいきなり襲ってくるとはね」


 樹海に入ってからわずが数分。

 

 あまりに早い接敵だ。

 

 先が思いやられる。


「とにかく進みましょう。また接敵したらお願いね」


「ええ。任せて」


 こうしてなんとか巨大猪を退けて、3人は再び前へ進む。


 とはいえ、樹海の景色は変わらない。

 相変わらず足場が悪く、何度も躓きそうになる。


 精々特徴があるものといえば、

 木のうろの形が人のように見える不気味な樹木。

 人が一人横になれそうな巨大な石。

 不気味な花が生い茂る群生地。

 どれも和む景色では……。


「ん?」


 マーガレットが立ち止まり口元に手を当てる。


「どうしたの?」 


「え? い、いや、なんか違和感が……」


 何かがおかしい。


 そう思いマーガレットが悩んでいると。


 再び足音が聞こえる。今度は1匹ではない。

 

 軽快な足音が複数こちらに向かって進んでいる。


 3人は後方に目をやると、そこには数十匹のゴブリンの群れが迫ってきていた。


 ゴブリンは単体であれば人間の半分ほどの大きさしかないため脅威ではない。


 だが、ゴブリンは集団戦を好む。

 

 複数人の群れを作り大型の獲物であっても恐れず突っ込んでくる。

 

 加えてゴブリンは武器を扱える程度の知能を持ち合わせている。

 

 熟練の群れであれば大型の魔物であっても難なく狩れるだろう。


「ゴブリン! ウチあいつ嫌い!」


「いいねぇ! 食い放題じゃない!」


 楓が例え武器を持った猛獣であろうとも怯むことはない。

 

 それどころか相手が強ければ強いほど楽しそうに戦場に走り出す。


 ゴブリンの群れは向かってくる楓に対して一斉に飛び掛かるが、楓は飛びかかってきたゴブリンを端から薙ぎ倒していく。

 

 敵が持っている武器で殴られようと切られようと、楓の動きを止めることはできなかった。


 最初は恐れず突っ込んできたゴブリンたちだったが、相手の強さに気づくと蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


「あははは! 楽しいねここ!」


「はぁ。それは何より」


 狂気じみた笑みを浮かべる楓に対して二人は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「もう二種類の魔物と接敵しちゃった。まだまだ樹海は抜けられそうにないし。どうなることやら……」


「次は何が出るかしらねぇー!」


「「ちょっと黙ってて!」」


 3人は再び先を急ぐ。


「それにしても。魔物は沢山いて退屈しないけど、景色は変わらないから退屈ねぇ。精々特徴があるものといえば人の顔みたいな木と、大きな平たい岩……」


「ちょっと待って。」


 マーガレットは二人を呼び止める。


「ど、どうしたの?」


「やっぱりおかしい。()()()()()()()()()()()()()()


 そう言って3人は周りを見渡す。

 

 不気味な木、

 平たい岩、

 花畑。

 

 どれも何度も見たものだ。


「で、でもおかしいじゃない。ウチらはずっと真っ直ぐにしか進んでないのよ? なんでおんなじ場所に出るのさ」


()()()()()()()()()


 楓が指摘するのは、先程倒した魔物の死体についてだ。

 巨大猪、ゴブリン。

 

 どれもその場に放置した。

 

「同じ場所だって言うんなら、死体がその辺に転がってるはずじゃない?」


「いや、多分()()()()()()。ここに」


 そう言ってマーガレットは地面に手をつき、生えている草をかき分ける。

 

 そこには何かを引きずったような跡がある。


「草が生い茂ってて気づかなかった。誰かが死体を持って行ったんだ」


「だ、誰がそんなこと。というかそもそも死体を引きずったら草も一緒に倒れるんじゃ……」


 そう、引きずった跡は草の下にある。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「わかってる。だから考えて……」


「一体なんなのよ。やっぱりこんな樹海やっぱり入るべ……」


 

「え? ミルル?」


 突然ミルルの声が途切れた。


 二人は後ろを振り向くと、そこにはミルルがいなかった。

 さっきまでそこにいたはずなのに。


「え? ミルル? ちょっと! ミルル!」


 どれだけ呼び掛けてもミルルの声は聞こえない。


 何が起きた? 

 どこへ行った? 

 まさか連れ去られた!?


 様々なことを思考し混乱するマーガレットに対し、楓は冷静だった。


「マーガレット。私のそばに。ミルルのことは救わなきゃいけないけど、こう言う状況の時冷静さを欠いて軽率な行動をしちゃいけない」


 楓は冷静にマーガレットを諭す。


 こう言う時、常に戦いに身を置いていた楓は状況判断が素早い。


 冷静な楓を見てマーガレットも少し落ち着きを取り戻す。


「大丈夫。何があってもあなただけは……」

 

 だが、その平静は一瞬で打ち砕かれた。

 

「え? 嘘……。楓! 楓!」

 

 今度は楓の言葉が途中で途切れる。


 振り返ると、すでにそこには楓がいなかった。


 何度読んでも楓から返事が返ってこない。 

 返ってくるのは不気味な静寂だけ。

 

 「キリカラ樹海」に入ってたった数分。

 マーガレットは樹海のど真ん中で孤立無援となった。


 ここにいるのは周囲を必死に見渡すマーガレット、静かにその場に多々積み続ける周囲の木々。


 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。






「んー。ここかぁ」


 マーガレットたちが樹海に入ってから数十分後。

 

 三人を追ってきたウォーカーも樹海に到着した。


「噂通り、不気味な樹海だねぇ。なんか入ったら二度と出られなくなるって話だし、どうしたものかねぇ」


 心底気だるそうに、独り言を話す。


 そんなウォーカーの様子を、上空から見つめる影。

 

 樹海の外でマーガレットたちを襲ったあの巨大な鳥の魔物だ。

 

 見つけた獲物に向かって急降下し襲いかかる。

 

 ウォーカーは背を向けていて魔物に一瞥もしない。


 魔物はその背中に鋭利な足の爪を突き立てようと飛びかかる。


 その瞬間。


黒狂犬(ブラックドッグ)


 ウォーカーがそう呟いた瞬間。

 

 空中に黒い球体が出現する。

 

 大きさは直径2メートルほど。

 何もない空間から突然出現した。


 しばらくすると球体に切れ込みが入り、鋭利な牙が何本も生え揃った巨大な口が出現する。


 まるで巨大なパックマンのような物体は口を大きく開け、飛びかかろうとする魔物に向かって突進する。


 そのまま魔物の頭を食いちぎる。頭を失った魔物は力無く地面に落下する。


「はぁ。物騒なところだねぇ。早く終わらせてさっさと帰るか。」


 そうすると、今度はウォーカーの周りに先程の物体が出現。

 

 さっきと比べて大きさはかなり小さく、手のひらに収まる程度の球体。


 しかしさっきとは数が違う。

 ざっと30体。

 ウォーカーの周りに浮かび上がる。


「行け。」

 

 ウォーカーの命令の下球体は一斉に散らばる。


 そして樹海の中に消えて行った。

 

「さあ。狩りの時間だ。」

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