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第13話 目を背けた簒奪者

「う……ぐ……ん?」


 オズワルドが次に目覚めた時、体を椅子に縛り付けられ、手のひらは開かれた状態で手すりに固定されている状態だった。

 

 そしてその周りにマーガレット、楓、ミルルが冷徹な目で見つめていた。


「な!? おい! こいつを外せ!」


「あんたに聞く。父を殺したのは誰? あの日何があったの?」


「はぁ? 誰が言うかよ。裏切り者の娘なんかに」


 その言葉にカッとなったミルルはオズワルドの頬を引っ叩こうとする。

 

 しかし、その手を楓が止めた。


「ミルル? 落ち着いて。尋問っていうのはね、ムキになっちゃいけない。ただ冷静に、冷徹にやることをやるの。ここは任せて」


 そう言ってミルルを後ろに下がらせ楓はオズワルドの前に出る。


「お……お前何する気だよ……?」


「別にー。あなたがミルルの欲しい情報を話してくれればいいの。簡単でしょ?」


「だから、話すわけ……!」


 グチっ。


 オズワルドの言葉は鈍い音と共に遮られる。


「へ……?」


 なんの音か理解できなかったオズワルドは音のした方に視線を落とす。


 自分の人差し指。

 それを楓が拳を振り下ろして叩き潰していた光景だった。


「あ……あ……あぎゃああああ!!!!」


 凄まじい絶叫が部屋中に響かせ椅子をガタガタと揺らし暴れ回る。

 

 それを楓はにこやかな笑みを浮かべて見つめる。


「はーい騒がないの。次余計なことを喋るごとに一本ずつ指を潰していきまーす」


 あまりに残酷な拷問。

 

 味方側の2人すらその光景に引いている。


「ま……待て! 待ってくれ! 本当に何も知らな……!」


「はーい二本目ー」


 再び拳を振り下ろし指を砕いていく。

 

 今度は中指と薬指、同時に潰す。


「ぎゃああああ!!!」


「あっ。いけない。一気に二本潰しちゃった。よかったわねー。痛い思いする瞬間がひとつ減ったわよー。さて、後七本。指全部なくなったら……次はどこを潰そうかしらねぇー」

 

 ぐっと楓はオズワルドに顔を近づける。


 瞬きひとつせず、まっすぐ覗き込む瞳を見てオズワルドはガタガタと歯を鳴らしながらなんとか言葉を絞り出す。


「わ……わかった話す! 知ってること全て話す! 頼まれたんだ! ウィリアムを遠征中に暗殺したいって! そのためにお前の力を貸せって!」


「ミルルのお父さんが殺される理由は?」


「……知らない……」


「あれー? やっぱり指全部潰されたいのかなー?」


「ま、待て待て待て! 本当に知らないんだ! 俺はただウィリアムを殺すことを手伝っただけでその目的については何も知らないんだ!」


 オズワルドは椅子をガタガタと揺らしながら弁明する。その様子からどうやら嘘はついていないらしい。

 

「よくそんな曖昧な計画に乗ったわね」


「こ、この計画を手伝ったらここの領主にしてくれると約束されたからな……」


 なるほどね。

 

 と、楓は呆れたように肩をすくめる。

 

 だがそれでは納得できないミルルがオズワルドの胸ぐらを掴む。


「じゃあ、誰が父を殺したんだ……!」


「そ……それは……」


「さっさと言え! でないと指どころか体の先端全部吹き飛ばすぞ!」


 ミルルは魔銃を取り出しオズワルドの眉間に突きつける。


「わ、わかった言うよ。お前の父親を殺したのは……」


 ピー。


 突然どこからともなく聞いたことのない音が響き渡る。

 

 顔を近づけているミルルとオズワルド、その間から聞こえる。


 2人が視線を下へ落とすと。


 オズワルドの腹部、そこに異様なものが出現していた。


 見た目は、ピンクと白のしましま模様の包み紙が巻かれたキャンディーのよう。

 

 だがその表面には残り10秒の文字が浮かび上がっている。


「え……? 何これ……?」


「はっ……!」

 

 混乱するミルルに対し、オズワルドは青ざめる。

 

 これがなんだか知っているようだ。


「待て! 待ってくれ! 違うんだー!」

 

 オズワルドは椅子をガタガタと揺らしながら誰かに弁明を述べている。

 

 その姿はさっきよりも必死な形相だ。

 

 一体何が起きているのか、状況が飲み込めず硬直してしまうミルル。

 

 そこへ楓がミルルの襟を掴み取り後ろへ引き寄せ、マーガレットも連れて後ろに下がる。


 楓も初めて見るものではあるがそれが発しているその禍々しい気配、そしてオズワルドの慌てようを見て何かを感じた。


「た……助け……!」




 ドーン!





 オズワルドの言葉は最後まで言い終えることはなく、タイマーがゼロを示した瞬間、凄まじい爆音と共に爆発四散した。


 同じ部屋の中にいた3人も同じく爆風に巻き込まれるが、楓の機転によりなんとか無事に済む。


 オズワルドの方に目をやると、縛り付けた椅子ごと跡形もなく吹き飛んでいた。


「いったいなんなのよ! くそ! くそ! 後少しだったのに!」


 ミルルは苦悶の表情を浮かべながら床を殴る。

 

 結局犯人を聞き出す前にオズワルドは死んでしまった。


 もう父の仇を知る手段は無い。


「いや……。()()()()()


 マーガレットは神妙な面持ちで口にする。


「え?」


「あなたの父を殺した犯人かはわからないけど、少なくとも今、オズワルドを殺したやつの見当がつく。あんなおかしな形の爆発物を操る勇者はこの世界に1人しかいない。そして彼が関わってるってことは……。()()()()……」








「あーまずいな。」


 サンクティア王都。

 聖騎士団本部の一室。

 

 巨大なモニター越しにため息をつく男が1人。

 

 首にヘッドフォンをつけ、棒付きキャンディーを口に加えている。


「くそ。オズワルドのやろう。余計な仕事増やしやがって……」


 飴を噛み砕き、悪態をつく男。


「どうしたのぉー? バル?」


 その背後から声がする。

 

 ヒールの靴をコツコツと鳴らしながら近づき、背後から抱き寄せる女性。


「ソフィア。悪い。口封じ失敗した」


「ええ? 誰にバレたの?」


「マーガレットだな。後付き添いの勇者と、ウィリアムの娘にも」


「ふーん。まあその3人ならどうとでも誤魔化せるでしょ」


「爆撃の勇者 バル・フラルゴ」。

 

 独特の形の「飴爆弾(キャンディーボム)」を生成し、それを操るギフト、"幼稚な爆弾(ブービートラップ)"を使用する。


 そしてその直属の上司。

 

 「撃鉄の勇者 ソフィア・トリニ」。

 

 聖騎士団においてたった3人しかいない騎士団長に継ぐ実力者、「()()()」のうちの1人。

 

「賢く立ち回りましょう。私たちの()()()()()()……」


 





 ――いいかミルル。俺たちの戦い方は決して華々しいものじゃ無い。卑怯と揶揄させることも多い。だがそんなことは気にすんな! どんな卑怯でも、恥ずかしくとも、その戦い方で誰かを救えるのなら堂々と胸を張ればいい!――


 ああ、分かってるよ父さん。


 ――ミルル……。これから先あなたは1人で生きていくことになる。でも決して諦めないで。あなたは私たちの娘。どんなことがあろうと乗り越えられる。そしていつか誰かのためにその力を才能を振いなさい。

 ……ごめんね……ミルル……――


 ああ、大丈夫だよ母さん。


 ウチは大丈夫。ウチは大丈夫。ウチは……。



 

「はっ!」


 その瞬間、ミルルは覚醒し、目を大きく見開く。


「あっ。起きた」


 いつもの見る薄汚れた天井、いつも寝ているカビ臭いベッドの上、その傍らにいつもは居ないマーガレットの姿があった。


「なんかデジャブ」


「そうかしらねぇ」


 ベットの上から体を起こす。


「私……どうしてここに……?」


「ああ、あの全員この街に送った後あなた急にぶっ倒れたのよ。そのあなたを担いでここに来たの」


「そう……。あの子たちは?」


「子供達? ああ。それならあそこよ」


 そう言ってマーガレットは窓の外を指さす。


「ガォー! 食べちゃうぞー!」


「キャー!」「逃げろー!」


 楽しそうに遊び回っている子どもたちと、それを追いかける楓の姿があった。


「……あれ、洒落になってなく無い?」


「だ……大丈夫でしょ。……多分……」


 楓が子ども好きと言うことはわかってはいるが、普段の彼女を見ていると冷や汗が止まらなくなる。


「……まあ、とりあえず意識が戻ってよかったわ。じゃ、私たちはもう行くわね。大分騒ぎが大きくなっちゃったし、早くここを発たないと」


 そう言ってマーガレットは立ち上がり部屋から出て行こうとする。


「待って!」


 立ち去ろうとするマーガレットをミルルは呼び止める。

 

「どうしたの?」


「えっと……ウチこれからどうすればいいと思う?」


 なんとか絞り出した言葉はあまりに抽象的な質問になってしまった。


「父さんの死の真相を知りたい。だけど相手はあの聖騎士たち。踏み込んでいくのがすごく怖いの。ねぇ、どうしたらいい? どうしたらあなたたちのように戦えるの?」


 ミルルの言葉にマーガレットはしばらく考え込んだのち、口を開いた。


「……それはあなたが決めないと。でも、これだけは言える。選ぶのは後に後悔が残らない方を選びなさい。私には……この選択肢しか用意されてなかった。でもあなたは違う。このまま復讐のために戦ってもいいし、そんなこと全て忘れてここに留まってもいい」


 外にはまだ子供たちの楽しげな声が聞こえる。肉親がもういないミルルにとってあの子達が唯一の家族と言っても良い。


「ウチの……後悔が残らない方……」


「……ゆっくり考えるといいわ。それじゃ」


 そう言ってマーガレットは静かにドアを閉める。

 マーガレットが部屋を出た後も1人ベットの上で考え込む。


「……父さん、母さん……。ウチは……」





「バイバーイ! 楓お姉ちゃん!」


「はーい。じゃあねー」


 出発の時、子供達が見送りに楓が手を振りかえす。


 ミルルの部屋から出た後、本当はすぐに出発する予定だったのだが、楓が思っていたより子供達に懐かれてしまったためしばらく遊んでから出発することになってしまった。

 

「随分と仲良くなったわね」


「うん! あの子達みんな良い子ね!」


 いつもならさっさと行こうと急かすマーガレットだが、今回は楓にあの事についてどう伝えるべきか悩んでいたため急かさなかった。


 マーガレットは気まずそうに口を開く。


「……ねぇ楓……。あの時の魔術だけど……」


「え? あの鏡使うやつ? すごい技だったわ! 私は見直しちゃったわ!」


 そんなマーガレットとは対極に楓はなんでもないように答える。


「え? いいの? そこは、なんで隠してたんだ!とか、いつかその力で私を裏切る気だったんだ!とか、言うところじゃないの?」


「え? なんで? 別にいいんじゃない。味方にも言えない切り札は誰でも持ってるものだし。それに、私はあんなもの食らっても負けないしね!」


 確かに、楓はそもそもギフトを使わない。あの魔術を食らったとしても楓の攻撃にはなんの影響もないだろう。


「むしろ私は嬉しいよ。相方がちゃんと1人で戦う手段を持ってて!」


「楓……ありがとう」


「待って! 二人とも!」


 突然後ろから声をかけられる。そこには大きなバックパックを背負いながらこちらに走ってくるミルルの姿があった。


「ミルル! どうしたの?」


「はぁ……はぁ……。ウ、ウチもあなたたちと一緒に行く!」


「「ええ!?」」


 マーガレットと楓はミルルからの突然の申し出に驚きの声を上げる。

 

「……ずっと考えてたの」


 ミルルは息を整え、自らの心情を少しずつ吐露する。


「今のウチは父さんと母さんの子供だって胸を張って言えるかって。でもウチにはどうすることもできないと諦めてた。だけど、あんたたちを見てたらそれじゃダメだって気づいた。だから一緒についていく。あんたたちについていけば必ず、父さんを殺した奴に会える」


 それはミルルの覚悟の宣言。


 今まで目を逸らし続けた想いと立ち向かうための誓いの言葉。


「……それに、ウチみたいに魔道具の知識があって、超絶有能、絶世美少女がいた方があんたたちも心強いでしょ!」


 めちゃくちゃドヤ顔で宣言する。


 直前までの重い言葉が台無しだ。

 

 とはいえ、彼女の覚悟は伝わった。


「うーん。わかったわ。正直、あなたがついてきてくれれば心強いし」


「っ! ありがとう!」


「ちょっとー。そっけないわよマーガレット。本当は嬉しいくせにー」


「う、うっさい! ほらさっさと行くよ!」

 

 マーガレットは足早に歩き始め、楓がその後をついてくる。二人の様子を見て、ミルルはもう一度自分の意思をもうい確かめる。


 (父さんと母さん、見守ってて。)


 ミルル・シャーロット。人から金品を奪い、何者にも属さない彼女が、二人の反逆者の同行者となる。


 


 

「なるほど……。ではその女が巨大な水の化物を吹き飛ばし、公園をめちゃくちゃにし、そして逃走したと言うわけですね?」


「は、はい! そう……です!」


 楓たちが逃走してから1日経過したマルカナ。


 戦いによって瓦礫が散乱している公園の前で聞き込みをしている人物がいた。


 美しいブロンドの髪、整った顔立ちに透き通るような白い肌、青い瞳、筋骨隆々の肉体の美青年。


「わかりました。ご協力いただき、ありがとうございます」


「い、いえ! 全然そんな……」


 質問を受けていた女性は頬を赤ながら答えていた。周りにいる女性たちも同じく彼のことを見つめていた。

 

 そんな誰もが目を奪われる美しい青年、その背後に一人の女性が音もなく忍び寄っていた。


「せ・ん・ぱ・い・♡」


 女性は突然手首から巨大な針を生成し、男の後頭部目掛けて突き立てた。

 

 あまりに突然のことに周囲の人間も呆然と見つめることしかできない。


 だがその針は後頭部に突き刺さることはなかった。


 瞬間、青年の頭に兜が出現し、彼の後頭部を守った。


「はぁー。()()()()()。私に不意打ちは効かないことをもう忘れたか?」


「ええー。もちろん知ってますよー。()()()()()()。ただ他の女の子にデレデレしている先輩があまりにムカついたので殺したくなっちゃいましたぁ」


「別にデレデレなどしていない」


 アーサーとヴェレーノ。

 

 楓たちが出現した現場に急行したが、ついた時には逃走してから1日も経ってしまっていた。


「で? どうします? これから」


「……奴らの目的地は十中八九「キリカラ樹海」だろう。我々がそこに着く頃には手遅れだろう」


「じゃあ、どうするんですかぁ?」


 ヴェレーノは食い入るようにアーサーを見つめる。

 アーサーも腕を組みしばらくの間思考する。


()()()()()に任せよう」


「えぇー! ウォーカー!? 私あいつ嫌いなんですよぉ」


 ヴェレーノは心底嫌そうなに顔を顰める。


 


 キリカラ樹海の近く、とある酒場。


「はぁー。勤務中に飲む酒は格別だねぇ」


「……あんた聖騎士だろ? いいのかい? こんな昼間っから飲んで」


 酒場の店主が訝しげに男に尋ねる。

 

 その男は肩あたりまで伸ばした黒髪に、無精髭を生やした気だるそうな男。

 

 いつから飲んでいるのか、顔を赤く染め目がうつろだ。


「いいんだよ。仕事は終わったからねぇ。あとは報告するだけなんだから……。おっと、やば」


 突然男の持っていたバックが光り出した。

 

 男は躊躇いながらもバックの中から手のひらサイズの小さな水晶玉を取り出す。


「あー。出たくないなぁ。でもどうせアーサー隊長だろうし……。あの人怖いんだよなぁ」


 男はあれやこれや言いながら渋々水晶に触れる。


 すると水晶にアーサーの顔が映る。

 

 そして音声が聞こえ始める。


『おい。ウォーカー。貴様に新たな任務を……。お前酔ってるな?』


「いえ! 少々風邪気味なだけであります!」


 ウォーカーと呼ばれる男は全力で誤魔化す。


『ちょっと! おっさん! 先輩に失礼な態度取るんじゃないわよ! 殺してあげましょうか?』


「相変わらずツンツンしてるねぇーヴェレーノちゃん。おじさん傷ついちゃうよ」


『死ね」


『……まあいい。お前に仕事だ。お前が今いる近くのキリカラ樹海に指名手配中のシンフォニーが入った。追跡し仕留めろ。お前の力を示してみろ「黒牙の勇者 ウォーカー」」



 その言葉をきいたウォーカーは飲んでいたグラスをテーブルに置く。


 そしてさっきまで気だるそうだった目つきが突然鋭くなる。


「ああ。お任せあれ。追跡は俺のお箱だ」

血判の勇者 オズワルド・クロード

ギフト "血の契約(ディアセーケー)"

アメリカ出身の詐欺師。人心掌握術に長けていて自分のみに利がある取引を相手に持ち掛け、骨の髄まで金を騙し取った。彼の犯罪によって多くの人が自殺に追い込まれ、オズワルドが捕まった頃には確認されているだけでも210名にまで増えていた。彼はアメリカ史に残る最悪の詐欺師として極刑が言い渡された。

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