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CAFE 「Lie Stage」   作者:
第一章
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白い本に、綴る者

嘘ばかりの物語でも、誰かの真実になれば、それでいいと、思っている。

記録とは、忘れないための祈りだ。

彼らの本を開くたび、私は静かに、かつての自分を思い出す。

まだ、名前を持っていた頃のことを。


白い本は、今日も静かにページを待っていた。

ペンを走らせる音だけが、朝のカフェに響いている。

「今日の記録――夏目漱石、一行。名なし」

その文字を見つめながら、私は、少しだけペンを止めた。


私は、福沢諭吉を名乗っていた。

名を広げることに成功し、言葉を届けることにも成功した。

だが、それは“私の物語”ではなかった。

人は、名前で言葉を読む。

思想家と呼ばれ、創作を許されなかった日々。

私の言葉は、いつしか“福沢諭吉の思想”としてしか届かなくなった。

私が書いた物語は、全部“お前がそんなことを書くはずがない”と消された。

学問のすすめを書いた人間が、嘘や物語に踏み込むと、痛いほどの拒絶が返ってくる。

“福沢諭吉”は、空想を書いてはいけない名前だった。

それを“思想”として読まれるうちに、筆が折れた。


それ以来、私は名を棄てた。

他人の物語を記録する者となった。

今でも“福沢諭吉”は、この部屋に入ってこない。


来客もなく静かな午後、棚に誰も置いていない本がある

白いカバー、タイトルも筆者名も、何も書いていない本。

この日のために、誰かが、もしくは自分が置いたのかもしれない。

ページをめくると、中には――

『学問では届かない心が、この店にはある。』

_福沢諭吉

自分の“過去の原稿”

誰かがここに置いたのか。

……それとも、昔の自分がここに置いたのを、忘れていただけか。

それならそれで、いい。

かつて「誰にも渡さなかった物語」が、今になって自分の手に返ってきた。

「、珍しいこともあるものですね」


私の名前は、今日も記録されない

けど、ページの端にだけ――一文字、残しておこう


白いカバーの本にさらさらと筆記体で書かれたFの文字


マスターは本を閉じ、開店のベルの音に顔を上げた

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