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CAFE 「Lie Stage」   作者:
第一章
1/5

CAFE 「Lie Stage」

駅から3分。喧騒を抜けた裏路地に、灯りの控えめな店がある。

名は、「Lie Stage」。

本を持って、名を隠しに来る者たちが集まる、少しだけ嘘くさい場所。


カラン、カラン

「やぁ、マスター」

黒いマントを羽織った、茶髪の男性。

年齢は、20代後半だろうか。

「こんばんは、本日はどんな御用で?」

「部屋へ」

そういいながらその男性は、黒いカバーのかかった本を差し伸べた。

この喫茶店では、本にカバーをつけることがルールとなっている。

マスターは本を受け取り、あるページを開き、何かを確認した後、奥の扉を開いた。

「いらっしゃいませ、漱石(そうせき)さん」

マスターの少し低い声が響いた。


「漱石さん!こんにちは、お久しぶりですね」

柔らかな女性の声が聞こえてくる

「ああ、久しぶりだな、紫琴(しきん)

「今日は何の小説を持ってきたんですか?」

今度は茶色のカバーがかかった本を取り出した。

「ああ、今回は"彼岸過迄”をな」

「私は"こわれ指環”ですよ~!」

紫琴、と呼ばれた女は、赤いカバーがかかった本を取り出した。

龍之介(りゅうのすけ)は来ていないのか?」

「龍之介さんはさっき帰りましたよ」

「すれ違いか」

「お気に入りですものね!」

「あいつの書く小説が楽しみだからな」

「ほんと、仲良しですよね~」

「そう、なのか?」

「仲良しだとおもいますよ~!」

「そうか」

「お前は本当に明るいな」

「この世界では口調くらい自由にさせてもらってるの~」

本を読みながら二人が会話をしていると、

ガチャ、という音とともに、冷たい空気が一瞬、室内を撫でた。

「、漱石、紫琴もいるのか」

「あ!こんにちは!鴎外さん!」

鴎外と呼ばれた男性は、

黒髪を撫でつけた鴎外は、紺のスーツにカッターを胸ポケットに差していた。

鋭利なものが似合う男だった。

其のカッターを右手に持ち、カチカチと音を鳴らしながら本を取り出した。

カッターを戻し、青いカバーの本を両手で持ち直した。

「今日は、"舞姫”だ」

「いいですね~!」

「読んだことがないな」

「貸す」

「今度な」

「私にも!」

「、了解」

「ほんと静かですよね~、鴎外さんって」

「その方があっているんだ、放っておいてやれ」

「はーい」

鴎外は少しだけ、言葉を選ぶように口を開いた。

「我に彼岸過迄を貸してくれ」

鴎外の指先が、黒いカバーの角をそっとなぞった。

「感謝」

「じゃあ、俺はこわれ指環を」

漱石の声は、いつもよりほんの少しだけ、柔らかかった。

「じゃあ、私は舞姫を」

紫琴は、その青い本を両手で受け取った。

まるで、壊れ物を扱うように。

それぞれの本を読みながら、夜が更けていく。

マスターが白い本に何かを書き込み、静かに灯りを落とした。


記録された名前たちが、今日も静かに、カフェの奥でページをめくっていた。

※紫琴が持っていた「こわれ指環」は、実在の明治期小説です。気になる方は検索どうぞ。

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