はじまり
はるか昔、人類が文明を発展させる前。この世界に魔王が誕生した。
魔王は魔族たちを率いて広い領土を支配、世界中で非道の限りを尽くしていたが、人類が文明を発展していくと魔王の力は徐々に衰退。人類との戦いに敗れ、魔王は討伐され世界の覇権は人類が握ることとなった。
そこから数百年後、再び魔王が復活。以前と同じように魔族を率いて戦いを挑むが、人類は前回より技術と武力を大幅に発展させ、特に魔族が扱う力、「魔術」の研究を行い、自らの力とした。これら全ての力を結集させ魔王を討伐。再び世界には平和が訪れた。
これ以降魔王は不定期で復活。その度に人類と争い、人類側が勝利してきた。いつしか人類の心の中から魔王への恐れは消えつつあった。
しかし、四度目の魔王復活の際状況が変わる。
かつてないほどの強力な力を持った魔王は人類の力では止めることができなかった。魔王は人類の生存域を少しずつ侵略。人類はどんどん追い詰められていった。
そんな窮地に立たされた人類が起死回生の一手として行ったのが、魔術の叡智を集結させた秘術、勇者召喚の儀式だ。
あらゆる世界、あらゆる時代から勇者として適正を持つものを召喚する儀式。召喚される勇者たちはギフトと呼ばれる能力を手に入れて転生し、人域を越える力を持つ。
魔王討伐の連合を組んだ各国は、勇者を召喚し戦力として投入。その力は絶大であり、戦況は一気に人類側に傾いていく。
彼らの力が有用だとわかると各国は次々と勇者を召喚していった。その物量と力の前に魔王軍は押され、ついに魔王を討伐。世界は再び平和になる。
はずだった。
魔王という共通の敵がいなくなったことで、各国間に亀裂が生じ始める。
元々以前から国同士のいざこざが絶えず、小さな衝突がよく見られた。魔王という存在が一時的に国同士の争いを無くしていたが、魔王がいなくなったことで再び関係が悪化。停戦協定が破棄され人類同士の戦争が始まる。
しかし以前と違うことが1つ。
勇者という今までにない強力な存在の出現だ。
魔王討伐が終わり、実戦での活躍が少なくなった勇者を保有していた各国はすぐに勇者を戦争に投入。各国で優劣を決めたのはどれだけ強力で多くの勇者を保有しているかだった。
勇者と勇者の戦争。勇者を使い潰し、足りないのならまた補充する。勇者たちは殺戮兵器として扱われ続けた。
こうして多くの犠牲と時間をかけた戦いの中、ついにただ従うだけの勇者たちの中に反旗を翻すものが現れた。
自ら王となり、勇者による理想郷を作ろうとするもの。
自らの扱いに不満を持つものたちで結成したレジスタンスを率いるもの。
群の力ではなく個の力で領土を支配し、かつての魔王のように圧政を敷くもの。
各地の勇者たちは自らの思いのままこの世界で戦い続けた。
ここは戦火の絶えない世界。
常に誰かと誰か争い続け、ついにはこの世界のものではないものすら参戦する。この世界で生き抜くには強い「力」を手に入れなくてはならない。
そしてここに、その「力」を欲する者が一人。
「もう少し……。もう少しで完成する……」
彼女の名はマーガレット・シンフォニー。現在最も巨大な領土を持ち、勇者たちで構成された組織「聖騎士団」が支配する国、「サンクティア王国」。かの国に復讐するため、力を求める魔術師。彼女が欲する力とは……。
「もう少しで……勇者を召喚できる……!」