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第11話 助ける理由

「どーもー。お邪魔しますよ? 勇者様」


「もう楓! もう少し静かに……、ってミルル!?」


 楓の後ろから顔を出したマーガレットが慌ててミルルの元に駆け寄る。


「待ってて、すぐに回復魔術を……」

「いや……そんなことより。なんであんたら……」


「あー。大変だったんだよ。あなたを見つけるの」


 そう言ってマーガレットは回復魔術をかけながら、ここまで何があったのか語り始める。




 時間は朝、二人がミルル忘れ物を見つけた時に遡る。


「いやいや、わざわざ届ける義理もないし! 何より私たちにはそんなことしてる時間ないでしょ!」


「……素直になりなさいよマーガレット。私たちは明日もわからない道を歩んでる。今会わなきゃもう一生会えないかもしれないんだよ?」


 楓は顔をグッと近づけ問いただす。

 

 マーガレットは口をパクパクさせ何か言おうとするが、言葉に詰まる。


「あーもう! わかったわよ! 一箇所だけ! 思い当たる場所があるからそこだけ寄る。そこにいなかったら諦める!」


 もはやヤケクソ気味にそう答えるマーガレットに対し、楓は満足そうに首を縦に振る。


 マーガレットは地図を開き、目的地に指を指す。

 

「ここよ。「パルマ」。この都市のスラム街は聖騎士すら寄り付かない無法地帯になってる。ここならミルルみたいな盗賊でも暮らしていける」


「へぇー」


「でも、絶対騒ぎを起こさないでね! ここの領主は勇者だからね!」


「はいはい」


 こうして二人はパルマに向けて出発した。


 だが正直、マーガレットはそんなすぐに見つかるわけないと思っていた。


 たった一箇所都市でも100万人以上が暮らしている。

 そのうちの8割がスラム街出身。そんな中からたった1人を探すなんて……。


「ミルル? ああ! あの子にはこの間荷物の運ぶの手伝ってくれてさ! すごいいい子だよ! 確か隣の町に家があるって聞いたなぁ」


「あの子作った魔道具、すごく便利なんだよねー! あの子の家は5キロ先の区画にあるよ」


「ミルル姉ちゃん? すごく優しいよ! いつも一緒に遊んでくれる! ミルル姉ちゃんの家ならあっちだよ!」


 聞く人聞く人全員がミルルのことを知っていた。

 

 パルマに着いて1時間。

 

 あっという間に家の場所を見つけてしまった。


「まさか……こんな簡単に見つかるなんて……」


「随分と慕われてるのねあの子」


「まあ早く見つかってよかったわ。さっさと届けて……。あれ?」


 ミルルの家の前に人が集まっている。

 

 集まっているのは子供で、全員が啜り泣いている。


「何かしら……ちょっと様子が……。って楓!?」


 マーガレットが気づいた時にはすでに楓はスタスタと歩いて子供達の元に向かってしまった。


「あなたたちー! どうしたの? 大丈夫?」


「……お姉さんたち……だれ?」


「私は楓! あっちの子はマーガレット。どちらもミルルの友達よ!」


「ちょ、楓! 勝手に……」


 ミルルの友達、その言葉を聞いた子供たちは縋り付くように2人の周りに集まってきた。

 

 みんな目にいっぱいの涙を浮かべて2人を見つめる。


「お願い! ミルル姉ちゃんたちを助けて!」


「……落ち着いて。まずは何があったか話してくれるかな?」


 楓はしゃがみ子供達の目線で、優しく落ち着いた声で問いかける。

 

 その言葉に子供たちはゆっくりと何があったか話し始める。


 友達が人間狩りに合い連れ去られたこと。

 それをミルルに伝えたらすぐに助けに行ったこと。

 そして一向に帰ってこないこと。


 子供達が話し終わると、楓は立ち上がり子供たちの頭を撫でながら言った。


「大丈夫。ミルル姉ちゃんは絶対に助けるから。だからあなたたちは家の中で大人しく待ってるんだよ」


 そう言って楓は子供達の頭を撫でる。

 

 その優しい表情にマーガレットはしばらく見入ってしまう。


「行くよ。マーガレット」


 そう言って楓はその場を後にしようとする。


 そこでマーガレットはハッと我に帰り楓の跡を追う。


「待って! 楓! 相手が誰だかわかってるの!? 人間狩りを指揮してるのは間違いなくこの都市の領主、つまり勇者! 間違いなく騒ぎが大きくなるわ!」


「……あんたの目的のひとつは聖騎士団を潰すことでしょ? だったら戦力である勇者を早めに削るのは間違ってないと思うけどね」


「だとしてもこれは……」


 突然楓は、マーガレットの方を振り向く。

 

 先程より険しく、いつになく真剣で鋭い眼差しだった。


「私は人喰いの化け物。獣畜生以下の存在だ。今まで自分の欲望を満たすために何人も殺してきた。それでもね。絶対に守ってる掟がある。

 それは、絶対に子供は殺さないし傷つけないこと。そして、その子達を傷つけるような奴を私は絶対に許さないこと。

 ミルルは連れ去られた子供達を助けるためにたった1人で敵地に向かった。自分だってまだ子供のなのに……。そんなあの子が向かったってのに私はここでおめおめと帰れって? 冗談じゃない」


 そう言って楓は再び踵を返して歩き始める。


 マーガレットはその背中を呆然と見つめている。


「まあ、確かにこれはあなたの計画に支障をきたすかもしれない。だからあなたは着いてこなくてもいい。先に「キリカラ樹海」の前で待ってなさい。必ず行くから」


 マーガレットは楓の背中を見つめながらその場に立ちすくみぐるぐると思考する。


 (ありえない……。こんな無謀なこと! 子供達のため? 冗談じゃない! 私にはやらなきゃならないことがあるんだ! 私だけでもここから……)


 マーガレットの思考が止まる。

 

 常に先を読み己の復讐のためだけに生きてきたマーガレット。

 

 他人を気遣うことなどとうの昔に辞めてしまった。今回だって人情より利益を取る。

 

 その場合の正解は今すぐここから立ち去ることだ。


 なのに頭から離れない。

 

 子供達の涙、楓の真剣な言葉、そして楽しそうに笑うミルルの表情。


「ああもう!」


 


「ってわけ。まったく、やってられないわ」


「とかなんとか言って〜。結局ついてきてるじゃなーい」


 背後に回った楓がマーガレットの頬をぷにぷにと押しながらからかう。


「べ! 別にそんなんじゃ……!」


「「ミルル姉ちゃん!」」

 

 突然、物陰に隠れていたカナとハンスが駆け寄りミルルに抱きつく。


 傷つくミルルを見て我慢ができなかった。


「カナ……ハンス……。2人とも無事?」


 ミルルは力無く2人に尋ねる。


 自分たちのために傷ついたミルルを前に2人は目に涙をたくさん浮かべ、泣き崩れる。


 その痛々しい姿をマーガレットと楓は無言で見つめる。


「だー! よくもやってくれましたねぇ!? 一張羅のスーツが台無しじゃないですか! そこのお前! ただでは殺さないぞ!」

 

 押しつぶされたドアを蹴り飛ばして、オズワルドが再び向かってくる。

 

「マーガレット……。ミルルたち、それから捕まってる他の人たちを外に逃して」


「ええ。あのクソ野郎は任せるわよ」

 

「ああ……。任せておけ。」


 指をバキバキと鳴らし、楓はいつものように目つきが変わる。

 

 しかし、今までの楓のように笑顔を浮かべることはなく、感情の見えない暗い表情を浮かべている。

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